いつものように無機質な天井を見ていた。
何も変わらない日々がまた送られようとした時、
コンコン
ノックの音が聞こえた。
? 看護師かな? でもさっき来たし、お医者さん?でも特に異常はないけど、
色々考えていると急にドアが開いた、
「えっ。」
それに驚き若干ながら声が出てきた。
それが聞こえたらしく
「ん?なんだいるのか。」
男はそのまま中に入ってきた。
、、、、、なんで?
真っ先に思いついたのはそれだった。
ファンの人かと思ったがグラサンに杖を持ったこの季節にそぐわない厚手の茶色のコートを着るような人を私は知らない。
そもそも面会拒絶している最中なのにこの男は入ってきた。
え?どういうこと?取り敢えず看護師呼ぼう。
そう思ってナースコールに手を伸ばした途端
「また走りたくねぇか。」
一瞬動きが止まった。
、、、、、また走る?この脚で?
私は戸惑いながらも聞き返した。
「本気で言っているんですか?」
この脚だ。もう不可能だということは私が一番よくわかっている。
だが男は即答した。
「俺は本気だぞ。」
呆れた。この男は私を揶揄いに来たんだろう。
もう世間で私の脚について述べられている。
それを知った上での行動。
私は怒りを混ぜた声で言う。
「冗談言わないで下さい。」
「本気だっていってんだろ。」
男は一切怯みもせず言い返した。
「、、、さい。」
「ん?」
「うるさい!!」
自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。
でもそんなこと思えないほど私は頭にきていた。
「不可能に決まっているじゃん!もう脚はないの!かつて無敗の三冠馬になった脚はないの!」
「脚はなくてもお前は走れるぞ。」
「そんなこと言ってるわけじゃない!走れるようにはなっても勝てないんじゃ意味がない!」
「勝てるぞ。」
「嘘言わないで!あの世界がどれだけ大変か。私は知ってるの!」
「俺だって知ってるぞ。」
「第一何!なんで私なの!私よりも才能ある子がいっぱいいるじゃん!その子にしなよ!あんたの目は節穴なの?」
「節穴だぞ。」
「じゃあなん、、、、え?」
彼の返した言葉に不意をつかれた。え?節穴なの?じゃあ何?私をスカウトしたのはただふざけてたの?
私が色々考えていると彼は続けた。
「俺もお前と一緒だよ。」
「俺はかつて一流のトレーナーだった。」
自分で言っちゃうんだそれ。
「実際育てたウマ娘は全員G1で勝ったり著しい記録を残してる。」
本当に優秀だったんだ。でもなんで私なんかを。
「そうやってまた別のウマ娘を育成している時に事故が起きた。」
「お前と同じ交通事故だ。」
そこで最初言っていたことの意味を知る。そこから先を想像するのは容易だった。
「、、、眼が見えなくなった。」
気づいたらそう口から溢れていた。
「、、、そう。事故で俺は眼が見えなくなってしまった。」
「トレーナーとして重要な『眼』をな。」
「でもお前とは違う。何度もトレーナーを続けようとした。」
イラッとしたが、今は黙って聞いていよう。
「でも世間は許してくれなかった。眼が見えないトレーナーなんて。そう言われて声をかけても無視されることが多くなった。」
「挙げ句の果てには「いらない」とそれだけでトレセン学園を辞めさせられた。」
、、、、やっぱり無駄じゃん。彼もきっと天才であったのだろう。
だが一回の事故でその才能がなくなってしまった。そして凡才以下へとなった。
私もそうだろう。いくら頑張っても勝てないのだ。才能を失った天才にいる居場所はないのだ。
「でも『視える』んだよ。」
「え?」
耳に聞こえた言葉に一瞬耳を疑った。
『視える』?もう眼はないのに?どうして?
「俺は確かに眼が見えなくなった。でもそのおかげであるものが『視える』ようになった。」
「何が?」
「才能だ。」
「才能?」
「ああ、気配みたいな感じで見えるんだよ才能が。」
「どういうこと?」
「眼が見えなくなっても俺はトレーナーを続けられるってことだ。」
「訳わかんない。」
「みんなそういう。」
そりゃそうでしょ眼が見えないのに見えるものがあるって気が狂ってるとしか考えられない。
、、、え?じゃあ尚更何で?
