ボッラクの感想
私は出頭し、建物内部へと連行された。私を連れて行く彼等は手荒には連れて行かず、誘うように案内してくれたように思えた。ここを取り纏めている人物の徳が高いのだろう、身の危険も感じず、安心感すらあった。内部のとある場所は、行灯の光が一つ、そこに机があり、私は椅子に座るよう促される。ここでも手荒なもの言いはせず、ものごし柔らかに対応された。
暫くして、弁護士と名乗る人物が私の前にやって来た。初老のドワーフで、いかにも知識に秀でたような人物だった。彼は連行された人間の情状酌量や明らかに無罪である人間を法に則って弁護するのが仕事だと言っていた、やはり町の治安の回復の裏には、大きな改革があったように感じる。そして彼が私の隣に座り、向かいの席には、ワフラさんと、見慣れ無い一人のヒューマが座った。着ている服は、外にいた守衛やキスケ君が着ているものに似ていたが、それよりも幾分か造りが上等のように見えた。間違いない、彼が噂に聞いた男なのだろう。想像していたよりも若い。身体は比較的大きく、顔もキリッとしている。鍛え上げられた身体を見るに、現場で自らも動くタイプなのだろう事が想像出来た。
『初めまして、ボッラクさん。俺はナハト・トゥ警察署の署長、児玉清蔵です。まずは貴方が出頭してくれた事、感謝します。貴方はコーリンと言う組織の幹部であり、数件の事件に関わる嫌疑、法に抵触する行為の観点から、指名手配と言う形で貴方の事を追っていた。その点に関してはご了承下さい。指名手配をされる人物の多くは激しい抵抗をしてきたので、出頭してくれた事は非常に助かります。』
やや低い声はものごし柔らかで、かつ、高圧さを感じさせぬものだった。私を指名手配……町の広場に人相書が貼り出されていたから、それの事だろうか?それにしても手配書に載るような者にここまで丁寧な対応をするとは……普通なら裏があると勘繰る所であるが、彼の澄んだ瞳を見るに、それはないと感じる。
私は彼にこれまでの所業と出頭の経緯を話した。私は20件の殺人、120件余の人身売買、それに毎日行っていた町役場へのありもしない風評の流布の実行等、全てを話した。特に殺人に関しては、実行犯ではなく、計画の主犯になっていた部分を事細かに話した。ワフラ君は今にも掴みかかりそうな表情を私に向けて来たが、ちょうど向かい側に座る彼の表情は、何処か哀しい顔をしていた。
時間的には半刻位だった、ワフラ君が時折激昂する場面があったが、彼の方は私の話をしっかりと聞き、かつ頷いたり、また哀しい顔をしたりするだけ……なんと言うか、ずっと聞き手に回っていたな。おかげで私は本当に胸に溜めていた思いをすっかり出し切ったように感じた。
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哀しいな、この町の悪党は。それが俺自身の率直な感想だった。コーリンに脅されてから汚職の日々を過ごし、キスケ達にバレて半殺しにされ、恨みと絶望の中で心に大きな虚無感が出来たんだな。それにしても……この世界のエルフの地位ってのは余り高く無いみたいだな。カン=ムの皇帝一族はエルフらしいけど、その割には重役は他の種族が多いと聞く。寿命が長い分、知識の蓄積に時間がかかるとか随分とナチュラルにデバフ掛かってるな。そりゃ妬みややっかみもするわ。
しかしボッラクはあらゆる意味でそれを補うだけの力があったんだろうな。逮捕した時のキスケが割と冷静だったのは他のエルフと比べて知識の飲み込みが早く一目置かれていたのだと想像がついた。
『貴方の言った事全てが本当なら、奉行所での沙汰はかなり重いものとなるでしょう。過激派からは裁判無く殺せとまで言っている連中すらいた。』
過激派……旧守衛組の中でワフラ達の次に力を持っていたヤヌス(オーガ、50歳)を中心とした12名のグループだ。余所者が上に立つのを快く思わず、犯罪者には死あるのみなやり方は効果的な所も無い事は無いが、俺は快く思わない。
だからあのグループは旧守衛所の方で動いて貰っている、当然署に属する巡査長級以上の監視を付けさせた。はっきりいって監視って言葉も使いたく無いけど、ヤヌス、彼自身信頼出来る感じが無いのが強く、ワフラですら信頼を勝ち取るとか思うなら諦めろとまで言われている。話が脱線したな、いけない。だからこそ、公平な裁判の下、その沙汰を受けて貰う。その前に、証拠を照合して起訴する案件を見極めて貰わないとね。
『厳しい沙汰を、と言っても、立件出来る容疑が固まらなければ貴方を奉行所で裁く事は出来ない。被疑者の扱いは推定無罪で扱う事、これを約束しましょう。因みにもの言いで誤解を与えてしまう恐れがありますので先に言います、これは口約束ではなく、署の機能が動いて以来のルールです。』
以前、血の気の多い巡査がベタな刑事ドラマのような取り調べをしていて、珍しく厳しい口調で叱責したのよ、昭和中期かよって取り調べ方法だったから、流石に頭に来たけど、暴力には訴えず、あくまで口頭で注意するだけ。相当怯えてたけど、俺って顔怖いのかな?
