本官、異世界で署長になりました!   作:劉鳳

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ここから暫くは文字通りの日常編になります。


第21話 新人教育(わからせ)

 

 

怪我も無事回復し、心身共にリフレッシュ出来た清蔵は、1週間ぶりに警察署へと勤務した。この1週間、何もせずにいるのは回遊魚宜しくな性分上辛抱ならなかったので、清蔵は休みの間に考えていた新設予定の部隊についてワフラとキスケに相談をしようと決めていた。二人をその新設の部隊の教官とする為に。

 

実の所清蔵はワフラとキスケの鬼軍曹な指導方法を快くは思っていない。しかし、そんな二人だからこそ出来るうってつけの構想は練っていた。鬼軍曹こそ必要になると。ナハト・トゥは本町、新町と離れの集落を合わせても良いとこ四千人の町、ガチガチの軍隊等存在していないし、そもそも重要な拠点でもないので必要がない。他の異世界小説あるあるな、魔王がいるとかそう言う世界では無い上、タイーラ連合国は足並みが揃ってない割に、大きな戦争と言う戦争が発生しないのもあった。故に、極端な軍備を持てばカン=ムの首都エルフランド辺りから要らぬ目を付けられる、場合によっては自治権を奪われかねない。ならば、警察の管轄内で、有事の時に動ける者を育成すると言う意味で機動隊の設立は適当だった。機動隊は武装警察的ポジションだが、有事の際にガチガチの装備を固めると言う部分を除けば、普段は他の警察官と変わりない。違う事と言えば、血の滲むような肉体錬成、訓練による統率された動き、そして他の警察官以上に上官への徹底した服従。警察の中でこれ程軍に近いものもそうそうない。そう言った観点から、ワフラやキスケの熱血指導が適任と清蔵は思った。

 

『清蔵さん、一体どういうわけで俺らの指導を容認するんじゃ?あんなにパワハラパワハラ言うとったのに。』

 

今までの警察指導に関して、パワハラ気味で清蔵からは慎むよう口酸っぱく言われてきたキスケ達は、いきなり呼ばれて二人の熱血指導が欲しいと言ったものだから、戸惑いを隠せない。清蔵は機動隊の設立と、機動隊とは何かをこと細かに説明した。かく言う清蔵も、機動隊については所属した事もない為、警察学校での知識としてしか知らないのだが、同期の警察官に機動隊の人間がいたので、指導実態と機動隊の存在故にその指導が良い事を頭の片隅に記憶していた。戸惑っていた二人も説明を聞くと納得した様子で目を輝かせていた。

 

『つまり、一般的な警察では対応しきれない事案に対しての、完全武装による鎮圧隊か。確かに、軍に似ちょるば。清蔵さん、もしかしてこの前の事件を教訓にしちょるのか。』

 

『そう言う事だね。』

 

通常の警察官と違い、有事対応の為、ユルい雰囲気では締まらない(勿論普通の警察官も勤務中は締める所は締めているし、決してユルくは無い)。例えば日本の機動隊の場合、安保闘争時代の極左勢力等、大規模な武装集団を相手していた時、武装した彼らの姿を見た人々もいたと思うが、任務の危険度は高い。かつこの世界は中世ヨーロッパな治安、警察署の存在で町の安全が向上したとは言え、第二のコーリンがいつ出てきてもおかしくは無い為、清蔵は思い切って設立しようと考えたのだ。

 

『警察官としての矜持、それはこっちに来てから確固たるものに変わった。甘ちゃんな俺でも、時には心を鬼にしなければならないと痛感もしたよ。この前のコーリン鎮圧は危うく殉職者を出す所だったしね。ただ、そうは言いつつも俺は鬼になりきれない。だから、この世界の情勢を良く知り、信頼も高い二人に機動隊の指揮と錬成をお願いしたいんだ。まあでも機動隊でも極力相手を殺すなってのは一緒だけどね。』

 

二人は清蔵の言葉の後、暫し思案に入った。丁寧な清蔵流の指導は、町の基本的な治安維持には向いているが、部下の中には、ものごし柔らかい清蔵の指導を嘗めて聞かない輩もいる。機動隊の設立でそう言った連中の精神を叩き直し、いざと言う時に信頼出来る人間を鍛えておくのも良いなと思った二人の返事は早かった。

 

『せぞさん、任せちゃりぃ!あんたには返しきれん位大恩がある、そんぐれぇの事、見事にやっちゃる!』

 

『ワシも同感じゃ、最近の首都周辺の悪い噂もある、あんたの言う機動隊はきっと必要になってくるば、やって損はなか!』

 

『ありがとう!恩にきるよ!』

 

異世界の地に、機動隊が正式に設立する事になった。

 

二人はまず手始めに、清蔵に嘗めた態度を取っていた人間を選んだ。表向きは、機動隊の素養があると言う名目で……体の良い再教育である。これに関しては清蔵も黙認を決め込んだ。

 

『そこのおめ、そう、おめだよおめ、ちょっとこっち来ぉ。』

 

『わっ、ワフラ警視、キスケ警部?!どっどしたとですか?!』

 

『おめはいい面構えをしとる、新設の機動隊が出来てな?人選は俺達に任せられた。おめは選ばれたんば、おめでとう。』

 

