本官、異世界で署長になりました!   作:劉鳳

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第44話 名誉始末書の男

 

 

どの警察官も叩き込まれ、暗記している法律がある。それは警察法の第二条第一項である。

 

・警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。

 

実際にはこの第二条第一項の解釈は個々人で全く変わり、かつIT化の影響で犯罪件数の減少とは裏腹に激務化は進み、一人の警察官のこなす仕事量が多忙を極めた結果、被害者への配慮不足や被疑者への違法な取り調べ、理不尽な取り締まり、果ては通報の門前払いへと繋がっていった。それでも、多くの(・・・)警察官は、必死に任務を全うしようと働いている。市民生活を守る町のお巡りさんを志して警察官になったその多くの人々は、第二条第一項の解釈に悩みながら、自らの任務に就いている。

 

何が為に個人の生命、身体及び財産を保護するのか?文明・文化を持った国と言う人間の社会で、警察官は何が為に必要とされるか?多くの警察官は正解の無いその問いに行動を以て応えるしかない。だが、多くは感謝される事は無いだろう。身近に存在する町の守り手、それは国民及び市町村民を守って当然だと殆どの人々は思っている。良いことをしても当たり前としか思われず、ちょっとでもミスを犯せば警察官は無能だと罵られる。酷いものでは税金泥棒と謗られる。

 

とある警察官は語る。

 

『時々、僕らは何で危険な目にあいながら仕事してるのに、町の人らは罵声を浴びせかけるんだろうって思う事があるんです。ネズミ捕りばっかりして、不祥事は隠す、通報には応じないって、何度も言われましたね。僕だって、警察官の仕事に憧れて入った訳じゃない、公務員試験の中で受かりそうなのが警察官だったんです。でも内定決まってからはしっかりと仕事しましたよ、やっていくうちに、町のお巡りさんとして皆の平和を守るって自覚が強くなった頃に、とある県警の不祥事が殊更に取り上げられるようになったんですよね。

 

あの辺りからかな、何だか、ただの公僕になっていったのは。今までやって来た事って……後はもう、自分の腹を満たせばそれでいいやって。警察官としてはダメな思考なんでしょうけど、なんと言うか、皆思っているんじゃないかな?』

 

 

正義の代行者だとか言われても、警察官も一国民なのだ、働いて、食いぶちを作って、恋愛をして、子供を作る。高い理想を掲げて仕事をする者も、ただ生活の為に仕事をする者も、その点に関しては変わりないのだ。ある警察官は語る。

 

『本当の事言って良いかな?俺が警察官になった理由は公務員になりたかった、そんだけ。結構勉強したよ?でも内定もらえそうなのが警察官だけだったってだけさね。俺地頭悪いからさ。仕事?パワハラモラハラのオンパレードで、まともな人間程、人としての心を捨ててマシーンと化しちまう仕事よ。危険が伴う仕事だからある程度指導に熱が行くのは仕方ないんだけど、ネチネチと言うかなんと言うか、テレビドラマに出てくるようなカッコいい姿をイメージするってなら止めときなよってね。警察官になりたいって人間はさ、テレビで語られてるようなイメージを先ず消して、もう一度考え直しな。まっ、給与はいいんだけどね。』

 

警察官はあくまでも人間である、これを忘れ、やれ公僕だやれ犯罪者予備軍だと叩く人間もいるが、そんな人間が事件に巻き込まれたとしても、彼等はしっかりと助けるであろう。

 

 

夢だったと言えば大嘘になる。けど、警察の仕事に特別憧れていたわけじゃない。貧しい暮らしからの脱却、それだけ考えてた。起業する頭もないし、人生博打なんていけないと思っていた俺がならばと考えてなったのが、公務員だった。公務員試験を友人と共に猛勉強した、からっきしの頭に詰め込むだけ詰め込んで、受かりそうだったのが警察と言う仕事、ぶっちゃけると自衛官をうけるか警察になるかを最後まで悩んだんだけどね……

 

受かった時、既に俺の夢は叶った……でも、仕事していくうちに、街のお巡りさんとして一生を過ごしたいと言う思いが強くなった。なろうと思った動機はカッコ悪いけど、なった後こそ重要なんだってね……友人二人が殉職して、心が無くなった後、それでも署のみんなは見捨てなかった。多分、多分だけども、みんな俺が復活する事を分かっていたのかも知れない。

 

 

