『ふぁあ、いい朝……oh yeah……マジでいい朝!太陽よか先にテイルちゃんの胸やおちりを拝めるなんてね。うっ、俺のカメが涎を!』
清蔵は目覚めると、横でまだ寝息を立てているテイルの生まれたままの姿を視かnもとい目に入れた。何度も体を重ねていると言うのに、清蔵は何処か慣れない部分があり、その体を見るたびヘソまで自分のイチモツを反り返らせていた。
『いつも通りテイルちゃんを起こさないように……えっと、行水してこ。俺のJr.がカピカピだし……はぁ、情け無いなぁ、しっかりせぇよアラフォー。』
清蔵は自分でも汚らわしく感じるイチモツの状態を見ながら、風呂ではなく敢えて井戸で行水をする事にした。季節は秋の真っ只中、朝の空気はやや寒さを感じる程だったが、清蔵は構わず頭から井戸水を被った。地表付近の水より冷たいそれは、まだ夢見がちな思考を現実に戻す。
『ぶへぁっ?!つべてぇっ!!』
しかし流石に寒かったのか、手早く体を洗って部屋へと戻る。服を着て、歯を磨き、昨日の残りを食べた。食後は腹が落ち着いてから朝の日課であるトレーニングをして体を整える。
『うーん……せぞさん、おはよ♪』
『おはよう、テイルちゃ……うぉ!また股間が……』
『あっ…ごめんなさいっ!ふっ、服着なきゃ……恥ずかしい!』
二人のやり取りは何処かまだ青臭かった。恥じらいと戸惑いが抜けるのはまだ大分先の未来の事になりそうである。この世界には時計と言うものは無い。清蔵は身に付けているソーラー式腕時計(オ〇ガの割といい奴)で大体の時間を予測して動いているが、テイル達異世界側の住人は外の空気や太陽の傾き等で大方の時間を決めている。故に、時計の時間で動く清蔵と、太陽の傾きで動くテイルとで若干の生活リズムのズレが生じている。故に、冬至が近付くにつれ、異世界の人々は活動する時間が心なしか短くなっていく。清蔵はこの事を考慮して、夏冬の勤務の仕方をどうするか考えていたが、朝の時間帯故脳みそ使いたくないと思っている清蔵は、取り敢えず先に準備が終わったのでテイルに先立って勤務する事となった。
『それじゃテイルちゃん、先に署に行ってるね。』
『うん、行ってらっしゃい!お弁当作ったら私も直ぐ行くからね。』
出掛ける前に軽く口付けをして、清蔵は意気揚々と署迄の道を小走りで掛けて行った。
ー
署に着くと、正門の辺りを掃除する人の姿が見えた。自分と同じ転移者の甲斐未来だった。
『おはよう。未来ちゃん、早いねぇ……』
『あっ、署長、おはようございます!』
転移後、巡査として採用された彼女は誰よりも早く署に来て引き継ぎを終わらせ、正門周りの清掃をしているのである。
『まだ朝の交代には早いってば。ゆっくりすればいいのに。』
『いえ、朝方になると体が自然と起きちゃって……死刑確定後は朝早く目覚めて、昼までガタガタと震えながら過ごしてたので……癖ですね。』
清蔵はそれを聞いて悲しい気持ちになった。確定死刑囚は死刑の順番がいつ回って来るかわからない。法務大臣が死刑執行のサインを出せば刑場に連れて行かれる。連行される時間は午前の時間であり、死刑囚達は朝の拘置所職員の足音が自分の所で止まらぬ事を祈りながら午前の時を過ごす。午前を過ぎれば後は自由時間も同義なのだが、夜に寝た時、明日の朝はどうなるかを考えてしまうために、眠りが浅く短良くなって行く。そんな生活を強いられて来た彼女の事を思うと、どうしても悲しい目をしてしまう。しかし未来は笑顔で返す。
