本官、異世界で署長になりました!   作:劉鳳

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第14話 大変な思い、異世界も元の世界もおんなじ(小並感)

 

 

鬼軍曹、警部キスケの独白

 

清蔵さんが早くに帰ってきた。相変わらず遠慮し過ぎだと悪態をつきたくなったが、その表情は非常にスッキリしているようにも見えた。同伴させていたテイルの方も何だか幸せそうな顔をしている、どうやら休みそのものは満喫したみたいだ、助かる。何故なら、コーリンが署を襲撃するやもしれんと言う確かな情報を掴み、皆が殺気立っていたからだ。俺は守衛隊の頃から悪党には死をと思い、容赦はしなかった。けれどあの人は違った。

 

〔悪党は、最初から悪党だった訳じゃない。そのまた逆も然り。それぞれの環境で、それぞれの考え方も、正義も、法律も変わるものだよ。だからむやみに命を取ったりしちゃいけない。〕

 

最初の頃は、そんな甘ちゃんな考えで町を守れるのかと思ったよ。でもそれは決して甘ちゃんだからじゃなかった。

 

〔殺さず、出来る限り傷付けず捕まえるってのは、君らが思う以上に難しい。それこそ暴力に訴える前に諭さなきゃならない。

 

人間ってのは勝手な生き物だとどこぞの無駄に偉い人が言ってたけど、同時に物分りのいい生物だと俺は思う。

だからきっちりとした道徳さえ身に付けてしまえば、犯罪者は0にはならなくても、限りなく減らせる。〕

 

あの人は口だけではなくそれを身をもって教えてくれたな。事件の最前線に立ち、犯罪者に訴えかけていた。現に再犯率は嘗てに比べてかなり減っている、再犯する者は主に組織の幹部とかに多かったが。法と道徳、それに学習を取り入れるようにしてきたのも功を奏した。大事なのは道徳なのだと……道徳、か。今まできっちり考えた事はなかったな。

 

 

俺がナハト・トゥに帰って来てすぐに、重大な捕り物案件が入って来た……この町の裏の権力者たるコーリンの頭が署を襲撃しにやって来るなんて聞いたもんだからそりゃワフラやキスケの顔が何時も以上に怖いのも判る。リザードの兄ちゃんに至っては銃ブッパしてでも〇せって感じだったからいつもよりも威圧感与えながら扉を開けちゃったよ、正直、すまんかった。

 

会議の内容そのものに関しては幸い非人道的なやり方をしていなかったから良かったけど、その理由がシシ君が訴えかけたからってのを聞いて俺は安心したよ。彼は確かヤマト王国からの亡命者だったな、奴隷以下の身分で亡命は即刻死刑な中で命懸けでカン=ム帝国まで逃れた、そんな彼だからこそ、訴えた言葉に重みがあったんだろう。平和ボケした日本生まれのアーパーな俺が言ったら説得力皆無だからね……さて、改めて。

 

『みんな、ご苦労様。署長たる俺がみんなが懸命に働いてる中休暇なんて取って申し訳無かった。みんなには事件解決後に順次になるけど、休暇を取るようにする。先ずは目の前の事を終えてからだけども、それは約束するよ。』

 

ワフラがため息を吐く、あんたが一番働いて休みを取りづらくしたんだろとその顔が語っている、マジサーセン……でもあっちの世界にいる時と違って仕事そのものが楽しくて、休むってワードがふっ飛んでたのよ、気付かせてくれた事、感謝する。

 

しかしコーリンの構成員は、町長の元秘書を合わせても5人か……戦いは数だよ、兄貴!ってどっかの偉い人が言ってたから、こちらは数でどうにか出来るのかも知れないけど、それは敵味方の生死を伴わない場合だ。こちらの被害を出さず、被疑者も生きて確保する、やれやれ、両方やるのは、(物理的にも)骨が折れるな。それにワフラが言ってた魔法を操る人間……何時かは対峙する事になるとは思っていたけど、ここでか。前々から気になってたんで思い切って聞いてみる。

 

『ワフラ、魔法に関しての情報は知ってるか?可能な限り出してくれ。』

 

『了解した。と言っても、その件に関してはエルフランドの知人から情報を持って来てもらわにゃ判らんど。そうそう、話しは変わっけど清蔵どん、頼んどったモノの一式、10名分が出来たば。』

 

『えっ?マジ?』

 

