深夜仕事明けのテンションでサクッと編集して投稿しました、今回はやや不快な内容も混ざっています。
山田啓将は現在、サカサキとカン=ムの都市ダイゴを結ぶ街道、南北通商街道沿いで奴隷売買の行商を捕らえていた。この行商はカン=ムの者で、人身売買の為、それらを禁止しているエウロ民国の女性ばかりを狙った違法娼館の末端組織の人間だった。山田は既に状況を把握しており、監視対象組織として行方を追っていたが、ついにその尻尾を掴んだ。
行商達は武装しており、激しく抵抗したものの、鍛え上げられた保安官の、それも公安に選出される人間の前に呆気なく鎮圧、主要幹部を残してその場で惨殺された。山田は清蔵と違い、悪には容赦しない。
『口を割らせろ、幾ら手段を使っても口を割らぬのなら、構わん、殺せ。』
冷たく部下に言い放って山田は幌が掛けられた馬車の荷台を確認した。
『これは酷いな…手足を切り落とされた女性ばかりだ、間違いない、ダイゴの肉奴隷市場へ売る腹だったようだ。』
カン=ム帝国の都市、ダイゴは、首都エルフランド、副都エルリラに次ぐ大都市で、世界的な人身売買の巣窟だった。奴隷階級が存在する国では何ら違法性が無い中で、手足を切り落とし、見世物や個人の慰み物にする事は、どの国でも違法とされている。しかし、ダイゴでは裏でこの凄惨極まる肉奴隷売買が行われており、しかも自分の国ではなく、他国から拉致してそれが行われている等、悪質極まり無かった。
『この娘さん達を元の場所へ戻してやらにゃな。しかし、何度見ても異世界のこれは吐き気がするな。』
『異、世界?今…異世界って…あなたはこの世界に…わた…しとおな…』
山田の目の前にいる女性が弱々しいながらも話すその声に、山田は反応する。
『君、自分の出身は?』
『京都…で…おーえ…やってまし…』
『そうか…可哀想に…』
山田はこの世界に自分達以外の転移転生者が来ている事を薄々感じていたが、皆が皆幸せに暮らしているとは思っていなかった。しかし、目の前にこうした現実を実際に目の当たりにすると、怒りよりも悲しみに包まれてしまうのだった。山田は、絶望にうちひしがれている目の前の女性を落ち着かせながら、自分に言い聞かせるように思いを出した。
『…安心しな、俺は君を見捨てないさ。そして…こんな目に合わせた糞野郎共を必ず叩き潰す!』
同じ頃、木尾田は、アンブロス帝国を抜けて、エルフランドへ向かっていた。馬を駈り、出来る限り休まずに、エルフランドへ続く道を走っていた。途中、木尾田は茂みに倒れている人間を発見。体がバラバラに切断され、死後かなり経っているのか、腐敗が激しい。木尾田は激しい臭いに耐えながら、その死体の周辺を見る。その近くにあるものを見て、驚きの表情をあげた。
『これは…カメラが付いている、なんらかの電子機器だ!この人、もしかして…』
落ちていたのはiPhoneの端末だったが、木尾田が殉職した時代には無かったのでその辺については仕方無い。ただ、木尾田はその持ち物を確認した時点で、目の前のそれが転移転生者の亡骸である事を理解せざるを得なかった。
『…神様がいるかどうかは分からない、だが、この世界に来た者が皆幸せであるとは思えなくなってしまった…やっちゃん、君は今どんな顔をしているんだい?』
清蔵はナハト・トゥからエルフランド方面への道の警備に当たっている班と合同で野盗狩りに出ていた。すっかり平和になったナハト・トゥ周辺だったが、エルフランド方面へ抜ける街道沿いは例外で、コーリン程大きな組織は無いものの、行商を襲う者が出没している。
清蔵は囮の幌馬車の中にいた。こうしていれば、来る時は来るし、来なければまた街道の巡回に回るだけだ。人員を絞ってノロノロとしたペースで動いていると、野盗が矢を放ってきた、幌は矢で穴だらけになり、そこから数人の人間が山刀を持って踊り出てくる。
『ひゃっはー、野郎共獲物じゃあ!女はいたら殺さず手足だけもいだれ!ヤるならそれも構わん!』
(絵に描いたような悪党だな…やれやれ。)
『ぶべら!』
清蔵は幌の中に侵入してきた一人に正拳突きを食らわせた、足元の不安定な荷台の上からとは思えない一撃は、男の鼻っ柱を完全に潰していた。野盗達は驚愕し、目の前の荷台から降りた男に視線が集まる。
『なんだきさんは!』
