清蔵が来て一年以上経過してます。最初に採用された若手は大体いっぱしになって来た頃ですね。
コモド巡査長の日記
俺達リザードにとって厳しい季節、冬。他の種族よりも大げさな位厚着をして寒さを凌ぐ事で冬を越してきたけど、警察の、開拓課の仕事をやっている間に限っては、冬と言えども薄着位がちょうどいい。
先日署長と町長と、同級生の親友シシとミハイルさん、ロウラにフラノさんという創成期の若手メンバーでブラドック伯と面会したんだ、ブラドック伯はヒューマで80を越える老人だったんだけど、全くそう見えなかった。ブラドック伯は俺達に街道の再整備を共に行う為に助力をしてくれるとの事、開拓は大変だけど、冬の開拓なら体もあったまるし、何より仕事の成果が目に見えて分かるのは嬉しかった。署長は体が頑丈と言っても、かなりいい年してる、だから、俺は署長が楽出来るように頑張るんだ。
シシ巡査長の日記
真冬に入り、街道の整備の最大の障害である雪が降り始めた。ナハト・トゥ側は温暖で余り雪が降らないんだけど、ツェッペリタウンへと登って行くにつれ、景色が変わるのだ。開拓課は本開拓班と、警ら班とに分かれて仕事をしている。冬にサボタージュすると思っていたコモドは、意外な事に本開拓の方に回っていた、リザードは冬に弱いとは何だったのか?薄着で自慢の肉体をどうだとばかりに奮う姿は頼もしかった。武装を開拓道具に代えた親友を守る為、俺達警ら班は夜盗、山賊の類いを寄せ付けないよう警護に目を光らせる。ふぅ、暇が出来るのは冬が明けてからになるかな?風俗嬢のミーアちゃん(猫の獣人、15歳)が辞めてなきゃいいけど……本当、署長は美人のフィアンセと一緒で羨ましいなぁ……
ミハイル巡査部長の日記
あれから一ヶ月も経過した。僕は街道の間に作られた派出所の方で仕事の進捗を書いている。僕を含め最初のメンバーはみんな平巡査から上に上がった。フラノ君と僕は仕事が認められて役職が与えられたのだけど、いざ上に上がると凄い苦労の連続だった。懲戒免職者を三人も出した第三期採用メンバーは署長が怒りを露にする程の問題児揃い、それでも免職された三人を除けば、署長に敬意を持ってる人ばかりだからマシかな?
始末書のリョーちゃんことリョーキ君は第三期メンバーの中ではかなり良くなってきたと思う。派出所周辺の開拓員をしっかりサポートするし、エネルギッシュに動く。まあ、力が有り余ってよく鍬を壊して始末書を書いてるんだけど……
因みにほかの第三期メンバーは、なんというか相変わらず学習能力はお世辞にも宜しく無くて……と言うより階級を守らないものだから流石に僕も怒っちゃって。僕の体がそんなに体格良く無いのを良いことに殴りかかって来たんだけど、僕はそれをヒラリと制した。キスケ師範から喧嘩芸骨法と合気道の目録を頂いた腕をなめてかかった彼らは、ちょっとだけ言う事を聞いてくれるようになった。うん、これは署長も頭抱える理由がわかる。
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どうも、本官街道を開拓している皆さんの報告書や日記を見ている所であります!ん?お前は開拓してねぇのって?馬鹿野郎、俺は署長だよ?他にも色々仕事あんのよ?街道はそれぞれセクション作って数ヶ所の地点で整備してますとも。俺はナハト・トゥ側の端っこから5km地点までの所に落ち着いております。署長が他に顔も出さずテイルちゃんとバ〇ーボーイズしてたら話にならんでしょうが!