『署長、そんな悲しい顔をしないで下さい。体に染み付いた習慣が抜けるのは中々ですけど、早起きして、この世界のみんなと一緒に働ける……そう思うと辛さなんて無いも一緒です。』
明るく振る舞う未来、精神的疲れはまだ残っているのだろう、笑顔はまだぎこちないが、彼女の心が晴れやかなのを察すると、清蔵もそうか、良かった。と一言かけ、彼女にそれ以上は語らなかった。その後、署長室へと向かった清蔵は、途中すれ違う年若い部下達に挨拶をしながら署長室の扉を開ける。一昨日の朝から勤務しているワフラが署長代行をしながら、清蔵の方に目を向ける。
『清蔵どん、おはよう。』
『おはよう、ワフラ。引き継ぎ終わったらゆっくり休んでくれ。』
『ふっ、そうさせて貰うば。』
ワフラは何故か機嫌がいい。未来がこの世界に来て、ワフラの家の並びの家に越して来てから、表情が大分柔らかくなった気がした。近所の人間いわく、二人は割といい雰囲気だと言う。ワフラをヒューマの年齢に換算しても随分な年の差カップルだなと言いそうになったが、自分の頭に深々とブーメランが刺さりそうなので無難な答え方にした。
『未来ちゃんは今日の夕方までだから、二人でどっか飯でも行ったら?』
『べっ、別に未来とそう言う関係じゃなか!……ま、まぁあの子がその気ならそうする……何が好みなんかな未来は……』
清蔵は恥ずかしがるワフラを見て、微笑ましく感じていた。ワフラは周りから尊敬を集める程の人望がありながら、堅苦しい所がこの世界の人間には受けないのか、子供処か奥さんもいない。案外いいカップルになるのではと思いながら、清蔵はワフラと引き継ぎを終わらせ、書類を確認した。
『今度は鹿の大群か……しかも畑じゃなくて民家に入ってきたと……アルエルクってあの滅茶苦茶デカイ鹿よね?入られた方、マジ御愁傷様です……』
ワフラが代行している時に、また獣騒動が発生していたらしい。アルエルク、この世界に生息している超大型の鹿で、肩高2.5m、体重3tと言う巨体は、首と足が短く太くなったキリンと形容するものだった。清蔵もここ数日の獣騒動で目にしたのだが、ヘラジカの巨大版たるそれを見た清蔵はげんなりしたものだ。かなりの数が来ており、夜明け前まで追い払うのに時間を費やしたと言う。
『しかしこの辺一帯の森が大型生物の一大生息域だったなんてね、二年も住んでて知らなかったよ……開拓や巡回やってるときに会った事が無かったから気付かなかったけど、やっぱこの世界は凄いなぁ。』
清蔵は自分がもう十分に把握したと思っていたナハト・トゥさえ、まだまだ知らない事だらけであると言う事実を受け止めた。文明が発達していない世界で情報を得るのは聞き込みと経験のみ、スマホ等の文明の利器に頼りっぱなしだった自分達がどれだけ無力だったかを思い知らされた。
ー
えー児玉清蔵であります、本官秋の交通安全ならぬ、秋の収穫安全週間で規格外の動物達と格闘中です。幸いにもあれから虎は来ていないんだけど、某拳王様が乗っていた馬のような化物鹿や、牛並のガタイの癖して群れで狩りしやがるのかよと突っ込みたくなる銀色の狼や、鶏?ダチョウかヒクイドリの間違いじゃね?と言う巨大鶏の脱走とか獣騒動が続いております。と言うかこの町に養鶏場があった事を初めて知ったよ……ここ最近はナハト・トゥにも知らない事がまだまだあるのを感じるけど、だからいつも新鮮なんだよね仕事のひとつひとつが。ああ、幸せ……でもテイルちゃんの体には早く慣れなさい、中学生でももう少し下の方自重してるぞ!裸想像しただけでビンビンになってるし!
