本官、異世界で署長になりました!   作:劉鳳

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転移者増えてってますが、あくまで転移者来訪も警察の職務案件なのであんまり転移者達の出番はないです(無いとは言っていない)。


第40話 皇帝(ババァ)の余波、今だに強く

 

 

ここはどこだろう……私は一体……さっきまで私は確かに海に投げ出され、凍える海で死を待つ身だったはずだ。しかし、今は海の中にいない。身体はかじかんではいるが、竜飛の沖合に比べれば大した寒さでは無い。しかし、身体が濡れていて体温が急速に奪われる感覚は一緒だ。早く身体を暖めないと死んでしまう……ねっ、眠い……寝たらそのまま死んでしまうであろうが、何だかもうどうでも良くなってしまった。

 

思えば出港した時から、私の乗る漁船のスケジュールは狂っていた。出港して半日、天気予報の予想を外れ、津軽海峡の天気は荒れに荒れた。今考えたら、あそこで引き返しておけば、親友も無事に生き延びれただろう。しかし、友人は漁を中止する頭が無かった。それは私も同様ではあったが。激しい波風を受けながら、縄を落とした時、一際大きな波が強風と共に押し寄せて来た。気が付いた時には船が転覆し、私と友人は海へと投げ出された。泳ぐこともままならぬ嵐の中、私はもうどうにでもなれと思っていた。だから、今更生きる事に執着心は無い。もう、このまま眠らせてくれ。

 

 

『ん?……ここはどこだ?私は一体……』

 

彼は気が付くと白いベッドの上だった。照明が蝋燭であるなど、やけに古めかしい所があるものの、そのベッドで寝ていると言う時点で自分が病院に運ばれたのだと気付く。生きていた、その喜びは全く無かった。何故なら彼の友人は目の前で海の藻屑となって消えたのだから。暫くすると、看護師と思われる女性がこちらに近付いて来たのが見えた。彼女の耳は心なしか長く尖っているように見えたが、目覚めたばかりの彼にとっては些末な事だった。

 

『あっ、目覚められたんですね?』

 

酷く優しい声で彼に声をかける。彼はそれに対してどう答えるべきか迷っていたが、空腹で腹が鳴った。

 

『あっ、何も食べられて無いんですか?少々お待ち下さいね、給事の方に食事を作ってもらいますから。』

 

『いや、私は……』

 

そう声をかけるが、身体に上手く力がかけられないのか、声が小さく、彼女には伝わらなかったようだ。彼は改めて自分の身に起こっている事を振り返った。漁船の転覆、海に投げ出され、友人が強風と荒波に揉まれて沈んで行く様を見ながら、自分も身体が沈んで行く感覚の中意識が薄れて行ったはず。しかし、溺れた感触は無く、しかし寒さだけが身体にまとわりついていた。時間にしてあっという間に感じたが、意識が無くなっていた事から、かなりの時間が経過している可能性もある。陸上からかなり離れた沖合にいたはずの身体が、こんな所にある時点でそれは確かだろうと理解した。しかし船に救助された線は彼も考えなかった。ライフジャケットは装備していたが、殆ど役に立った記憶が無い。友人も着用していながら、海に引き込まれて行ったのをこの目で見ているのだ。

 

考えれば考える程に訳がわからなくなった彼は、思考を断ち、先ずは身体を休める事に努めようと決めた。数分程して、食事が運ばれてきた。給事の人間の頭には、はっきりと角が生えており、肌の色が青かった。

 

(病院でもなまはげのコスプレをしてるのか?私は男鹿まで運ばれたのか?にしては妙だな。)

 

取り敢えず彼は出された食事に口を付ける。肉を煮込んだスープのようだ。薄口ながらも冷えに晒されて来た身体には最高の味で、彼の身体をしっかりと整えてくれる。

 

『ごちそうさま、ありがとう、助かったよ。』

 

『お粗末様、低体温の気があっだそうだがらスープが良いだろうと思ってね。所でお前さん見ね顔だな、国はどごよ?』

 

『青森の竜飛だ……訛りがあっげど東北とは違うんが?』

 

『うーん、聞いだ事ねぇ地名だ、警察のお偉いさんなら知っでるがも、ちょっど呼んで来るよ。』

 