しかし街道の難工事、恐ろしいスピードで進んでおります。初夏に完成予定なんだけど、第一期及び第二期採用メンバーが指揮をとっているセクションが猛烈な勢いで登坂地帯を整備しちゃったのよ。道を広げるのに至っては一ヶ月もかからなかったらしい。余りに早いんで道用の石切やってる班がヒイヒイ言ってるよ。需要に対し供給が追い付かないのはちょっとやり過ぎ……
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『せぞさん、お疲れ様。もうすぐお昼だよ?』
『うん、じゃあ、ご飯にしよう!』
書類の目通しを終え、清蔵はテイルと共に昼食をとる。開拓課関係で夜の営みを控えているが、清蔵としてはテイルが愛情を込めて作ってくれた弁当を、テイルと共に食べられるだけでも幸せだった。交際から早くも数ヶ月が経過しているが、この二人は初々しいままだった。片方はスケベな男、片方は無自覚な露出好き、共通するのはそんな属性がありながらかなりの恥ずかしがり屋で恋愛に関しては真剣と言う点である。弁当を食べながらお互いの視線が合うと赤面して視線を外す等、周りから冷やかされる要因であるが、関係は良好だった。
『て、テイルちゃん!』
『なっ、何?』
『こっ、ここの所忙しかったから……その、えー……』
『……う、うん……あ……えー……』
二の句を告げようにも恥ずかしさが出てしまう清蔵、テイルはテイルで返答に赤面しながら……こっそり覗いていたキスケはふぅと息を吐きながら二人の様子に苦笑する。
『全く、二人していつまでも初々しいままじゃ……彼女いない俺ですら見てて恥ずかしいわ。』
二人の様子を見ていられなくなったキスケは、気分転換にサカサキ側の街道の巡回をする事にした。機動隊の錬成訓練は午前中に終え、午後は仕事の進捗を見るため各課の現場へと赴き、現状を視察するのだ。
『ん?何だあの不審な馬車は。』
街道を行く馬車の一つに不審な動きを確認したキスケは、近くにいた巡査数名を集め、取り囲む。警棒と警杖を構えながら、馬車の主を職務質問する。
『そこの方、ちょっといいか?』
『なっ、なんすか?何も怪しい事しとらんですよ!』
怪し過ぎである。先ずサカサキとの取り決めで、馬車を使用する者は通商用の黄色い証明看板を掲げているのだが、その看板が正規のルートで作られているものでない事をキスケは見抜いていた。更に馬車の中には複数の人の気配を感じていた。
『困るんよ中が見えない幌馬車に人を沢山乗せてるんは。ちゃんと旅客用の馬車を使わんとダメだろ。』
サカサキとの取り決めのもう1つは、馬車の用途による制限だった。人を複数乗せる場合は窓のついた中を覗ける旅客用のものである事、荷役用の幌馬車の場合、馬車を動かす人間と予備の人間の二人のみで、複数乗せる場合は予め許可が必要であるのだ。この馬車にはその許可証がついていない。
『おめさん、隠してるものは?っとその前に取り敢えずこれね、中身を調べるにもこのように許可を提示する事を徹底しとるから。大丈夫、何も無いなら直ぐ終わるから。よし、お前ら、手早くな。』
『了解!』
『うっ……』
男は益々挙動不審に陥る。職務質問に入るのには特に決まりは無いが、中を調べる時は必ず許可証を提示し、乱暴な取り調べはしないと宣言する。元世界なら職務質問から持ち物検査等で数時間も足止めされるような場合もあるが、ここは向日葵署流のやり方を徹底する清蔵の教えに従い、乱暴、無愛想、長時間拘束、何より極端な威圧を排除した上で臨む。
『幌の中を確認しますね……警部!五名の女性が乗っています!衣服は着用しておりません!』
『さてと……どういう事かな?何れにせよ、荷役及び旅客用馬車運用の規定に違反してるな、ちょっと署までご同行願おう。尚、おめさんには弁護士を呼ぶ権利及び黙秘権がある。お前ら、丁重にお連れしろ。』
男はキスケの言葉を聞くと、膝から崩れるようにその場に座り込んだ。
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『違法娼館、それも移動しながらか。何処の世界にもろくでもない人間はいるな。』
連行されて来た男の取り調べにより、各町を移動しながら商売をする違法娼館の実態をとらえた。保護された女性達はまだ年若い少女ばかり。中には妊娠しており、腹部が大きくなっている者も見られた。
