コーリンを撲滅させ、町に一時平穏が戻ったのを皮切りに、清蔵は休暇を取っていた(怪我をしっかりと治して貰うのも兼ねているが)。交代で連続勤務分の休暇に入るように指令をした所、ワフラ達がまずは署長からと気を遣った(半ば脅しであったが)のだ。仕事付きで無い普通の休暇は初めてだったので羽を伸ばしているかと言えば、清蔵本人は現在緊張の中にあった。
今日、初めてテイルの父親に挨拶に向かうのだ。休暇の内に、二人の交際を正式な形で認めてもらいたいとテイルたっての願いであったが、オーガの女性の事について本人の口から聞かされていながら、媚薬入りの酒の力があったとは言え、欲のままに情事に至った(勿論相思相愛ではあったが)清蔵は緊張せざるを得なかった。
(どうしよ……初めてまぐわった人としか子が成せないのに、俺が初めてを奪っちゃったからなぁ。もっ、勿論このような天女とけけけ結婚出来たらそっ、そりゃあ嬉しいですとも!)
しかし清蔵は異世界の、他種族の父親に挨拶と言うそれに恐怖にも似た緊張を隠せなかった。
(婚前交渉しちゃいました、テヘペロなんてしたら、俺の世界でもいい顔しねぇって。誠意見せてやらねばだけど……)
悩んでもらちがあかないと悟った清蔵は、テイルの家に向かう。テイル達オーガスタ一家の住み処は清蔵の隣なのだが、テイルの父と会った事は一度も無い。テイルの母とは何度も顔を合わせて仲良くはなっているのだが、父の方は何故か一度も無い。
(初対面かぁ……テイルママは凄い性格も顔も似てて直ぐ仲良くなれたけど、果たしてテイルダディは……ええい、ままよ!)
『どうも、児玉清蔵です、やって来ましたよぉ!』
『……ヌシがわっどんの娘が懇意にしちょお男か?ハンニも気に入っちょるっちゅーから興味深いのぅ……』
(ちょっ、えっ……こっ、怖ぇーー!北村〇輝でも照〇でもねぇ、菅〇文太さんじゃねぇか!仁義なさそうなテーマ曲が流れてるよ!)
迫力ある顔、赤い肌、ステレオタイプな鬼の格好、テイルとは全く似ていない強面の男が清蔵を出迎えた。テイルとの共通点は牛っぽい角であるが、こちらは闘牛を思わせるような可愛さとは最も離れた厳つい角だった。清蔵はチビりそうになりながら、家の奥へと上がった。上がった後はテイルと母のハンニが笑顔で迎え、用意された席に座る。気になったのは、テイルの話にも聞いていたように、彼の脚はまともに歩ける状態では無く、杖をついて何とか歩けるような状態だった事である。彼も席に座り、改めて清蔵を見やる。
『テイルが毎日弁当を嬉しそうに作っとるのを見てな。あんげな姿、初めて見た。見た目も中々良か男じゃ、とんでもね男じゃったら、股間のイチモツ切りとったろうかと思うたが……』
(発想が怖すぎるよ!ヤク〇だよ、贔屓目に見てもヤク〇だよ!)
『んで、お前さん。テイルが純潔を捧げたそうじゃなかか?』
(うっ!)
『はっ、はい!』
『オーガの娘は純潔を捧げたもんとしか子をなせん……つまりもうお前さんの子供しか産めんっちゅー事じゃ。回りくどいの抜きでひとつだけ聞く。テイルの事を、好きか?』
『もももっ、勿論ですとも!』
(しっ、しまった!威圧感で思わずゴル〇ーザ口調になっちまった!真剣さが伝わらないってボコられるかも……いや、生き埋め?)
そう覚悟した清蔵、テイルの父は表情を崩さず、立ち上がって清蔵の前に近付き、清蔵の目を見つめた。
(ギャアアアッ超怖ぇぇぇ!なっ、何すか?不採用で生き埋めっすか!)