訛りは東北のそれに近いが、地名を知らない?彼はそう疑問に思ったが、今は空腹が満たされ、少しまた横になりたいと暫し睡眠を摂る事にした。

 

 

『……でなわげでして。』

 

『成る程、ありがとうございます。直ぐに会いに行きます。』

 

清蔵はスバリュ集落との街道に倒れていた患者が運ばれ、目覚めた時に出身地を青森だと行ったと言う人間の所に向かう事にした。

 

『転移転生者は確定か、くそっ!』

 

清蔵は二年経った今も、転移転生者がこちらへと飛ばされてくると言う事実に舌打ちした。皇帝の道楽で行われた召喚儀式の余波が今だ健在である事実、イライラが募るのだ。

 

『最近は康江ちゃんのお陰で老後の隠居生活をしているらしいが、あのババァ、死んで勝ち逃げなんて許さねぇからな!この始末つけるまでは絶対許さん!』

 

 

『どうも、カン=ム自治区警察本部長を務めさせて頂いております、児玉清蔵と申します。』

 

『初めまして……私は青森の竜飛崎と言う所に住んでいる漁師、棟方智春(むなかたともはる)、45歳。マグロ漁に出ている最中、船から投げ出され、海でそのまま低体温症を引き起こし、死んだと思っていたが、何の因果か助かった死にぞこないです。友人は、私の目の前で波に呑まれ死んだ……私しか病室にいないと言う事は、そう言う事です。』

 

清蔵は彼が即座に転移者である事を理解した。見つかってから迅速に運ばれてからの状態を見るに、転生者特有の無傷でピンピンした形では無かった事で直ぐに分かった。不幸な事に彼の友人は第二の人生と言うリセットにもかからず、亡骸へと変わったのだと悟った。

 

『漁師の方ですか、俺も実家は漁師をしていましてね、向日葵市の富土島(ふとしま)って所です。太平洋側の地域でして、貴方の所のような荒々しい漁場を知らないものですから、低体温症の恐怖を理解出来ず申し訳無い。』

 

『なに、我々北の漁師にとっては覚悟はしていた事です。一攫千金を狙う為に、少々無理な天気で出てしまったが、それも覚悟の上ですよ……所で、ここはどこなんです?先ほど食事を持ってきた親父さんはなまはげの格好をしていたが、それにしてはリアル過ぎた。訛りから東北のもんだとも思ったが、青森を知らないって所で違和感が確信に変わったものでね。』

 

清蔵は彼に事情を話した。彼は驚きはしたものの、納得した様子だった。出されたスープの肉は食べた事の無い種類の肉、味付けも日本と言うより隣国の台湾辺りに近い。かつ、人間の見た目が違うのだ。

 

『漁師の私がこの世界でどう生きるか、悩むな。貴方は警察をしていると聞く、見た所かなり上手く行っているようですな。』

 

棟方は何処か達観した様子でそう聞いてくる。自然を相手に商売をしている彼にとって、地に足をつけている事は、そうそう死なない事を意味している。四方を海に囲まれ、たかだか全長10m程の船で立つ事もままならぬ海の上で生活している彼にとっては、口で悩むと言う程困惑は無かった。

 

『そうですね……まあ俺は運が良かったと言うかなんと言うか……この町だったからどうにかって所が大きいですね。そうだ!棟方さん、この町では今、開拓が随時進行中で色んな仕事が溢れています、もし良かったら、町長に斡旋してもらいますよ。』

 

 

棟方智春、45歳。漁師だった男は、異世界での人生をスタートした。町長と清蔵の計らいで、仕事の斡旋をしてもらった。彼の目を引いたのは、ナハト・トゥのトゥベイ集落の仕事だった。自治区の東端に位置し、海をのぞむそこは、小さな漁村であった。ナハト・トゥ本町からスバリュ集落と共に最も離れた場所にあり、そのスバリュ集落よりも人が少なく、豊かな漁場の割に魚の需要が少ない為に重要視されなかった所だったが、街道の開拓計画が最近進みはじめ、魚の売り込みが見込めると言う。彼は勿論乗り気だった、同時に死んだ友人の分まで幸せを掴みたいとも決意した。

 

『私はまた、漁師に戻る。やはり、海の男は、海に生きて天寿を全うしたい。』

 

 