『サカサキ側の陣地で捕まってたら、あんた取り調べどうの抜きで即殺されてたよ?既に七件、計15人が即刻斬首と聞いているから。』
清蔵は山田から違法娼館の業者や人身売買の業者に対する措置を聞かされていたのでそれを男に説明する。モラルを持たない者には厳罰で対処する、それをあくまで伝えるに留めてはいたが、効果は抜群だった。
『おっ、おいらはただ、ダイゴのダークハウンドって言う組織に言われてやっただけなんだ!ぜっ、銭が、今日を生きる銭が欲しかっただけなんだよぉ!』
男は罪を認め、泣き崩れた。弁護士と意見を交え、奉行所へと送る事になった。数々の証拠についても認めた為、弁護士は減刑を求めて行くと伝え、清蔵もそれに頷き、奉行所送致の手続きを行った。
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ダークハウンドね……山田がしっぽ処か足腰位まで掴んだカン=ムの人身売買組織、その実態は、主要三都市に跨がるマフィアで、アンブロスの貴族とカン=ムの皇族に繋がりを持つ、裏世界の商人集団。木尾田の方も幾らか調べがついていたらしく、規模も把握しているらしい。構成員三万、準構成員を含めると十万規模と言っていた……〇〇〇よかデカイな。
保護した女性達にテイルちゃんが軽く質問をしていった時、いつかは来るなと言うか、やはりと言うか、俺達の世界の子がいたと言う。名前は川上奈緒ちゃん、出身は関東。発見時は衣服を剥がされており、全身痣だらけ、風呂はおろか排せつ物すら処理されておらず、衛生的にも最悪の状態だった。他の被害者同様、現在は診療所に移されているけど、みんなかなりの心的外傷後ストレス障害の症状が見られ、もう普通の生活は不可能と診断されている。
にしても、改めて裏を見るとこの世界にも救いの無い悪党がいるのだと知らされる。山田の調べで、俺達の世界から来て悪党とつるんでいた奴もいたらしい。気付いたのは殺した後だったと言っていたが、山田さん……容赦無いにしても限度が無い?悪・即・斬てなんつー前時代だよ!とっ取り敢えずうちはそんな事はなるだけ、いや、絶対にしないように慎重をきそう……
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川上奈緒は保護された。違法娼館に売られ、酷い仕打ちを受けた事を鑑みて、カウンセラー、医師、警察関係者の全てを女性スタッフに統一していた。特に警察関係者については、同じ世界出身である甲斐未来が付く事になった。尤も、未来は経歴の関係上こちらの世界側の人間になっている為、あくまで女性警察関係者の中で警戒心を持たれない人間だからと言う理由で付く事になっているが。未来は、清蔵の代わりに川上奈緒の容態と状態を見るのと、清蔵の存在を伝える事を頼まれていた。医師に連れられ、未来は川上のいる病室へと入る。
『失礼します。』
『……』
虚ろな目を一瞬こちらに向けたが、またその視線を窓の外に戻す。心の傷がかなり深い事を察した未来は、あくまでこちらからコンタクトを取るような事をしない。質問を投げるのではなく、向こうから話すのを待つスタンスで部屋に置かれた椅子に座る。
『あんた誰?』
『甲斐未来、貴女と同じ世界からここに来た、と言ったら大体分かるかしら?』
『ふぅーん……』
未来は敢えて身の上を明かした。暫くして、川上が口を開ける。酷く無愛想なのは思春期特有のものなのだと理解している為、未来は気にしない。何より本人が最も理不尽な状況下を元世界で経験済みな為、並大抵の事では傷付かない。
『あれ?あんたテレビで見た事ある気がするんだけど……もしかして……』
『察しているなら何も言わないわ。無実である事を訴えたって誰も私の話なんて聞いてくれなかったから。』
川上は目の前にいる人間をニュースで知っていた。連日ワイドショーがある事無い事を放送して、彼女の親族を中傷していた為、名前も知っていた。しかし不思議と、怯えは無かった。目の前にいる人間は何処にでもいる女性、川上が率直に思った感想だった。
『あたし、パパと喧嘩しゃってさ……もう今考えたらすごくつまんない事で……将来の事とかうるさいしさ。最後に言った言葉が、うざい、臭い、死ねってさ……今じゃほんとに後悔してる……』
『思春期の親子はみんな微妙な感じなのね。私の所はお父さんが汗水流して働いている姿を見て育ったから、そんな感情になった事は無かったけど……高校の時にちょっと喧嘩したね。警察官になるって言った時はお父さん凄く反対して。』
