「う〜ん。流石トレーナーさんの作る料理は美味しいですわ。」
マックイーンの絶賛の声が我が家のリビングに薄く響く。彼女は今俺の作ったオムライスに舌鼓を打っていた。
「ところでトレーナーさんは砂糖を多めに入れてますの?何だか甘みが少し強いような気がしますわ。」
「最近ダイエット頑張ってたからな。少し甘くしてみたけど甘すぎた?」
「いえ。塩味と調和していてとても美味しいですわ。」
なら良かったと返事をし、なぜこうなったのかを考える。
30分前の午後7時半頃。今日のトレーニングが終わって1時間後のその時間に突然彼女は俺の家に来た。
驚く俺に今晩泊めてくださいませんかと質問するも返事を待たずにボストンバッグを持ち部屋に入る彼女。その顔に誰かと喧嘩したとか辛いことがあったなどの落ち込んでいる表情はなく理由が全く思いつかなない。だがわざわざウマ娘でも走って20分する俺のマンションに泊まりに来るには少なからず訳があるのだろうと思い渋々招き入れた。
「トレーナーさん...その...よろしければご夕飯を作っていただけますか?」
いつもの調子でお腹を空かせる彼女はまさに普段どおりとしか言いようがなく余り物でオムライスを作り彼女に振る舞った。
ここまでの中ではやはり理由が一切思いつかない。そこで思い切って彼女に理由を尋ねてみる。最初からこうすれば良かったかもしれないが直接聞くのは野暮と思い今まで聞いていなかった。
「それよりトレーナーさん。お風呂が湧いたようですわよ。」
いつのまにかオムライスを食べ終わっていた彼女は俺の質問に答えずそう返してきた。もう一度理由を尋ねるが、
「どちらが先に入りますか?」
やはりまともに返事をしてくれないので理由を聞くのを諦める。二度聞いても答えてくれないのだから何度聞いても同じだろうと思ったからだ。
「マックイーンが先いいよ。トレーニングで疲れてるだろうし。」
すると彼女がこちらを蔑んだ目で見てくる。
「まさかトレーナーさんは女子の入ったあとのお風呂に入りたいとお思いなんですの?」
どっちが先に入るか聞いてきたのに理不尽じゃないかという感想を心にしまい慌てて弁明を試みる。
「フフッ冗談ですわ。トレーナーさんがお先にどうぞ。私は泊まらせて頂いてる立場ですから。」
ほっと胸をなでおろし入浴の準備をする。普通ならお客さんのマックイーンに先に入ってもらうとこだが冗談でもあんな事言われたらなんか怖い。脱衣場の鍵をかけ入念に頭と体を洗い湯に入り一日の疲れを落とし脳をリフレッシュさせる。
俺は入浴時はいつも考え事をする。そして今日はやはりマックイーンのことを考えていた。
マックイーンは自分にとってとても大事な存在だ。彼女とは付き合いも長いし彼女のことを一番良く知っているトレーナーは間違いなく自分だと思っている。だからこそ今日突然泊まりに来たことに驚いたがそれと同時にドキドキした。正直に言うと彼女が家に来てからずっとドキドキしている気がする。この胸の高鳴りは一体何なのだろうか。女子が自分の家に泊まることに対してなのだろうか、それとも”マックイーン”が泊まるからなのだろうか。後者だとしたらそれは俗に言う”恋”だろうがそれはないと思う。彼女は大切な存在であってもあくまで担当ウマ娘だからだ。それに俺は女子と二人っきりでどこかに泊まったという経験が一切ない。女子と初めて二人っきりでどこかに泊まるとなればどんな男でも緊張くらいするだろう、決してその女子がマックイーンだからではない。そう結論づけて俺は風呂を上がった。
「マックイーン。お風呂上がったよ。お次どうぞ。」
「分かりましたわ。お風呂お借りしますね。」
そう言うと彼女はボストンバッグをあさりだした。
「トレーナーさん...あまり見ないでくださいませんか?。その...着替えなどを出しますので...」
赤面する彼女の姿を見て一瞬ドキドキしている心臓がより早く動く。軽く誤り自分の寝室へと向かう。まだまだ時間的に眠るつもりはないが少し落ち着きたかった。
