本官、異世界で署長になりました!   作:劉鳳

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タイトルは開き直る事にしましたw

まあタイトルに出てる通り、爵位持ちが出てきます。


第36話 伯爵って聞くと、コ〇ミのアレが出て来る

 

 

サカサキとナハト・トゥの街道は、開拓課の働きにより整備が進んでいた。土くれを固め、砂利を敷き、それを更に押し固める事によって強固な道となる。更にナハト・トゥ本町と新町、スバリュ集落間の道も整備が進んだ結果、馬車が楽々通れる位の道が出来、スバリュ集落への連絡が容易になった。インフラの整備は生活の流通を円滑にし、人の流入を容易にもする。

 

町長は次に、ブラドック伯領ツェッペリタウンとの街道を整備する事を決めた。ツェッペリタウンは、ナハト・トゥに隣接する自治区で最も大きい町であり、人口20万の人間が住んでいる。ブラドック伯爵は周辺12自治区のまとめ役で、人間的にも、自治区の是政者的にも優れた人物として知られていた。街道の整備はブラドック伯も好意的であり、一度会って話がしてみたいと清蔵の方も思っていた。

 

『ブラドック伯爵ってどんな人かな?いい話ばかり聞くから本人に会わない事にはね。』

 

公務用の馬車に乗りながら、清蔵は町長に話を聞く。今回は開拓課の最高責任者として話し合いをする為、警察官5名を引き連れて町長とツェッペリタウンへと向かっている。距離は馬車で丸一日走れば到着出来る距離にあるが、まだ道の整備が整っていないのか、酷く馬車が揺れる。

 

『あの方は元々、エルフランドに住んでいた侯爵位の貴族だったんじゃ。前皇帝の時代、副宰相として街の安全を守る敏腕政治家だったが、現皇帝の悪政に嫌気がさして、爵位の降下と引き換えに、自治区での治世を安堵されたと言う経緯がある。ツェッペリタウンに住む人間は、そんなブラドック伯の人望を慕って集まった者達が作った町なのじゃ。』

 

清蔵はそれを聞いて益々ブラドック伯に会いたいと思った。民の為にその身を削り、安寧を作ったその人物から、治安を維持するヒントを得たいと言うのもあったが、単純に好人物の素顔を見たいと言う好奇心が強かった。

 

丸一日の馬車移動を終え、清蔵はツェッペリタウンに入った。ツェッペリタウンは雰囲気としてはパリの下町のようなイメージを思い浮かべればいい。整然とした町並み、計画的に行われたであろう治水工事、建築物は石造りで頑丈かつ美しい。行き交う人々は社交的で温厚、ナハト・トゥとはまた違った良さを清蔵は持っていた。

 

『賑やかですね、それでいて治安がいい。』

 

中世世界的に考えると、20万もの人間が集まる都市や町と言うのはかなり規模が大きい。人口は過密ではないのだが、監視カメラやGPSの無い世界で都市機能を維持するのは容易では無い。サカサキの街がここの10倍の人間を抱えていながら治安がいいのにも驚いたが、ツェッペリタウンもそれとはまた違った意味で驚きの連続である。

 

『治安を維持する為に必要な要素とは、一つ、民が飢えていない事、二つ、犯罪を抑止するルールが整備されている事、三つ、教育や流通が行き届いている事……わんがナハト・トゥの町長になった時に目指したのは、この町の掲げるそれらの要素なんじゃ。』

 

清蔵は町長の話をじっと聞いていた。飢えているから無益な争いが起こり、ルールが整備されていないからやりたい放題され、教育がされていないから善悪の概念のネジが飛ぶ。流通が行き渡らなかったら飢えを加速させ、町の循環を悪くしてしまう……町長が掲げた事は日本に生まれた清蔵にとって、当たり前の事ではあったが、この世界はまだ全体的に発展途上もいいところなのだ、その考えに行き着ける人間がいる事のほうが珍しい。

 

『上に立つ者のカリスマって、重要なんだな……』

 

清蔵達は、ツェッペリタウンの中心に立つ、ブラドック伯の邸宅の前に馬車を停めた。三階建ての立派な屋敷は、ここに住む人間の威光がどれだけ強いかを端的に表してした。暫くすると、この邸宅のメイドが清蔵達を出迎えた。愛らしい一本角を持った小柄なオーガの少女、所作は非情に良く、とても愛想のいい笑顔を振り撒きながら彼らを迎える。

