新世界   作:飲まないヨーグルト


原作:ポケットモンスター
タグ:オリ主 ポケモンスナップ
奇跡の一枚に新たな世界の扉を開かれた少年とその父親のお話。

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Newポケモンスナップ発売記念短編。
64版ネタを含んでいます。


新世界

 

 これは今から三年前、私が息子を連れて巡回型の小さなフォトギャラリーを訪れた時の話です。

 

 

「ねえ、とーちゃん。宇宙で写真って撮れるの?」

 

「え?」

 

 唐突に投げられたその質問を、私はうまく受けとめることができませんでした。

 というのも、その時私は自分の目の前の世界にすっかり見入ってしまっていたからです。

 

「うん?宇宙?どういう意味だい?」

 

 まるでポケモンのように見える不思議な星座の写真を離れ、私は自分達しかいないその空間を大胆に横断して、息子の方へと歩み寄りました。

 こういう、順路や人の流れを気にせず好きなように回れるところが、私がこじんまりした展覧会を好きなところです。

 

「だってこのピカチュウ、宇宙から地球に向かって飛んでるよ。ほら。」

 

 そう言って息子が指した写真を、私も正面から眺めました。

 それは、暗闇の中で色とりどりの風船をつけたピカチュウが左下の仄かな青い光の方へ向かって飛んでいる、という構図の一枚でした。

 なるほど、確かに宇宙遊泳を楽しんだピカチュウが地球に帰ろうとしている場面のように見えます。

 

 その言葉に、私はどう答えたものかと少し迷いましたが、あえて本当の事を言いました。

 

「うん。確かにおまえの言う通りだ。でも残念ながら、これは宇宙じゃなくて洞窟で撮られた写真だよ。それも今から二十年も前にね。ほら、説明文に洞窟の氷堂にて撮影とあるから、この青い光はきっと撮影用の明かりに照らされた氷だろうね。」

 

 しかしそう種明かしをされても、息子は、なんだ、とも、つまんないの、とも言いませんでした。それどころか、いっそう熱心にその写真に見入っています。

 きっとそのワンシーンから、そこが宇宙ではなく洞窟の中だという証拠を見つけようとしているのでしょう。

 そして、それが見つからないのでしょう。

 

 正直、私自身も写真の下に小さな字で添えられた解説がなければ、これはどこでどう撮られた写真なのだろうと戸惑っていたと思います。

 それほどまでに、その一瞬は完璧でした。

 光、構成、視点(アングル)、タイミング。

 一抹の現実感も残らないよう切り取られたその一枚は、まるで息子が抱いた『宇宙』という印象を全面的に肯定しているようです。

 そして何より、その写真に与えられた『新たな世界へ』というタイトルが、見る者の胸に湧いた幻想と神秘を確たるものにするのでした。

 

「さあ。それじゃあそろそろデパートへ行こうか。」

 

 しばらくの後に私にそう促されるまで、息子はただひたすらじっと、その写真を見ていました。

 

 

 

 

 

 

「とーちゃん」

 

 息子が私を呼び止めたのは、日の沈みかけた夕暮れ、一日遊んだミナモからトクサネへ帰るフェリー乗り場へ向かう道中のことでした。

 

「ん?」

 

 私は足を止め、二歩ほど遅れをとっていた息子を振り返りました。

 

「どうしたんだい、浮かない顔して。」

 

 彼の胸には先ほどミナモデパートで受け取った、美しい赤い包みが抱えられています。

 それはもうずいぶん前から十歳の誕生日祝いにとねだられていた、モンスターボールとホルダーのセットでした。

 ポケモントレーナーの必需品であるそれを手にする事はすなわち、その道への第一歩を踏み出すことを意味します。

 

「うん。あのさ・・・」

 

 言い淀む息子の後ろには美しいミナモ湾が広がり、水平線の彼方には夕焼けに黒々と映えるサイユウの島影が見えます。

 テレビのバトル中継を見る度に、おれはトレーナーになってポケモンリーグで優勝するんだ!と言っていた彼の憧れの地です。

 

 やがて息子は意を決したように顔を上げ、その島を背に隠して言いました。

 

「ごめん!おれ、やっぱりモンスターボールよりカメラがほしいんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 子どもの感性と成長とは本当に目覚ましいもので、彼はこの三年でアマチュアカメラマン歴十年(自称)の私をあっさりと追い抜き、この春からカガミ自然科学研究所のレンティル調査隊に参加する事になりました。

 私が購読している雑誌に載っていた募集要項を見つけた彼が自分で応募し、選考に通ったのです。

 

「ファインダーの向こうの世界って、目で見るよりずっと狭いのに、無限に広いだろ。それがすっげー不思議で面白くってさ。」

 

 私はもう大人ですから、世界が自分を楽しませてくれるばかりの場所ではない事を知っています。

 だからこそ、そこにある喜びや驚きや美しさを忘れないようにとカメラを手に取ったのです。

 自分の生きるこの世界が、それでも素晴らしい場所であると信じ続けるために。

 

 その点、息子はまだ親の手で丸く切り取られた世界しか知りません。その私達の元を離れるということは、これまでは出会わずに済んだものとも出会わなくてはならないという事です。

 

 誰にも何も切り落とされていない世界が、彼の目にどう映り、どんな影響を与えるのか。

 それは父親の私にもまだ分かりませんが、それでも不思議と不安はありません。

 きっと、なんとなく面影が重なるからでしょう。

 暗い洞窟(うちゅう)をたくさんの風船で彩り、楽しげに新たな世界を目指すあのピカチュウと。

 

 




 
話中のピカチュウの写真のイメージが湧かない方は「ふうせんピカチュウ ポケモンスナップ」で検索してみてください。
という訳でみなさんNewスナップやりましょう。

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