だが予想にはんして彼はニヤリと笑った。清蔵的にはどこぞの剣豪の
(嗤うとは、本来攻撃的なものである……を地で行ってる、笑顔が怖すぎ!こっ、殺す気か!)
そう思った清蔵だが、テイルの父はうって変わって優しい笑みを浮かべ、清蔵の肩を叩いた。
『お前さんなら、テイルの事を頼めそうじゃ。おっと失礼した、まだちゃんとこっちから名前を言ってなかったな?ワシはキイチ。これから宜しくな、婿殿。』
『んもう、パパったら、まだ結婚するかどうかなんて話して無いし、交際してからまだ数日よ!ほら、せぞさんが凄く困っとうよ!』
『ははっ、すまなんだテイル。にしてもテイル、いい男見つけたの!パパは彼ん事を気に入ったば!』
さっきまでの威圧感は何だったのか?和気あいあいとした雰囲気になっていたが、清蔵の方はあっけにとられたままフリーズしていた。後々キイチに聞いた所、もし娘を下さいとか先走って言ったら、わざと娘はやらん!と言って慌てさせた後に、こう言うと盛り上がるやろ?的な事をしたかったらしい。心臓にすこぶる悪いドッキリであったが。
『いや、そのご尊顔でそれやられたら心臓に悪いですよ!』
『ははっ、すまなんだ。娘の巣立ちを複雑な思いで見送るなんて憧れちょったからの、ちょいと頑固親父を演じさせてもろたば。ハンニと同様、わしも驚かせたりからかったりが好きだからの!』
(いやいや、からかう目じゃなくて獲物を射殺す目だったんすけど……しかし演技で良かったぁ。つーか中身も文太さんかよ!)
こうしてテイルの両親公認で交際を正式に始める事となる。
ー
婿殿へ
初めての対面の時、私は婿殿の目を見て、テイルが惚れたのも致し方無しだと感じました。キリッとした顔立ち、鍛え上げられた肉体、そして何より正直な男……貴方ならきっと愛娘を幸せに出来ると確信しております。
テイルはああ見えてか弱く、臆病な所もあり、小さい頃から私にべったりでありました。過酷な奴隷生活の中で、娘だけは守らねばと、妻のハンニと共に愛情いっぱいに育ててきましたが、少々過保護過ぎたかと、我々両親への依存が強い所を見ると感じる次第でありました。
ですが、貴方が来てから、テイルは親離れを果たし、表情も以前に増して明るくなりました。一人の娘の父として、娘が私から離れて行くのは複雑な部分もありましたが、だからこそ、娘の幸せを思って、貴方に娘を頼みたい。
ーそしてこれからも宜しく、婿殿
キイチ・オーガスタ
ー
その日の夜、キイチは手紙を書いていた。先程まで娘のパートナーとなる人物と対面し、自らの心中を打ち明け、酒を酌み交わした男の度量と気骨に惚れたキイチは、しっかりした形で思いを伝えようと手紙を書くことにしたのだ。
書き終えると手紙を封書し、寝室へと行く。部屋には妻のハンニと愛娘テイルが小さく寝息を立てていた。キイチはテイルの枕元に行くと、娘の顔を覗き込んだ。健康的に育ち、妻よりも背が伸びたが、その顔立ちはまだあどけない少女の顔立ち。寝顔は幸せそうな表情を浮かべている。
(テイル……パパは今までお前が幸せを掴むまでは守らねばと、必死になって働いて来たよ。命懸けで亡命した時、お前はまだ14歳だったな……あの粗野で下劣な領主にお前を差し出せと言われた時、私は亡命を決意したのだが、あの時の決断は正しかった、そう思うよ。)