何でーーーー
「私に声をかけたの?」
もし才能が見えるのであればもう私に才能はないはずだ。
あったとしても他の子の方が才能がある。
私に声をかける意味なんて
「才能が『視えた』んだよ。」
「でも私脚が
「脚なんざ関係ねぇ。」
「え。」
「お前は元々才能が溢れてた。それは他のウマ娘よりもな。」
「だけど事故で
「事故った時俺も才能がなくなったと思った。けどそれは違ったんだ。」
「お前にはまだ才能がある。それも『事故に遭う前以上』にな。」
「そんなわけないじゃ
「誰しもがそういう。けどな。」
「走るのは『誰しも』じゃねぇ『お前自身』だ。」
「なぁ。」
「お前はどうしたい?」
「、、、、、」
私。
私はどうしたいの?
このまま病院に居続けるの?
それとも
走りたいの?
そんなの決まってる。
私は言い放った。
「走りたい。」
「あの場所で!あの時の歓声を!浴びたい!」
「あの時以上に!
夢を与えたい!」
目からぼろぼろ涙が出てくる。
そういえば三冠を達成して以来一度も泣いてなかったっけ。
「OK。」
男はそう言って席を立ち、
「退院したら教えてくれ、今から電話番号言うから覚えとけよ、0〜
「え!?ちょっと待って!メモ取るから!」
私は慌てながら紙とペンを探す。そしてふと思って
「そういえば名前は?聞いてなかったけど。」
「あ、そういえばこっちも聞いてないな、まぁ知ってるが。」
「そんじゃあらためまして、俺は鳶だ。」
「私はグレートオスカー。宜しくトレーナー。」
そういい握手を求める。
しかしー
「、、、あ」
「ん?」
そういえばこの人、いや鳶さんは眼が見えないんだった。
それじゃ握手を求めてもしょうがないよねと手を引っ込める。
「どうかしたか。」
「いやあ、なんでも、、、、、ありましたね。」
「ん?なんだ?」
「私今面会拒絶中なんですよ。」
「そうなの。」
「でも貴方入ってきちゃってますよね。」
「そうだね。」
「、、、、、後ろに誰かいるの知ってましたか?」
「、、、、、分からなかったなぁ。」
後ろには腕を組んで呆れた顔をした医者がいた。
最初大声を出した時に何かあったのかと思って来たようだった。全然気が付かなかった、、、
「適当言わないでください。彼女は脚がもうないんですよ?レースに復帰なんてできるわけが
「黙れ。」
「は?」
「決めるのはお前じゃねぇ走る奴自身だ。お前の勝手な意見を押し進めんじゃねぇ。」
「いやそもそも面会拒絶してるのに入らないでくださいほらとっとと出て行く。」
半ば強引に外へ締め出される鳶さん。もう言いたいことは言い終えたのか案外すぐに出て行った。
「もう自分が復帰できないのは貴女だってわかっているでしょう?ああゆう奴が若い芽を潰すんだから、、、」
などと独り言を言っているが関係ない。
あの人とならまた立てるかもしれない。いやあの人となら勝てるかも、
そう思わせるに充分だった。
その後面会拒絶を解除し、見舞いに来た家族に報告した。
またあの場所に立つと
最初母も兄妹も反対していたが、父が賛成し説得してくれたことで事なきを得た。
元クラスメートや元チームメイトにも伝えた。
クラスメートもチームメイトも心配していたが、絶対負けないと言い切ると
あなたには負けない!という強い思いを返してくれた。
そして思っていたより回復が早かったらしく、予想していたより早く退院できた。
ただし車椅子椅子に乗ってだが、
そしてすぐに連絡をした。
一人目は母へ。
暫く帰らないかもと伝えた。
二人目は理事長へ。
理事長には学校を辞める節を伝えた。
クラスメートやチームメイトから聞かされていたのか直ぐに許可が降りた。
三人目は『あの人』へ、、、、と思ったがする必要がなかった。
「毎日ここにいたんですか?」
「毎日じゃねぇ今日だけだ。」
他愛のない会話をしながら車椅子を押してもらう。
これは私とトレーナーの物語。
舞台はトレセン学園ではなくアメリカ一帯。
『脚』のないウマ娘と『眼』のないトレーナーが贈る
奇跡の復活ショーである。
2話目です。どうぞ感想聞かせていただくと幸いです。