最近になって改めて分かって来た事がある。こちらの人達、頭良い。どっかのネット小説の異世界ものの住人って、頭アーパー系が多数だけど、この世界は違う。魔法で何でもやっちゃうチートとかいないのに、古き良き時代のジャパンクオリティ的仕事をやってのける等、凄まじい。どっかの何とか国みたいな粗悪品を作るような事は決してしない。つーかライフルや拳銃に関してより改良したりしてんのよ……嘘みたいだろ?ニュー南部からM500レベル(市販品拳銃の最強クラス)の拳銃作っちまったんだぜ?しかもなんとマグナム弾まで精製しちゃってんだよ、異世界マジ半端ねぇって!ライフルに至ってはオートガンをヒントにセミオートライフルが完成しました……何これ怖すぎる。下手すりゃアサルトライフル作りかねんので銃に頼らない警察の逮捕術は熱心に教えてるよ。まあワフラが量産すんなって釘を刺したらしいからそこは自重してくれるかな、そうである事を祈ろう。
しかしこの世界の恐ろしい所はそれだけじゃねぇぜ?なんとなんと、特殊警棒等に使われる合金の精製までやってのけました……ええい、異世界の技術は化け物か?!でも特殊合金製の装備はあくまでも機動隊のみにしてる。まあ警棒は全員に持たせるけど。
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発足から1ヶ月、清蔵肝いりの機動隊は順調に隊員の練度を上げていた。かく言う清蔵も週に3日は顔を出して、隊員達と汗を流していた。1ヶ月も練成訓練をしていた隊員達は、自信も付いてきており、片手間で訓練している清蔵に合法的にちょっかいを出せると意気込んでみたが、蓋を開けてみれば、涼しい顔で訓練についていく自称中年の動きの良さと無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きに翻弄されるばかりだった。その様子を、指導教官たるキスケが見ながら、清蔵に話しかける。彼もまた、隊員達と同じ装備をしながら涼しい顔で先程までランニングをしていたのだが。
『おう、清蔵さん、どうじゃヒヨっ子達の動きは?』
『うん、控え目に言って、警察学校卒業したての巡査位かな?機装一式を着用して涼しい顔して町の外壁を走れるレベルにならないと、いっぱしとは言えないね。』
清蔵は敢えて厳しい物言いをする。機動隊員に関してはオブラートに包まず意見を言う事が、キスケの発案で採り入れられている。清蔵は元世界の機動隊員からの話も考慮しながら言葉を言っているので、清蔵の評価はあながち間違いでもなかった。
『しっかし清蔵さん、あんた本当に頑丈やね、神様からギフトでももらっとんのか?』
キスケがちゃかし気味にそう聞く。清蔵はいたって真面目に答えた。
『言ったろ?貧しい漁師の生まれでガキの頃から骨を軋ませてたって。単純にバックボーンがあるからってだけだよ。けどここにいるみんなが錬成訓練を難なくこなせるようになったら、俺なんか軽く越せるって。それは保証するよ。』
『だそうだ、ちゅー事で、町外壁をもう一周じゃ!』
『ひぃい、あんまりだぁ!』
『ん?ヒョッコの分際で文句言ったのぅ?まあ許そう、さっさと二周してこい坊主共!』
キスケは容赦しない。清蔵はやれやれと言った表情で彼らにアドバイスを送る。
『背筋を伸ばす、盾はしっかり保持しつつ、軽く脱力をするように持つ。ほらっ、ヘルメットはちゃんと被る!緩くしてるから逆にしんどいんだぞ?防弾ベストと各所のプロテクターは多少きつめに固定して。』
そう言いながらそれらを持って軽く走る。余りに自然にそれをやる様に、隊員達は引き気味だった。
(ひそひそ……あの人本当に30過ぎのヒューマなのかよ、化け物だぜ?体力落ち目とか嘘だぜ絶対……)
(ひそひそ……ほんとに、一体何喰ったらあんななるんだ?)