『なんだつみはってか?そうです、私が変なおじさんです、って誰がおじさんじゃ!』
『うわらば!』
清蔵は手に持った警杖で大将格とおぼしき人間の山刀を叩き落とし、腕に貫手を絡ませて地面に突っ伏させる、周りの手下がそれを助けようと近付くが、次の瞬間には他の警官がそれを無力化していた。
『甘い、弱い者いじめばっかしてる君達に負けてやる道理はありません。えー、凶器準備集合罪、並びに通商妨害の現逮ね、君達には弁護士を呼ぶ権利、黙秘権があります、大人しくしてね。』
『がっ、はっ離せちくしょー!』
幌馬車は幌を外され、そのまま被疑者護送車へと変わった。彼等は長年悪党として生活していたであろうから、通常の自由刑が下される見込みは無いだろうが、それでも法に乗っ取った罰を受けさせる事は拘る、清蔵のスタンスは変わらない。
まったく、苦労して育てた農作物を載せた馬車を襲ったり、女性を襲って四肢をもいで売り付けるとか、何処の〇国だっての…悪党は最初から悪党だった訳じゃないとは言え、最近街道沿いは酷い事件が起こってる。どうやら犯行グループの多くはエルフランドやエルリラ、ダイゴと言ったあの糞女の息がかかった地域の人間ってのが判明した。
こんな野盗の勝手を許す程に国の事なんか考えてねぇ、はっきり言える、タヒんでくれ!後2日で来る特使って奴も、ユナリン同様だったら、俺、信念を曲げて〇すかも知れない…ナハト・トゥの平和を乱すものは、俺が許さん!
『ひぅっ!』
『閣下、どうしたんですか?』
『今凄い寒気が…』
『?少し暑い位ですけど、風邪でもひかれたんですか?』
『いえ、体は大丈夫なんだけど、凄い遠くの方から〇すとかタヒねとか聞こえたような…疲れてるのかな?』
康江は人の出す殺気と言うものに敏感になっていた。将軍職になったかと思えば、暗殺暗殺の繰り返し、特に服を剥がれてレイプ寸前まで行った辺りから、人の殺気や殺意と言うものに反応するようになっていた。
おかげでその事件以降は事前に危険を察知出来るようになったのだが。これはチート等では無く、人間の持つ防衛反応がトラウマレベルまでの苦境に追い込まれた結果獲得した、第六感的な条件反射であった。人は、と言うより生物は、極限の状態に追い込まれた時、自分でも無意識のうちにある種の感覚が研ぎ澄まされるものである。
康江は、今の所平和な街道沿いを進んでいるものの、この先の状況は未知数で不測の事態はいつでも起きるであろうと予想が出来てしまう為、ガタガタと震えていた。
『凄い不安、また私、あんな目にあうかも…』
そんな様子の康江を、ノインは肩を抱き寄せ、密着し、あやすようにしていた。自分と同い年のノインだが、康江は姉のようにその包容力に甘えていた。
『大丈夫ですから…怖い事は無いですから…』
『ノインさん、ありがとう…』
特使到着まで残り2日になった。その手前で非番になった俺は、テイルちゃんとの時間を楽しむ事になった。但し、今回は警察署の新カップル、ワフラと未来ちゃんもいるのでWデートです!
署のトップは?誰が代行してんの?鬼軍曹のあの人です、署長代行しているから機動隊は休み?んな訳無い!機動隊の女性隊員達があの不始末以来団結しちゃって副官的な感じで機動隊は本日も問題無く動いております!問題児三人、残念だったな!
さて、Wデートと言っても、堅物なワフラさんはどんな感じで過ごしたらいいか分からないらしいので、テイルちゃんと未来ちゃんの二人がダメなわてくしと違って引っ張っておりますはい…因みにテイルちゃんは女性警官の皆さんのおかげで元気になりました。ただ、セッ〇スはまだあの時の事でトラウマ掘りそうだったのでわてくしは自分から誘わなくなりました…まあテイルちゃんの方が人肌が寂しいとあの後二回ヤりましたが!
『せぞさん、ほら、行くよ♪』
『うっ、うぃ…』
『みっ、未来、くっつき過ぎじゃなかか?』
『えっ?でもこんな感じだと思いますよ♪』
こちらにウインクしてます、ええ、我々は日本のあちこちに必ずいるバカップル並にくっついてます、未来ちゃん上手い事誘導してんなオイ。
本人いわく人前でこんなにべったりくっつくのは恥ずかしいらしいけど、見本が目の前にいますからね…Msテイル、あの件以来よりべったりで俺のJr.が落ち着かないんですが、これが見本で良いんですか?
