本官、異世界で署長になりました!   作:劉鳳

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※シリアスだったのとはうって変わってテンション変わります…



第10話 再会(但し色々台無し)

 

 

『はい、あーん!』

 

『あーん……うん、美味しい!』

 

俺は朝食をテイルちゃんと一緒に食べていた。あのくそじじぃとくそ猫が遠目にニヤニヤしてるのが腹立つが、テイルちゃんからあーんされたらねぇ?

 

しかしここの料理かなり完成度高いな、元の世界のホテル級だ。くそ猫、失礼、猫さんも料理作ってるらしいが、殆どは二人の後ろで静かに微笑んでいるゴブリンのシェフの腕だね。あの人にはちゃんとチップをやらなきゃだ。

 

テイルちゃんとの激しい一夜を過ごしてから、距離が急速に縮まった。しかし嬉し涙でも最初の痛がって泣いてるテイルちゃんを思い出すと罪悪感が……ん?猫さんどうした?笑いが更に大きくなってる気が。

 

『食欲凄いですね!絶倫帝王、ウェヒヒヒwww』

 

『次は拳骨じゃ済まないよ……』

 

『今晩もお楽しみですね、フフッ!』

 

『おやっさん、あんたも大概にせぇよ!』

 

『まあまあ、兄さん落ち着いて。今晩のディナーは子牛のティーボーンステーキをメインに料理をお出しします、こっちの二人にはわたくしがお灸をすえときますので……』

 

シェフの兄さんが宥めながら、今日のディナーを教えた。ティーボーンステーキって確か二ヵ所の部位の肉が骨にくっついた豪快な奴よね……うわっ、また精力ギンギンになりそう。シェフの兄さん、とりあえずあなたが一番まともらしい。

 

『うむ、楽しみにしてるよ。さて、テイルちゃん。今日は何処に行きたい?』

 

『そうねぇ……一応視察を兼ねたって言ってたから、サカサキの役所の辺りを回ろう?』

 

役所か……そういやこの世界の役所なんてナハト・トゥ以外知らないんだった。どういうものなのか興味があるし、行ってみるか。勿論返事は

 

『いいですとも!』

 

最近ゴ〇ベーザ口調の返事にはまってんな……あっちでガキの頃やってたゲームの台詞とか自然と出る辺り、未練が無いとは言えないな。

 

 

エウロ民国……正式名をエウロの民及びヤマト族の連合民主国と言い、エウロとはこの国の古い言葉で(目覚めた)を意味する言葉だと言う。ヤマト族は四百年前の大戦後にこの地を治めたヒューマの民族で、現在もサカサキに子孫が残っていると言う。つまり新しい国の形を作る為に目覚めた他の種族とヤマト族が手を取り合って建国した……おとぎ話みたいだな。同じ民族同士で殺し合いを繰り返してる元の世界の多数の国が存在するから、手を取り合ってってのはおとぎ話っぽく感じるのだろう。

 

ただ、この世界の人々(と言ってもまだ二つの町しか知らないけど)は優しい。そんなおとぎ話的な事もリアルにあり得ると思える。現に連合国の成り立ちがまるでそれそのものだったから。大戦で沢山の人間が死に、その愚かさをお互いが悟って和解するなんて、あっちの世界の人間からしたらほぼあり得ない事だったろうな。失礼、こんな事言っちゃ駄目か、俺が知らないだけかも知れないし。

 

ちなみにヤマトを冠する国がある、シシ君がかつて住んでいた国がヤマト王国と言っていたな。話を聞く限り日本の江戸と明治のあいの子的な感じだったな、仁王を現人神、首長を権現様と言う辺りがね…まあ行く機会はなさそうだな、鎖国状態らしいし。

 

暫く歩いていると、サカサキの役所がある場所に来ていた。警察署よろしくな建物、市役所よろしくな建物、そして裁判所(うちの町の奉行所に近い)的建物。間違い無い、ここは街の中枢なんだ。

 

『見て、せぞさん。あそこにいる人達、せぞさんが着てた制服にそっくりなの着とるよ。』

 

