活動休止して二日目の昼下がり。掛かってきた電話が終わった後に枦山さんの口から飛び出した〝活動再開〟の言葉に、頭が一瞬パニック状態になったけど小さく深呼吸をした。私はどうして〝活動再開〟せねばならないのかを聞く事にした。
「えっと?どういう事ですか?」
「それは当然の疑問ですよね」
私の疑問を聞いた枦山さんは後ろ髪を掻きながらどこか歯切れが悪そうに話始める。
「さっきの電話相手と言うのが、事務所からでして」
「はぁ」
「内容というのが、コラボや案件の誘いを対応していく中で、奈々さんの意思関係なく何件か取ってしまったと」
「.......来ていたんですか?」
「ええ、基本的にそういったのに奈々さんは反応しないので断っていました。人事が話すにはお盆前に取っており、伝達ミスが発生し前日に伝える事になってしまったようです」
如何やら私がデビューした当時から既に月に何件かの案件依頼と外部からのお誘いが来ていたらしい。
事務所としてはデビューしたの新人ライバーに案件配信やコラボするのは如何なものかと、マネージャー部や広報部等の偉い人達を集めて話し合ったそうだ。
外部からのお誘いは事務所を通して所属しているライバーとコラボしてもいい相手なのかと、そのお誘いしたライバーのチャンネルにアップしている動画やSNSで呟かれているtweet等を確認がされた中で、一定のクリア基準を超えたお誘いが私の方へと知らされる仕組みである。その結果、ほとんどがよく分からない人達が多く来ており断っていたらしい。
そして案件配信は私がある程度Vtuderとして慣れて来た頃に本人が案件配信したい意思が見られたら行おうと話がまとまった。私自身は案件に関しては全くと言って興味がなかったし、過去にEP時代にチーム全体でやったゲーミングパソコンの案件を周りに流されて行った時は一つ一つ段取りが面倒くさかったのを覚えている。
初配信から一年と五か月ちょい経過した頃。既に視聴者の間で私__八森百夏が〝nana〟であるという暗黙の了解を〝天ノ裁忌〟によってYoutubeという公の場で破り捨てられた。それにより様々なe-sportsを取り扱う情報誌からのインタビューやゲーミングマウスやパソコンを取り扱う企業からお誘いや案件依頼が一日に何十件もなだれ込んだ。
そして私が休止期間に入った直後の影響.....というよりも、お盆休みに入った途端に、担当していた部署がほぼパンク状態に陥った所にさらに何件も増えた現状を如何にかしようと取られた案は、私が受けても問題がなさそうなお誘いや案件を幾つか取ることだったらしい。それと事務所の方でやれる限りのサポートをする。といった内容の話が伝えられたそうだ。
「......今から家に戻って帰り支度しないとマズいね」
「そうですね、少し急ぎ目に帰りましょうか。奈々さんのご両親に訳を話して荷物をまとめてもらいましょう」
そう言って実家に戻る為に駆け足で駅へと歩き出した。まだ昼下がりとはいえフードコートで食事を摂りたい人やお買い物をしている人混みによって、思ったよりも駅に辿り着くのに時間を要した。何とか改札口を通り駅内へと滑り込んだ私と枦山さんは実家方面に向かう電車が来るまでの間太陽の陽射しを浴びながら待っていると、枦山さんはスマホを取り出して私が行うコラボや案件について詳しく話し出した。
「えーと、花沢さんがコラボする相手と言うのが〝企画系Vtuber狛石おうぎとの対談コラボ〟で、案件相手が〝森屋製菓のinゼリー〟と〝DotCoolのゲーミングパソコン〟ですね」
「えぇ」
パソコンの案件と聞いてため息を吐くかの如く呟く私の顔は歪んでいる事だろう。隣に立っている枦山さんはそんな表情を浮かべている顔を見て、何かを思い出すように声を上げる。
「花沢さん、どうかしましたか?そんな苦い顔をして」
「いや、以前explosion全体で行った案件があって、非常にその段取りが面倒だったのを思い出してね」
「そう言えば、確かにゲーミングパソコンの案件に出てましたね」
当時の段取りをパッと思い出した中だと案件先の名前が入ったユニフォームを受け取った後は着替え室でユニフォームを身に着ける。その後はスタッフに案内された撮影スタジオで、所属前に撮った宣材写真と同じ腕組みポーズで私単体と出演者のEP所属のプロゲーマー全員の二種類の写真を撮影するのはまだ用意されたユニフォーム着て写真を撮られるだけだから変に考えなくていいから楽だった。しかし、私が大変だったのがゲーミングパソコンを使用した感想を一分半の間カメラの前で話すという事をやらないといけない事だった。出演者全員に感想の下書きとして何枚かのルーズリーフ紙とボールペンを手渡された。約十五分間という与えられた時間の中で一分半の間も話せるような感想文を考えなければならなかったのは大変だった。というのも、私は通っているだけで高校卒業認定を貰える通信制の高校に通っていたものだから文章を組み立てるのは難しかった。
「.....二度とやりたくはなかったなぁ」
「そんなに嫌なら断りますか?」
先程よりも苦痛に歪んのでいるのだろう私の表情を横目で見ながら、心の底から身を案じる声色で寄り添ってくれる枦山さんに安心感を覚えたタイミングで、ブーンと電車が駅のホームにやって来た事を知らせるクラクション音が鳴り響いた。勢いよくホームに入って来た電車は徐々に減速していき、目の前に乗車口が来た所で停車し、ホームの安全扉と電車の乗車口が開いた途端、雪崩のような速さで改札口や乗り換えをしに行く人が出た後に私と枦山さんは乗り込んだ。
「.....いや受けます」
「分かりました。上には受けると伝えておきますね」
敢えて深く聞いてこない枦山さんの優しさを感じる。昔のプロゲーマー時代だったら多少の駄々をこねて、融通を利かせていたかもしれないが、今の私は企業勢のVtuberなので、所属している所の名を広めないといけないという義務があるから、ちょっと嫌でも受けなければならない......そう決意を固めたタイミングで、降車する駅着いた事を知らせる駅メロを聞き流しつつ改札口へと歩を進めた。
改札口を潜り抜けてバス停に向かう。私が向かっているバス停はデパートの出入口を中心として左に三つ右に一つあり、一種のバスターミナルと言っても過言ではない場所へ向かっている。私が乗るバスは左側の中心に近くに停まるバスだ。なんと丁度良いタイミングでバスが停車する所を視界に収めながら、今すぐ出発する訳でもないのに駆け足でバス中へと入った。
数分後運転手のだらけたような声で「しゅ~ぱつしま~~す」と言って開いていたドアを閉めて発進した。電車内で話した案件やコラボ配信の話は一切に出ずに無言のまま実家近くのバス停近くまでその状態だった。
降車ボタンを押そうとボタンが設置している方へと身体を向けたタイミングでピンポーンと誰かが自分よりも早く降車ボタンを押してようで、わざわざというのも大袈裟だけど押すために向けた身体をすっと元の体勢に戻す時は何とも言えない虚無に襲われた事は枦山さんや他の人もあるのだろうか、といった事を考えながら出入口扉に寄って停車するのを待ってバスから降りた。駐車場に停車した車を取りに行く枦山さんと両親に急遽帰らないといけなくなったのを話す私と二手に分かれ、一刻も早く事務所へ向かう事にした。