本官、異世界で署長になりました!   作:劉鳳

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第3話 警察兼検察及び防衛隊並びに開拓者。経歴長過ぎィッ!

 

 

この世界には、先進国的な警察は無い。更には検察や弁護士もいない。裁判所的ものはある……前時代的、それも日本で言う鎌倉時代以前とか位の裁判と言えたもんじゃないレベルのね。軍や防衛隊はあるけど、極端過ぎる……市町村レベルだと自警団、国レベルだと防衛軍とか国や市町村の規模でまちまちで、まともに機能してるかと言うとやっぱり夜盗の類いが跋扈出来る位適当。前時代的だから、権力者の殆どはてめえ勝手にしか動かないから、見えない所を見ようとはしない。例えそれがこの世界の現実で当たり前だったとしても、日本で生まれた俺にとっては理解出来ない。

 

 

よって俺は最低限の抑止力と言う合言葉を元に、開拓から巡回、更には司法にまで着手する事になった。司法に関しては町長が立場上相応しいと言う事で、町長は裁判長、と言うよりお奉行様かな?それをやって貰う。巡回や警護はもとから守衛としてならして来たキスケが教官となり、俺の世界の決まり事に合わせたものを徹底させる事に。パワハラ気味なのがたまに致命傷だけど、警察学校でも警察署でも熱血鬼教官はいたな……と言う事で、ある程度熱の度合いを下げる形でやって貰う事にした。優しさよりも、激しさが大事な時があるものさってね。何より、日本の警察は犯人を出来る限り殺さず、鎮圧する事が義務付けられている。罪を憎んで人を憎まず。故に、俺は下手なりに逮捕術をキスケに教えていた。キスケはたった1ヶ月で逮捕術をマスターしてしまった……天才。

 

そして俺はと言うと、体力錬成として空手と合気道、うちの部署特有の喧嘩芸骨法を叩き込む教官をしている。逮捕術の教官をしていた濱田課長が習得していた武芸らしいけど、演舞の怠惰そうな動きからは想像も出来ない位にあれよと相手をしていた俺が無力化されてしまったので、これは習得すべきと、個人的に教えて貰っていたのだが、相手を造作もなく倒れさせる動作を、あたかも幻術の類いとここの人らは思ってるようだ……だから誤解を正さねば。

 

『みんな、この動作は幻術なんかじゃない、人間の身体構造を考慮して相手を無力化させる技、練習さえ積めば誰にでも出来るものだよ。まあキスケ警部は運動神経抜群だから参考にはならないだろうけど、動き自体を見てごらん?簡単でしょ?』

 

俺は組み手に付き合っているキスケの体を片手で倒す。……キスケさん、俺一回も教えてもねぇのにもう受け身までマスターしてやがる、凄ぇよ。

 

『体格で劣る人間でも、体の動かし方、体の曲がる方向を見ているだけで、このように相手を転倒させる事が出来る。清蔵さんのこの技、しっかりと覚えぃ!』

 

キスケさん、サンキュー。空手、合気道、喧嘩芸骨法を組み合わせた向日葵市警察署オリジナルの護身及び逮捕術は、師匠たる濱田課長が全国警察の逮捕術競技で優勝した位に強い。一般的な逮捕術は日本拳法と言う武道がベースなんだけど、うちはかなり特異かな?まあ俺は逮捕術の大会は予選敗退な上、警察の大会では空手以外は結果残せて無いけど。そんなこんなで体さばきを教えていると、メンバー中一番ガリガリなミハイル君が直接教えて欲しいと言って来た、うん、その粋だ!

 

『ミハイル君、逮捕術をはじめとした体のさばき方は基本的に力では無く技だ。勿論体力も付けて貰った方がより良い動きを出来るけど。さあ、さっき俺がキスケ警部にやったように、倒してみて。』

 

『はっ、はい!ええい!』

 

おお、思っていたより全然良い動きだ!元々力が無い分、技術を使おうと言う気骨があるだけに無駄な力み無く俺を倒してる。

 

『うん、そうそう、それで良い。君の場合は体格があるわけじゃないから、技術の方をみっちり積めばより高みに行けそうだね。ならば一つ、簡単な技を伝授するよ。試しに俺に殴り掛かってごらん?』

 

『いいんですか?はい!……っうわっ!』

 

俺はミハイル君が出して来た手を持つとくるっと体をひねり、彼の体を倒した。これは合気道の技の一つ、小手返し。応用すると相撲の小手投げにも使えるし、アームロックにも移行出来る。

 

『すっ、凄い!余り力が入って無いのに僕の体が浮き上がった……署長、精進致します、ありがとうございました!』

 

うん、ミハイル君は真面目だな。おっ?早速同僚の新人達に小手返しの感想と反復練習を始めてる。俺の新人時代とはえらい違いだ。頑張れ、みんな!

