本官、異世界で署長になりました!   作:劉鳳

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今回は転移、転生者の様子についてちょこっと触れる話です。木尾田とか殆ど登場してなかったので触れとこうかなぁと思い(本当に触れる程度ですが)


第25話 それぞれのそれから

 

木尾田雅人

 

白戦会事件……正式名は広域指定暴力団白戦会による麻薬密輸及び武器密輸による捜査に伴う暴動鎮圧事案。木尾田は前線の突入班におり、果敢に事務所へと突入し、手に携えた拳銃を放ちながら内部の構成員の鎮圧に……その時、低く構えた構成員のアサルトライフルが木尾田の至近距離に構えられ、三連バーストの音が響き、吸い込まれるように木尾田の防弾ベストを貫き、肋骨の隙間を縫うように、心臓を破っていった。

 

薄れゆく意識の中、彼が口にしたのは、最愛の女性の名ではなく、自らを友と呼んでくれた、最高の友人の名だった。

 

『清、蔵……ごめん……』

 

木尾田が次に目覚めたのは、中世ヨーロッパな雰囲気の街角。しかし聞こえて来る言葉は日本語、それも妙に訛りがある。木尾田は路上に寝ている状態だった。姿は白戦会に突入したその時のまま……撃たれた場所には穴が空いていたが、体の方は何とも無い。木尾田は今、混乱の中にいた。

 

『あの……大丈夫ですか?』

 

木尾田にふいに声をかける人物、その姿は特徴的な長い耳を携えていた。肌はやや褐色気味で、顔立ちは非常に幼さを持ち、背も小さめな少女。耳が長い以外の外見は、最愛の女性の姿に何処か似ていた。

 

『ええ、大丈夫です。僕の名は木尾田雅人、君の名は?』

 

『私、ハーフエルフのユウミ・カミュエルと言います。』

 

木尾田はユウミと名乗る彼女に話を伝えた。木尾田は別の世界から来た事、その世界で死んでいる事等、包み隠さず彼女に話した。彼女は目の前の男が嘘を言っているようには感じず、それを信じた。ユウミは暫くの間だけ、この世界とは違う場所からやって来た男のために身の回りの世話をしようと思っていた。彼女はこの世界で言う看護師であり、困っている人物を放っておけない性分だった。最初は気持ちが落ち着いたら彼に別の住み処を紹介しようと思っていたが、木尾田の優しい人柄と、異世界の話を聞いているうちに意気投合し、数ヶ月後に二人は入籍した。

 

『じゃ、ユウミ、行ってくるよ。』

 

『行ってらっしゃい、貴方。』

 

結婚してから木尾田はこの世界に定住する為、彼女の住むサカサキの役場で働く事になった。木尾田の頭は警察以外の公務員試験を楽々パス出来るような頭だったのだが、この世界の文字や風習を覚える為、半年もの間、街に関わる事がなかった。この点は清蔵と異なる部分である。

 

木尾田は役場の職員として足蹴く働き、サカサキ市の重要ポストである課長職についていた。キレる頭と、元世界の倫理観を持ち込み、只でさえ平穏だったサカサキの街をより良く変化させた。そして、ユウミとの間に子供をもうけ、幸せに暮らしていた中、今度は山田がこちらにやって来た。山田は自分同様犯人検挙中に撃たれて殉職したらしい。ああ、あまり望まぬ形だったけど、彼も来てくれたんだと喜びはあったが、次に山田が告げた言葉は、木尾田を困惑させていた。

 

(あのやっちゃんが……警察に?)

 

ちょっとわがままで、泣き虫、自分にくっついて甘えていた康江が、警察、しかもキャリア組として、しかも二つ名まで持つ程になる等、木尾田は自分の死がどれだけ影響を与えたのかをそこで知ることになる。山田は公安に、そして、一番の友人である清蔵は精神的ショックで死んだようになったと聞いた時は、声が出なかった。山田との邂逅で言葉が出なかったのは、話さ無かったのではなく、動揺で話せなかったのだ。しかし、自分は既に元の世界では死んだ人間、どうする事も出来ない。木尾田はこの世界で天寿を全うする決意をより固めた。今度は、今度こそは、死んでたまるかと。だから山田には、当たり障りの無い事を話し、平常心を装っていた。