ー
清蔵はワフラとの引き継ぎを終えて報告書に目を通した後、署の外へと向かった。正門の前は未来が綺麗に掃いていた為、すっかり綺麗になっていた。清蔵がそれに感心していると、威勢の良い掛け声をあげながら、朝練をしている機動隊がランニングから帰って整列していく様子を見る。
『署長、おはようございます!』
『『おはようございます!!』』
『うむ、機動隊のみんな、おはよう。元気でよろしい。』
『おう、清蔵さん、どうじゃ?大分息が揃って来たろ?』
規則正しく、一切の乱れの無い動きで此方に敬礼し、腹から声を出す隊員達、キスケも何処か上機嫌だった。
『ほんとにね、あのヘロヘロしてた新米達がかなり頼もしく変わったね、おじさんなんか涙出ちゃうよ。』
元世界の機動隊訓練をベースに、キスケがアレンジを加えたナハト・トゥ機動隊は、精鋭を地で行くような組織に成長していた。武器、徒手空拳、魔法と言った、この世界のあらゆる暴動に対応する為、血の滲む処か血を吐くような訓練を続けて来た彼らの目つきは明らかに変わっていた。
『この4ヶ月でよくぞここまで変わってくれた。これから先、どんな事件が起こるかわからない。より、日々の訓練に精進しなさい。』
『『ありがとうございます!!』』
『よし、お前ら、このまま近接戦闘訓練に入れ!』
『『了解!!』』
声と敬礼をビシッと決めた彼らは、キスケの号令と共に、次の訓練へと即座に移って行った。
ー
いやー、あの子らこの短い間に凛々しくなっちゃったな。最近は機動隊と言うかアメリカのSWATじみて来たよ、無線が無いから手信号での合図とかになってんだけど、その動きもキビキビしてて無駄が無くなったし、着実に進歩してるなぁ。俺も負けてられないな。
ー
清蔵は署の外に行き、新町の開拓課へと顔を出した。開拓課の人員は20人、彼らはこちらで刑務作業の監視兼自らも開拓作業をしている。人口が増えて来ている新町の開拓課の作業員に声を掛けながら、作業状況を確認するのが、朝方の清蔵の仕事だった。
『あっ、署長、おはようございます!』
『おっ、ダルフィー君、おはよう。』
清蔵に声を掛けたのはダルフィー・マンエル。農家の息子で親と喧嘩して家出した後、コーリンに遊び感覚で入り、ロウラにしょっぴかれた少年だった。寛大な処置で自分を許してくれた清蔵に恩義を感じ、現在は更正し、開拓作業員として働いていた。新町の開拓作業員は、警察の開拓課とはまた別に存在する。開拓作業員達の所属は町役場、新町は町役場と警察の開拓課双方の力で作業が進められているのだ。
『新町の開拓が一段落したら、俺、こっちの方で酪農始めようと思ってるんです。』
『おっ、マンエル農場をこっちに広げるんだな?親孝行だな、頑張ってるね!』
『へへっ、署長のお陰です。』
ダルフィーはそう言ってまた開拓作業に戻った。ダルフィーをはじめ、コーリンにいた若者の大半は、刑務が満期になっても、開拓者としてここに残っている。前科者の支援を兼ねて最初は満期の人間にここにいるか聞いていたが、強制しない、差別しない、自主的にを合言葉にした新町の開拓作業にやりがいを感じるものが多くなった結果、はからずも皆が志願して作業員となったのだ。町長はそれを聞いて、粋な計らいとして、彼らを役場の職員相当の待遇で迎えた。
ー
いやー、新町の開拓は順調だね、まだまだ人口はやっと千人にいくか位だけど、確実に町として完成しつつあるなぁ。ダルフィー君もあれから生き生きと生活してるし、無事に農場を経営してほしいなぁ。それにしても、刑務作業してるのに、今まで誰も脱獄企図しないのが凄いな。コーリンの幹部だったボッラクとか、首魁のカマリタまで鎖に繋がずともしっかり作業してる。これは本当に凄い事だと思う。一応開拓途中の所は垣根を設けて、監視の名目で巡査を巡回させてはいるんだけど、彼らが逃走しないのを、何故かはわからないけど感じている。あの人達、あんないい顔出来るんだなぁ。
『おう、大将。真の意味で汗水たらして働くってのはいいもんだな。』
『カマリタ、そう言ってくれると嬉しいよ。』
『俺は今度こそ真人間として生きる、あんたのその後も気になるしな。それまでは死ねんさ。』
あれ?あんたそんなキャラだったっけ?まあでも今のあんた輝いてるよ、気のいいガテン系の兄ちゃんになっちゃって。しかし俺のその後が気になるって……俺、何かやっちゃいました?……うん、やっちゃいましたねそう言えば。何処ぞのな〇う主人公じゃねぇんだからきっかけは分かるよ、そこまで鈍くねぇよ!まあでも女より男にモテるってのも悪く無いな……いや、そっちの気は無いけどさ……それに、テイルちゃんと言うデ〇べっぴんをはからずとも独り占めしてしまっている手前、要らん事は考えんよ!