『そうっすか?うわっ、やったー!俺頑張ろ!』

 

御愁傷様……と遠目から見ていた清蔵は思った。しかし機動隊の訓練の厳しさを知って泣きついても、清蔵は甘い言葉を掛けないと誓った。骨を軋ませて上にのしあがる人間にこそ水があうかもと。指導の良し悪しは人それぞれ、清蔵はあくまでもまっさらな新人教育の方が向いている。

 

『しかし本当にあの手の人間の扱いには困るよ。俺だからまだ寛容に済ませてたけど、あの二人相手に舐めたヤンキースタイルで接したらどうなるか……まあ今までの行いを悔やみなさい。それに、機動隊いっぱしになれば、肉体的にも精神的にも成長するさ。』

 

数日後、嘗めた若者達は案の定、ワフラとキスケの鬼のしごきの前に、甘い考えを改める事になった。借りて来た猫のように縮こまり、訓練後は市場のマグロ宜しくな状態。キスケとワフラの声が響けば、ビシッと立って敬礼をする。

 

『すっかり従順な子達になっちゃったね。鬼軍曹コンビ、ありがとう、いい薬です!』

 

 

機動隊の設立により、10名程の補充人員を本署に採用する事になった。新採用の若者達の目を見ながら、清蔵は挨拶をする。

 

『ナハト・トゥ警察署の署長、児玉清蔵です。宜しく。』

 

若者達は何処か嘗めきった態度を隠さずに、ちぃーすと声を掛けた。中には声も掛けず中指立てている者までいた。

 

(おいおい、仕事したい人間の態度じゃねぇぞこいつら……と言うかガリガリの体つきで良く粋がれるよなぁ。っつーか誰だよこいつら採用したのは……って人事はワフラだから、あっ……)

 

清蔵もワフラやキスケ程では無いにしろ、その態度にはキレそうになったが我慢して彼らとの対話を続ける。生意気ではあったが、ワフラが採用した事から悪い人間ではない事は分かったからだ。

 

『何で警察になったのか、そして警察官としての目標を聞かせて欲しい。』

 

『えー、面倒くせぇ、自由でいいだろおっさん。』

 

『ん?』

 

その一言は流石に頭に来たが、これも何とか我慢したが、それを勘違いした若者達は暴言を続けた。

 

『署長かなんか知んねぇけど、あんたには従いたくねぇんですけど……えっ、ちょっと!』

 

清蔵は目の前にいたヒョロガリオーガの胸ぐらを掴み、片手で持ち上げた。いい加減我慢の限界が来た清蔵は一喝した。

 

『態度を今の内に改めなさい!警察に就くのにそれでは生きていけんよ!(てめぇらええ加減にせぇよ!警察官として以上に、社会人として今修正してやっぞボケエ!)』

 

警察署内に響く程の清蔵の怒声が響いた。あるものは震え、あるものは気を失った。

 

『……と、すまないね、つい熱くなってしまった。しかし社会人としての自覚を持って最低限の礼儀を学んで欲しい。俺だからそこまで厳しくないけど、怖い上司、例えば副署長や警部はその辺しっかりしないと鉄拳制裁もあるよ。そしてもうひとつアドバイスをしよう、初対面の人にそう言った態度で接したら、君達だって気分がいいものじゃないでしょう?今日から昨日までの甘ちゃんは卒業、節度ある社会人に、わかりましたか?』

 

『はっ、はいぃ!』

 

清蔵も流石に怖がらせたと思ったのか穏便な声で彼等を諭す。本音の方を出さなかったのはまだまだ理性が勝っていたからだったが、こちらの方が出ていたら、彼等は逃げ出していたに違いない。新人達はこの件を機に変わるだろう。変わらなかったとしても、キスケ、ワフラが許さないので変わらざるを得ないだろう。清蔵は警察署発足当初に採用した真面目なシシ達若者と、今採用された馬鹿……もとい若者達との余りにもの乖離(かいり)に頭を抱えた。危うく暴力に訴えそうになった自分を抑えながら新米との顔合わせが終わった。テイルが面談終わりの清蔵に声を掛けた。その表情はやはり心配しているのだろう、若干潤んでいた。

 

『せぞさん、大丈夫?凄い声が聞こえたから心配したとよ?何かあったの?』

 

 

『テイルちゃん……いや、あの、新人達の態度があんまりだったもんでついね……心配かけてゴメン。ああいう若者を見てるとさ、なんかこう、遠い昔の自分を見ているようで沸点が下がって仕方ないのよね。いや、流石に俺でもあそこまではひどく無かったよ?はぁ、これからの事考えると頭痛いわ。』

 

若者全員を問答無用で鬼軍曹コンビのブートキャンプ……もとい機動隊に送りたくなった清蔵であった。

 

 

 

 




清蔵は基本部下や後輩に鉄拳制裁はしません(殴るとは言っていないが、その他については……あっ……(察し))。まあでも体罰だパワハラだと世間が騒ぐのを良い事に口だけ達者な人間が入るとそれはそれでうざいよね……それでも作者の新社会人の頃よりは節度ある人の割合が増えてますがw
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