 

 

それから月日は流れ、木尾田が異世界にやって来て早くも17年が経過していた。今現在の木尾田は、各国の奴隷階級以下の人間を解放する為に暗躍する、奴隷解放戦線のリーダーだった。現在、彼は人権侵害が甚だしいアンブロス帝国で活動をしている。清蔵がサカサキで彼に会う事が無かったのはその為だった。山田も事情を知っている為に清蔵には本当の事を伝えなかった。彼が何故、役場職員としての安定ではなく、危険なゲリラ活動に身を置いているのかは誰も知らない。だが、少なくとも、清蔵と康江のその後を聞いた時に、何かが変わった事だけは確かだった。

 

 

山田啓将

 

サカサキ市で保安部の隊長にまで成り上がった山田は、異世界の公安の長でもあった。自らの経験を元に築かれた公安の目的は、この世界に巣食う悪意を感じたから。元世界で闇を見てきた彼は、いち早く異世界の闇に感ずいていた。タイーラ全域に蔓延る暴力革命集団の存在、そしてあろうことか街を守るべき守衛や保安官がそれらと癒着して汚職を繰り返している事実が、歯車の一つだった元世界で出来なかった自分なりの正義を、この世界で全うしたいと言う行動原理へと繋がった。山田の思考は純粋であるが故に危うさを伴っていた。

 

『ダーリン、どうしたの?暗い顔して。』

 

山田の妻、サリーが用意された食事に手をつけずに考えこむ彼に声をかける。山田は努めて優しい顔をしながら、

 

『いや……何でも無いよ。ただ今度の仕事は少し大変そうなんでな。また君に寂しい思いをさせてしまうな。』

 

『ダーリンは人一倍優しいから、そうやって自分を追い詰めちゃうもんね。私の前で位は、少しは楽にしていいんだよ?』

 

サリーは山田の言葉を聞くと、凄い思い詰めてるなと言う雰囲気を読み取り、山田にそっと抱きついた。小さな体に不釣り合いなサイズの胸の感触が背中に触れると、山田は顔を赤らめながらも少し気が楽になった。

 

 

『ありがとう、サリー。』

 

山田は、ずっと考え続けてはいたが、彼が願うのはただ一つ、この世界で出会った良心を守る事だけ。山田はサリーを抱きしめると、精一杯に愛し合った。

 

 

山口康江

 

彼女はこの世界にまだ慣れてはいない。いきなり異世界に飛ばされた彼女は、ある意味一番の被害者かも知れない。社会的地位はキャリア組で階級は警視、関東のある大規模署の捜査一課に出向していて辣腕を奮っていたのだ。それが突如異世界に飛ばされ、異界の女王に将軍やってくれと言われ、今に至るのだから、慣れろと言う方が無理があった。

 

カン=ム帝国の首都、エルフランド。人口800万の人間を抱える世界第2の都市。世界屈指の魔法兵団、カン=ム法術軍の本拠地であり、首都防衛能力に関しては最強を誇る。約5000名になる魔法兵団と、25000名以上はいる武装兵団、軽く三万はいる兵士達のトップたる将軍職をいきなりやらされるのは誰だって気が滅入るものだ。康江は前から将軍職に就いているオーガのリキッドと二人三脚でそれらの指揮を執る。二人はこの半年もの間に、信頼関係を築いていた。どちらかと言えば恋人同士的な信頼関係と言った方が正しいか。

 

『ふぅ、リッちゃん、何とか終わったね。』

 

『おう、これも康江が頑張ったおかげじゃ!』

 

『もう、おだてないでよ、リッちゃん無しじゃ私なんてただの小娘なんだから。』

 

現在首都エルフランドは、現皇帝に対する不満を抱えた市民らによるデモやテロが多発していた。康江とリキッドはそれらを鎮圧する為に、向かわせる兵士の数や、鎮圧後の後処理等に追われ、ここ数日ろくに寝ていなかった。康江は捜査一課でならした辣腕をふるいながら、暴動鎮圧に貢献しているが、氷のロリータと呼ばれた当時とは違い、非情な追い詰め方をしなかった。何故なら、ここは法治国家ではなく、身分制度で人の価値を決めてしまうような前時代甚だしい世界だったからだ。罪を犯した者には一切の情など不要……それが言えるのは、等しく罰せられるだけの良識と、階級の無い民主主義の中でのみ通じるものなのだ。現に捕縛した囚人達の多くは、善良な人間と言っても差し支え無い人々ばかり。康江の中で確立していた正義は揺らぎに揺らいでいた。