逞しい人だなぁ……おっと、どうも、清蔵であります。トゥベイ集落、俺も最近知った口よ。なんと言っても海沿いは全然頭に無かったもんだから存在を忘れがちなのよね。漁師の息子が聞いて呆れるよこれじゃ。と言うよりタイーラ全土は、島国たるミクスネシアや領土の半数を島が占めるヤマト王国以外は広大な一つの大陸に纏まってるもんだから、海域の重要性がいまいちだったりする。と言うか島の概念にピンと来るのがその二国だけだからね。なんにしても漁業が発展してないってのはもったいないな、だから棟方さんは経験を生かして行ったんだな。怪魚たるマグロを相手にしてきた人だ、あの人ならばきっと凄い事をやってのける気がする。

 

 

『足漕ぎ式のスクリュー船か、大きさもあっちで乗ってた船とそんなに変わらん。違いはエンジンが無い分かなり軽い事かな?』

 

棟方はトゥベイ集落にある船を見ていた。スワンボート的な足漕ぎ式である事を見て、煩わしい帆船の操作をしないで済む事にホッとしつつも、魚探やGPSと言ったものが存在しない前時代感は否めない。尤も、棟方の住んでいた竜飛崎は、青函連絡船がかつて通っていた周辺であり、山当てはしやすく、GPSは殆ど使わなかったのだが。

 

『一から何かを始めると言う程は難易度は高くないかな。先ずは魚は何が採れるか、毒のある魚はどんなものがあるか、そう言う基本的な事から知らない事には始まらん。』

 

長年の経験と勘はこの際忘れ、先ずは基本的な事からスタートする。棟方はそうやってマグロ漁も成功させていた。

 

『木崎……死んだおめの分、こっぢで生ぎでみせっがら、あっぢで宜すぐな。』

 

 

皇帝の儀式の余波は二年近く経ってもこのように発生している。新たな余波に巻き込まれた者達がやってくるのは、それから僅か一ヶ月程の事だった。

 

 

 

前川龍輝(まえかわりゅうき)、29歳。独身。友達がいない訳では無いが、大学を出て卒業し、社会人になってから、友人達との付き合いが希薄となり、会社でも上手く良好な関係を築けず、鬱を発症していた。中身は悪い人間ではないため、会社も休まずに出てきているし、特段人間関係がギクシャクしている訳でも無いのだが、人から評価もされない。

 

『何を間違ったんかな……みんなと変わらんように必死に生きてきたのに。』

 

彼は彼なりに努力を重ねていた。資格取得の勉強、会社の営業……だが、どうにも成果を実感出来ないし、特段悪い事をしたわけでもないのに弾かれる疎外感を感じていた。

 

そんなある日、彼は何時ものように会社の定時を越える時間に仕事を終え、同僚達に軽く挨拶をして帰りの電車に乗る。残業がこの国の悪しき習慣なのか、ピーク時を過ぎているにも関わらず電車は満員だった。痴漢に間違えられないように、手をつり革両手に持ち、リュックは前にして足を棒立ちに構える。これだけの事をしてもたちの悪い人間の流れ弾を受けたり、或いは日本の痴漢犯罪の現状を逆手に取った悪辣な女によってありもしない痴漢の罪を擦り付けられる事もある。彼は毎日通勤帰宅の地獄の時間を過ごす。時間帯をずらしても、大都市東京の人流は尋常ではなく、気休めにしかならない。何より、通勤だけで二時間かかる所にアパートがあるため、時間帯をずらしてまで休息の時間や資格の勉強時間を削りたくは無かった。

 

(はぁ……早よ着いてくれへんかな。)

 

そう願っても時間は同じとわかってはいるが、満員電車に慣れるなんて事は無い。仮にあっても満員電車を心地よい等と思う事は終生無いだろう。一駅越えた頃、露出の高い女子高生の集団が入って来た。働き始めて数年、こう言った輩が来る度に肝を冷やす。痴漢対策の為に用意してある法律違反な女性専用車両に乗らず、平然と満員電車につかつかと入るその連中を彼は正直嫌悪していた。周りの男性陣も同様に妙な言いがかりを付けられないように距離を取ろうと必死であるが、人が入れる余地が無い位に押し込まれている中それをするのは困難である。女子高生の集団はそんな苦労等知った事かとかなりのスペースを陣取り、iPhoneやスマートフォンを片手にゲラゲラと大声で喋る。今回の女子高生の集団は何時もの女子高生に比べてたちが悪そうだ。

 

(くそっ、マナーもエチケットもなってへん連中や!)