清蔵はWデートと言う事で行く所を何処にするか迷っていたが、未来とテイルの二人がお気に入りの場所へと行く事になった。そこは、本町三番地の居酒屋だった。
『テイルちゃん、ここって…』
『うん、サカサキから帰って来て、初めてデートで行った場所だよ。女子会でも行って気に入っちゃって。』
『若者向けのバーじゃから俺は今まで寄らなかったば…洒落が過ぎての。』
『ふふ、ワフラさん、そう言わずに。』
未来はワフラをリードしている。女性関係に関しては奥手なワフラを優しくリードする未来、本人は内心恥ずかしがっているが。四人は店の奥の席に座り、飲み物を頼む。
『それじゃ皆さん、乾杯しようか?』
清蔵が音頭を取り、乾杯した。テイルと未来は酒が弱いので、低アルコールのスパークリングカクテルで乾杯、清蔵とワフラはこの地で飲まれている酒、ブランデー系の高アルコール飲料で乾杯していた。喉に通すと焼けるような刺激が心地よい。
『この一ヶ月は忙しかったね、お陰であっという間って感じで過ぎて行った気がする。』
『俺はそうでもないかな?未来と濃厚な時間を過ごせているのもあるが、最近は一人で頭を痛める事も少なくなったしな。』
ワフラはしみじみと言葉を出しながら、酒を煽る。清蔵の参謀としてこの一年共に歩いてきた男は、生来の生真面目さから考え過ぎていた部分が強かった。しかし最近は未来と言うパートナーが出来、顔の表情も柔らかくなってきている。
『ふふ、ともあれ、俺達二人、美人の彼女が出来て心の癒しがある事に快感を覚えちゃったわけだな…だからこそあの時はキレちゃったんだよな…』
言いつつ恥ずかしがる清蔵。テイルにすっかりご執心である清蔵にとって、あの不始末は感情のコントロールがきかなくなる程激昂したのだった。
『せぞさん、その…ありがとう。』
『こっ、こちらこそ、その、どういたしまして…』
あれだけくっついていても、二人は何処か初々しさが抜けない。しかし目の前のカップルも同じようだ。
『ワフラさん…その…私で…良かったんですか?』
『ほ…惚れた相手に…なんだ…その台詞は、愚問…ば。』
まるで初めてのデートのようなカップル二人をやれやれと言う面持ちで見るマスターの目は優しかった。このカップル達が、町の治安を良くし、身を粉にして働いている様を見ているから。マスターは粋な計らいで、鶏肉のローストをテーブルに持って来た。
『こいつは奢りだ。見ていて微笑ましい町の英雄さん達にね。ごゆるりと。』
その言葉に全員顔を真っ赤に染めながらも、自分達の事を見ている人間の率直な言葉が何より嬉しかった。
『清蔵どん、警察やって、良かったの。』
『…ああ。』
Wデート、堪能致しました!ワフラとの親睦も深まっていい感じだ。本当ならこのノリでテイルちゃんと…になるんだけど、特使の件もあるからそれが終わったら俺、テイルちゃんと濃厚な
『セ〇クス!』
…もう感情だだ漏れでごぜぇますよ…横で寝息立ててるテイルちゃんを起こしそうだったので、今日はゆっくり寝る事に致します。
『閣下、食事の準備が出来ましたよ。』
『ありがとう、何から何まですみませんノインさん。』
『何言ってるんですか、周りに気を配れる閣下が将軍をやっているから、私達が頑張れるんですから。』
移動から5日目の夜を途中の宿営所で越える事になった康江達は、ノインが食事を手早く作り、全員に振る舞っていた。この5日間、賄いはノインが進んで作っている為、他のメンバーは自分の役目に専念出来るのだ。康江はそんなノインに感謝をしつつも、申し訳なさを感じていた。
『みんなこうして頑張っているのに、私はただいるだけ…』
『そんな事ありません、閣下はそんな頑張っている皆さんの為に、ちゃんと労いの言葉をかけて下さるじゃないですか。
陛下は我々下民の事なんて見ていないし、リキッド閣下以外で我々の事を気にかけてくれる高官は貴女だけですもの…』
ノインは優しくそう応えた。カン=ム帝国の重役は殆どが貴族や皇族が占めており、皇帝の悪政の煽りでその者達の態度も国民の事など使い捨ての召し使いとしか思っていない。貧しい出から将軍にまで上がったリキッドと、苦学の末にキャリアとなった康江は、それらの皇族貴族とは考え方が違うのだ。
康江は自分の世界の当たり前と、この世界の当たり前との乖離に戸惑いながらも、せっかく将軍職と言う高い場所に立ったのならば、少しでも変えて行ければと覚悟を決めていた。神などいないと涙を流したあの日、康江は過去を振り返るのをやめた。優しかった最愛の人の死から心を殺し続けるのはよそうと。