 

『ねぇ、リッちゃん、私達のやっている事って、正義なの?』

 

ふと、そう投げ掛ける康江。酷く子供じみた問いだったと自覚しつつも、康江は問わずにはいられなかった。リキッドはその言葉に、酷く悲しい表情をしながら、

 

『正義、と言えば嘘になるな……康江のような優しい人間から見れば、ただの弱い者いじめにしか見えんじゃろう。』

 

かく言うリキッドも、辛い顔をしながら仕事をしている。貧しい生活からの解放を目指し、貴族が大半を占める将軍職に就いている所から、彼がどれだけの努力をしていたかを康江は理解していた。しかし、いざ将軍になったかと思えば、やっている事の矛盾に苦しみ続けている。

 

『リッちゃんも優しい人だよ、何処から来たかも分からない私を受け入れてくれたんだから。』

 

『康江……ありがとな。今は苦しいじゃろうが、必ずお前を幸せに出来るように頑張る、すまんが今は辛抱時じゃ、何としても生き抜こう。』

 

『うん……ありがとねリッちゃん……』

 

 

清蔵の知人、友人達は、幸か不幸か五体満足にこの世界での第二の人生を歩んでいた。しかし、彼らはそのほんの一握りだった。ある男は生活苦で自殺した後、異世界で目覚めた先である森林で野盗に襲われ、生きながら体をバラバラにされ、ある女は普通の会社員だったが、突如異世界の街道に飛ばされ、悪漢に強姦され、手足を切られて性奴隷の市場へと売られ、自死すら出来ない生き地獄を味わっていた。異世界の良心に出会うか、それとも悪心に出会うか……転移転生者のそれからは余りにも差が出てしまうが、それは異世界の人間も、元世界の人間も、根本的な部分では似ているからに他ならない。

 

 

『ワフラ、もう一度言ってくれ。』

 

『先程の言い方では分かりにくかったか……ならば単刀直入に言おう。清蔵どんの世界の人間が来た。言葉が通じるが、かなり衰弱しているようで診療所に運ばれたよ。』

 

おいおい、マジかよ……しかも言葉が通じる時点で日本人確定じゃねぇか!なんか知らないが、転移転生者がこう出て来るって事は、もはや人為的としか考えられなくなったぜ。とりあえずその人に会いに行くか。

 

 

冷静を装っているが、清蔵は胸騒ぎが止まらなかった。清蔵は転移あるいは転生者が悪人でない事を祈りながら、診療所へと向かった。

 

 

『はぁ、はぁ、はぁ……』

 

その人は必死に逃げ続けていた。警察組織の人間による大量殺人事件と言う不祥事騒動に巻き込まれ、冤罪で死刑囚として地方拘置所の独房へ投獄された。そして死刑執行の動きがあり、大都市の地方拘置所に移送される途中で護送車のタイヤが突如バーストを起こし、横転。護送車の職員、他の死刑囚共に意識を失っている中で、その人は意を決して逃走を決意する。

 

護送車が横転事故を起こしたのは、さる地方の高速道路。主道からかなり離れた山あいを貫いて作られたそこは車の通りが殆ど無く、今逃げればと逃走を決意したのだ。高速道路の比較的低い部分のガードレールを飛び越え、そこから下は高さ7m程の桁下で、下は川……深さが分からないが、覚悟を決めて飛び込んだ。幸い深さは問題無かったが、季節外れの爆弾低気圧の影響で川は増水しており、流されるままに流された。途中に流れの吹き溜りがなければ、寒さと流れで死んでいただろう。

 

流れついた先はその川の下流の街、向日葵市。幸か不幸か自らの生まれ故郷の河川敷にたどり着いた。ずぶ濡れのまま街を歩けば怪しまれるし、例え濡れていなくても囚人服の格好では目立つ。幸い向日葵市は治安が良く、警察もそこまで巡回していない事は伝え聞いていたので、その人は河川敷から上がって街を歩く事にした。

 