『署長、おっと失礼、本部長でしたね、どうしたんです?難しそうな字でなんか書いてますけど。』

 

『シシ君か、本部長はこそばゆいから署長でいいよ。過去を思い出しながら、警察のモットーて奴を改めて考えててな。』

 

この二年余り、清蔵は警察としての矜持と法度を順次作成していた。日本の警察流の考え方は既に多く採り入れられてはいるが、最も頭に入れるべき基本をどうするかはあくまで態度で示して来た。

 

『警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。』

 

『署長、それって確か、俺達一期生が初仕事の時に聞いたやつですね。警察と言う仕事を端的に伝えるとそうだって言う……』

 

『今まではあくまで職務をこなしながら模索していたからね、それ自体を法度に入れて無かったのさ。だが、三期生辺りからどうも理解せずに仕事しているようなのが増えたろ?だから大原則としてしっかり盛り込もうかと思ったのよ。』

 

清蔵はあくまでも警察の領分を越えた事はしない、何故ならば警察とは合法的に武装した組織なのである、行き過ぎた力は要らぬ反発と自らの慢心を生む。清蔵は規模が大きくなった異世界の警察を改めて律する為に、敢えて今まで法度に盛り込まなかった日本の警察法第二条第一項を此方の世界に加える事にしたのだ。

 

『最近始末書多すぎてね、ビシッとせにゃならんと思ったのが本音ですハイ。おっ、ちょうどキスケさんが始末書報告に来たね。先日はマーシーにまた金〇やられちゃったから彼の始末書も上がってるはず、いや、上げてくれ(切実)。』

 

キスケが本部長室に入ると、慣れた手付きで始末書を取り出す。苦手だと公言していた書類仕事も、この二年でそつなくこなしていたキスケにとってはもはや苦とも思わなかった。

 

『清蔵さん、今週上がった始末書、これだけだ。』

 

『確か三件だよね、俺のJr.喪失未遂も含めて……』

 

その時の記憶がフラッシュバックしたのか、股間をさすっていた。マーシーは勤勉で真面目な為、苦手な射撃を克服しようと練習に励んでいたが、どこぞの都市狩人に銃でも改造されたかのようにノーコン過ぎて的に当たらない。逆に清蔵の金〇にはやたら命中に近い軌道を描く為、何か恨みでも持たれてるんじゃね?と言われる始末だった。

 

『はっはっはっ、マーシーは真面目じゃきにずっと練習に励んどるぞ!今度は金〇じゃなくてチン〇にでも当たるかな?』

 

『キスケさん、マジでシャレならねぇんですが……』

 

『さて冗談はさておき、始末書の報告だな。』

 

『だから冗談じゃねぇっての……』

 

 

始末書一:刑事課リョーキ巡査

 

発生事案:高圧的な取り調べを行い、被疑者を暴行及び暴言により萎縮させ、自白を迫った。

 

処分:一週間の謹慎、減給三ヶ月。配属先の異動、現在の本町刑事課から新町開拓課へ。

 

始末書二:監察課、マーシー巡査長

 

発生事案:拳銃訓練時に、誤って本部長の股間付近を誤射、本部長に怪我は無かったものの、制服を損壊。

 

処分:拳銃訓練基礎一ヶ月継続命令。

 

始末書三:地域課、コクーボ巡査

 

発生事案:新町サカサキ間の街道付近で女児(10歳のオーガ)の前で下半身の露出をし、女児に精神的ショックを与えた。その場で逮捕。

 

処分:懲戒免職、付随で奉行所送致、沙汰待ち。

 

『中々に酷いね……マーシーはノーコン治んないし……まあ監察課だから使う事も無いだろうけど。つーかちっちゃい子の前で何してんだよコクーボ巡査!元世界じゃないから懲戒免職だけで終わらせねぇよ?……ゴホン。所でキスケさん、もう一枚は何?他に事案の報告は来てないはずだけど…』

 

不思議に思った清蔵の表情を見たキスケは、ニヤリと(やや下衆さをわざと出して)笑うと、内容を読み上げた。

 

始末書四:警察本部長、児玉清蔵警視長。

 

発生事案:消化すべき有給をとらず、不眠不休で仕事をし、周りの部下達が休暇を消費しにくくした。後オフィスラブには至っていないものの、テイル警部とイチャイチャして独身者の職員一同の嫉妬を招いた。

 

処分:直近三ヶ月の非番未消化分の休暇を命ずる(by幹部一同より)