 

 

さて、時間的にもう二時間は経過したかな?俺は巡回、所謂パトロールってやつだな、それを行う為、数名の新人を連れて町の方へと行く。残りのメンバーはキスケが体力錬成してくれるので任せた。フラノ君、ロウラちゃん、シシ君にミハイル君。この四人を連れて行く事にした。ワフラやキスケが採点した逮捕術の動き、法律の覚え方等が良かったメンバーだね。特にシシ君やロウラちゃんは出自故にやる気が違う。この四人には早速階級を与える事にした。

 

『君達は約1ヶ月の間に俺の世界の警察のノウハウを覚えてくれた。各々引き続き体力錬成と警察の心得を学ぶ事に励みなさい。君達は今日から巡査となり、町を守る。これはその証だ。』

 

俺はバッチを彼等に渡す。桜の御門が一つ刻まれた、銀色のバッチ。これは俺の世界の巡査のバッチと同様のものだが、分かりやすくする為に若干アメリカナイズさせて大きめにしてる。因みに、ワフラの知り合いのドワーフである鍛治職人ランドさん(70歳)が作ってくれたものだ。彼等が着ている制服は俺がこっちに来た時に着用していたものを服飾の匠のオーガであるリョウキさん(55歳)に作って貰った。これからこの二人とは長い付き合いになるだろう。

 

四人はバッチを付けると、目を輝かせた。ああ、純粋さが眩しい。俺が警察学校卒業して巡査になった時はああだったのかなぁ……とは言えまだ四人は体が出来てない(ドワーフのフラノ君ですら俺より細い)ので極力無理はさせないつもりだ。その為に彼等には警仗を持つ事を許可した。神道流杖術をテイルちゃんに仕込んで貰った(俺が一年掛かって覚えたそれを1週間でマスターしてやんの……テイルちゃんはかしこいな)ので極端な事態にはならない……と信じて。

 

 

町に到着する。なるべく威圧感を与えないよう徹底させる。警察は不審な人間以外には威圧感を与えぬ行動を心がけている。何よりも弱者の味方だと言う基本を忘れてはいけない…どこぞのなんとか県警はそれ守ってねぇ不祥事だらけだけど。

 

先頭に俺、直ぐ後ろに三人、最後尾にシシ巡査(勤務中は階級や役職で呼ぶ事にしてる)が歩く形をとった。巡回は二人一組とか何人かでバディを組む。一人だと死角が発生してしまうからだ。元の世界だと平和すぎて1日何もないなんて事がザラだけど、やはりこの世界はそうじゃない。町を見渡すと何かに怯える者、何かをやらかそうとする者が見える。俺はあくまで自然体を維持しながら、後ろを歩く三人に話す。

 

『町の人の様子がおかしい。何時もこんな感じなのか?』

 

『署長、この町にはギャング組織〔コーリン〕が暗躍しとっとです。奴ら、町長から助けて貰った奴隷階級の人間だったんですけど、町に住んだ途端、縄張りを作って強盗や強姦を働いてる町の仇やとです。』

 

フラノ巡査が怒りの篭った声でそう答えた。成る程ね……コーリンが幅きかせてるせいで町の雰囲気が悪いと。そういやワフラ達が言ってたな、町長の恩を仇で返した馬鹿達が町で暴れてると。門番をしていたのはこれ以上の禍根を外側から入れない為だったとも聞いた……

 

『何処の世界にもいるんだなそう言う悪党。ならば決まりだ。この町からギャングを壊滅させよう。決して無謀じゃないさ、俺の住んでた所なんて人口五万人に対して警察百人いなかったんだぜ?

 

凶悪な人間って言っても、何の訓練もしていない奴に後れをとるような事はしない。嫌……人でなしに負ける事なんて警察がやっちゃならない事なんだ。』

 

そう、向日葵市は昔から平和だった訳じゃないのさ……かつて向日葵市内の暴力団検挙に参加した経緯があるんだよ俺。就任から2年しか経過してないけつの青い青い小僧の頃に。俺の心の傷だったそれを思い出しつつ彼らに今の矜持を話す。

 

 

戦後の混乱で駅前を不法に占拠した在日系移民、それが向日葵市を拠点とする指定暴力団白戦会の始まり。構成員五百人、関係者千人と言う、五万の小都市には不釣り合いな程の暴力団。前の署長の頃までは賄賂賄賂で警察もグルだった……

 

それが俺が巡査になってから今の署長になり、不正を根絶する動きに乗り出した。署長は良くも悪くも警察の中の警察。暴力団関係者を全て洗い出し、次々と検挙するよう皆を鼓舞した。そういや刑事課の是澤課長がその頃がうちの課の華だったとよく言ってたっけ。頭の下がる思いです。