上手く姿を隠しながらその人はある場所を目指していた。それは、今は誰も住んでいない、その人の実家……しかしここで事態は急転する。街のあちこちでパトカーのサイレンが鳴り出した。護送車の事故の発覚から恐らく二時間程経過したのだろう、高速道路の位置と逃走経路から向日葵市が即座に割り出され、警察が迅速に見回りをはじめたのだ。その人は知らなかったが、向日葵市署の有事に対する行動は県の管轄でも指折りであった事。非常に無駄の無いパトカー出動、ドローンを使った迅速な捜索は、逃亡者たるその人を追い詰める。慌てて人気の無い屋根付きの廃屋に身を隠したその人は、窓越しに空を見る。ドローン、捜索ヘリが同じ空域で留まっているのを確認出来た。恐らく実家周辺も警察が巡回しているはずだ。間もなく今隠れている場所も特定されるだろう、否、特定されているだろう。サイレンの音がかなり近くなってきた。少しの情報を手掛かりに、自分の逃走した足跡を正確に捉える様は、まるで鯱が魚の大群を囲うかのようだった……その人は体を横にし、諦めの感情で呟く。

 

『せめて家に帰りたかった……ママ、ごめんなさい。』

 

逃走による疲れと、追い詰められた精神的な諦観により、その人はもう、何も考える気が起こらず、そのまま意識を手離した。暫く目を閉じていると、石畳の上にいた。近付いてくる人間の顔はハッキリとは見えないが、着ている服は警察官のそれ……ああ、自分はまた拘置所に戻され、今度こそ刑場に送られ、首にロープを巻かれて吊られるんだと諦めの気持ちでいたその人は、近付く人の見た目と言葉に驚いた。

 

『大丈夫ですか?ずぶ濡れになってますが、体は何処か痛く無いですか?』

 

犬のような耳を携えた妙齢の女性が、そう話しかける。警察官が私の存在を知らない筈が無い……しかし、それに疑問を持てる余裕が無い程、衰弱した体は休みと栄養を欲していた。

 

『寒い……助けて……』

 

『分かりました、すぐに診療所に連れて行きます、大丈夫だから、頑張って!』

 

久しぶりに温かい人間の言葉を聞いたその人は、安心したのかそこで再び意識を手離した。

 

 

俺は胸騒ぎがした、自分と同じ転移者、あるいは山田達のような転生者が来たのでは無いかと。こちらに来ている人間は、山田と木尾田のみ。今までは偶然にも知人だったが、次もそうとは限らない。俺はその人が運ばれたと言う診療所へ急いだ。この世界に神様がいるかなんて分かんないけど、それに似た何かはいるんだろう。俺は転移または転生者の可能性が高い人物の所へ急いだ。あのワフラが言うのなら間違い無いだろうけど、自分の目で確かめたい。

 

診療所についた俺は、医者に話を聞いた後、監視で付いていたロウラ巡査(彼女が第一発見者らしい)にも現状を聞いた。その人は体は衰弱しているものの、命に別状は無いとの事だった。意識ははっきりしており、言葉も話せるとの事だったので、俺は病室に入り、その人と話をする事にした。見た所、年齢は26位のまだ若い女性だった。幸薄い雰囲気に青白いと形容する肌……俺は多分だけど、この人を知っている。それも、悪いイメージの方で。

 

『ナハト・トゥ町警察署署長の児玉清蔵です。』

 

『警察……の方ですか?ここは何処ですか?色んな見た目の人が一杯いて混乱しています。』

 

当然の反応だな、俺もここに来た当初は理解より先に戸惑いだったし。とりあえず今は彼女の名前を聞く事にした。

 

『失礼ですけどお名前を聞かせて貰いたいのですが、宜しいですか?』

 

『私の名は、甲斐未来(かいみく)です。元伸丘(のびおか)市署で巡査をしていました。』

 

俺は顔には出さなかったが、その名前を聞いて驚いた。甲斐未来……確か隣町の伸丘署に赴任していたキャリア組の警部補と、夕日ヶ丘派出所の巡査ら三人、彼女の同僚である伸丘署の巡査ら五人を発砲して殺害した容疑で、いや、あの時は緊逮(きんたい)(緊急逮捕)だったか。伸丘市警察官同僚大量殺人事件の被疑者だったな。