早ぇなオイ……機動隊の装備をこちらの材料で再現したモノなんだけど、旧式のジュラルミン盾、ヘルメット、プロテクターに取り押さえに使う刺股に動きやすさに優れた機動隊員用の制服、そしてライフルを一式として頼んでいたんだけど、僅か1ヶ月半で作成してしまうとは、異世界の技術は侮れん。な〇うに腐るほどいるアーパーなモブ達とは頭の作りが違うのかもね。あの血の気の多いリザードの兄ちゃんですら文字覚えるの早かったし……俺は最近になってやっとマーちゃんアーちゃんコンビ位の字を書けるようになったレベルだよ……発音は日本語なのに、文字は墓場の卒塔婆に書いてるやつ、なんだっけ?あれにそっくり。書けねぇよ、そしてまず読めねぇよ……とにかく優秀な人々のおかげで色々とやる気が出て来た!

 

『よし、ならば話しが早い。相手は相当な手練れ、無理に正面きって突入かける必要は無い。拳銃の携帯もするが、弾は非殺傷のゴム弾で行く。まあ殆どの弾がそれだから殺生の心配は無いか。』

 

と言っても、ゴム弾を受ければヘビー級のパンチを受けたようなダメージを受ける。衝撃は相当だから、頭とか当てないようにしないと。装備を整えたなら、問題は奴らをどこで確保するかになる。敷地内になる事は決定だが、余り内側に入れてしまうと、元構成員達の暴動が無いとも言い切れない。ならば正面玄関の開けた場所になるな、あそこなら刑務作業所から離れている。

 

『良し、決まったな。被疑者確保は正面玄関前、後は機装一式装備の10名と側面からの取り押さえ8名、囲うように離れた所から狙撃班が4名で行く。

 

機装班は盾を構えて出方を見ながら前進、押さえ班は機装班が攻勢を防いでいる間に突撃、狙撃班は機装班が押さえきれないと判断してから威嚇射撃、怯まなかったら足へ射撃、ライフルは実弾故に腰より上は狙うんじゃないぞ。

 

キスケ警部とテイル警部補は署内で補員10名と共に監視、取り押さえの騒動に際し敷地内の刑務作業場側から自由囚の暴動に備えるんだ。

 

シシ巡査、奴らは明日にやって来る、そう言ったんだね?』

 

『はい、間違いありません。』

 

ならば余裕が少しばかりだがあるな。ならば会議を練り込んでより万全にしておこう。凶悪犯相手に石橋を叩き過ぎるって事は無い、鬼の濱田警部の受け売りだけど…

 

 

ん?誰かが私の名前を呼んだような。しかも酷く懐かしい声だったな。児玉清蔵……五つ下の後輩で、何時も心が何処か浮わついていたあいつ。だがあの事件の前のあいつの声のように聞こえたな。交番勤務から署内勤務に上がって目をギラギラさせてたあの頃の。行方不明になっちゃいるが、多分あいつの事だ、宜しくやってるはずだ。あいつが何処の馬の骨とも分からぬ奴らにやられるタマじゃねぇ事位、私は知ってる。清蔵、早く無事な姿を見せやがれ。

 

 

今、濱田課長の声が聞こえた、ハッキリと。こっちの世界に来て気付いた事だけど、どうやら俺の思考とあっちの世界の思考が意図せずリンクする時があるらしい。最初は俺の心の迷いだと思ったけど、そうじゃないんだってのが分かった、言葉ではなく、感覚的なものだけど。

どっかの異世界ものならギフトだとかチートだとかくっそ安い言葉で片付くんだろうけど、断片的なものだから意識してそれを操るなんて事は無理だ。魔法使えません、チート?なにそれ美味しいの?俺TUEEE?努力してから言え馬鹿!身体の強さはあっちの世界のままだぜ(涙)、俺にあるのは警察官としての体術と装備と頭、そして矜持だけだ。

 

それでも、あっちにいる同僚や先輩が俺の事を心配してくれている事実を知るだけでも、俺にとっては心強かった。自分よりもあからさまに強いのがゴロゴロいる、非常に危険な場所も、理不尽な事もある。だがそれに関しては元の世界も同じさね……あっちの世界で逮捕した通り魔(痴漢)が世界は腐ってるとか捨て台詞言ってたけど、今なら言い返せる、狭い見識だけで、世界が判るもんか!元の世界もろくに知らなかったのに、こっちの世界はまだ2つの町しか現状を知らない。俺はもっと、精進してみせる!