 

そうは思っても、口に出来ない。注意したのを逆恨みして、この人、痴漢ですと叫ばれれば、鉄道警察にそのまま引き渡される。鉄道警察側はそのような不当な逮捕は無いと主張するが、現にそうとしか思えない事案が未だに発生しているのだ。向日葵署の淡島辺りが上に立つなら根本的な解決案の為に鉄道警察そのものを鍛え直しそうではある。

 

(……くそっ、何でこんだけ気をつかっとんのに、俺は何も良いことあらへんのや。)

 

身をよじり、目線を女子高生に合わせぬよう最新の注意を払っていた。しかし、女子高生の一人が、突然彼の胸ぐらを掴み、激昂してきた。

 

『おい、おっさん、あんたこの娘の胸と尻触ったろ?あたし達が見てんだよ!』

 

見た目通りにたちの悪い連中だった。触られたと主張される当の本人は、被害を受けたような顔をしているが、鬼の濱田が見たらそのままぶん殴っていたかも知れない程、芝居臭かった。しかし周りの乗客にいた男二人が彼を取り押さえる、何の疑いもなく押さえにかかる様を見た彼は、頭が真っ白になる。認められないながらも頑張って来た彼の人生が終わった、そう悟ったのだ。

 

『警察に突き出されたくないよね?とりあえず次の駅に降りよっか♪』

 

ケタケタ笑う女子高生達と、現在自分を押さえている男二人がグルであったのに気付いた。このまま身ぐるみ剥がされるのだろうと諦めたその時、召喚の儀式の残り香が彼を含めた十数名を巻き込んだ。

 

 

『……ねぇ、何でこの人ら町役場じゃなくてこっちに集めたの?』

 

『ワフラ警務課長を交えて善悪の判断を仰ぎたいので。仮に悪い人間だとしたらそのまま拘束出来るんじゃと思ってこっちに連れて来ました、あっ、心配なさらずとも町長には話つけてます。』

 

『おっおう……流石フラノ警部補……』

 

フラノが複数の若手と共に、前川龍輝と痴漢でっち上げ集団、及び周辺にいた数名の一般人を連れて、本部にやって来た。フラノは伯父であるワフラや清蔵程には人を見抜く力が無いと自覚しており、拘束はしなかったものの、一応の身柄をこちらへと移した。

 

『皆さんこんにちは、カン=ム自治区警察本部の児玉清蔵であります。皆さんが日本から来た事は察しております、このような事態になった要因を話しますので、それぞれ自己紹介をして頂けたらと思います。』

 

清蔵はそう言うと、目の前の彼らに自己紹介、つまりは自分の身元をはっきりさせるよう促す。ひとしきり自己紹介が終わり、最後に前川が、何処か冷めた目で自己紹介をする。

 

『前川龍輝、29歳独身。職業は会社員、出身地は神戸市長田区……はぁ、もうどうでもええわ。』

 

清蔵は彼の冷めた目と言葉が気になったが、自分の身元を明かした以上は要らぬ質問を回してはならないと決めていたので次の質問をする。痴漢でっち上げグループの五人は前川をわざとにらみ付けるように痴漢の内約を話した、当然ありもしない事であったが。このグループは示談金を取る前に鉄道警察が来た場合の対処までやる常習犯であり、鉄道警察もなんの疑いもなく彼らの話を聞いては、罪なき一般人を検挙していた。警察と言う響きから、彼らは何時ものようにそうして身の潔白と言う名の嘘を話した。

 

その話を聞きつつ、清蔵は前川の方にも目を向けた。彼の悟っているような目は、犯罪を犯して呆然としている者の目では無い、無実を勝ち取れない、もう全てどうでもいいと諦めている冤罪者の目であると直感していた。清蔵はそのグループの話を聞いた後、敢えて前川に話すのを一番後にするよう、巻き込まれた他の転移者に話を聞く。彼ら彼女らは満員電車の中、煩く喚くかのグループの行動に嫌悪していた事、前川が両手共に吊り革に手をかけ、痴漢等していない事を見て分かったものの、自分達もターゲットにされかねない恐怖の中にいた事を隠さず話した。そう言った話をする度に、グループの連中が

