一芸だけじゃ生き残れない   作:冥々

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一人だけ

 両親と対面した枦山さんはいつもの真面目で落ち着いて対応している姿に戻っている事に安心を覚えてた私は、久々に帰って来た実家を見渡した。壁面に塗られている白い塗料が所々剝がれた落ちており、そこからコンクリートで出来た壁が見えている。さらに窓のガラスも見慣れた透明なガラスではなく何かしらの紋様が施されたが不透明なガラスが填められている。言うのを憚れるが、〝ザ・昭和の家〟と言う雰囲気の家だ。

 その家に十年間過ごして来た訳だけども、記憶として覚えているのは小二から小四の間しかなかった。そこから先はEPの寮とか今住んでいるマンションような建物に慣れ親しんでいた為、実家の筈なのに祖父祖母の家に来たような感覚に近いものを感じている。

 

「外で立っているのもなんだし家に入りましょ。枦山さんも遠慮せずに家に上がって頂戴ね」

「あ、ありがとうございます! それではお邪魔します!」

 

 なんて物思いに耽っていたら、外に置き去り状態になりそうになっていた。急いで家の中に入る三人の後について行った。中に入ると玄関脇に置いてある小物が何個か増えており、他にも古かった傘立てが新品になっていたりと些細な所で変化していた。

 

「ほら二人ともソファに座って待っていてちょうだい。お菓子とお飲み物を持って行くから」

「あ、お気遣いありがとうございます。遅ればせながらつまらないものですが」

 

 そう言って立ち上がった枦山さんは持っていたバックの中から、昨日お楽しみと話したものであろう菓子折りをお母さんに手渡しした。受け取ったお母さんは感心した声を上げながら、近所のおばさんっぽい反応を示した。

 

「あら~、そんな気遣いしなくもいいのに、お気持ちとして貰っとくわ」

「はい! 是非是非受け取ってください!」

 

 何ともまぁ.実の娘を放置して談笑に花を咲かせている様子を傍らから眺めていると、袖をグイグイと引っ張られたので視線を向ける。そこにはわっくわくな雰囲気をまとうお父さんが私を見ている。

 

「.どうしたの? お父さん」

「奈々、一緒にFortnightをしないか! これでも練習してそこそこ上手いぞ!」

 

 うーん。こんな楽しそうな雰囲気のお父さんに申し上げにくいけど、私はswitch版は触った事もやった事もない。しかも、PADも市販で売られているのはキャラ操作しにくいんだよね.かと言って断るのも罪悪感が胸を引き締められる。ここは中途半端なプレイをしたくないという元プロゲーマーの意地を置いて親孝行をしようかな。

 

「うん、一緒にやろう!」

「見てろよ! お父さんの腕前を」

 

 そう言ってゲームの電源を点けて、Fortnightのソフトアプリを起動させる。少し待つと独特なBGMと共にでっかくFortnightの文字がテレビ画面に表示された。

 

「一旦操作感覚を確かめる為にクリエイティブモードやってもいい?」

「いいよ。いつもやってるPC版と勝手が違うからね」

「あ、もしかしてCRカップ見てた?」

「奈々が出てるものだったら全部見てるよ」

 

 おぉ? 地味に嬉しいな。真剣にゲームしている所を見られているのは気恥ずかしさはあるけど、頑張っている所を見てもらっている方が上回っているから問題なし! でも、よく十二時間配信とかを追えているね。今年で確か55歳だった筈。

 

「それと最近奈々に雰囲気が似てるVtuber? を見つけたんだが知ってる?」

 

 そう言ってyoutubeに投稿されている〝【Fortnight】八森百夏のクリップ〟を見せて話すお父さんと私の間にすれ違いが起きているのを感じ取った。今更ながら両親にプロゲーマーを辞めてVtuberになっているの話してなかった事を思い出した。この流れからすると、お母さんもまだ私がプロゲーマーで枦山さんはマネージャーと思っているのでは? 有り得そう.ていうか、絶対にそうだと思う。何処かのタイミングで打ち明けるのも変だけど伝えないといけないな。