 

 

清蔵が帰って来てコーリン対策をしている頃、コーリンの頭、カマリタは自らの武器である大型のマチェットの手入れをしていた。奴隷時代から使い続けて来たそれは、ずしりと重く、常人では振り回す事すら出来ない。これ一つで幾多の抗争や殺し合いに打ち勝ち、生き残って来た。カマリタは鈍く光る刃先を見ながら、過去を回想していた。

 

貧しい家庭に育った彼の人生、幼少の頃より、町の領主や市民から虐げられてきたカマリタは、怒りからそれらに手をかけ、窃盗や強盗を繰り返しながら生計を立てていた。ある時は商人を、またある時は貴族を。その手にかけた人間の数は数百を優に越えた。本来血を嫌う筈のゴブリンが、劣悪な環境によって心を歪め、裏の権力者とまで恐れられるギャングの頭にまでなった。身分に関係無く有望な者が上に上がる世界であったなら、そして道徳の行き届いた世界であったなら、偉大なる指導者になったかも知れない。だがカマリタはもう元に戻る事は出来なかった。罪を悔いるには余りにも多くの命を奪ってしまった。人生をやり直すには、余りにも多くの財産を奪ってしまった。

 

『行き着く先はまた地獄、か。くく、つくづく嫌いになるよ、神とやらが。おっかさん、俺はあんたに顔向け出来んじゃろう、じゃが悪党には悪党らしい最期ってもんがある。』

 

そう呟きながら、カマリタはまたマチェットの手入れに意識を戻した。その目には一点の曇りもなかった。自らの道を悪と自覚はしていても、今更悔いる程、カマリタの意思は弱くはない。

 

『手向けの花は、奴らの親玉の首か、俺自身の首か。結局はそれだけよ。』

 

 

カマリタが襲撃の準備をしている頃、ボッラクは身支度を整え、署へと向かっていた。指名手配されている為、顔が隠れる程度の帽子を目深に被り、不審者に見えぬよう、普通に歩く。身体も平均的で、エルフもそれなりにいるナハト・トゥでなら、そこまで目立つ格好ではなかったので、署に通じる道にいた新米巡査辺りに道を尋ねても面が割れなかった。

 

『あそこにあるのが警察署と言う所か……随分と立派だな。それにしても……平和過ぎる。』

 

ボッラクは驚いていた。町から署に続く道の整備が行き届いているのだ。草原を歩くようなイメージだった嘗ての周辺は、草を抜かれ、土を固く押し固められ、石が敷かれてあり、重い馬車が通ってもびくともしない舗装が徹底された道、山賊の類いが闊歩し、昼でもおいそれと歩け無かった程の悪治安が嘘のように、女子供が無防備に歩く様……

 

『ナハト・トゥの最近の平穏さで察してはいたが、これほどとは……』

 

ボッラクは驚きと同時に、安堵してもいた。自分が役所の人間だった頃に夢描いていた風景、それが現実にある事実。ボッラクは署の長に会いたい気持ちを押さえながら、変わらぬ速度で歩き続けた。ボッラクは小一時間程で建物の前にやって来た。正門前には数名の守衛が立っている、平時であっても治安を守る人間はある程度の緊張を持つものなので特には驚かない。ボッラクは守衛の一人の顔に気付くと、声を掛けた。

 

『キスケ君、久しぶり……ワシだ、ボッラクだよ。逃げに逃げ続けた人生だったが、漸くケジメを付ける覚悟が出来たよ。』

 

その名前を聞いた守衛達は彼を取り囲むが、キスケが手で制し、ボッラクと距離を詰める。キスケの目は鋭く、以前の彼ならば腰を抜かしていただろう。しかし、ボッラクはその目をしっかりと見据え、微笑みを浮かべたままだった。

 

『自分の歩んで来た人生を反省するのに、時間が掛かってしまったよ。アールに顔向け出来る権利も無い……じゃが、ワシのような屑にも、僅かだが良心と言うもんが残っていたらしい。』

 

『……』

 

キスケはボッラクの独白に似たそれを黙って聞いていた。悪は許さないを地で行くキスケは激情なる気持ちを抑えながらも、ボッラクの独白に一定の理解を示してもいた。嘗て、町長のアールと共に町の平穏の為に奔走し、優秀だった彼。そんな彼が汚職に手を染めた時、キスケに出来る事は殴り続ける事しか出来なかった。

 