(さよなら、雅人…私、これからはこっちの世界で、本当の私らしく生きるから…)
『キスケさん、お疲れ様。例の特使の件のせいで休みが1日だけど、ゆっくり休んでね。』
『ああ、そうする。しかし書類仕事は慣れんの、眠くて仕方が無い。』
『ふっ、何事も勉強ば、清蔵どんも似たタイプじゃが頑張っとるしの。』
清蔵とワフラの代わりに署長代行を努めていたキスケは、げんなりした顔で引き継ぎを終わらせる。元々キスケは頭は悪くないものの、現場で骨を軋ませる方が性に合う為、書類仕事に奔走する署長の仕事は肉体を酷使するよりもきついのだ。キスケは大あくびをしながら、帰り支度を始める。
『ああ眠…清蔵さん、特使の来る日は朝早いんか?』
『どうだろうね、夜は馬車を走らさないだろ?朝開けてからだから太陽がある程度登った位になるかもね。』
『うーん、心配じゃから朝の夜明けには来っわ。まあ半日休んだら疲れは抜けるから心配無用よ!お疲れ様。』
深夜明けのテンションの不安定な高さは清蔵と何処か似ている。二人は過労死フラグだなと思いながら、帰るキスケの背中を部屋から出るまで見続けていた。
『…俺もあんな感じだったなぁ…ていうかキスケヤバくね?普段も機動隊訓練終わってから、術科の教官休み無しにやってて休んで無いらしい。』
『過労死されたらたまったもんじゃなか、ワシらのようにパートナーがいる訳じゃなかからより心配になるば。』
特使の件が終わったら、お見合いをモテる隊員にセッティングしてもらおうかと話す二人であった。
『はぁ、俺一人かぁ、モテる人間はいいの、帰ったら(お帰りなさい、今日は何食べたい?セッ〇スもしちゃう?)とか言ってくれる女が待ってるんだから…』
キスケは一人身だった。元々はエウロ民国の保安官の息子だったが、両親とは喧嘩別れしており、彼が18の時にナハト・トゥに住み着いた。オーガの中でも恵まれた体を持っていた事から、町長に目をかけられ、守衛として仕事をしていた。
器量も悪い訳ではなく、元世界のドゥウェイン・ジョンソンのような彫りの深い顔だが、女にモテた事が無かった。女の子は苦手どころか、社交的な性格故に良く声をかけていたが、靡いてくれる女性と出会う事は無い。そんなこんなで次第に仕事に傾倒するようになり、暑苦しい程の熱血仕事人になり、益々女性が敬遠するようになると言う悪循環に陥っていた。
誰もいない自宅に帰ると、店で買ったビールの蓋を開け、一息に煽る。男一人の部屋は酒瓶が散らかっている有り様で、それを咎めるパートナーがいない事を物語っている。
『ったく、みーんな俺置いて幸せになりやがって…どーせ俺は暑苦しい中年親父ですよーだ!』
微妙に泣きながらそう一人愚痴る。周りの人間が皆善良である事は知っている為、愚痴るのは一人で酒を煽る時だけにしている。酒を入れてひとしきり愚痴って寝るのだが、アルコールを入れて寝るので、眠りが浅く、しっかりと疲れが取れ無い。しかし表面上は体に疲労を感じない為に体をいじめ抜く。慢性的疲れがどんどん蓄積されていくのを、本人は気付いてはいるが、もう自制する気力すら無かった。
『子を残せないなら名を残せ…くそ親父の口癖だったな…せめて仕事で名を残してぇよ…』
疲れた心を少しでも癒す為、キスケは眠りについた。
『シシ君、どう?キスケさんの様子は。』
『引くほどヤバいです、署長…俺、様子見ながら涙してましたもん。』
清蔵はキスケの様子がおかしいのを感じて、偵察に定評のあるシシにこっそり様子を見に行かせたのだが、その有り様が余りにも見てられないものだと知って、悲しい気分になった。
『今まで辛い顔一つ出さなかったから、キスケさんに気を回さなかったのよね…あの手の人は一度壊れると大変だからさ、今度誰かいい子を紹介してやって。』
『うーん、了解です。あの人顔は良いんですけど、暑苦しい性格を好む女性って中々いないから、話しを通せるだけ通しときますね。』
『済まないけど頼んだ。』
ふぅ、キスケさんの感じ、明らかに仕事でそのまま燃え尽きるような感じだったから、偵察してもらって良かったよ。それ考えると俺、かなり幸運だったんだな…それにしても、こっちの世界の男性の好みがよく分からんよ。キスケさん滅茶苦茶いい人じゃん、顔も格好いいじゃん、何で?