脱衣所の鍵がかかった音を聞いて寝室を出る。キッチンには先程までマックイーンが使っていたお皿が洗われた状態で乾かされていた。どうやら俺が風呂に入ってる間に彼女が洗っていたようだ。とりあえずテレビでも見るかと思いソファに座ってテレビをつける。
その後彼女がお風呂からパジャマ姿で出てくる。
「マックイーン。今日なぜ俺の部屋に泊まりに来たのかは知らないが明日からは寮に戻れよ。そもそも外出許可は取ったのか?女の子が男の部屋に一人で泊まりに来るなんて危ないし学園にバレたらそれなりに怒られるぞ。」
俺はようやくまともなことを言えた。彼女が来てからずっとドキドキしっぱなしで言えてなかったが普通ならこういう事を言うだろう。
「外出許可はすでにとってましてよ。そもそもいま私とイクノディクタスさんのお部屋は水道が水漏れして2日間入れませんの。」
「...なるほどな。ってなるほどじゃないよ!その言い方だともしかして明日もウチ泊まるつもり!?」
「勿論そのつもりですわ。私達は一心同体ですしトレーナーさんの事は信頼しています。変なことはしないでしょう?」
そういうふうに言われるとこちら側も何も言えなくなる。ここまで信頼しているから問題ないと言われると色々やりづらい。だがここで言い負けるわけにはいかないと謎の闘争心が芽生えた。
「そもそもウチじゃなくてメジロ家に泊まればいいじゃないか。何故メジロ家じゃなくてうちに来た。それに泊まったのが自宅ではなくてトレーナー宅だってバレたらそれなりに面倒くさいことになるぞ。」
「その点は大丈夫ですわ。他のメジロ家のライアンやドーベルには口裏を合わせるように言ってあります。メジロ家にバレることはないでしょう。」
一見おかしな所のない会話のキャッチボールに見えるが、何故我が家に来たかを答えてくれていない。彼女の部屋から水漏れしているからというのが入浴前に2回聞いた質問の答えなのだろうが、それはあくまで原因であって理由ではない。俺の質問が意図してしているのは「なぜ俺の家を選んだか」だ。彼女は頭の回転が早い。おそらく俺の質問の真意に気づいてる上であえて教えてくれないのだろう。
などと、一人で考えていると再びマックイーンが口を開いた。
「そ!も!そ!も!その様な事は私が家に来たばかりの時に聞くことではございませんの?何故お風呂まで入ったあとに聞くのですか!?」
なんか勝手に泊まりに来た側が逆ギレしているように思えてきたが彼女の言っていることも事実だ。
「まぁ...ここまで来て追い返すのも悪いから...」
ボソッと独り言のように呟くとマックイーンが笑みを浮かべてこちらに近づいてきた。すると俺の座っているソファの隣りに座りベッタリとくっついてくる。
「じゃぁ今夜は泊まらせていただきますわね!」
再び俺の心臓がとてつもない速さで動き出す。この鼓動が彼女に聞こえていないか心配になってくる。
お風呂上がりでまだほんの少し濡れた髪が彼女のいい匂いを強調させる。普段は見ることの無い彼女のパジャマは彼女の髪色に合わせた薄い紫色のTシャツのものだが可愛くオシャレに仕上がっており年頃の女の子なんだと改めて思わせる。
ついこんな子と一緒にいられたら幸せだなぁ。とトレーナーなら考えてはいけないことが頭をよぎる。いけないいけないとすぐに考えを切り替え、ソファを立つ。
「マ、マックイーン。なにか飲み物飲むけどマックイーンはなにか飲む?」
「人参ジュースがあればそれで。なければ牛乳をお願いします。」
考えを変えるため飲み物を入れるという口実で一旦キッチンに避難する。
彼女に頼まれた人参ジュースをコップに入れながら入浴中に考えていたことを思い出す。
ドキドキしているのは女子が泊まるせい。ドキドキしているのは女子が泊まるせい。
ひたすら心のなかで唱える。
ドキドキしているのは女子が泊まるせい。ドキドキしているのはマックイーンが...ドキドキしているのは女子が泊まるせい。ドキドキしているのはマックイーンが泊まるせい。
「・・・レー・・・さん」
ドキドキしているのはマックイーンが泊まるせい。ドキドキしているのは...
「ト・・・ナー・ん!」
ドキドキしているのは...