 

 

 

 お父さんと一緒にFortnightを三時間程プレイしていると、食欲をそそる様ないい匂いが部屋中に充満していた。一旦ゲームをしている手を止めて、いい匂いがする方へと視線を向ける。その先には〝青椒肉絲〟〝かに玉〟等の中華料理が所狭しと言わんばかりにダイニングテーブルに置かれている。

 

「晩御飯が出来たから終わりにしなさい」

「私も手伝いました!」

 

 ゲームをしている私達に声を掛けるお母さんと枦山さんは首から下げていたエプロンをグルグルと纏めて椅子の足元にある籠に入れて席に着いた。その後に続くようにゲームの電源を落として席に着く。その場にいる全員が手を合わせて調理された生きとし生けるものに対して感謝する行為をする。

 

「「「「いただきます!」」」」

 

 行為が終わった後はテーブルに箸を手に取って、各々自分が食べようと思ってた料理を口に運ぶ。我が家では食事中にテレビを見るだとか、会話に花を咲かせる事等せずに黙々と食事をする。皿と箸がカチャカチャとぶつかる音だけが部屋中に響き渡る。

 我が家の食事する時の暗黙のルールを伝え忘れていた私は、隣に座る枦山さんへと視線を向ける。心配していた事は杞憂だったようで、この静かな雰囲気に戸惑うような反応をする事もなく食べている姿に安堵していた。

 

 食べ終わった後まったりとした空気が流れている、今なら私がプロゲーマーを辞めてVtuberになった事を伝えるタイミングとしては十分そうだと思い話し始める。そう思ってライバースマホに入っているYouTubeのチャンネルを見せてみると食い気味にスマホの画面に近寄って来る。

 

「さっきお父さんが言ってたVtuberってこれかな?」

「そうそう、この子だよ! なんだぁ知っていたんじゃないか!」

 

 反応はしたものの私がこのチャンネル主だとは気づいてない様子だった。まぁ、配信者ではない、SNSに強くないお父さんには気づきにくいのは仕様がない事かな。

 

「実はこのVtuberは私なんだよ」

「え!? .でも奈々とこの人は全然違うよね? .お母さん! こっち来て!」

 

 如何やら目の前にいる(八森百夏)と画面に映る八森百夏()が同一人物である事実に頭の中がパンクしてしまったお父さんは助けを求めてお母さんに来るよう声を上げる。

 

「あら、そんな大声で呼ばなくてもいいじゃない。どうしたの?」

「奈々と画面のこいつは同じだってよ!」

「知らなかったの? 奈々はこの〝八森百夏〟として活動してるんですよ」

「え!?」

 

 え!? お母さんは知ってたの? とお父さんと同じ様に驚いている私の傍らで不思議そうな表情を浮かべて首を傾げているお母さん。

 

「奈々まで驚いちゃって、どうしたの?」

「いや、お父さんが知らなかったからお母さんもそうかなって思ってた.」

「先月辺りかしら? 奈々のネット記事に〝八森百夏はやはりnanaだった! 〟を読んだから知っていたのよ」

 

 あぁ、そんな事もあったね。身バレしたけど初配信からバレていたから、視聴者間では特に驚きも炎上もしなかった。強いて言えばテレビのニュースの一つとして軽く取り上げられてたぐらいだったね。

 

「という事は、枦山さんは奈々のVtuberのマネージャーさんか」

 

 そう言いながらお父さんは椅子に座っている枦山さんへ視線を向ける。

 

「はい、そうです。ついさっきまで奥さんとその事について話してました」

 

 如何やら私がプロゲーマーからVtuberになった事を知らなかったのはお父さんだけだったらしい。




誤字報告ありがとうございます。(6/18追記)

sk005499様
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