ー
開拓課に顔を出した後は、数名の巡査と共に、本町の方へと向かう。駐在所側の人員と交代する為だ。駐在所側は獣騒動で本署より激務だった為、交代要員を送る形で彼らに休みを取らせるようにしている。遠方の集落の派出所も月一の頻度で交代要員を送るようにしている。これにより、何処にいても慌てず有事に対応が出来るようにしているのだ。
『署長、ご苦労様であります!』
『うん、そちらこそご苦労様、フラノ巡査部長。』
多数の人員の交代は、駐在所または派出所の一番上の階級の人間が行う。フラノは月一で本署、駐在所、派出所を回っている。勤勉で土地勘がある彼の働きは、伯父のワフラに似て有能だった。
『そう言えばフラノ君は今月からスバリュ派出所勤務か……あそこはここ以上に獣が出るから体に気をつけてね。』
『ええ、勿論です。伯父や署長程無理はしないと自負しています、お任せ下さい。』
『ははは、そうだったね……こりゃ失礼した。』
ー
フラノ君やっぱりしっかりしてるなぁ、頭はいい、人柄もいい、器量もいいって何物も持ってるから凄いわ。ドワーフだから若いのに立派な髭持ってる(何か関羽っぽい)から年齢以上に上に見えるのよね。しかし彼も結構言う人だな、ワフラそっくり。年齢重ねたらああなるのか、頼もし過ぎる。
ー
駐在所の人員を交代した後、清蔵はそのまま本町の巡回に行く。清蔵が来た時は鬱屈とした空気だった町の雰囲気は、すっかり模範的平和都市モデルにそのまま採用出来る程に平和だった。すれ違う子供が元気良く挨拶をすると、清蔵も笑顔で返す。この時の顔は何処か照〇チックで子供受けは悪く無いようだ。因みに通常の真顔の時は北村〇輝(悪役時)が出てくる。
三番地から四番地へと差し掛かると、そこは小さな歓楽街になっている。コーリン撲滅後、夜の店は健全な風俗店と飲み屋が残る事になり、雰囲気も殺伐さが抜けている。と、目の前に非番のシシが風俗店から出て来てばったり会ってしまった。
『やあシシ君、男だね!』
『ちょっ、署長!恥ずかしいからやめて下さいよ!』
『どうしたシシ……あっ、署長、ども。』
『コモド君、君も元気でよろしい!』
清蔵は気恥ずかしい顔の二人にサムズアップをした。非番にそう言う所から出て来るのを見られるのは中々に恥ずかしいはずだが、清蔵はその辺については鈍感だった。
ー
いやー、シシ君もコモド君も非番なのに元気でよろしい。俺なんか三連勤明けに風俗行く元気なんて余り無かったからなぁ、若いって、いいよなぁ。
ー
清蔵はそのまま巡回した後、署へと戻る。時間は既に昼過ぎに差し掛かっており、腹も減って来る頃である。署長室の机には、テイルの手作り弁当が置かれていた。そこには一緒に書き置きが添えてあり、読み終えるとだらしない、もとい幸せそうな顔で弁当を食べた。
『せぞさん、今日も一杯頑張ろうね、か。うん、勿論ですとも!最高の栄養を補給して、元気百倍、アン〇ンマン!』
こんな感じで最初の半年は休む事を忘れて過労死しかかった事を反省しているのだろうか?その点に関してはやはりしっかりとは自覚してないようだった。食後は引き続き各種書類に目を通し、重要案件の書類にサインをしたり、始末書に目を通したりしていた。
『この始末書、またマーシー巡査長かよ……アルエルクに発砲しようとしたら、外れてミハイル君の金〇スレスレを抜けたって……マーシー巡査長を狙撃班から外そうかな?俺なんか二回も金〇やられそうになったし!』
フラノが隊長を勤める狙撃班は地域課と刑事課の二つに人員が行っているのだが、マーシー巡査長は狙撃班随一のノーコンぶりに、両方から外せと声が出ているのだ。
『とは言え、彼は他の業務に関しては優秀なんだよな、狙撃班だから弾薬の在庫チェックとか銃の状態のチェックとか不可欠なんだけど、彼の確認事項が一番信頼性が高いのよね。』
人事に関しては機動隊と警備部以外の課や部署については清蔵が一任しているのだが、人の悪い所より良い所の方が良く見えるせいか、問題児でも中々飛ばせ無いのだ。
『んー、どうしよう……そうだ!監察に回そう、それならばきっとやってくれる。』