テイルちゃんが指差した方向を見ると、ああ、確かに……昨日見た連中と同じ、スタイルは警察官そのものだ。テイルちゃんは初めてか?あっ、あの時は鼻歌混じりに俺にくっついてたから気付かなかったのか……テイルちゃんは可愛いなぁ……とりあえず彼等のいる場所を見てみるか、楽しみだ。

 

 

〔番外編‐署の消えた情景‐〕

 

向日葵市の治安を維持している警察署が突如消えました。私は柏田亜由美(かしわだあゆみ)、20歳、向日葵市警察署所属の巡査です。向日葵署がある朝に基礎部分ごと消えて無くなりました。私は、土だけになったそこに他の同僚達と共に呆然と立っていました。何が起こったのか?原因は分かりません。

 

署長はこの状況の中でも慌てる事なく、現在いる人間の確認を行っていました。濱田課長、黒木部長、是澤刑事、日高さん、広美ちゃん、皆いました……皆?いいえ、あの人が……清蔵さんがいない。朝のパトロールに回っている他の人達はともかく、清蔵さんは銃の整備を行っていたはず。私は……複雑な気分になりました。

 

清蔵さんは同級生で親友の巡査二人が殉職し、心が壊れた、そう言われながらもずっとコツコツ仕事をしていたあの人の事、私は好きでした。誰も怒らない、いつも笑顔で雑用を一人こなしていたあの人がいなくなってしまった。私は謂れの無い喪失感に見舞われました。署長はとりあえず新署が完成する前に仮移転をする形を取り、警察機能も地元の有志を募って直ぐに回復すると言っていましたが、やはり寂しい顔をしていました。でも、

 

『あいつは閑職に回されたうだつの上がら無い人間だと本部の連中は言うがな、気配りの出来る人間だったよ。それに、やる気の無い人間が皆勤で出勤する道理は無いだろ?

 

警察署ごと消えて無くなった、だがそれは死んだと決まった訳じゃない。あいつは何処かで生きてる、必ず。柏田、心配するな、あいつは何処かで元気にやっているさ。』

 

そう言って静かに笑いました。署長は分かっていたのでしょう、あの人が本当は優れた警察官だと言う事を。だから私も、あの人が元気な顔でまた向日葵署に帰って来るのを願っています。

 

 

 

『うっ……なんだ?なんか頭にイメージが飛んで来た……』

 

『せぞさん、どしたと?顔色悪いよ?』

 

今確かに、亜由美さんの声が、署長の声が、聞こえて来た。幻覚なんかじゃなかった。向日葵市の署があった場所の跡すら脳内に巡った。署長や濱田課長の迅速な動きも、全部その場で見たかのように全て……どうやら俺は妙な怪現象の当事者になっているらしい、お陰でテイルちゃんと出会う事が出来たのだけど。

 

亜由美さん……そうか、俺はテイルちゃんの顔に、亜由美さんの面影を見たんだった。どちらかと言えば亜由美さんは橋〇環奈な顔立ちなので厳密には似ていないのだけど、人懐っこい性格とかは似ていたな。まああっちの世界にいた俺は思いを打ち明けられない超へたれだったんで俺の片想いで終わったけどね。

 

『せぞさん、ほんとに大丈夫?泣いてるよ?』

 

『……今何故か署ごと無くなった向日葵市の場所と、そこにいた同僚達の声が聞こえてさ、幻にしては余りにも鮮明だったから。未練があんのかな?』

 

ついテイルちゃんには本心を話してしまったけども、やっぱり嘘はつきたくなかった。何より、涙してる人間の何でも無い程、何処がだよと突っ込みたくなる要素は無いからね。ああ、未練だらけさ、本音を言うと。あっちの世界じゃ何も成し遂げられていない。木尾田や山田の事、そして亜由美さんの事も。だからこそだ、今違う世界にいるならば、向こうで成し遂げられなかった事を達成しようとしてるのは。

 

『そう……せぞさん、私で良かったらずっとそばにいて、寂しい思いをさせないから……泣かないで……』

 

『テイルちゃん、本当にありがとう。』

 

そうだよ、泣いてる場合じゃない。暗い顔してたらせっかくの旅行気分も台無しになっちまわぁ。俺は涙を拭くと、警察の服装をした人達の所へと行く事にした。さあ、気分を変えてしっかり楽しもうぜ、俺。にしても、本当あの連中警察そっくりだな。服装の形もそうだけど、紺のスラックスと上着に青いシャツ、帽子、何処からどう見ても巡査のそれだ。手に持ってる警杖もそっくり、腰に差してる警棒も伸縮性じゃない方の奴そのまま。違いは肩紐が無い、つまり銃持ちじゃない所位かな?