『あん時、俺はあんたを殴って殴って殴り続ける事しか出来んかった。汚職は悪、悪には鉄拳制裁で粛正ってな。でも今思えば、あん時しっかり言葉を掛けられたんならと思っちょる、それだけは済まんかった。』

 

『キスケ君、謝らんでくれ。あの日からワシは堕ちに堕ちたよ。逆恨みとは言え、ワシは憎しみだけで生きて来た。じゃが悪党に堕ちて分かった事がある。憎しみに向ける気持ちがあるのなら、それを向ける力を、例えばもっと町を良くする為に向けるとか出来たのなら……たらればで語っても手遅れじゃとは思うがな。』

 

そこからは言葉に出さなかったが、キスケはボッラクが悟った事を理解した。キスケはこれ以上の言葉は要らないと判断、守衛に任務を行わせた。

 

『コーリン幹部ボッラク、治安妨害の幇助と人身売買、並びに殺人教唆及び幇助の疑いで緊急逮捕する。尚、あんたには弁護士を呼ぶ権利と黙秘権がある。お前ら、取り調べ室へ!』

 

『はっ!』

 

守衛達はボッラクに手錠を掛け、署内の取り調べ室へと連行していった。ボッラクの表情は何処か憑き物が取れたように穏やかだった。

 

 




あとがき


※清蔵は俺TUEEEではないですが、警察官であり、武術(空手、合気道、柔道、日本拳法、喧嘩芸骨法)を身に付けていますので、結果的に(一般人よりは)強いと言うだけです。プラス、180を越えるガタイ、幼少は両親の仕事の手伝いをして骨を軋ませていたと言う下地もあるので。

現行警察では喧嘩芸骨法は採用されてはいません(そらそうよ)が、日本拳法は空手や柔術等を元にした武術で、一説には骨法の技も組み込まれているとされています。この話では濱田が向日葵署で独自に習わせていると言う形にしています。

交番勤務の年数が短くね?と言う意見をリアルポリスに指摘されました。日本の警察は数年勤務後に昇任して交番勤務以外に行くのが普通ですが、優秀な人材だとかなり早い段階で異動になる場合もあり、ならばこれでいいかと思いました。現実世界を元にしつつも、その辺りは並行世界の違いと言う事で。

公安に関しては秘密主義な所もあり、中々扱いが難しいですが、調べると元公安の方の話等もあって参考にしています。

こちらの公安の尾行あんまりじゃね?との指摘がありましたが、公安の尾行には敢えて監視対象者に気付かせる威嚇的なものもあるらしいので、ライオンの獸人でも可笑しくは無いかのかな?その場合こっちの世界の方が威嚇的なものに関しては優位だと思います。

因みに拳銃についてのご指摘もありました。基本パトロールする制服の巡査は拳銃を携帯していますが、先述のようにここは並行世界の日本と言う感じで思って貰えればいいかなと思います。

しかし12話書いてた辺りで思ったんですが、昨今の警察の不祥事やネズミ捕り、都市部での職質の是非が問題視されていますね。

個人的な見解になりますが、ノルマにそれらを入れているから要らんことしてるんだと感じますね…つーかオラついてる奴無視して、気の弱そうな兄ちゃんを職質してるもやしみたいな巡査を見てると誰だって腹立ちますね。最近はそんな体格良い巡査多く無いように感じてます。時代の影響か(なんのだよ)。

私の地域のお巡りさんはフレンドリーな兄ちゃん姉ちゃんなイメージありますね、職質も都市部と比べて頻度は低いように思います。まあ交通が幅利かせてますが。

因みにナハト・トゥは九州四国の田舎町、サカサキは広島と大阪を足したような都市のイメージです。田舎は犯罪検挙数が少ないだけで、結構治安は悪いって所が多いので、ギャングやら登場してます。

友人から『テイルちゃんが清蔵に直ぐ惚れすぎじゃね?』と言われ、私も書きながら感じましたが、強面だけど優しいギャップ萌えと頭で変換してます。つーか主人公の面、照英と北村一輝の悪い所を足して2で割った顔ってVシネ顔やね…

他キャラのイメージは、

ワフラ:勝新太郎

木尾田:堺雅人と織田祐二

山田:若い頃の松平健

山口:広瀬すず

と言った感じです。隙あれば竹内力似の兄さんと山口をくっつけようと思ってますが、展開次第かな?カン=ム帝国主要部まで頭が持つかはわかりませんが…

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