監察、それは警察の警察とも呼ばれるカウンター的な役職である。本来は都道府県警本部に置かれているものだが、異世界で警察を名乗っているのは今のところここだけなので、その辺は気にしない。警察も人間であり、間違いを犯す者もいる。監察はそれらを監視し、精査するのが仕事である。清蔵はマーシーの報告書の正確性から、細やかな目が必要とされる監察に向いていると判断した。
『マーシー巡査長、今日付けで君を監察課に異動する。報告書の書き方と言い、君が適任でね、フラノ君からの推薦状も来てるから頼みにしているよ。』
『ほっ、本当に良いんですか?監察って結構な大役じゃなかですか!』
『それだけ君の仕事が丁寧って事さ。警察も人間、何処かしら間違いがある、君の仕事でそれらを正して欲しい。』
マーシーは暫し考え込んでいたが、襟を正して敬礼し、
『了解しました、署長の期待に応えて見せます!』
そう返事を返すと、清蔵も笑顔でそれに最敬礼で応えた。
ー
人事も楽じゃないな、確かに彼は細やかな仕事をしてくれるけど、フラノ君からしたら体のいい厄介払いだからなぁ。推薦状と言ったけど、書いてある内容は殴り書きで異動の嘆願書だったから複雑だな……だがマーシー君、ペーペーだった俺にとっては監察とか高嶺の花だったんだぜ?喜びなさいよ、人を撃ちかねない仕事よか俺はためになると思うんだよ。他の若い奴は見た目が派手な花形的部署にばっか行きたがるけど。
ー
人事の仕事もし、やや眠気が出て来た頃、辺りは茜色に染まっていた。気分転換を兼ねた署内の見回りに歩いていると、ちょうど未来がロウラと引き継ぎしている所に遭遇した。
『本日の巡回と事務内容は以上です。ロウラちゃん、お疲れ様です。』
『お疲れ様、未来さん。今日は副署長も非番だから、食事に誘ってあげたら?あの人ああ見えて寂しがり屋だから喜ぶよ。』
『ワッ、ワフラさんと……ええ、誘ってみます。』
ー
あるぇえ?こっちはこっちで同じような事を言ってるよおい。未来ちゃんも何か満更でも無い顔と言葉だったし、季節は秋だけどワフラに春が来たってか?
『あっ、あの、署長?声に出てますよ……』
あっ、はい。すんませんした!しかし美女と野獣カップルか、悪く無いな……って俺に激しくブーメランか(涙)
ー
清蔵は再び署内の見回りに戻る。取調室の前に来ると、農作物の窃盗で捕まった少年がガタガタと震えながら涙目になっているのを目撃した。違法な取り調べを疑った清蔵は、気付かれないようにそれを見る事にした。なんと、弁護士も呼ばずに取り調べを行っていたのだ。更に口酸っぱく禁止をするよう言っている暴言、暴力を用いた取り調べ、あれでは真実を語らせられないし、仮に犯罪を犯していたとしても反省等しなくなる。双方に利の無いそれを見た清蔵は、取り調べをしている馬鹿もとい若巡査に気付かれぬよう、弁護士を呼び、弁護士到着と共に乱入した。
『君、その違法な取り調べを止めなさい。』
『あっ?黙ってろよおっさん!……って署長?!』
清蔵の顔はニコニコとしていた、勿論、笑うではなく、嗤うの方だが。嗤うとは本来攻撃的なものであり……と語られるような表情と威圧を持たせながら目の前の男を叱咤する。
『良い事を教えてあげる、俺がペーペーの巡査だった頃、鬼の濱田課長に取り調べのなんたるかを教えてもらった。被疑者を恫喝しない、無理やり誘導しない、そして、殴らない……これを守らなかった奴はどうなったか、ワカル?オニサン。』
今度はその巡査がガタガタと震える番だった。この巡査、新人挨拶の時にやらかした男である。あれから数件始末書案件を繰り返している為、始末書のチョーやんとあだ名されている問題児だった。清蔵はその彼の首根っこを掴む(実際は背中を押して退室を促しているだけ)と、そのまま外に出した、チョーやんことチョーキ・カンイチは借りてきた猫のように縮こまっていた。
『全く、取り調べの前に先ずは基本的な所からはじめないとね。いいかい?これから先輩のミハイル君にお手本を見せてもらうから、それをしっかり見て覚えなさい、了解?』
『りっ了解しますた!』
ー