 

『ねぇ、せぞさん。あの人達、何だか他所の人の気がしないね。』

 

『うん、そうだね。』

 

特に俺はそう思う。イタリアのローマな雰囲気(建物の配置は広島市内っぽい)に不似合いとも言える現代的な警察のスタイル。そりゃ他所の人の気がしないわ。まあ似ている部分があるのならば、我がナハト・トゥでも採り入れられる所が必ずありそうだからね、参考にさせてくれたら万々歳なんだけどね。俺は何かある事を想定しながら彼等のいる建物に近付く。警察署の玄関に似てるな……でも向日葵市と違ってちゃんと玄関前に守衛が配置されている。日本の地方都市とか玄関前に守衛置いて無い所とかザラにあるのよ、それだけ平和って事だけど。しかしここは主要都市だけにしっかりと配置されている。

 

『体つきの良い兄さんがしっかり守衛をやってるね。ここの人口を考えると当然か。』

 

『うん。街そのものは平和だけど、大きな街だから犯罪者の比率が低くても犯罪者の絶対数は多いと考えた方がいいね。』

 

地方の大都市圏は小都市とかに比べて犯罪者の数が多いのは、繁華街が大きいから必然的にそうなる。人口の数に比例して犯罪者も多くなると言うのは何処の世界に行っても同じだと思う。歴史ある街とかだと地元の豪族とか有力者に繋がる土着の侠客、ギャングが存在するってのも良く聞くしね。俺はその街を守る者達の仕事と言うものに興味がわいているので、思い切って建物に向かう。テイルちゃんも恋人の腕組みから仕事の時のキリッとした状態に切り替えている。俺は不審に思われぬよう細心の注意を払いながら、玄関前に立つ守衛に声を掛ける。

 

『すみません、カンムのナハト・トゥから旅行に来た者なんですが、ここの建物に興味がありまして。』

 

『ん?珍しいねこんな武装したむさい所に興味をひかれっとは。』

 

向こうは身構えはせず、しかし油断する訳でもなく自然体で返事をしてきた。日本の警察の応対のそれだな。俺は身分を明かす事にした。普段はナハト・トゥを守る仕事をしている事と、今は休暇で旅行している事を。守衛の兄さんは特に怪しむ様子もなく、むしろ好意的な対応をしてくれた。

 

『へぇ、警察かぁ。その響き、うちの隊長が口にしてたわ。』

 

え?!何だって?!警察の語を知っている人間が存在するのか?そんな馬鹿な……とは言えない。何故なら俺自身がそんな馬鹿なと言う状態の人間だからね。とりあえずこの兄さんに詳しい話を聞く事にした。おっ、テイルちゃん既にメモする態勢してる、テイルちゃんはえらいなぁ。

 

『うちの隊長、ヤマト王国から来たって言ってたけど、その割にはハイ・ラングを自然に話せる所から別の所から来たってみんな考えてるんよ。

 

ただ、あの人は真面目で優しいし、あの人が仕事の改革に取り組んでから街の治安はかなり良くなったから、皆特に気にしてないけんどね。』

 

俺はその人に会いたい。会えぬならせめて名前だけでも聞きたい。その為にまずは身分を明かす事にした。

 

『カン=ムのナハト・トゥで警察と言う自警団の署長をしています、児玉清蔵です。』

 

『同じく警察署の人間、テイル・オーガスタです。』

 

『カン=ムのナハト・トゥかぁ、国境の直ぐ近くの町だったね。自警団の長かぁ、どうりで動きがキビキビしてると思ったわ。』

 