 

『ようこそいらっしゃいませ、ブラドック伯爵の邸宅へ。ナハト・トゥの皆さんですね?パパ様からお話しは聞いております。』

 

ブラドック伯はメイド達にご主人様と呼ぶのを止めている。主従関係ではなく、一家族としての関係を築きたいと言う考えだった。故に、メイドやボーイ達はパパ様、パパさん、おやっさんと呼んでいた。メイドに案内され、清蔵達はブラドック伯の執務用の部屋の前へと連れられる。赤樫の頑丈な扉をコンコンと叩き、ブラドック伯が声を出す。

 

『メイリンか、客人が来たのか?』

 

『はい、パパ様。』

 

『うむ、通して差し上げなさい。』

 

低い声は穏やかな印象を清蔵達にもたらした。清蔵は連れて来た五人に襟を正すよう視線を送り、彼らも緊張の中それを行った。そして開けられた扉へと入り、ブラドック伯の前へと並ぶ。目の前にいたのは壮年の男、皺は深いが背筋がしっかりとしており、眼光は穏やかながら鋭さを覗かせている。清蔵達警察官は誰からともなく、敬礼をとった。ブラドック伯はそれを手で制して、第二声を発した。

 

『アール、久し振りだの。そして、君達が警察官と言われる方達か、噂は聞いている、うむ、皆いい目をしておる。』

 

『伯爵、こちらにいるお方が警察官達をまとめる、児玉清蔵さんです。』

 

町長に紹介された清蔵は一歩前へと踏み出し、頭を下げて自己紹介をはじめた。

 

『ナハト・トゥ警察署署長、児玉清蔵警視正であります!ブラドック伯爵、お会いできて本官、非常に光栄であります!』

 

『おお、素晴らしい。立派じゃなかか。既に知っておるだろうが、ワシがブラドック・ツェッペシュ、老いぼれながらこの町の長をつとめておる者じゃ。』

 

凛とした表情で声を出した清蔵を、ブラドック伯は気に入ったようである。元世界以上にこの世界は人の印象を第一印象で決める。それは、元世界よりも人々が人間を見る目がいいと言うのもある。

 

『アールよ、ナハト・トゥが賑わいに満ちて来た事を嬉しく思う。ギャングの掃討、識字率の上昇、インフラの整備……彼が町にやって来てから二人三脚で町を改革したんじゃの。』

 

清蔵の扱いは元ヤマト王国の亡命者と言う事になっている。亡命後、元治安維持隊と言う経歴を生かし、町の安全に貢献したと言う事を伝えていた。実際に清蔵は国を亡くした者であるし、警察官の仕事をしてきたので、経歴は嘘ではない。清蔵は経歴を作ってくれた町長に感謝しながら、異世界の傑物たる目の前の老紳士を改めて見つめる。酸いも甘いも経験してきたであろう彼の表情は悟りを拓いたかのように穏やかな笑みを常にたたえている。一代でツェッペリタウンを築き、自治区最大の町へと発展させた男の瞳は、何処か向日葵市の治安を守る淡島署長に似ていた。

 

『街道のインフラ整備、大いに結構。じゃが、君らが馬車で移動した時に気付いた通り、中々の難工事じゃぞ?』

 

ツェッペリタウンはナハト・トゥから見て、やや標高が高い位置にあり、道も山を切り開いて土を固めただけの道であった。街道の開拓が簡素なものになった理由は、夜盗の存在と山を登っていく工程と言う厳しいものだった。馬車がギリギリであれ通れる位に山を切り開いた先人達の時点でかなりの功績とも言えるが。

 

『せっかくの街道ですので、より道を整備して、物流の促進を促したいのです。夜盗対策としてはナハト・トゥ警察の人間が駐在する拠点を作りたいと思っとります、わんとしてはブラドック伯領とより交流を深めたいと言うのが正直な意見です。』

 

町長が計画しているのはこうだった。ナハト・トゥとの街道をより整備する事で、食料物資の運搬を円滑にする、馬車での移動でも時間がかかり、暗い時間帯は夜盗が跋扈するので、中継地点を作る、その中継地点に派出所や駐在所を併設し、安全を確保する。ギャングを掃討した実績も積んでいるためノウハウは十分ある事……町長はツェッペリ伯がかつてエルフランドと各都市を結ぶ街道の開拓事業でその腕を奮っていた事を鑑み、具体的な提案を出したのだった。

