今回も短め……ギャグ無し、テイルちゃん無しなので物足りないかな?
コーリンの親玉、カマリタ。彼は逮捕後、すべての犯罪行為を認めた。否認を続け、ずっと黙秘を続けているヤヌスと違い、隅から隅まで洗いざらいの罪を。
カマリタは奉行所に送られ、今日その沙汰が決まる。同じ日に沙汰が決まるのはヤヌス、そして、先に自首したボッラク。被告人席に座らされた三人に、弁護士と検察官が罪状認否の舌戦を繰り広げる。陪審員がその様子を見ながら沙汰を決めつつ、奉行たる町長が三人に言葉を求める。ヤヌスは死ねと暴言を吐いた上に暴れだしたので退廷された。残る二人は、淡々と意見を述べた。
『暗黒街で育ち、奪う殺すの中育って来た俺が、おめおめと生きると言うのは虫が良すぎる話だと思います。逮捕され、今こうして人生の過ちを反省する場を設けてくれた事に感謝し、殺された皆さんの事を思いながら、沙汰を受けます。』
『私は、この町のしがない農家の次男として生まれ、何不自由なく生き、現町長のおかげで、町役場で働いていました。しかし、ギャングと繋がり、汚職に手を染め、あろうことか町長に対し逆恨み甚だしい諸行を繰り返しました。被害者の皆様には、もはや言葉をかけても許されない事でしょう。今は、沙汰を静かに受けたい、そう思っています。』
両名ともそう供述し終えると、静かにその時を待った。町長は真正面を向き、沙汰を申し渡す。
『裁きを申し渡す!元守衛所所長ヤヌス、極刑に処す。元コーリン首魁、カマリタ、無期懲役。元町長秘書、ボッラク、懲役25年に処す。カマリタ、ボッラク。ぬしらはまだ生きて償いをせねばならん。ぬしらが死ぬ事は、被害者遺族が許さぬ、そう伝え聞いておる。町の為にこれから厳しい労働が待っとる、そこでしっかりと償えい!』
町長アールの粋な計らい、陪審員も彼等には情状酌量があると鑑みた判断、二つが合わさった裁きだった。傍聴席から聞いていた清蔵はそれを見て、コーリンの事件の全てが終わった事を悟った。
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奉行所を出て、清蔵は深呼吸した。ヤヌスの極刑が決まった事に複雑な表情をしつつも、ワフラが言った(割り切れ、でないと、あんたの心が死ぬぞ)の言葉を思い出しながら、極刑を免れた二人の事についてもある意味ホッとしていた。あの二人が町の為にこれから開拓関係の刑務作業に従事する事となるだろう、いつか再起する事を願いながら、清蔵は署へと戻って行った。
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清蔵が町長に推し進めた刑法犯に対する扱いや裁判の是正案は、ナハト・トゥ全体の治安を高めただけでなく、再犯率の減少にも貢献していた。再犯率を上げる原因は、前科者を雇う仕事など殆ど無く、犯罪組織に戻ると言う悪循環を呼んでいた為に起こっている。現行の世界でも問題視されているこの対策の為に、清蔵は刑務作業者の中に刑期満了後の就職斡旋を行うようにした。
この案自体は町長が既に採り入れていたものだが、識字率の低さや道徳観念と言ったものの不浸透により上手く機能していなかった。清蔵は犯罪者は法の裁きによって罰を受けたのだから、刑期を終えてまで邪険にされる事はおかしいと言う考えであった。とは言え、性犯罪や窃盗・強盗犯、快楽殺人鬼と言った異常者に対してその裁きは妥当なのかと言う意見はあった。その意見を言ったのはワフラの甥っ子であり、品行方正さから早くも巡査部長に上がったフラノだった。彼は伯父であるワフラから町の犯罪者の特徴を教わっており、特に性犯罪者や窃盗犯の再犯率の高さを知っていた。これについては現職警察官だった清蔵も知る所であり、悩みの種だった。
『性犯罪者ってのは確かに更正より再犯のイメージだなぁ。窃盗にしても盗み癖って奴は中々治らないってのは警察学校での再犯についての学習で聞いたよ。快楽殺人については性犯罪の殺人版かな?セットになってる事例も多いね。一番質が悪いのは、そういう連中ってのは普段は何処にでもいるような奴なんだよ。治安維持改革で今手こずってるのはその辺なんだよね……』
再犯率は確実に下がっている。しかし、何処の世界にも、必ず異常者と言う者は存在する。しかもその大半は、後天的、つまり生まれ育った環境、周りの人間関係により道を外した者、つまりは他の犯罪者とそう変わらない普通の人間だった者達なのだ。清蔵は裁きに関しては慎重かつ丁重にと釘を刺しており、町長もそれは優先している。悩みに悩んでいる清蔵に、フラノは一つの提案をした。
『署長、裁量はそのままでいいと思います。ただ一つ、加えて欲しいのが、前科3つで罪の軽重に関わらず、死刑或いは無期刑になるようにしてはどうかと。』
『スリーストライク・ルールか……』
スリーストライク・ルール……アメリカのある州で実際に採用されている、再犯を繰り返した者に対する取り扱いである。銃社会アメリカは、世界有数の犯罪発生大国でもあった。メキシコ系ギャング、低所得者層の荒んだ生活、ドラッグに密入国、それらの犯罪者は逮捕され、刑期に入っても反省する事は少ない。それに加えてアメリカの刑務所の多くは基本的に制約が存在しない。夕方の点呼に集合する以外は何をしようと自由(州によっては日本のように刑務作業を行っている所もある)、刑務官も薄給でやる気が無いので、汚職に手を染める事が珍しく無いと言う状況。つまり刑期を終えてまた犯罪を犯す者も多発する。苦肉の策として制定したのがスリーストライク・ルールだった。
『フラノ君、再犯者は更正の余地が無い、そう言いたいのかな?』
フラノは首を振る。
『署長がいつか話した言葉を思い出しまして。ホトケの顔も三度まで、でしたね。あの意味は三度目は無いぞと言う意味だったって言いましたよね?しっかりと更正の手助けをしたにも関わらず、再犯する人間はいます。二度目までは誰かに唆されてって思い留まれますが、三度目となったら……僕でも許せ無い、そう思ってこの案を出しました。』
温厚なフラノに宿ったその目は、再犯を起こす不届き者に対する怒りに満ちていた。フラノは巡査部長に昇任後、受刑者の手助けをする更正職長も兼務していた。更正の為の手助けをしながらも、再犯してまた同じ顔ぶれの者の反省の無い態度に怒りを覚えていたのだ。清蔵は暫し考えた上で、その案を採用する事を町長と話す事を確約した。今日の裁判、特にヤヌスの裁判時の態度等を鑑みるに、本当にどうしようもない人間と言う者を目の当たりにした事が決定的だった。
『今日は色々と考えさせられた日だな……まだまだ頑張りが足らなかった所があるって事か。』
清蔵は異世界においても、裁量の葛藤は存在し、理解は出来ても納得は出来ない事もあるのだと思い知らされた。警察はあくまで逮捕する事が任務ではあるが、その逮捕の時点で社会的立場が無くなり、人生が狂う事が多い。元世界で散々見てきたそれを、この世界でも見る事になるとはと……清蔵はまたひとつ、新たな現実を受け入れていくのだった。
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