やっぱり同業者特有の動きってのは判るものだな、元の世界でも警察官の人間てのは非番の私服状態でも所作で大体分かるもんね。それ故に油断はしない。元の世界で言う所の共産圏の警察なんかは軍に近い(しかもやりたい放題)から何されるかは分からない。テイルちゃんにもしもの事があったら……死ぬ気で守る!しかし目の前の兄さんはニコニコと笑顔をこぼした。ちょいと肩透かしをくらったけど、とりあえずその人に会いたいと話しを進める。門前払いされたなら観光に戻るだけさ。

 

『ええよ!』

 

良いのかよ?!即答する彼の目は澄んだ目をしていた……過信は駄目だけど、信じて良さそうだな。俺とテイルちゃんは彼……名はマサタロと言っていたな、その導きのまま建物に入って行く。凄い、ステンドグラスの全部透明版(まあ早い話がガラス窓なんだけど)で採光する作りになっており、建物内部は蝋燭無しでも明るい。中を見渡すと、机は明治大正辺りの木組の机と鉄足の机に事務員的人らが書類作成を行い、他の人間は上司らしき人物と話しをしながら、建物から出て行くのが見えた。巡回でもするのかな?ちょうど俺達の後ろから数名の人間と仕事の引き継ぎをし、外へと出て行った。警察の動きとしては何と言うか……ナハト・トゥに比べて洗練されている。まあ我が町はまだ半年だから仕方ないか。にしてもここの組織は日本の警察的観点から見ると模範に出来る程に素晴らしい。付け焼き刃ではここまでの練度は個人レベルはともかく、組織レベルだと不可能だ。少なくとも数年はじっくりと組織改革を進めているはずだ。

 

『せぞさん、凄いね……』

 

『うん、素直にそう思うよ。』

 

万年うだつの上がらなかった俺と違って、ここのボスはかなりの切れ者であるなと確信した。そうこうしている内に、マサタロの足がある一室の扉の前で止まった。マサタロは二回ノックする。

 

『隊長、ナハト・トゥからやって来た旅行客の二人が話しを聞きたいそうです。』

 

『うむ、通せ。』

 

え?今の声って……落ち着きがありすぎな感はあるけど、聞き覚えのある声……しかもこの世界じゃない。元の世界で。俺は扉を開け、中に入るよう促すマサタロの前に出て、室内へと入って行く。15畳はありそうな部屋に、豪勢な机と椅子。椅子に座っている人間は背を向けており、顔は見えない。体を鍛え上げているであろうと分かる中々の体格……背中だけしか見えないものの、凄みを感じた。

 

『観光客がこのような所に興味を持つとは……酔狂な人間もいたものだな。』

 

『俺の知る組織に似た制服を着ていたので……』

 

『……?』

 

隊長と呼ばれた男は背中越しに〔え?何だって?〕と言うような驚きを感じた。俺もだよ……似てる、と言うよりそのまま歳を取ったあいつにしか見えない……けれども背中をみせたまま振り向かないので、俺はカマを掛けてみた。

 

『向日葵市を知っていますか?』

 

男は少しずつこちらに顔を向けた。

 

『清蔵?本当に清蔵なのか?』

 

『……何の因果か知らないけど、俺もこっちに来たよ。たださ、俺は死んじゃいない……山田、お前はあっちの世界で死んだ……葬儀にも行ったよ。でもこうしてお前はここにいる……話しを聞かせてくれないかな?』

 

『あっ、ああ……構わないが……』

 

構わないが?何か思う事があるのかな?まああるよな。だって同じように異世界に飛ばされた訳だしね、何だ?

 

『お前……そんな美少女と並んでて平気なのか?』

 

突っ込む所そっちかよ!!感慨深い思いに浸りたいのに台無しだよ、公安行ってから感覚でもずれたのかよ!口にはしなかったけど今にも突っ込みいれたくなった。

 

『はぁ……話せば長くなるけどいいかな?込み入った話しもしたいし、マサタロさんだっけ?席を外して貰って良いですか?』

 

『了解です。それにしても隊長が振り向くなんて貴方は凄いですね!では失礼します。』

 

 

おいおい山田ちゃん、この世界に来てからどんなキャラになったんだよ君は……つーか背中を見せて顔見せないってそんなキャラだったっけ?まあとにかく今はなんであれ山田はいるのだ、幽霊ではなく、肉体を持って。

 

 

 

 

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