 

『街道は町と町とを繋ぐ動脈、故にブラドック伯の力添えが必要です。幸い、こちらの清蔵さんはナハト・トゥの発展に寄与し、治安維持に対する知識に秀でています。』

 

『ふふっ、そのようじゃな。街道の整備は難工事、危険も伴う。此方も警備隊と開拓員を派遣しよう。警備隊は町から出ての治安維持に疎い、そちらの運用を学ぶ一環で協力しよう、宜しくな。』

 

清蔵と町長は協定書にサインをし、ブラドック伯と固い握手を交わした。本町と新町を繋ぐ道の行程の凡そ百倍、標高差付きで夜盗が頻出すると言ういらぬオマケまでついた比喩抜きの難工事、しかし清蔵には不安よりもやる気しか湧かなかった。元世界でもそうだが、街道のインフラ整備と言うのは、後世何十年、ものによっては何百年何千年と形として残るのだ。元世界で後世に残せるものを為せなかった清蔵にとって、願ったり叶ったりの仕事なのである。そんな過労死上等な目をしている清蔵を、ブラドック伯、町長両名がやんわりと釘を刺す。

 

『安全第一、そして、休息をこまめに。清蔵さん、あんたが忘れがちだからそれだけは言っておく。』

 

『うむ、率先して仕事をするのは素晴らしいが、率先して過労死するのだけは望まぬ、そこだけは気をつけなさい。』

 

『すんません……』

 

 

ブラドック伯との謁見も終わり、本官はナハト・トゥへと帰る途中であります。また過労死言われた……俺、これに関してだけは今だに自覚無いなぁ。必ず誰かに指摘されてからそうなんだってのが俺のパターンだね。俺としては警察の独自の勤務形態に慣れてるせいか、どの位で過労死と言われるのかいまいちピンと来ないのよ。むしろ1日に二時間程度の残業を毎日一ヶ月続けただけで死にそうになっているっての聞いて、どんだけ精神的に追い詰められる企業に就いてるのと思った位。一般人がどの程度平均で働いて休んでるかなんてついぞ頭に無かったなぁ。しかし街道の開拓、正確には既に出来ている街道の拡張と整備だけど、うん、全行程を聞いた時はマジかよって絶望感じゃなくて、脳汁が出まくったのよね、いやぁ、これは益々やる気が出て来たぜ。

 

 

清蔵は心地よい疲れの中、馬車の中で爆睡していた。目を開けて、寝言で笑うその様は、見ている人間を不安がらせた。

 

『町長、署長何か顔がヤバいっすね……あんなイってる顔して寝てる人間初めてっすよ……』

 

『働き過ぎて頭がおかしくなっとるの、清蔵さんのような人間を向こうの言葉でわーかーほりっくとか言うらしい。疲れの感覚がマヒして気付いたら死んでおったと言う事例もある。ぬしら、清蔵さんが過労死しないよう、危ない時は止めてやれよ?』

 

『了解です。この人はなんというか人には甘いのに自分に対しては体を労るとか考え無いからあかんっすよ。素晴らしい人だけにその辺がみんな心配してます。』

 

同行したシシの率直な意見だ。他人には度がつくほど優し過ぎ、対照的に自分の評価は低く厳しい。回りからは何をそんなに生き急いでるんだと心配されているが、本人に生き急いでいると言う感覚は無く、故に誰もが突っ込みを入れる状態になっていた。

 

『じゃが、働き者の大将だからこそ、みんなから本気で心配されるのじゃろう。清蔵さん、わんより遥かに若いんじゃ、過労死なんてしたら、赦さんど!』

 

『むにゃむにゃ……マジ自重しまふ……』

 

『寝言と連動しましたね……』

 

『ふふっ、本当に面白い人じゃ。』

 

眠る清蔵を見ながら、町長は次代を担う人間の姿を清蔵に重ねるのだった。

 

 

 





過労死と頻繁に出てますが、清蔵は人一倍動いています。マスゴミのような一部フォーカスなので某工業哀歌のように本題をやっていないように見えてしまうのはコメディだからいいかと開き直っております。

作者は長編が続くと頭がおかしくなるので、短編をベースに長編、長編もコメディ要素をはさみながら話を書いています。タ〇ちゃんや狂四郎20〇0の作者のように適度にギャグをはさむ形が一番いいかな?そう思ってます。
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