俺の名は児玉清蔵、ナハト・トゥ警察署署長、階級は警視正(殆ど意味の無い階級だけど……)。署を運営する為、ナハト・トゥの元の自警団屯所を駐屯所とし、本署の方に人員20名がやって来た。因みにワフラとキスケ、テイルちゃんも本署に来て貰った。これは俺の要望ではなく、町長の要望が組まれた。
ワフラは兄貴分、キスケは肉体・器用さに定評があるから現場の隊長、テイルちゃんはかなりの研究熱心さから秘書的な役割だと町長が言ってた……皆さん私には余りにも勿体ない優秀な人々でございます。
まず警察として働く為に、彼等にはそれ相応の階級を与えなければならない。ワフラは警視、キスケは警部、テイルちゃんは警部補。元の世界で警部補以上の階級は、俺からすると雲の上の存在だったよ。ワフラは副署長兼地域課長並びに刑事課長に、キスケは組織犯罪対策課長兼新米巡査指導員、テイルちゃんは秘書官兼経理課長。
……警察署職員と言っても、町の開拓業務にも駆り出されるから、地域課開拓係ってのも作った。初代係長は署長たる俺……まあおかげで気兼ね無く巡査長の頃のように体を動かす事が出来る。やっぱ現場がいいよ俺は。
さて、問題は他の人々はどうかやな。ワフラ達を除いて17名、どいつもこいつも恵体……とはいい難い。ワフラやキスケがゴリマッチョなのに対して、おいおい、随分とヒョロガリだなおい、テイルちゃんとか格好可愛い鍛えた体だと言うのに。男女比率は7対3、元の世界は男男男ばっかで女性巡査の比率は低かった(それでも90年代よりはかなり増えたらしいけどね)から驚いた。見慣れぬ種族もいる。爬虫類な感じからしてリザードって奴か?後獣人もいる。市民権が完全ではないと言っていたけど、俺は自分の出自故に人種でどうのこうのは言わない主義(署長の受け売りだけど)、そう言う事を話したからか、町長が気をきかせてくれたんだな。
『皆、俺はこの度ナハト・トゥ警察署署長となった児玉清蔵警視正、姓が児玉、名は清蔵だ。警視正と言うのは、警察の階級の一つだ。ワフラ副署長に聞いたと思うけど、俺は別の世界からやって来た。元の世界では警察、分かりやすく言うと国や市町村が運用している自警団だな、それに所属していた。元の世界は比較的平穏だった……しかし、こちらの世界では血生臭い現実がある事を知った。俺はこの世界の現実を知らない……だから頼む、ほんの少しずつでもいい……皆の力を、貸して欲しい!』
正直演説的な事はしたくない。そんなタマじゃねぇし。しかし、こちらの世界で骨を埋める覚悟を決めた以上、下手くそであろうがなかろうが皆に意思を表明せにゃならん。こうなりゃやけくそで構わないから言える事を言ってやる。
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17名の新任達は……受け入れてくれたらしい。しかし不自然なまでに〔受け入れますから悪い事しないで〕みたいな顔をしていた。視線の先を良く見てみると……ワフラとキスケがギラギラした顔してる……あの、お二人さん?パワハラはあかんですよパワハラは。俺は力で部下を押さえつけるような事はしたくないの。ほら、二人の目力のせいでエルフの兄ちゃん立〇和義が来た時の宮本〇也みたいになってるよ!俺は改めて一人ずつ彼等の前に出て握手をする。特に怯えてたエルフの兄ちゃんにはなるだけ優しく。
『改めまして、署長の清蔵だ。君は?』
『エッエルフランド出身、ミハイル・ジャクソンです!ねっ、年齢は今年でごっ、55歳であります!』
ミハイル君、そんなきょどらなくても……ワフラ副署長、キスケ警部、後で反省会しよう、金輪際パワハラ禁止ね。ミハイル君はヒューマで言うと18歳頃、高卒レベルか、通りで雰囲気といい青臭いわけだ。ワフラいわくエルフってのは寿命が長い代わりに知能成長が遅い、魔法を行使する魔力は割と高いものの、知力的にはヒューマ等他の種族と大差ないと言う、納得……マーちゃんアーちゃんが30年以上生きてるのに体も心も子供だものね。俺はミハイル君同様他の人にも同様に握手を交わした。その中で異彩を放っていたのが、獣人の兄ちゃん姉ちゃんだった。
『君は?』
『俺は、獣人ワーレオンのシシ・レイジ。あんたと同じで姓が最初の方だ。年は15歳、あんたの種族だと20歳だ。ヤマト王国の不可触民だったが、必死の思いで亡命してきた。』
『ほう……そしてそっちの君は?』
『あたしは獣人ウルフェンのロウラ・ウラジミル。年は13歳、大体16歳よ。あたしも同じように不可触民、出身はアンブロス帝国……言葉に出すのも憚れる位ひどい目にあってたんよ。』
ほうほう、ワーレオンにウルフェンね、中々いい目付きをしてる(正直体は恐ろしく華奢だけど……)。彼等がここに来た理由を知りたくなった。なんせ獣人とかは市民権を完全には得ていないと聞いていたからね。