「トレーナーさん!」
マックイーンの叫びで意識が現実に戻る。手元を見ると人参ジュースがコップの容量を超えカウンターに溢れていた。慌ててジュースを置きカウンターとコップを拭く。
「ジュースを入れるだけなのにやけに時間がかかっていると思って見に来ましたら。何をしておりますの!ジュースがかなり無駄になってるじゃありませんか。」
「俺の心配ではないのね。まぁごめんごめん」
軽く苦笑しナミナミに注がれたコップを彼女に手渡す。そのままマックイーンはジュースを一息で飲み干し空いたコップをカウンターに置く。
「まぁ貴方が私達の声が聞こえないくらいに考え込むことはたまにありますもの。」
「え?俺トレーニング中にそんな事になってるときあったの?」
「全く自覚してなかったのですか!?なんならサブトレーナーの時からありましたわよ!?」
「え!?そんな前からあったの!?」
これは普通に驚いた。だがこんな普通の彼女との会話をしているだけなのにやはり胸が苦しい。今日の練習まで彼女と会話していてもなんともなかったのに。
「とりあえず先にリビングに戻っててください。私はトイレをお借りしますわね。」
分かったとだけ返事をしてモヤモヤする心を落ち着かせながらテレビの続きを見始めた。
少ししてマックイーンが帰ってくると、あろうことか俺の股の間に座った。俺はソファに座るときに大股で座ることが多いのだがまさかそこに座ってくるとは。再び鼓動が早まる。
「ちょっとマックイーン!どこ座ってるの!?」
「ちょっとくらいいいじゃありませんの...ええ!ここ丁度いいですわね!」
さっきよりも近くにいるからか彼女のいい匂いがより強く鼻を刺激し下を向くときれいなうなじが見える。高ぶる本能を理性で締め付けるが、生理反応というものは理性ではどうしようもない。ナニがとは言わないが体の一部分が起き上がりかねない。このままでは彼女にバレてしまうので何とか打開策を練らなければならない。
「マックイーン。そこに座られると足を動かしづらいからせめて膝の上に座ってくれない?」
そこで膝の上に座ってもらうという代案を思いついた。これならさっきよりは、刺激が少ないのでstand upしないで済むかもしれない。もし起き上がったとしても何とか踏ん張れるだろう。
「膝の上ですか...それでは少し失礼して...まあ!先程よりもフィットしますわ!」
どうやらマックイーンはこちらのほうが落ち着くようだ。俺もなんとかバレずにすむので安心する。
そこからは早かった。
その時の時刻は八時半ごろ。今日の分の事務仕事は量が少なかったのもありマックイーンが家に来る前に終わらせていたのでここからは完全にフリータイムだった。録画していたバラエティ番組を彼女と一緒に見ることで時間を消費した。三本立て続けに見たことにより見終わったときには既に十一時半になっており自分には少し早いがマックイーンは寝る時間になっていた。どのみち今日はすることもないのでマックイーンと同じ時間に寝ることにする。
「サンドウィッチウーマン面白かったですわね!あまり見たことはなかったのですがハマってしまいましたわ!」
さっきまで見ていたバラエティ番組の感想を話し合いながら二人並んで歯磨きをする。
「にしても着替えも歯ブラシもシャンプーとかまで持ってくるなんて随分と用意周到だな。」
「それはもちろんメジロ家のウマ娘ですもの。全て完璧に準備しますわ。」
誇らしげな顔をするマックイーン。思わず頭をなでたくなるが自宅でそんなことをするとそろそろ理性の方が限界を迎えそうなので手を引っ込める。
二人共歯磨きを終えたのだがそこで一つ問題を確認した。
「じゃあ俺はソファで寝るからマックイーンは俺のベッドで寝てくれ。」
「トレーナーさんはベッドで寝なくてもよろしいのですか?」
「そりゃあベッドで寝たいけど...マックイーンはお客さんだし明日もトレーニングがあるだろ?」
「なら...一緒に寝ればいいじゃないですか。」
可愛らしく少し顔を赤らめそんな事を言うマックイーン。
「なんでだよ!?普通駄目だろ!」
これは妥当な反応だと思う。そんな事になったら本格的にヤバい。すでにそびえ立ちそうなのを理性で押さえつけてるのに一緒に寝るのは絶対に駄目だ。
「その...先程トレーナーさんの寝室を見てしまいまして...あのサイズなら二人でも寝れるのではないかと...」