 

曲がった事が嫌いだった署長はかつて大都市である有乃浜市の方で暴力団を根絶する為組織犯罪対策課でならした敏腕刑事だったと言ってたね。賄賂まみれの警察幹部に疎まれて向日葵市に署長として飛ばされたけど、腐る事無く改革だもんね……

 

様々な立証が取れて白戦会の本部にカチコミに行った時、向日葵市の警察の半分たる50人の中に俺がいた。足がガタガタ震えてたよ、頼むから事務所を大人しく捜査させてくれと。俺の願いは虚しく、構成員の若い衆が暴れ出した。こちらも負けじと警杖と警棒で応戦。あの時の濱田課長、鬼のような強さでかっこ良かったな……

 

それでも収まらず、しまいには事務所から銃声が聞こえて来た。漏らしそうになるのを堪えて、俺は指揮官の指示に従い、銃を抜き出し、構えた。銃なんて撃ちたくねぇ、俺の心からの叫びだった。数分の静寂の後、同級の木尾田が数名の警察と共にシールドを持ちながら突進して行った。十回は銃声が響いたな……そしてまた静寂の後、警察全員で事務所の中に進入、そこに広がる光景は……胸を撃たれてピクリとも動かない木尾田と、幹部全員を取り押さえた他の同僚の姿。組長は腹に一発撃たれてうずくまってたな。

 

……そう、平和な向日葵市で、大事件は起こってたんだ。あの時から俺は頭の片隅に記憶を追いやっていたんだ。木尾田の……冷たくなった体を思い出してしまうから。その時の自分に渇を入れたいと思ったのもあった、この世界で俺一人飛ばされて心を入れ直したのは。俺の燻り続けていた魂が、今になって熱く燃えて来たのは。

 

『フラノ巡査、そいつらについてもう少し詳しく教えて欲しい。それから、この世界にあって俺の世界に無いものも。』

 

『了解。シシ、ロウラ、ミハイル、おめ達も何かあったら署長に。』

 

『『『了解!』』』

 

ここの人達は強く、そして優しい。だからこそ、失うなんて事は出来ない。まずは組織について詳しい事を知らなければ……

 

 

巡回中、幸いにも事件は発生しなかった。俺達は取り敢えず署に戻る。当番をキスケらに交代して、俺は町の方へと再び赴く。町長宅に行き、勉強会をと考えた。ここに来てから俺が教えるばかりだったので、今度は俺が教えてもらおうと考えたのだ。

 

『清蔵さん、あんたの方から教えて欲しい事があるんか……何やら重い責任を感じとるように思うのう。』

 

町の長になるような人間だ、流石に察している。俺はこれまでのいきさつを話した。俺はこの世界について、まだ殆ど何も知らない。この先ここに住み続けるのならば、知識は有りすぎると言う事は無い。

 

『魔法……おめさんの口からそげな言葉が出たのは初めてじゃな。ああ、この世界には存在する。文明が進まんかったのもそれが原因じゃなかかと多くの学者は推測しちょる。まあわんとしては清蔵さんの世界の車の方が魅力的に見えるがの。』

 

やっぱ車気に入ったんすね町長……話が逸れた、俺は改めてこの世界における文明の中身を知る事となった。同時に銃を持っている優位性が絶対でない事も。豆鉄砲と炎のデケェ弾どっちがヤバイってそりゃ後者よ。

 

『コーリンの人数は凡そだが四十人と言った位だ、しかし奴らが幅を利かせている理由は魔法を扱える者がおると言う事。わんもどう対策を取るか決めあぐねとる。』

 

俺もその点についてかなり迷っている。ワフラに頼んでニュー南部型の銃と弾薬を作れないか聞いているが、どうやら出来そうだと聞いた。問題は量産化した場合、それが敵対勢力に有効か?仮に有効だったとして、敵対勢力が模造品を作り反撃するのではないか?問題はそこだ。しかしそれ以上に気になった事があった……町の方で見た、怯える者、特にマーちゃんやアーちゃん位の子供の姿を思い出した。あの子供達が怯えて生活する様を、指を咥えて見ているなんて出来るだろうか?そしてそんな状況にあって、殉職した木尾田がもし生きていたら、黙って見ていたろうか?答え?もう既に決まってる。

 

『町長、俺は死んだも同然の身。町の治安を守る為、職に殉じます。ワフラに頼んで俺の世界のある兵器を増産して貰っていますが、それをギャングや他の連中に盗まれぬよう、管理と養成をしたいと思います。』

 

 

清蔵、この世界にて、銃の量産化を勧める(あくまでも警察署内の者に限ると念を押して)。

 

 

 

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