『朝日が綺麗…』
康江はナハト・トゥの外れまで来ていた。標高が高く、四方が見渡せるそこは、東の遠方が海に面している事をはっきりと認識出来た。太陽が大地からでなく、水平線から出て来る風景…康江は元世界以来拝めていなかった為、感慨深い気持ちになった。
『やっさんの故郷ってどんな所?』
魔術師の女性が海から出る朝日を見ている康江に唐突に言う。顔に出ていたかと恥ずかしがりながら、康江はしみじみと話す。
『山と海に近い、向日葵って所。夏になると良く海水浴場に行ってたっけ…私は泳げなかったから膝まで浸かって水浴びだったけど。』
上がってくる赤い太陽を見ながらそう話すと、自然と涙が出た。遠い昔、木尾田や清蔵、山田に連れられて海水浴に行った。泳げない康江の為に清蔵は浮き輪を自慢の肺活量で膨らまし、山田が肌の弱い康江の為に日焼け止めを用意していたのを思い出す。しかしその時は木尾田にべったりくっつく事にしか興味がなく、二人の好意に応えてやれなかった。
(あの二人をほんと振り回してたなぁ…)
『閣下、泣いているのですか?』
『ちょっと昔を思い出しちゃって…変かな?』
『いいえ、誰にだって感傷に浸りたい時はあるものです。私も、故郷の事を思うと時々涙しそうになりますから。』
そう言ったノインの目尻にも少し涙の跡があった。康江はその故郷に、しかも自分の父親に酷な事を言う事になる自分に対し嫌悪感を抱きながらも、目の前にいるノインの悟った顔を見ながら、どうにもならない運命を受け入れる事にした。
康江達がナハト・トゥ内に入る二日前、木尾田はエルフランドに入り、特派員がいる酒場へと入った。
『総帥、エルフランドにようこそ。』
『挨拶は良い。それで、現在の状況はどうか?』
挨拶も止め、木尾田は即時状況の報告を求めた。
『はっ、現在皇帝は税金の徴収の手を、本来国の法律で禁止されている自治区にまで広げようとしているそうです。』
『暗君だな…タイーラでの連合会議でも各国の行政外自治区からの税金及び年貢の徴収は禁止されている。皇帝は連合国全てに喧嘩を売っているようなものだぞ。』
ユナリンは各国の首長が集まって取り決めた事を覚えていない。政務は他の人間に任せきりで、10年に一度開催される首長会議にも一回しか出席していない有り様である。そもそも自治区が何の為にあるのかすら理解していない。
この世界には、清蔵達の世界に匹敵する大地に、3億人程の人間しか住んでいない。しかも大陸は二つしかなく、その内一つは北極にあたる場所にあり、居住出来る大地でない為、実質一つの超大陸にそれだけしかいないのだ。広大な大陸で税金の徴収や年貢の取り立ては困難な為、国の中に自治区と言う括りを作り、地域の事を丸投げする方法を採っているのだ。自治区は税金等が免除される代わりに、国の一切の福祉も特典も受けられない。
この方式は国の主要都市周辺に人口が集中するのを加速させ、居住可能域が少なく、危険生物が跋扈する自治区が過疎化する事となったが、結果的に国の運営はやり易くなり、どの国もその法律を変えるものはいなかった。
『総帥、あの暗君、本気かどうかは分かりませんが、まだ何の回答も出していない辺境の地、ナハト・トゥに特使を送ったそうです。しかも特使は将軍の一人、ヤスエ将軍だそうで、先日、兵を引き連れて行ったそうです。』
『…』
木尾田は困惑した。康江はエルフランドにはおらず、清蔵が住んでいるナハト・トゥに向かっている、これは脅迫を以て事を為すと同義だった。
『…このままでは内乱になるぞ。』
木尾田はそれだけは防がねばならないと猛る。心を取り戻した清蔵が再び壊れ、康江がその首謀者になる事だけはあってはならないと。
『君は引き続きエルフランドの動向を探るんだ。私はナハト・トゥに向かったと思われる将軍の様子を伺いながら、サカサキへと向かう。』
(やっちゃん、一体何があったんだ!)
木尾田は馬を疾走させ、ナハト・トゥへと向かうのだった。
†
過労死フラグと出てますが、私自身にも該当してますね…キスケと同じような感じ(酒は煽りませんが)なので心配はされてますw