「いやまぁ確かにウチのベッドはクイーンサイズだけども!」
「え!あれクイーンでしたの!クイーンサイズにしては少し小さくないですか?」
「いやアメリカのクイーンサイズベッドね。日本基準で見るとダブルより少し大きいくらい。ていうかそんなことより俺はソファで寝るから!いいね!?」
話がそれてしまったが強引にソファで寝ることを主張する。だがマックイーンは納得がいかないようだった。
「全然良くありませんわ!なんで一人でマンション住まいの貴方がそんな大きいベッドで寝てますの!?」
「まさか...たづなさんや桐生院トレーナーと...ましてや他のウマ娘と...!?」
変な方向に考えを進めるマックイーンから嫉妬のような禍々しいオーラが溢れている気がするが確かに一人暮らしであんな大きいベッドを持っていれば怪しまれるかもしれない。だが決して怪しいことがないので弁明する。
「いや違うから!俺実は帰国子女なんだよ!アメリカに住んでたときに買ったけどまだ使えそうだったから持ってきただけ!」
「あぁ...なるほど。なら持っててもおかしくないですわね。」
意外とすんなり納得してくれた。怖いくらい秒速で納得してくれたのは怖いがそろそろ疲れてきそうなので電気を消してソファに横たわる。
「はいじゃあおやすみマックイーン!」
強引に寝る俺に対しマックイーンもこれ以上何も言ってこないようで、おやすみなさいトレーナーさんと返すとそそくさと寝室に行ってしまった。
それはそれで少し寂しいがようやく安寧の時間が訪れた。だが、俺は未だに心臓の鼓動が早くそれが気になり眠れずにいた。
もしかして俺はマックイーンのことが本当に好きなのだろうか。
たしかに彼女のことは前々から好きだった。だがそれは一種の友愛みたいなもので決して恋情ではなかったはずだ。それに何より...彼女とはどこまで行ってもウマ娘とトレーナーなのだ。先日彼女はチームシリウスに再び合流したが、彼女が卒業すれば、彼女が本当にチームを抜けてしまうことがあれば完全に関係は絶たれてしまう。そんな事を考えているうちに何か得体のしれない不安が喉に押し寄せてきた。そんな不安を紛らわせるために少しだけスマホを開く。時刻はすでに一時を回っていた。
その時だった。寝ているはずの寝室からペタペタと足音がしだした。おそらくトイレだろうがまだ起きているのがバレると余計な心配をかけてしまいそうなのでスマホを置き寝ているふりをする。
寝室のドアが空いた音がしその足音はトイレの方へと向かっていく。数分後真っ暗な部屋にトイレを流す音が響きそれと同時に足跡が再び寝室へと向かっていった。だがすぐには寝室が空いた音はせず何故かその足音はこちらに向かってくる。俺のすぐ隣くらいまで来たところでその足音は止まった。すると同時にマックイーンが小声で話しかけてきた。
「トレーナーさん起きてますか?」
ここで返事をするとまずそうなので寝たフリを続ける。
「フフッ。静かに眠ってますわね。」
彼女の小さな笑い声から吐息が漏れ俺の顔にかかる。心臓が鳴り止まない。こんな静かな空間ではこの心臓の音がバレてしまいそうで思わず冷や汗が出そうになる。
「そういえばトレーナーさんの質問に答えていませんでしたね。何故メジロ家ではなくトレーナーさんの家に来たか。」
「それは...」
彼女の固唾をのむ音まで聞こえそうな部屋に今までよりも小さな声でこもる。
「それは...貴方といっぱい一緒にいたいからですわ。」
そう言うと彼女の足音が寝室へと向かっていく。寝室のドアが閉まる音がしようやく目を開ける。
先ほどとは比べ物にならないの速さで心臓が動く。このときやっと自分の気持ちに気づいた。
「あぁやっぱり俺。マックイーンのこと。好きなのか」
寝室にはとても届かない小さな声で独り言をつぶやく。
この言葉を口にした瞬間俺の喉に支えていた不安が消え去る。
その代わり安心したような気持ちになる。
心臓は未だとんでもない速さだが
穏やかな夢を見ながら静かに眠りにつけた。
やばい...もろパクリみたいになってしまった。ごめんなさい!ごめんなさい!
でもこれが俺の妄想なんで許してください!何でもしますから!
あと帰国子女設定は勢いで書いただけなので次回にはこの設定は死亡していると思う。