ボッラクはそれに首肯で応えた。元は敏腕秘書だった人物、俺の無い頭を限界まで使って作成した取り決めの内容は易々と理解しているのが分かった。
『若さん、あんたの言うようにしてくれるなら、ワシはもうどんな沙汰でも受けよう。あんたなら、いや、あんたらなら、かつてのワシが目指していた世界を実現出来そうじゃ。』
買い被りはよしてくれよ、俺が優秀なんじゃない、俺の周りが優秀だったからだよ。出来れば罪を償って、町長をもう一度助けて欲しい。犯罪の数と重さ故に、極刑が濃厚そうだから厳しいかもだけど。
取り調べがあらかた終わり、俺は警部補以上を集めてカマリタを奉行所に送るかどうかの話し合いをした。弁護士のフェイさんも同席した。この世界にはまだ検察の役割を持つ人がいないので俺達がそれを担う形をとっている。弁護士を同席しているのは、この時点で一方的な見解が押しとおるのを防ぐ為もある。話し合いの結果、起訴する罪状は主に三件に絞られた。こっちの沙汰の考えでは、殺人に関する罪は実行犯でない者はそう重い罪に問われぬらしい。俺らの世界は殺人教唆及び幇助って実行犯よか重い事もざらだから、この辺は直接的か間接的かの裁量が重要視されてるようだね。
しかし、主要三件、カン=ム連邦調査局職員への殺人教唆、町役場への襲撃に対する計画と凶器準備集合、そして人身売買。フェイ弁護士は他の容疑については状況証拠もなく立件すべきでないと訴えたが、主要三件については数多くの証拠があり、フェイ弁護士は情状酌量についてのみ述べるだけで、やはり奉行所に送る事となった。
夕方、ボッラクにその事を伝えた。裁きがどうなるかについては、もう俺らは門外漢だから、後は弁護士を頼り、沙汰を聞いてくれと話した。彼は黙して語らず、俺の話を首肯して聞いていた。覚悟が出来ているからか、もう彼が罪に対する罰を受け入れるのだと感じ、奉行所の職員に彼の身を頼む。連行されて行く直前、ボッラクは一言俺に声を掛けた。
『落ちぶれたワシが言うのはあれかも知れんが、町を……頼む。』
『ええ……必ず治安を良くし続けます。』
俺の言葉に、ボッラクは笑顔で答え、彼は連行されていった。全てを悟った人間の顔してたな、もう後悔も何もないのかもしれない。
『出来ればあの人が極刑にならず、罪を償って再び町の為に頑張ってくれたらと願うよ。』
ボッラクのその後を思うが、沙汰に関しては奉行所に委ねるしかない。俺は複雑な心境のまま、それでも目下のコーリン撲滅に注力する事にした。任務中に極端に私情を挟めば、警察としてのジレンマに陥る。今は、最善であると思う事、自分の身の丈にあった事に懸命に励むしかなかった。警察ってのは因果な仕事だけど、誰かがやらなければ、何も変わらない。
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被疑者側の視点、考え方、そしてそれぞれにある正義や仁義を知った清蔵。相手を理解するにつれ、警察の在り方を改めて考えさせられる事になった。しかし、清蔵はそれでも異世界で再起した矜持を変える事は無い。決まった結末等、歩いた先には無いのだ。ただひたすらに前に進むのみ……
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シリアスが続くとムズムズしますね…つまんねえネタでもギャグ書きてぇってなります。別の作品はシリアス過ぎて頓挫しちゃったのでどっかでギャグ回入れて息抜きしたいと思います。