 

その事件の重大性と深刻さから一審で死刑、控訴は棄却で異例のスピードで死刑確定に至った。尤も、うちの敏腕警部補こと濱田課長の見解では、彼女はホシじゃないと言っていたが、それについては俺も同様の感想だよ。彼女の経歴を見るに、柔道の有段者で有能ではあったものの、基本は事務的仕事ばかりで拳銃を余り扱っていなかったそうだし、155cmの体で男ばかりをそう易々と殺せるかと言えば疑問だ。警察官としてはかなり華奢な部類の外見がそれを物語っている。うちの署長は独自に調べを進めてたらしいけど、どうやら伸丘市署の重大な不祥事隠しの生贄だったのではと言われている。見た目が美しいから、いい生贄とされたのだと……可愛そうに。

 

しかしあくまでも推測に過ぎず、確証が得られない為、良い人かどうかを示すリトマス試験紙たるワフラを呼んで来るように伝えた。ワフラが来る間、俺は聞ける限りの事を聞こうと思ったが、むしろ、彼女の方がそれを聞きたがっているようなので、質問に答えながら誘導する事にした。

 

『あの、児玉さんでしたね?先程聞いたんですけど、ここは何処ですか?』

 

『ここはタイーラ連合国の一つ、カン=ム帝国領地方自治区ナハト・トゥ町です。既に察していると思いますが、この世界は貴女が住む世界と別の世界です。』

 

人払いはしていたので俺はそう告げる。俺が異世界から来た事実を知っている人物はそんなに多く無い。まああれだけのデカイ建物を見れば大方の人間は察している節があったが、念のため戒厳令を敷いている。

 

『あの……貴方はどうなんですか?』

 

警察と言う言葉と名前で察してはいるんだろうけど、敢えてそれを聞くか。

 

『ご想像にお任せします。しかし質問のしかたを聞いているに、貴女の事を耳に入れた事があるのかと言う感じに聞こえた。勿論貴女と会うのは初めましてだけど。』

 

俺はワフラが来るまで明確な答えを差し控えるようにした。彼女は悩んでいるようだ、無理もない、あっちの世界では同僚殺しの汚名が知れ渡っているからね。

 

『……信じて貰えるか分かりませんが、私は八人の警察官を殺した大量殺人犯……そうしたて上げられた確定死刑囚です。大都市圏の拘置所に護送される途中、護送車が事故で横転し、そのどさくさに紛れて逃走しました。』

 

ほう、嘘はついてない目と口だ。死刑確定が逮捕から僅か一年半だったからね、しかもあれ、俺がこっちくる半年前だったからたった一年で刑場のある拘置所送りとは……あの事件から余り時間が経過してないのに、法務大臣はこう言う時に限っていらん仕事するなぁ。

 

『逃走の理由は分からないでもないな……ところで貴女に質問をしますが、貴女は生きてこちらに来たのですか?死んでこちらに来たのですか?』

 

『?逃走に疲れて睡眠をとっていたら、何時の間にかこちらに……です。』

 

転移パターンか、確かに死んで来たのなら衰弱してる筈が無い。殉職した山田は撃たれた所も何ともなく、健常な状態だったらしいからね。

 

『成る程ね……でも運が良かった、ナハト・トゥ以外のカン=ム領だったら君は犯され、そして殺されてたかも知れない。』

 

『えっ……!』

 

ワフラから状況を聞いた程度の知識だったが、カン=ム帝国の現状の治世は過去最悪と言う評価だった。隣の大国であるアンブロス帝国との関係が悪化しているのも、現皇帝ユナリンとかいう女帝の仕業と聞いた。自称永遠のなんちゃらとか言ってる奴にろくな奴がいねぇな……なんにしても、ナハト・トゥだったので彼女は助かったのだ。

 

 

 

『イェッキシッ!』

 

『ユナリンさんどうしたんですか?風邪ですか?』

 

『んん、何でもないよヤスヤスゥ☆』

 

『……その呼び方は勘弁して下さい。』

 

 

暫くしてワフラがやって来た。困った時のワフラ頼み。俺は一旦病室を出て、ワフラと話を合わせる。だいたいの事がまとまった所で、再び病室に入る。彼女は厳つく頑強なワフラの姿に怯えの表情を浮かべていたが、ワフラは努めて優しい表情と声で彼女に話し掛ける。