キイチはかつて亡命して来た時の事を思い出した。テイルはハンニに似てとても美しい姿をしていた。そこに奴隷領主は目をつけたのだ。幼女趣味だったその男は、テイルを自らの愛玩動物にしようと企んでいた。娘の将来を思ったキイチは一念発起して、二人を連れて監視をくぐり抜け、隣国のカン=ムへと逃れた。領主の追っ手は中々にしつこく、亡命の最中は自慢の肉体を以てそれらを撃退していったが、ある時、元々奴隷仕事でボロボロになっていた足がついに悲鳴をあげた。左足のアキレス腱が断ち切れ、右足は膝の靭帯がやられた。さらにカン=ムの首都エルフランドは他国の奴隷階級以下の亡命を認めていなかった為、カン=ム辺境のナハト・トゥにまで行く事を余儀なくされた。そこから国境を越えれば奴隷の存在しないエウロ民国だったが、キイチの肉体はそこまでにかなり消耗しており、結局はナハト・トゥを定住の地とする事にした。
幼き頃のテイルは、父のそんな姿を見続けていたので、ボロボロになるキイチの姿を見るたびにいつも泣いていた。キイチはいつも大丈夫だと言いながら、辛そうな顔はおくびにも出さず、彼女を慰め続けた。ナハト・トゥの町長アールは彼等の心情を鑑みて、快く町への定住を認めた。その恩に報いる為に、テイルがまともに動け無くなったキイチの代わりに働くと聞いた時は、初めは反対したキイチだったが、ハンニにも説得され、町役場での仕事を認めた。ここに来て、幾分か明るさを取り戻したテイルだったが、帰るとやはりキイチにくっつき、泣いていた。言葉ではキイチを安心させたいと言いながらも、テイルが本当は逃げ出したい位に怯えているのだと悟り、少しでも体を元に戻さねばとリハビリに励んだ。
そんなテイルが家に帰っても泣かなくなったのは、警察署が出来てからだった。テイルは悠々として清蔵の事を話し、表情も笑顔が多くなった。娘の変化に戸惑いつつも、その変化に一番喜んだのは、他でもないキイチだった。
『テイル……パパにはママがいる、だから婿殿との幸せだけを考えて生きなさい。』
キイチはそう言うと、テイルの頬に口づけをして、キイチは自分の寝床へと入った。
ー
『え……ちょっ、何これ?』
翌朝、清蔵が自室で目を覚ますと、普段するはずの無い朝食の良い香りが漂っていた。服を着てその方向に行くと、テイル一家が総出で朝食を作っていたのだ。
『おはよう、婿殿、もとい清蔵君!』
『おっ、おはようございます……って何で皆さん俺の部屋で朝食作ってたんですか!』
驚きを隠せない清蔵。酒を酌み交わしている時も、あくまで段階を踏みたいと言ったのだが、どうもこの家族はそういう所に対しては手が早いようだ。みんな割烹着的なものに身を纏い、手の込んだ料理を作っている。
『あら清蔵君、貴方結構な健啖家なんですってね、だからテイルとパパちゃんと一緒に豪勢な朝食をってね☆』
『うっ、うす、ありがとうございます……しかし朝からえらい量ですねこれ……』
『ははっ、こう見えてわしは料理は上手いぞ、きっと味のよさに量が多いなんて関係無く平らげてしまうば。おう、ママちゃん、テイル、盛り付けば綺麗に。』
てきぱきと動く様は見た目も相まって割烹料理屋の親父そのものだった。テイルは鼻歌まじりにそれを手伝う。一家揃って料理は上手いらしく、ほんわかな雰囲気と違って動きに無駄が無かった。一人暮らしにはいささか広すぎたテーブルの上に、置く所が無い位に料理が置かれていた。引きまくっている清蔵の思いとは逆に、腹が大きく鳴り、唾液が口を覆っていた。
『はっはっは、体は正直じゃの!さ、遠慮はいらん、みんなで頂こう!』
『マジっすか……』
清蔵はオーガスタ家にすっかり気に入られてしまった。戸惑いがマックスになりつつも、清蔵は元世界での家族の事を思い出しながら、団欒の良さを噛みしめるのだった。
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警察らしい仕事いつちゃんと書くんだよと突っ込まれましたw
次回からはしっかり書いていきたいと思います。