『ガキ共ぉ、聞こえとるぞ!ぶったるんどるから五周するまで帰って来んな!おらぁ、走れ!あんま遅かったら更に走らす!』
『『はっ、はいぃ了解ぃ!!』』
キスケの鬼軍曹ぶりに苦笑しつつも、彼らが着実に様になってきているのを清蔵は感じていた。
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ふぅ、いい汗かいた。さて、機動隊の後は警備部新設の相談の為に顔出しだな。サカサキに旅行行った時に、山田が公安を構えてたけど、こっちもこっちで準備をしていたのよ。まあ、リアルの公安のギスギスっぷりには、同業者たる一般警察官からもうざがられ……もとい一目置かれてるんで、そこはナハト・トゥの町外から来るであろう脅威に限定して行う事にしてるけどね。
その為には、監視対象組織とか、人事をどうするかとか決めなきゃならない。監視組織の方は、大方のめぼしを博識のフラノ君から調べてもらったよ。えーと、1つ目は……赤旗党?名前ヤバくないか?色々と。どうやら話によると、カン=ムをはじめ三カ国で活動している暴力革命も辞さない危険な革命家勢力らしい。聞いてて響きが危ねぇ……幸い奴らの主要拠点は都市部に集中してるから、ナハト・トゥでそれらの噂は聞かない。つーか異世界に来てまで赤旗って……やっぱ暴力革命起こす気なんだろうか?もう一つの監視組織は……こっちは山田から聞いていた、神教原理主義集団、法撰の会。うん、これまたヤバくない?神教ってのは元世界における多神教のそれに近いらしいんだけど、やってる事は一神教の過激派組織のそれなんだよね。どの世界でも宗教の原理主義者はいるんだなぁ。この連中、宗教革命でタイーラ連合国を解体してやるって頭イカれた連中だ。神の名の下なら何やってもいいって連中。全く、自由を履き違えなさんなっての。好き勝手やっていい自由なんて虫が良すぎるだろ馬鹿が。
『えー、警備部はこれらの組織の犯罪に対する隠し刀である。つっても、仲間うちでも秘密秘密をやるようならそもそもいらない。かと言って口が鳥の羽よりも軽いアンポンタンには向かない。ついては人事を決めるのは俺とワフラ、そして共同で機動隊を指揮しているキスケで決めたいと思う。』
会議をそこで終わらせ、清蔵は席を立った。新たに発足する警備部の選定、そこには極端な身内人事はしない事が明記されていた。更には口の軽い者は弾かれると聞いて、数名が既に諦めているようだった。俺は元世界の警備部の話しを彼等に伝えていた。内容が内容だけにシビアな警察の闇を話す事になったけど、綺麗事だけでは、テロ組織には太刀打ち出来ないしね。それに求められるのは隠密性、目立つ人間には向かないのでこの世界でありふれた種族がいいから、現状ヒューマかオーガかドワーフが適役になるのよ。絶対数的には獣人もだけど、見た目が特徴的過ぎてバレバレってのは、サカサキの件で実証済みだ。山田は何故か入れてたが、あいつの意図だからそこは参考にしちゃダメかな。取り敢えず、警備部に関してはまだ人選に時間がかかるからまだ名前だけになるね。だから諦めてるそこの犬耳お兄ちゃんと虎のお姉ちゃん、まだ判らんよ?君らの素行次第さ。
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コーリン撲滅から三ヶ月、警察署周辺に次々と建てられた建築物。人口は亡命者を順次受け入れていた関係で新町は500人に達した。また、本町も治安が良くなって来た為か、こちらも近隣からの人間を受け入れ、300人が新たにやって来た。町の人口が増えれば、自ずと犯罪者の数が増える、対策をしなかったらの話だが。身分の保証は出自をはっきりさせている限りは安泰だと亡命者に伝え、大人から子供まで、学びたい人間には学習の機会を与える。特に道徳教育については力を入れた。フリードニヒ・ニーチェ辺りが聞いたら批判するだろうが、最初から強い人間などいない為に、ある程度の道徳は必要だと言うのが清蔵や町長の考えだった。
異世界の倫理観を世界レベルで変えようとは清蔵は考えていない。ただ、せめて署の周りの人間だけでも、高尚な倫理観をと訴え続けた。そこで清蔵はナハト・トゥ本町以外のナハト・トゥ自治区領集落に目をつけることにした。自治区……カン=ム帝国は広大な上、基本的に首都エルフランド以外はほったらかしと言っても過言では無い。そこで、主だった地方都市や集落に関しては自治権を持たせ、取り決めた代表者が直接統治する権利を持っている。ナハト・トゥは本町がその役場になっているが、実はナハト・トゥは他にも三つの集落があり、その周辺に派出所や駐在所を作ろうと言う話が出ている。