どもるくらいひびってたけど、彼の中で俺ってどう思われてるのかな?顔見ずに声だけだとおっさんと認識してるみたいだけど、ちょっと傷つくな。しかし弁護士を呼ばないで取り調べとか酷いな……ここは日本じゃなくてナハト・トゥです、某国の方式を採用してますので弁護士を伴わない取り調べは如何なる事情があれ禁止でごぜぇますよ?これはいっぺん被疑者側の立場になってから俺が何故こう言う方式をとっているかを教えなきゃならんね……おっ、そうこうしている内にミハイル君が取り調べを終えたね、被疑者も心なしか落ち着いた様子だ。
『ミハイル君、ご苦労様。』
『いえ、大した事じゃないですよ。しかしチョーキ君には困ったものです、考えが浅いと言うか何と言いいますか……』
ほんとにご苦労様……かく言う俺もかつては大問題児で、当時交番勤務だった頃に、その当時巡査部長だった濱田課長にしめられた口なのよ……人生で初めてだったなタイマンで完敗したのは。あれ以来濱田課長に憧れて喧嘩芸骨法を学んだんだっけ……
『チョーキ君は色々と問題を抱えてはいるけど、きっと大丈夫、もし大丈夫じゃなかった時は、鬼軍曹の所で鍛え直してもらうさ。』
『署長、流石にあそこに預けるのはかわいそうですよ……』
そう言えばミハイル君、機動隊の訓練も見学したんだっけか?ええ、かわいそうになる位厳しいですはい。ただ問題児をずっと抱えたままだと、後々みんなの負担になるからね、チョーキ君次第よ。
ー
署内の仕事の様子を見回り終わる頃、時間的には深夜になっていた。清蔵は署長室に戻ると再び書類のチェックに追われる。ここ2ヶ月程で漸く文字を読めるようになったとは言え、まだまだ読むスピードは早いとは言えない。因みにこの世界の文字は、梵字に似ており、楷書書きやアルファベットに慣れ親しんだ清蔵にとって、非常に難解だった。尤も、言葉そのものは日本語なので、後はちょっとした形を覚える位のものであるが。
『ふぅ、こんな所か。しかし慣れないと中々読めるものじゃないね……幸いみんな丁寧に書いてくれてるから読む事は出来るけど。やっぱあの二人の字を採用して良かった。』
文盲な人間に教えている字の書き方は、字のきれいとされているミハイルとワフラのものを参考に書くように教えている。二人の字は、現地の人間から見ても癖が少なく、お手本に出来るレベルと言う。清蔵も二人の字を元に文字の書き方を覚えた口である。
ー
うー、疲れた……書類の整理をして、漸く終わったと思ったらもう夜が明けているよ……こっちの世界でも警察の仕事は書類とは無縁になれないね。
『せぞさん、お茶を淹れてきたよ、どうぞ♪』
『ありがたや☆』
この世界で飲まれてるお茶は主に三種類、ひとつは緑茶、もうひとつが花茶、そしてもうひとつが目の前に出されたお茶……味わいはいつぞやの旅行で飲んだセンブリ茶と同じでぶっ飛ぶ程苦いけど、日を跨ぐような仕事をしている時にはありがたい。かつテイルちゃんがニコニコ笑顔でこの兵器的なお茶をどうぞと言われたら、ふふっ、その……下品なんですが……勃〇、しちゃいましてね?
『……せぞさん、今エッチな事考えてたでしょ?』
はい、その通りです、勃〇しました、マジすんません。それにしてもちょっと顔を赤らめて膨れっ面してるテイルちゃん、最高に可愛い!こんな可愛く怒られたらそりゃ何かに目覚めますって!声がウッウーて言いそうな感じだからマジ萌える。ん?朝日が顔を出してきたな。
『それにしても、朝日が綺麗だね……』
『ほんとだね…俺の故郷の朝日も、こんなだったな…』
署長室は朝日が昇る所を見られる絶景のポイントだったりする。奇偶な事に、向日葵市にあった時も署長室は朝日の眺めが良かったんだよな、朝日に照らされる日島灘を見るのが好きだと署長は言ってたなぁ……
『せぞさん、その、せぞさんはやっぱり故郷が恋しいの?時々寂しそうな顔をしてるから……』
『恋しくないと言ったら、嘘になるかな?父ちゃんや母ちゃんの事もあるし、恋しさは残ってるね。』
『そう……せぞさんのパパとママ、心配してるよね……』
警察になってから最初の三年、それぞれ警察学校と独身寮住みで両親から離れた。親父は大敷き(定置網の事をこう呼んでいる)を一人で運用して、お袋は港の近くの鮮魚店であしげく働いて俺を育ててくれた。警察になるって言った時、反対されるのかと思ったが、二人は喜んでくれた。