 

『適当言ってんなよてめぇ!』

 

と喚くが、清蔵がにこやかに

 

『まあまあ、取り敢えず話を全員に聞いてますので、少し静かに。』

 

と取り繕うと、彼ら彼女らは舌打ちをしながら黙った。もし清蔵が本来の世界だったら、グループの五人を即座にわからせ(物理)ていただろうが、あくまでも先ずは話を聞く事が重要な事だと言い聞かせながら押さえる。なんと言っても清蔵が話す後ろには、厳しい表情で彼らを見るワフラが善悪の有無を判断する為に控えている。彼の嬰眼を以てして、転移者らの人間性を判断する算段である。そして、最後に回していた前川の方へと質問を投げ掛ける。

 

『前川さん、こちらにくる前の状況を、覚えている範囲で良いので、話して下さい。』

 

質問の言葉そのものは、他の者と全く同じであったが、清蔵は他の者よりも優しい口調でそう告げた。当然他の者にも基本物腰柔らかく言葉をかけたが、前川の表情を見た清蔵は細心の注意をはらって言葉をかけていた。

 

『会社を退勤して、何時ものように電車に乗った。吊り革を両手に回してたんは、痴漢に間違われたり、悪質な痴漢でっち上げに巻き込まれんようにする為や。大抵のサラリーマンはみんなおんなじように窮屈な出勤退勤をしとるわ。俺、電車内のマナーを守りながら帰る、ただそんだけの事をしとっただけやのにこんな面倒事に巻き込まれて……なあ、児玉さん……警察は話を聞いてくれんのやろ?同期の兄さんが一ヶ月前、似たような感じの被害にあったんや、その人は痴漢をするような人や無かった……なのに、警察は話を聞こうともせんかったってね。あんたもそうなんやろ?ただの点数稼ぎなんやろ!なぁ、俺らなんもしてへんサラリーマンを虐めて、何がおもろいんや?!』

 

彼が自棄になっているのを悟った清蔵は、こう言った。それは清蔵も世間の不条理を見てきたからに他ならない。

 

『ああ、断っておきます、警察を名乗ってはいますが、ここは異世界ですよ?私としてはむしろ貴方の話をよく聞きたい。俺のいた向日葵市の警察署はね、警察の負のイメージを根底から覆す為に、中身から変わろうと本当に市民生活の為の警察をやってた所だった。その思いはこの異世界においても変わらない。だから、話せる限りの事を話して下さい。何でもは出来ませんが、可能な限りは受けとめます。』

 

清蔵の目は、前川をまっすぐ見つめていた。澱んだ事務的な目ではない、真剣な目を向けられた前川は、態度を軟化させ、話せる事全てを話した。話し終えた前川の顔はすっきりとしたものに変化し、清蔵もそれを見て安堵の表情を浮かべた。

 

『ども、おおきに……少しは気が落ち着きましたわ……』

 

『こちらこそ、ご協力感謝します。辛かったでしょう……』

 

清蔵はその後、後ろにいたワフラと話しをする為、席を空ける。その間は未来やロウラ、シシ達が彼らと同じ部屋にいる。前川の発言に対しての報復行為を防ぐのと、清蔵達が不在中の話の内容等を聞き逃さぬ為、何より保護している対象の自殺等の防止の為である。

 

『ワフラ、どうだった?』

 

『前川とか言う若者とグループではない数名、これは何も悪い感じは無かった。ただあの五名、あんたが思っとるように更正が必要ば。あのままこの世界はおろか、ナハト・トゥの町に解き放つのは、はっきり言って何の利もなさん処か、新たな禍根を生む。何れにしろ、清蔵どんの世界の人間だ、最終的にはあんたに任せる。たとえ向こうの世界で罪を犯していたとしても、こっちの世界でそれを裁けるなんて事は出来んでな。』

 

『そうか……ありがとう、ワフラ。』

 

清蔵はワフラの意見を聞くと、転移者達の待つ部屋へと戻った。戻ってすぐに驚愕する事になるとは露知らず。

 

 