基本的に署の支所たるそれらを、子供達の勉強の場にしようと考えている町長の意見を踏まえて、清蔵は開拓課を従え、周辺集落で一番大きいスバリュへと足を運んだ。スバリュに着くと、そこはなんと言うかのどかな山間の村と言うイメージだった。確かに武装より、子供達の学び場を作った方が断然良いと想像がつくような場所である。清蔵は集落の長を任されているマークと言う人物に会いに行った。
『どうも、児玉清蔵です。』
『父から話は聞いとります、マーク・ナイトです。』
マークは町長の息子だった。役場の人間は基本、学のある有能な者ならば誰でもなれるのだが、殆どが昔から住んでいる地元の豪農だとかが多い。ナハト・トゥの人口の半数が亡命者や移民者の為に、学の無い者が多く、事実上世襲制と言っても差し支え無いのだ。しかしこのマークはただのお坊ちゃんではなく、成人してからこちらの集落で運営に当たり、特別扱いされる事なく役所仕事に励んでいた中での集落の纏め役なのだ。町長があからさまな世襲的考えなら、町に置く所だが、彼は敢えて引き離した。
『町長は身内には中々のスパルタのようですね、だからこそ人が付いてくる。』
『父は町の改革に積極的でしたからね。私も最初は戸惑っていましたが、今なら分かる……将来の為だったと。』
マークはそう言い、微笑んだ。年齢的には清蔵と同年代の彼は、都の世襲制の腐敗を聞かされていたので、町長の行動に理解を示していたのだ。
(頭の出来が違うな……元世界にも二世政治家であっても素晴らしい奴はいたけど、そう言う所の人って大体スパルタらしいからバカなお坊ちゃんのイメージって薄いもんだね。タレントのウィッシュな人も甘やかされてなかったようだし、そこは所作と人柄が出るんだなぁ……)
清蔵は集落の長を任されているマークの言葉や所作を見ながら、そう感想を持った。
『児玉さん、この集落に警察の派出所をと言っていましたが、ここは本町からかなり離れている上に重要な所では無いです。父の考え的にはいざと言う時に有事に対応出来る教育者を派遣する、そんな考えだと思います。』
スバリュ集落は農業の地域、かつ気候も安定している為に平穏だった。更に周辺を山に囲まれている関係から、他の入植者や支配者に狙われにくかったのも大きい。惜しむらくは子供達も農作業に従事している関係で勉学に疎い所だった。清蔵は決意した。開拓課を派遣すると同時に、学のある人間を連れて子供達の教育を促そうと。
『やれるだけの事はやりましょう、かつ、派出所の設立で野盗からの治安維持も付けれれば良し。』
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ふぅ、何とか上手くいったかな?本町と新町以外の集落にもこうして顔出したり開拓したり、仕事が増えるのは嬉しいけど、ちょっと疲れちゃったかな?スバリュ集落、隣国の街のサカサキよか遠いから疲れるよこれは……帰りつくのに3日かかったよ。向こうに開拓課の数名を残して、俺は署に戻って装備等の確認、検挙した被疑者を奉行所に送るかどうかのサイン、部署ごとの仕事の進捗確認と、やる事は山積みだ。朝に戻って来てから昼過ぎまでにそれらを終わらせてひと息ついてると、テイルちゃんが署長室に入って来た。
『せぞさん、そろそろご飯にしよ。』
『いいですとも!』
警察署での昼休みの時間は部署や当番の関係でバラバラなんだけど、テイルちゃんはその辺を頭に入れているおかげで、仕事に没頭しがちな俺が昼飯を食い忘れる事がない。お手製の弁当は今日も美味しそう……これをほぼ毎日食ってるから俺元気なのよね、ありがたや。
『せぞさんいつも幸せそうだね。』
ふいにテイルちゃんがそう言ってきた。そりゃあもう、あっちの世界で空だった心の頃に比べたらもうね。
『あっ、せぞさん、口が汚れてるよ!』
すんません、食べ方は余り綺麗に食べられないんで。あっ、口を拭いてくれんの?端から見たら子供かと陰口叩かれてますが、否定出来んですはい。年齢は上ですが、精神年齢はわてくしの方がお子様ですゆえ……ついでに拭いてくれてるテイルちゃんの体が近いのでそのお山をガン見しちゃってます。
『もう、ほんとにエッチなんだから。また声に出しとぉよ?』
うっ、うい……俺ってやっぱ感情を抑えられないのかな?ワフラにも言われてたけど。でも幸せの感情だけは出したって良いよな?
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