(公務員、しかも警察官か、お前にぴったりだな。)
(苦しい生活してたからね、あんたは自分の道を行けばいいのよ。)
父ちゃん、母ちゃん……心が壊れた後も、変わらず支えてくれた恩は忘れません、異世界に飛ばされ、立派な彼女が出来ました。世界が違うので、彼女を紹介出来ず、孫も見せられないのが残念ですが、俺は元気にやってます。今はただ、二人の余生が平穏になってくれる事を祈るばかりであります。
ー
『あら?今、清蔵の声が聞こえたような……』
『奇遇だな、俺も聞こえたよ……やっぱりあいつは死んでなんかいないんだ、宜しくやってる、何故かそんな気がする。』
向日葵市の港の近く、清蔵の生家であるそこに、両親が住んでいる。息子が署ごと消失したと聞いた時、二人は呆然としていたが、夢で清蔵が別世界で器量の良い娘と仲良くやっているのを良く見る為、清蔵が生きている事を何処か感じているのだ。故に、二人の表情に暗さは無い。
『夢の中とは言え、あの娘さんと結婚して、孫を見せて欲しいものだな。しかし相変わらずうぶな所は変わらんな。』
『ええ、あの子には少々余り過ぎる位の人ですものね……出来ればそのまま幸せになって欲しいわね。』
ー
『見えてますとも……泣けてきましたとも!』
『せぞさん、どうしたと?』
『俺の両親がこちらの事を感じていた事を頭に感じたのよ……こっちに来てからたまにそう言う感じがあるのよね。』
断片的な形であるが、清蔵にはこうして元世界の人々の思考や情景が見える事がある。意図的に見る事は出来ないが、清蔵はこの事象に大分助けられていると感じていた。異世界の地での戸惑い、交友、そして幸せ…そう言った事が向こうに伝わっていると感じれる事は、清蔵の精神に大きな影響を与えるのだった。
『ただその……情事まで見られてたんじゃと思う言葉があったのがちょっと恥ずかしい……俺の思考漏れてるからサト〇レ的な奴か?ある意味きついなそれ!』
朝日が昇りきった頃、清蔵は機動隊の朝連に参加。機動隊における清蔵のポジションは非常勤教官である。主に得意の近接戦闘を教えているのだが、逮捕術と違い、相手を確実に無力化させる応用的な実戦を教授しているのだ。
機動隊では清蔵が習得している糸東流空手、柔道、喧嘩芸骨法の3つに絞り、より攻撃的な制圧を体に叩き込ませる。普通の警察官が相手を出来る限り傷つけない事を徹底しているのに対し、こちらは相手を屈服させる事に重きを置いている。清蔵は今、空手の蹴りを教えているが、機動隊では実戦的な技のみを教える為、腰から下への蹴りを徹底していた。
『上段蹴りは見映えがいいが隙だらけだ!腰から下への打撃は見た目が地味だが効果的、かつ隙が少なく上半身の技への連携が簡単だ!』
護身術として武道を学ばせている機動隊以外の人間には、演舞として上段への蹴りも練習はしているが、この世界では最小のピクシーから最大の準巨人までと、体格差が元世界の比では無いので、体格差に囚われない攻撃が有効なのは、体を支える足腰なのだ。特に準巨人等の上に高い種族には有効性が高く、最小種族のピクシーに至っては下段攻撃のモーションで上中段への攻撃が入る。清蔵はごく無駄の無い最小距離でローキックを披露する。
『どうだい?これが最も無駄が少なく、バランスも崩しにくい蹴りだ。地味だが、太ももやふくらはぎ、膝への攻撃は相手の動きを止められるし、かつ手で防ぎにくいから足も取られにくい。』
隊員はその指導をしっかりと目に焼き付ける。清蔵は週二三回、それぞれの武道の基本を教え続けている。今日は空手なら次は柔道、次は喧嘩芸骨法と、来る日ごとに流派を変えながら、隊員達に骨子を固めさせる。
ー
ああ、いい汗かいた。深夜明けのテンションだから無駄にハイになって熱入れすぎだったけど、彼等はしっかり指導を飲み込もうとしてる。今日は空手だっただけに熱くなりすぎたのもあるけど、しょうがないか。実は空手をはじめ、武道は全て警察になってから始めたのよ、それまでは喧嘩拳法、早い話が素人さんだったわけね。空手、柔道、喧嘩芸骨法、日本拳法、合気道、そして逮捕術……この中で俺が唯一全国大会レベルだったのが空手だった……