『不可触民…身分制度の中にすら入れて貰えん家畜以下の人間って帝国の連中は言ってた……奴隷階級の連中のストレスの捌け口にされたのが俺どんの扱いよ。』
そういやマーちゃんアーちゃんも不可触民って言ってたな……俺はもうそれを聞いただけで腹が煮えくり返りそうだった。だからこそはっきりと俺の意志を伝える事にした。
『安心しな、みんな。俺はここの世界の人間じゃねぇし、何より元の世界の俺が生れた国は決まった身分なんてもんは無くてな、あるとすれば貧富の差だったな。俺の家は貧しい漁師の家の出身でよ、貧乏ってだけでいじめにあってたんだよ。
ひどいいじめから逃れ、貧しさから解放されるには……俺は警察官になった。なんせ警察は犯罪を犯すものを捕まえる役目、つまりは弱者をいじめる奴をしょっぴけるし、公の職だからいい生活も保障されてたからね。警察は生まれた家が金持ちとか貧乏とか関係無い、自分の持つ力で人を助け、人に頼られるようになる。だからこそ、君らが苦労した分、必ずや報われる。』
……万年ヒラの俺がこんな事言って良いのかなぁ?しかしこれは事実だ。金持ち貧乏関係無い、地方または国家公務員試験を受けて合格出来た者が警察になれるわけだし、仕事ぶりに応じて昇級及び昇給する、それが警察だ(まぁキャリア共はいいとこの坊っちゃんが多いのは否定しないがね……)。
『よろしく……失礼、よろしくお願いします、署長!』
『あたしも……お世話になります!』
頑張れよ!パワハラ上司候補の二人が心配だが、よろしくな!
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さて、新米達の挨拶も終わった所で、まずは彼等に基本的な学習をしてもらおうと思い、無駄に広い署の会議室で最初の勉強会を開く事となった。先ずは警察組織における階級についてだな。其々の身分をしっかりとしておかないといけない。軍や警察、警備隊においてこの辺を適当にしては駄目だ。勿論仕事における身分であり、非番になれば関係無しさ。
『警察の階級、俺のいた国の地域、一番下が巡査と言う。二番目は巡査部長。この二つの間に数年間の実績が良いものの、昇任試験を受けなかった者が巡査長となる。俺が元の世界でなっていたのはそこだな。まあこの世界では二番目の階級にする。
次に、テイルちゃ……もといテイル君の階級である警部補、その次がキスケさんの階級である警部。警部ってのは事件現場を指揮する現場監督、軍隊でいう部隊長さんだな。その上の階級がワフラ副署長の階級である警視。この規模の警備組織の元締めは大体警視以上の階級がやっている。そして俺の階級、警視正。本来なら大都市における警備隊の元締めだな。この上の階級がまだあるのよ。』
『え?署長の階級が一番じゃないんですか?』
この質問はドワーフのフラノ君(30歳、人間で言う15歳)が反応した。そうだよ?警視正の上には警視長、その上は警視監、更には警視庁のトップである警視総監、更には警察庁のトップ、警察庁長官が存在する。まずノンキャリアの俺には縁の無い話だ、今名乗ってる階級すらキャリア組の連中が占めてるし。しかしここは俺しか警察の実態を知らないから、夢の役職でも何でもない……のだが、空位にしてる。柄じゃねぇし。
『空位にしている階級は、然るべき時、然るべき人間が就く。階級は高くても、仕事しない者は偉くない、これは忘れないで欲しい。』
次に、警察たるもの、法に乗っ取って動かねばならない。ワフラやテイルちゃん達と数日かけて、町にある法律に見合った刑法を作る事になった。と言うか司法権の問題もあるのよ。中世的世界故に犯罪者=死刑的な所ばっかりで裁判もろくに行って無いのを知った時、ああ、これはしっかり作らないとと思った。まあ町長は結構温情派で死刑的行為はしたことがないらしいが。
とりあえずは簡単な刑法を作って守らせる事、これは元の世界で言う幼稚園児でも分かる上に守れるレベルの所から始めている。別にこっちの世界の人間が知能が馬鹿って訳じゃない、治安を良くするにも先ずは決まり事を分かりやすくした方が最善と考えたのだ。具体的には殺人を犯した者は懲役15年以上とか、盗みを働いたら罰金とかね。人種差別や民族対立に対する法律も作った……まあ大方ワフラとテイルちゃんが率先して作ってくれたので、俺はそれを勉強会で読むだけだったんだが。
にしても凄いのは、他の地域からの移民や難民にもそれは適用するのかって聞いてきた事かな?この町の人々は町長の尽力によって亡命、難民を受け入れてたと聞いていたから、この手の問題については皆凄く意見を出しあった。特に獣人二人が自らの経験談を伝えた上で移民受け入れ時の潤滑な対応策を出して来た時は涙が出たよ。俺、頑張ってこの人らに報いなきゃな。
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