 

『あれ?最後だけ可笑しくね?俺何にも悪い事してねぇじゃんよ……』

 

『してるんじゃこの鈍感(にぶちん)!テイルとアレしてぇとか抜かしながらあんた休みもとらねぇで普通に仕事してんだ、周りが気をつかって非番に入りづらくしたんだ、ちったぁ自覚を持っちゃり!それに、溜まってんならしっかり愛の巣でやれ!リア充〇ね言われとるぞ!主に俺からだがな!』

 

『えー……』

 

始末書の報告を聞いていたのだが、その中に自分のものが入っている事に驚いた清蔵だったが、キスケにそう言われ、しぶしぶ帰る準備をする事になった。上級管理職に残業の概念は無い為、元世界においても休みと言う休みが無い事はざらであったが、清蔵のそれはそれすら軽く凌駕していた。忙しさで帰れていなかったのは仕方ないにしろ、体が順応(と言う名の感覚麻痺)していった結果、妙なテンションで仕事を続け、結果的に周りから過労死推奨者の烙印を押されてしまったのだ。因みに最後の文面に関しては嫉妬である事を堂々と伝えられたので何も言い返す気力が無かった。勿論キスケなりの気遣いではあるのだが。

 

『ったく、仕事が恋人な俺ならともかく、あんたにゃテイルっちゅうべっぴんの彼女がおるんじゃき、過労死されたらあん娘が泣くぞ!』

 

『キスケさん……分かった、児玉清蔵本部長、始末書の処分、甘んじて受け止める。』

 

『かてぇ言い方してかっこつけず、何時も通りに、んじゃ休むわ、ひゃっはー!テイルちゃんとセッ〇ス!でいいんだよ、堅苦しい言い方、気持ち悪っ!』

 

『俺も同感ッス……オンからオフになる瞬間のあのノリじゃないと頭大丈夫?って思っちゃいますよ。』

 

『いや酷くね?!俺のイメージすげえ酷くね?!』

 

 

と言う訳で本官、休暇を消費する事になりました……あのぅ、わてくし本部長なんですけど、扱い雑じゃね?陰でワフラ本部長と児玉課長とか冷やかされてるし……カリスマが無いのはしゃーないにしても扱い雑なのはショックだな。ええい、こうなったらおもいっきり楽しんでやる!……っても何する?テイルちゃんはまだ当番中だから誘えないしなぁ……あれ?テイル嬢、何で帰る準備してるの?

 

『せぞさん、やっとデート出来るね♪』

 

……あっあの、お仕事はどうしたんですかねお嬢さん。

 

『うふふ、私もずっと秘書官として休みなかったから、無理矢理非番にされちゃった♪秘書官代行は未来ちゃんがしてくれるから休んで下さいだって。』

 

テイルちゃんも過労死推奨者認定受けちゃったのかぁ。我々、部下達に無自覚に迷惑かけてしまったんだなぁ、マジ猛省……とは言え、二人で休みならばやる事は一つ、デートして、セッk……愛を深めるだけだね。

 

『ねぇ、せぞさん。』

 

どうしましたか?お嬢さん。

 

『半月もあるんだし、何処か別の所に行ってみない?』

 

いいね!旅行だね!でも他の所?治安的な事考えると、行ける場所は余り無いような……つーか未消化分が半月?!俺暫くは来るなって言われたんだけど具体的な日数伝えられてなかったのよね……おのれキスケめ、要らん気を使いおって(ありがとう、楽しんできます♪ヒャッハー!)、また本音と建前が逆だぞ……ところでテイルちゃん、あてはあるのかい?

 

『サリーさんのおすすめで、ランボウ王国の西海岸の旅を紹介してもらったよ♪あそこから海を渡るとミクスネシアが直ぐに近くだから、海を渡って海水浴して楽しむのも良いよって言ってたよ。』

 

ランボウ王国とミクスネシアか……カン=ムに隣接する四国の内、文化の癖が強くて?余り隣国の人が近付かないランボウ王国と、島国で中々行きにくいミクスネシアか……俺は構わないけど、治安とか大丈夫なのかな?特にランボウ王国って、魔人の王国だったはず……魔人と会った事無いから良く分からないのが不安かな?て言うか島国に渡る船とか大丈夫なのかな?とは言え、二人でデートするなら、海外旅行も考えなきゃだね(良く考えると最初のデートから海外でしたが……)。よし、ならば準備をして行きましょうかね!

