あの男は、剣そのものだ。昔から変わらない。
そう考えている間にも、アイツは剣を振るう。ほらまた一人。
流れるように敵を斬る。ただ『剣の高み』だけを見据えているであろう男の剣が、あの程度の雑兵如きで止められる筈もない。
突然に、その男は尋ねた。
「なぁ、少し問うておきたい事があるのだが、答えてくれるか。なぁに、心配はいらぬよ。簡単な質問だ」
そして、その剣士は語った。
「『狂乱の貴公子』殿、否。吉田松陽の弟子、桂小太郎よ、何が為、お前は戦うのだ。他の者にも尋ねているのだがな。例えば銀時は、『先生を取り戻す為』などと、晋助は、『先生を取り戻し、その後腐った幕府も天人共も壊し尽くす』なんて、辰馬は、『友や仲間が為』であったり、太助君は、『恩に報いる為』と答えたものよ。ならば最後に残ったお前に尋ねるのは道理であろう?」
そして、その狂人は再び問うた。
「もう一度、聞こう。お前は、何が為に戦うのだ」
俺は考えた。何故、この男はこの様なことを尋ねてくるのか。
この剣士は、一体どんな事を考えているのか。
この狂人は、どんな答えを求めているのか。
が、解らない。考えても仕方無い。俺は答える。
「先生を、救う。それだけだ」
暫しの沈黙。先に口を開いたのは、男だった。
「くく、そうよな。恩師や友、仲間が為に戦う。嗚呼、そうだとも、そうだとも。やはりお前らにはそれしかあるまいよ」
そう言って、男は嗤う。
それを聞いて、俺は剣士にも同じ事を尋ねようとした。だが。
「オイ、居たぞ!奴等だ!とっ捕まえたヤツはカネが手に入るそうだぜ!やっちまえ!数で押し切れ!カネは倒したヤツが独り占めな!一番槍はオレが貰っちまうからなァッていけぐッ!?」
「どうやら空気を読めない猿共が又湧いてきたらしい。仕方無い、疾く片付けるとしようか。ゆくぞ、小太郎」
随分と間の悪い事だ。まぁ、仕方が無い。今は先生を救う事だけに集中すれば良いのだ。そう自分に言い聞かせて、俺は狂人、『佐々木小次郎』と共に駆けていく。
暫く戦っていると、一人の男が俺達の目の前に現れた。
「お前は確か、あの時の八咫烏だな。覚えているぞ、俺は今迄お前を仕留め切れなかったからな。今回で終いにしてやろう」
「フン、今回で終わりなのは貴様等だ。今から貴様等を捕縛する。松陽の弟子達よ」
どうやら、この男は目の前に現れた男と知り合いらしかった。
そして、俺達を狙っている事も解った。ならば、やる事は一つのみ。
と、思ったのだが。
「ゆくぞ。小次郎、準備は良いか」
「否、少し待て。何故共に戦う様な雰囲気になっているのだ?」
「えっ」
「よく考えよ、小太郎。私達が共に行動しているのはこの様な事態に陥った場合に片方が残って足止めする為であろう?それなのに二人残ってしまっては意味がないだろうに。きちんと話を聞いていなかったのか?」
まさかこんな電波男に諭されるとは。不覚だ。
「否お前に言われたくないが…まぁ良いとしよう。さて、八咫烏よ。待たせて済まなかったな。きちんと待てるとは、余程利口な獣らしい」
「御託はいい。すぐに終わらせてやる」
「成程、そうさな。では、始めるとしよう」
「ここは任せたぞ、小次郎!礼を言う!」
「誰も貴様を通すとは言っておらんぞ」
そう言って、その男は針を飛ばしてきた。が。
「私が無理矢理にでも通させるさ」
そう言って、剣士は甲高い金属音を響かせて、針を叩き落とした。
「面倒な事だな。やはりまずは貴様を倒さねばならん様だ」
「お前が私を倒せるかは別だがな。それと小太郎、すぐに追いつく。お前はただ疾く走るだけよ」
そんな事は言われなくとも解る。
「勿論解っているとも。遅れるなよ、小次郎」
「お前も油断せぬ様にな、小太郎」
そんな言葉を交わして、俺達は戦いに赴くのだった。
そりゃ小さい頃からずっと剣ばっか振ってる奴なんか見たらね
ヘタクソなのはご愛嬌って事でゆるして