あっ、あの……本官目の前で発生した事案に声も出ません。すみません、未来ちゃん?ロウラちゃん?何で貴方達は男二人の腕を締め上げてるんですか?シシ君もちょっとびびってるし……

 

『本部長、この人達、私達のお尻を触ったんですよ?!何が痴漢野郎ですか!この人達の方が痴漢野郎ですよ絶対!』

 

『児玉さん、公務執行妨害と強制猥褻の現行犯です!同じ転移者として許せません!』

 

こっ怖っ!ってそう言う事だったか。全く、いくらこの人らが可愛いからってセクハラはダメだよ?しかも女とグループ作ってんのに何してんのこいつら?少しは寛大な処置にしようと思ってたのに。

 

『て言うかさいってぇ!あんたらがそんなんだとこっちもそう見られるんですけど?恥を知れよ!』

 

おう、そこのメ〇ガキ、ブーメランだぞこら……美人局型の痴漢でっち上げしてた人間のてめえらが恥や外聞を気にするとか良く警察の前で言えるな?おじさんちょっと頭にきん〇ま……頭に来たよ。

 

『ロウラ巡査長、未来巡査、その二人を取り調べ室へ。君達には、弁護士を呼ぶ権利と黙秘権がある。その代わり、適当な事を言ったらここの人達怖ーいから、言葉には気を付けてね。』

 

二人は腕を締め上げられた状態のまま男二人を取り調べ室へと連行していった、あの二人腕っぷし強いな……女三人は、まあなんと言うかあるある展開だなこれ。手のひらクルクルってか?

 

『ありがとうございます、あいつらに脅されて美人局やってたんです!』

 

顔に嘘つきですって書いてるなオイ、こんな奴らに騙されてんのかよ鉄道警察は、レベルどうのより人としての倫理を疑うぞ?人の人生台無しにしながら点数稼ぎとかよぉ。天下の警視庁の流れにいんだろ?しっかりしやがれ!

 

『君達にも話を聞かせて貰おう、これは警察としてではなく、異世界側の人間からの願いだ。この世界にとって転移転生者は異物だ、更には悪党に対する心構えも数段苛烈だ。特に嘘に対するリアクションはとんでもなく激しい、だから嘘偽り無くこれまでの事を話しなさい、分かった?』

 

そう言った後、三人共怯えた顔で高速で首を縦に振った……XJA〇ANのコンサートじゃねぇんだから一回でいいって。こいつらメ〇ガキについては取り敢えず保留だ(解放するとは言っていない)。

 

『さて、皆さん。全く違う世界に来て路頭に迷っている事でしょう。しかしここナハト・トゥでは働く事に関してなら、どこ出身かは問いません、住居は私が町長に掛け合ってどうにかします。』

 

そう、基本的に元世界の大半の人間は善人で常識人なんだ、それを無下にするのはダメなんだ。俺だって最初来た時にこの世界の親切に出会えたから今がある。元世界に戻れない悲しさはあるだろうけど、寂しくないよう、転移者には優しくだ。ん?痴漢でっち上げグループ?リアル犯罪者にはお灸を添えるよ。前川さんの人生を狂わせる事してんだから。

 

『児玉さん、俺、会社では誰にも認められなくて、鬱になってたんです。この世界でも認められへんかったらと思うと……』

 

真面目な人なんだなこの人は、失敗した事を執拗に責められて心が病んでたんだろうね。でも大丈夫!この世界の人間は元世界の人間よか確実に人の頑張ってる姿ってのを評価するから、真面目な人間が馬鹿を見る事は無いよ。

 

『まあこの世界は便利な世界では無いけど、退屈はしないさ。なんと言ってもこれからの所だからね。』

 

それでも息苦しい時は棟方さんの所に頼もうかな?あの人は人生経験も豊富で、俺以上に人を怒らない感じだから前川さんと意外と合うかも知れない。この世界に来てまで、お前と仕事するの、息苦しいよなんて言わせないさ。絶対大丈夫とは言えないけど、少なくとも12自治区や隣国のサカサキと行った目の届く範囲ならば、俺が守れるからね。

 

 






基本的に問題のある人間を解き放つのは清蔵もワフラ同様難色を示している感じですね。曲がりなりにも(酷くね?)警察官ですからね、その辺を考慮してる辺り清蔵はまだ常識人だと思います。
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