形は小並でボロボロながら、組手でかなり上に行ったね、三年もしない内に二段以上の有段者がゴロゴロいる中でギリギリ茶帯の俺が勝ち進んで行くのは不思議がられてたけど、センスはあったのかな?しかし他はいまいち……空手以外だと喧嘩芸骨法が濱田課長に褒められた位だけど、喧嘩芸骨法って大会も何もやってないから趣味だった。結果的にしっかりやっていたお陰で前回のコーリン検挙に役に立ったからいいけど。まあこちらの世界のみなさんは優秀だから、比喩とかじゃなくそうなんだよ。だからきっと凄い機動隊員が完成する、俺はそう信じてるよ。
ー
昼が過ぎた頃、清蔵はワフラと交代した。平時の勤務形態は一日半または三日勤務の一日半または三日の非番でローテーションを組んでいる。ワフラと清蔵が組織のトップなので、署長室の空席を防ぐために、ここの所は一日半のローテーションが多い。勿論、有事発生時には勤務時間を越えると言う事は珍しくない為、その都度変えて行ったりもしている。
『清蔵どん、お疲れさん。』
『お疲れ、ワフラ。おっ、その色つやのいい肌といい表情、良いことあったの?』
『ふふっ、秘密ば。』
『そっか、まあ表情が明るいのは良いことさ。それじゃ引き継ぎ終わらせてテイルちゃんといちゃついてくらぁ。』
ワフラは昨晩から非番になった未来と飯を食べに行き、無事二人の仲は進展したようだ。秘密と言いながらワフラの表情は清蔵に負けない位顔に出やすいらしい。清蔵はそれ以上からかうのは邪道だと思い、手早く引き継ぎを終わらせて帰宅の途に着く。
ー
本日も仕事を無事終えて、先に帰っているテイルちゃんのもとへと急いでおります。つまりジョギングがてら走って帰っております、はい。我が住み処は本町の長屋、忙しいから新町にしたら?と周りは言うけれど、オーガスタ一家の隣と言う好条件を捨ててまで新町に住む頭はないです。は?じゃあ彼女と新町に移ったら?と返ってきたけど、馬鹿野郎お前俺はあの長屋周辺の雰囲気が好きなんだよ空気嫁じゃなかった空気読めだよおい。ご近所さんが優しい人ばっかだから、居心地がいいと言うかなんと言うか……俺の実家近所を思い出すんだよ。だから新町に移り住む予定は、ないです。さあ、愛する人の我が家へ。
『テイルちゃん、ただいま……えっ?何その格好?皆さんどうしたんですか?』
裸エプロンをしてくれるシチュエーションなんて童貞の幻想、そう考えてた時期が、俺にもありました……オーガスタ一家全員が我が家にいます……テイルちゃんが裸エプロンなのは良いですとも!俺の口からやってくれと言えなかったから最高ですとも!しかし、Mrs.ハンニ、そしてMr.キイチ、何であんたらも同じ格好してんだよ!
『おお婿殿おかえり!』
『なんすかこの乱〇パーティーなノリは。』
『うふふ、テイルに性生活がマンネリにならないようにって思って、裸エプロンなんてどうって言ってね♪』
やはり犯人は貴様か露出狂!当のテイルちゃんは顔真っ赤にして恥ずかしがってんよオイ!大事な娘に何余計な事吹き込んでんだよ!
『じゃがテイルは恥ずかしいっちゅうもんじゃからの、それならパパとママも一緒にやれば恥ずかしくないぞと言ってこうなったんじゃ!ははは、どうじゃ、名案じゃろ?』
いや、その理屈はおかしい。想像してみろ?美少女の裸エプロンはそそるよ?夢だよ?そして美人ママの裸エプロン、これもそそるよ?夢だよ?そこに菅原〇太似の、それもえらくごっつい男が裸エプロンでってさぁ、夢は夢でも悪夢の方だよ!前言撤回、新町に移ろう、テイルちゃん!この人らちょっと処じゃない、かなりおかしいから!只でさえ俺に汚されてるテイルちゃんをこれ以上汚すなぁ!!
ー
異世界の風と良心、愉快さ、様々なものに触れ、清蔵は幸せな時を過ごしていた。
『ちょ、ナレーションさん?勝手に綺麗にまとめないで!そしてキイチさん、目の前でエプロンを解かないで!そこの美魔女、あんたもだよ!テイルちゃん?真似しなくていいから!恥ずかしいなら真似しなくていいから!』
†
四話か五話位、文字数的には五千から一万字平均位の長編の基本部分が出来ました。基本コメディなので極端なシリアス話にはならないですが、ある程度の締めはきっちり出来るように編集したいと思います。