 

 

 

清蔵とテイルが旅行に出た翌日、警察署の方では、採用新人を受け入れる初任式が行われていた。採用者は三人、男性二人と女性一人。男性二人はエルフ、女性はヒューマだが、女性は何故か最近会ったような気がするような顔だった。色々しゃべりたい事もあったが、とりあえず本部長代行のワフラが、彼等に自己紹介を促す。

 

『ナハト・トゥのトゥベィ集落出身、ジブリー・アースレです!エルフの53歳です!』

 

『ナハト・トゥのスバリュ集落よりきました、ジャン・ジェイエであります、エルフで年齢59歳であります!』

 

『アンブロスのタキアンダ集落から来ました、ピット・チェンルン、30歳の天ぞ……ヒューマです、宜しくね、キャハ☆』

 

(キャハ☆じゃないが……帰らんかったんかいこの小娘……それにヒューマ扱いの年齢でそのキャラは無いば……二人が大いに引いとるじゃろが。)

 

とは言え、新規採用者の要項をパスして入って来たからには、決して無能では無い事を証明していた。チェンルンは刑務を全うした後、町長に願い出て、ヒューマとして暮らしたいと申し出たのだ(翼は魔法で見えなくしている)。町長は、タキアンダの最高責任者の許可が出ればいいと伝えた。不干渉を決めている天族の長が許可など出すはずもないので、このままお別れだろうと思った矢先、あっさり許可を貰ったらしい。但し、約束事を込みである事も伝えた。

 

・天族の存在を悟られない事

 

・一人のヒューマとして過ごす事

 

・最低二十年は居住する事

 

これらが条件に加えられた。閉鎖的なタキアンダの暮らしよりも、開放的な外の世界で生きる事を望んだチェンルンの家族の意向を、天族の長は尊重したのだった。尚、年一で里帰りし、ナハト・トゥの状況を報告する事も盛り込まれた。

 

『ふひ☆おじさん驚いた?町長から正式に住民登録して貰ったの♪宜しくねおじさん。』

 

『ほう……それは良かったば……で?誰がおじさんだって?!』

 

『ふっ、ひー、ごめんなさいごめんなさい!あっ、お尻叩かないで!ッンアー!』

 

ワフラにおじさんは禁句だった……新規採用者三人は、警察のNo.2である彼を怒らせるのだけはよそうと心に誓ったのだった。

 

 

『清蔵が部下から休むように伝えられたか……ふっ、相変わらず働くのが好きなんだなあいつは。』

 

サリーからの手紙を見た山田は、保安所の一室でそうひとりごちる。臨月に入ったと言うサリーからの知らせは素直に嬉しかったが、彼女の周りが中々に騒がしいのにはやや不安があった。とは言え、清蔵が育てた警察に対する信頼はかなり評価出来るものだった。

 

『本当にいい仲間に出会えたんだな、保安所との交換研修に来ている連中の素行といい、あいつを慕い、勤勉な奴らが集まってるのを実感している。』

 

一ヶ月ごとにサカサキの保安所とナハト・トゥの警察署で交換研修という形で人員数名をそれぞれの地へと送っているのだが、ナハト・トゥは機動隊、サカサキは公安が特に強く、互いの長所を伸ばす事で防衛力は充実していた。難航していた警備部の人事に関しても、サカサキとの交換研修によりノウハウを吸収する事で人員が集まり、最近になって発足したのだった。

 

『しかし半月もあいつが不在か……ワフラ殿が代行にいるから心配は無いのだろうが、やはりここぞと言う時にはあいつの存在が大きい。清蔵……しっかり休んで英気を養うんだ、都市部のマフィア共の動きが再び活発化しているようだしな。』

 

山田はそう言うと、机に並べられた書類を手に、これから先の大仕事の準備に意識を移した。

 

 




※次の話にはリア充二人は登場しませんwややシリアスな話を挟みたいと思います。

転移転生組の山田や木尾田と、清蔵のいないナハト・トゥの皆さんメインで計二万字程の話しを載せたいと思います。

2022/1/24 章分けした関係上、少なくとも四話位の展開になるかもです。清蔵、テイルは暫く出てこないので心配になりますがw

2022/2/16 最後の方に加筆しました。読み返すとチェンルンが突然警察採用されていたので、ちょっと加筆して軽い経緯を書きました。

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