未来の家は建設会社で、事務所も家と隣接しており、父が働く姿を見て来たのだ。優しく、部下に慕われた父と喧嘩をしたのは、未来が警察官になると言った時だった。未来も父が反対する理由は危険が伴う仕事に娘が就こうとしているのを危惧しての親心だったと理解はしていたが、自分の望んだ仕事に就きたいと言う気持ちに嘘をつきたくなかった為、喧嘩にまで発展したのだ。
『それであんた……ごめんなさい、未来さんはパパと仲直り出来たの?』
『ええ、私が採用されて、警察学校に行く前に、気をつけてなって。お父さんのあの時の笑顔が今も忘れられない。』
そう笑顔で話す未来を見て、川上は何故かわからないが涙が流れていた。愛する娘を思って、時には嫌われ役になる父親、本当は川上だって分かっていたのだ、申し訳ないと。
『ごめんなさい……悪気は無かったの……』
『何言ってるの?貴女は謝らなくたって良いのよ?何故なら貴女はこの世界で性暴力を受けた被害者なんだから。今は心が落ち着くまで、泣いちゃいなさい。誰も貴女を責めないわ。』
未来の言葉が深く染み渡った。川上の心を壊したのはこの世界の悪心、だから誰も被害者たる本人を責められないのだ。川上は泣くだけ泣いて、泣きつかれて眠った。少し心が晴れたのか、その寝顔は穏やかだった。
『署長、彼女と面会してきました。申し訳ありませんが、まだ署長の事を話していません。』
『そうか……まあ彼女が徐々に戻ってからでも遅くない。それより、彼女はどんな感じだったのかな?』
未来はいきさつを話した。話を聞くと家出の原因はよくある思春期の反抗だったが、家出中にこちらに引摺り込まれた為に何も持たぬまま放り出され、運悪く夜盗に捕まったのだ。心に大きな傷を残してはいるが、幾分か楽になったと言う話を聞いて、清蔵は一先ず胸を撫で下ろす。
『ご苦労様。引き続き彼女の所に顔を出してやってくれ。他の被害者の方もケアに人員を割かなきゃならないから、大変だとは思うけど……すまないが宜しく頼む。』
『分かりました。』
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性暴力の被害者と向き合う、これは口で言うよりも何十倍も難しい。未来ちゃんに押し付けたような形になってしまったけど、下卑た男ばかり見せられて男性恐怖症になっていると思うと、暫くは俺の出番はない。話を聞くと他の被害者はもっと酷かったと聞いている。発見時に臨月の状態で見つかった子はまだ12歳で、そんな体になっても性暴力に晒されていたと聞いた。今は男の顔を見るだけで恐慌状態に陥る程重症らしい。
俺はムカついている。この世界は発展途上とは言え、少なくとも最低限のルールがあるのに、それを守らず、開き直って好き勝手やってる馬鹿がいる事実を、俺は許さない。立場の弱い者を好き勝手していい?俺は許さない。やる事は山積みだけど、俺はこの世界にいる弱者を、少しでも多く救済したい。全部は出来ないぜ、俺は神じゃないし、寿命も頭もたかが知れてる。それでも……
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清蔵は警察署ごと異世界に来たと言うアドバンテージに感謝しつつ、サクセスストーリーは順風満帆には成せない事を痛感した。元世界でも、異世界でも、コツコツと実績を積み重ねる事が大事な事は変わらない。現実と向き合いながら、それでもと抗い続ける気骨を示し続ける事を誓ったのだった。
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ナハト・トゥ警察署現在(清蔵が異世界から来て一年と三ヶ月経過時点)
警察署75名勤務
新町口交番5名
本町駐在所20名
スバリュ派出所6名
ツェッペリタウン間街道派出所15名
サカサキ間街道派出所20名
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清蔵とテイルは結構進んだ関係ではありますが、性格もありDTムーヴVムーヴが多々ありますw
転移者転生者も続々と発見されて行ってますが、あくまでナハト・トゥやサカサキ周辺にいる人間がメインになるので、そこまで発見はされないと(ネタバレになりますが)書いておきます。