本官、異世界で署長になりました!   作:劉鳳

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凄い短めです。この話は第3話の頃には出来てたのですが、中々挟み所を見つけられなかったので放置してたんですが、話も進んできたので入れてみました。


第23話 遠い記憶から

 

 

 

警察官は公務員である。故に、他の公務員と同様、公務員試験を受けて合格する事で警察官となる。試験は他の公務員と比較して難易度は一番下と言われている。しかし警察官として働く為に大きな壁となるのが、内定者が必ず入る警察学校である。集団生活を徹底的に叩き込まれ、モラハラパワハラ当たり前な教官の叱責怒号が飛び交う。

 

肉体錬成も当然絡む、柔道や空手等を駆使した徒手空拳での犯人検挙術、犯人役の教官は本気で殺しにかかってくる程に暴れる。清蔵と共に警察官の道を進んだ木尾田と山田も、この殺しにかかってくる犯人役の教官に襲われたに等しい形で殴られた。二人は本質的に暴力が嫌いな為に我慢はしていたが、内心はキレてもいた。

 

清蔵はその怒りを隠すことなく発露していた。いくら正式に配属された時に役に立つ訓練とは言え、友人を殴る蹴るした教官に清蔵はキレた。順番が周り、確保班に回った清蔵は、犯人役の教官と対峙、教官は模擬ナイフを手に、清蔵に襲いかかる。清蔵はギリギリまで避けずに、ナイフが当たる寸前でかわしながら、教官の顔に思い切りパンチをめり込ませた。

 

『いくら教官っつっても、限度があるでしょうが!』

 

そう叫ぶ清蔵の声はのびた教官には届かない。近くで評価を書いていたもう一人の教官が清蔵に詰め寄る。

 

『貴様ぁ!歯を食いしばれ!その根性叩き直してやる!』

 

拳を清蔵に振るう、清蔵はギリギリで当たった瞬間、顔と上体を流すようにして受け流して、その教官の腕をひねり、畳に叩きつけた。

 

『警察学校が新人の教育の場じゃなくて実際に配属された時に問題を起こしそうな奴を振るいにかける場だと言うのを知ってます。しかし、ネチネチと人をいじめるようなやり方、理解は出来ても納得はしない!』

 

『ぐくっ、貴様ぁ……犯罪者予備軍め!懲戒処分にしてやるぞ!』

 

『そんな権利、あんたにねぇだろ?それに警察学校で起こった不祥事は公表されない。しかも俺はあくまで犯人検挙の訓練をしていただけ、あなたを投げたのも防衛反応からです!』

 

清蔵は警察官としては不向きなのかも知れない。縦社会の構図に常々疑問を持っていた人間、かつ、自営業の家の生まれであり、組織としてより、一船の主たる経営者、と言うより小さな商店を一人で切り盛りするタイプの人間だった。物心ついた頃から漁師である父の仕事を手伝い、骨と肉体を軋ませて来た。父から受け継いだ頑丈な体は、高々中学校辺りから部活で適当に鍛えただけの人間に遅れをとるような代物ではなかった。

 

他の教官も騒ぎを聞きつけ、清蔵を取り押さえようとする。内々に片付け、清蔵の警察官への道を閉ざそうと言う思惑を感じた木尾田と山田の行動は早かった。清蔵を警棒で叩こうとした教官を木尾田は腕を取り、そのまま一本背負い。190cmの長身から繰り出される一本背負いの強さに、教官は受け身もろくに取れず失神した。更に清蔵に被さろうとした教官に山田が横蹴りを入れて倒す。残りの教官は清蔵が頭を掴み、力一杯に握りしめて落とした。清蔵達の行動に感化された同期達も、気が付くと加わり、とんでもない暴動となった。三人はその後、教官達の意向により1週間の謹慎を言い渡されたものの、教場(警察学校の学びの場)での実態が同僚たる新米警官達にリークされた為、その後は何の影響もなく卒業した。

 

『ふふっ、清蔵。お前のお陰で楽しい学校生活を送れたよ。』

 

木尾田は穏やかな顔でそう言葉をかける。教場暴動の件関与以外での木尾田の成績は良好そのもの、特に座学に関しては警察大学校の上位の連中にすら比肩するものだったと言う。教場暴動に関わった教官は全員解任され、新たな教官達は清蔵をはじめ木尾田達の事を高く評価したのだ。

 

『そう?あの時は頭に血が昇りすぎてさ、冷静になった頃に終わったなと思ったのよ。』

 

まさかクビになる処か、謹慎明けは何のおとがめもなく卒業出来るとはと清蔵は回顧していた。通常、教場で教官らに一度目をつけられれば退職に追い込まれるのが普通だったが、この時は二人をはじめとした同僚達に恵まれたと言うべきだろう。教場の不満を代弁した男として、清蔵は他の同僚達とも仲良くなり、その様を新たな教官達も正当に評価していた。

 

『しかしこれからだぜ二人共。地元配属なら良いけど、これからはそれぞれ違う交番に配属されて、かつ暫くは独身寮暮らしだ。陰湿な馬鹿先輩がいなきゃいいんだが。』

 

県警の人事で、新米警官達は分配されていく。目下の地元たる向日葵市内ならそう肩肘はらずに済むだろうが、他の市町村となるとやや気が重い。特に山田は幾分か改善したとは言え、かなりの人見知りだ。

 

『大丈夫だって。永遠の別れになるわけじゃないし、こっちの片田舎の独身寮なんざ一年も経ったらとっとと出てけってなるさ。』

 

独身寮の入寮期間は各都道府県の所轄で違いがある。警視庁では数年だとか昇任するまで独身寮から出られないと言う所もあるが、地方になると直ぐに退寮と言う所もある。清蔵の言うような一年は余りにもではあるが、彼らの属する県警内の寮は大体二年ないしは三年で退寮を促されるのだ。

 

『心配はないよ。山田も清蔵も人に嫌われる人間じゃない事は、警察学校での生活で皆が知ったし、教官達にも認められたんだ。』

 

木尾田は柔らかな笑顔でそう言いながら二人の肩を叩く。

 

『ははっ、そうだな。木尾田、山田。仕事に慣れて落ち着いたらさ、皆で祝い酒しようぜ!約束だ。』

 

 

『あれからもう十数年か、あっという間だったな。何の因果かこっちの世界に三人共にやって来て、それぞれの生活をしているってのが。』

 

清蔵は改めて今までの事を回顧していた。貧乏漁師の家に生まれ、幼少の頃はいじめられて来た。家業の手伝いをしながら、将来は何になろうかと考えながら、中学校・高校で生涯の友となる二人に出会った。高校卒業後、三人とも警察官となり、社会人として活躍を夢見たが、木尾田、山田が、次々と殉職し、放心のままズルズルと続けて来た警察官。そして……署ごと異世界に飛ばされ、異世界の良心と出会い、警察の魂を、そして自分自身の心を取り戻した。激動の異世界生活は、清蔵の心を揺さぶり、一つ上の次元にその精神を昇華させたのだ。限界は自分で作るものではない、更なる高みへと自分を追い込んだ先に、本当の限界はあるのだ。

 

 

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