 

『お嬢さん、あんたさんも清蔵さん同様、こちらに来たんか?ああ、ワシはワフラ・ヴァイシャ、ドワーフと言う種族の男じゃ。』

 

大分やわっこい言い方してんな……でもあの様子だとワフラも感づいているな?彼女が悪人ではない事を。ああ、安心したのか彼女も表情が柔らかくなった。

 

『お嬢さん、難儀じゃったの、でも安心するば、此処はもうあんたを追い回す馬鹿共もおらんば。』

 

『え?何故それを?』

 

うん、俺も何故それを?って顔。ワフラさん、俺と会った時もそうだったけど、どんだけ人を見る目あんのよ!本官非常に羨ましいですとも!

 

『あんたの顔が全てを物語ってたから、そう言ったらおかしいかな?』

 

ええ、おかしいですとも!どっかのニュータイプみたいなオカルトめいた能力でもあんの?つーかワフラ、まさかあんたこの人好みなの?何時もよりパーソナルスペース縮めてる気がすんですけど!独眼〇政宗の時の勝プロみたいな顔したおっさんのアップは怖すぎるぞ!あれ?未来ちゃん頬染めてんぞ?まさかの脈アリ?

 

『後ろの馬鹿正直とはまた違った、素直な心をお持ちだ。あんたが悪人ではない事はワシが保証しよう。』

 

今馬鹿っつったなこの筋肉ダルマ!正直だけで良かったのに馬鹿をつけたなこのやろう!ちょっと未来ちゃーん、騙されちゃだめだよ?そのおっさん堅苦しいから……ワフラ、そんな目で見ないで。

 

『清蔵さん、どうすっば。住み処はうちの隣の平屋が空いてるとして、警察官だった彼女をうちで雇うか?』

 

俺はちょっと間を置いて、考えを述べた。

 

『是非、そうして貰いたい。ただ、俺と同様の扱いでは流石に怪しまれるから、採用面接を受けて貰う形になるかな?ワフラ、上手い事彼女の履歴書作ってくれ、後はあんたに任せるよ!』

 

『ありがとう、恩に切る!』

 

と、話をしたんだけど、彼女ちょっとキョトンとしてるな……ごめんね話勝手に進めちゃって。

 

 

死刑囚、甲斐未来。死を待つだけだった彼女は偶然にも異世界に転移し、ワフラの保護を受けて警察官として再び返り咲いた。後々彼女の罪とされてきたものが冤罪であると証明される事になるのだが、それはまた別のお話し。

 

 

未来ちゃんが警察官に復帰した。一応形だけの面接をしてもらったんだけど、人事の連中の受けが良かったらしく、普通に面接受けても合格だったと言う。俺がやったら落ちそう。とりあえずワフラが作成した経歴を彼女は名乗る事になった。名前はそのまま使うらしい。確かに彼女の名前ならこの世界でもさして違和感無いかも、カタカナ表記だとスッゴいしっくりくるし。

 

ワフラが作成した経歴は、アンブロス帝国の出身で、貧民窟の出自、アンブロス帝国の賎民粛正の煽りを受けて、命からがらここまで逃げ延びて来たと言う事にしたらしい。うん、この世界あるあるだな、下層階級の人間を何だと思ってるんだろう?無駄に偉い奴の考えは分からん。経歴は皆に受け入れられた。ちなみに経歴作成には第一発見者たるロウラ巡査の協力があった、同性の同僚が出来るのは彼女自身も嬉しいみたいね。テイルちゃんも喜ぶかも。しかし大分賑やかになってきたなぁ。警察署の創設から治安改善、署の周りに新町造成と本町との街道工事にギャングの撲滅と人生で一番働いた気がする。更に新しい転移者もやって来たからこれからまた凄い事が起こるかもしれない。うわ、俺、頑張ろ(小並感もといてょ並感)

 

 

 





都合良く向日葵市辺りから転移転生者出まくってますが、そのうちにそこいらは書いて行きたいですね(ネタ自体は上がってますがかなり後の何話かの長編で書きたいですね)。

とりあえず出来上がってる話は弾切れ起こしました、数話出来てますが、誤字脱字が酷かったので直してます。


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