本官、異世界で署長になりました!   作:劉鳳

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※今回の話から清蔵、テイルのバカップルコンビは出てきませんので完全な番外編となります。

章分けした関係上やや長くなりそうです。所々ギャグを挟むのは、シリアスを持たせられない為、了承下さい。


番外編 反社勢力を討て
その1 落日あれば旭日あり


 

 

エウロ民国サカサキ保安所、隊長室にとある密書が届けられた。

 

『ゼロ、極秘書簡が届いています。』

 

『分かった、下がるがよい。』

 

山田がゼロと呼ばれる時は、公安としての案件である事を意味している。最高責任者である山田が内容を精査し、情報の開示の有無を判断する。無意味な組織での権力争いを避ける為、極秘情報でも通常保安官には遠回しに情報を入れる事はしているが、こと国のトップが動くような場合に関しては、公安部と通常保安官とで伝える内容を変え、それぞれに極秘情報を守秘するよう徹底する。

 

(大統領府からの勅令……遂に来たと言うべきか。)

 

書簡に記されている事、それはエウロ民国指定犯罪集団ダークハウンドに関する情報であった。ダークハウンドはエウロ民国内の保安所の総力をあげて検挙・撲滅を掲げて来た。サカサキのトップであった山田は、卓越した組織の運用によって各所と連携し、全てのエウロ民国内に存在するダークハウンドの構成員の足取りを掴む事に成功した。検挙に至っていないのは、ダークハウンドの首魁すらも一網打尽にする為であり、かつ、全国規模の検挙となれば、大統領府の認可を必要としていたからである。

 

(大統領閣下は遂に検挙の大号令をあげた、当然ながら各主要都市の保安所幹部のみしか通達されていない。ダークハウンドが保安所の一般所員を取り込んでいる場合もある故な、余程の信頼がおける者以外には、表立って動くのは危険だ。)

 

異世界においても、一定の規模の組織を壊滅させるのは容易ではない。犯罪集団の中には政府の中枢や取締を司る山田達のような保安所をはじめとした治安維持部隊や軍隊と繋がりが深い所は、元世界となんら変わりない。違う事と言えば、この世界にはインターネットと言う便利なツールは無い、故に数の脅威はそのまま組織の脅威となる。山田は考えを頭でひとまとめにすると、一人の名前を呼んだ。

 

『オーワン、エスワンを呼んで来るのだ。あんたにしか頼めない。』

 

『了解!漸く大悪党を完全に叩ける好奇、あん人の力を使う時じゃき!』

 

 

組織のNo.2であるオーワン、階級は副所長である。彼の名はエベレス・オガ。妻と一人息子を持つ壮年男性である。息子は18の時に家を出、妻とは早くに死別しており、家庭は既に壊れているが、本人は普段は非常に温厚であり、仕事も真面目で周りからの信頼も厚く、不幸せな男ではなかった。異世界で右も左も分からなかった山田の最初の上司であり、頼れる先輩である彼は、長らく保安所で築いてきた人脈があり、主要幹部と山田を繋ぐパイプ役を持つ。山田が口にしたエスワンと呼ばれる者は、最大有事における協力者だった。

 

 

エベレスはサカサキのとある住宅街に入って行く。とある三階建ての建物に入ると、バーになっていた。個室をマスターに頼み、三階のルームへと入る。そこには、いつ入ったのかすら分からぬ間に、男が席に座っていた。エベレスは特に驚く様子もなく、隣に座り、マスターの持ってきたカクテルを男の前に置き、自身も茶の入ったカップを手に、乾杯する。飲み物にそれぞれ口をつけると、男が口を開く。

 

『ケイショーが動くのですか……』

 

『おう、それであんたの力を必要とする、何しろ相手は裏の人間じゃ……にしても、公安内ではエスワンで通るが、表ではなんて名乗るんじゃ?流石にエスワンじゃ本名と思われないからの。』

 

エスワンと呼ばれる男にそう投げ掛けるエベレス。男は微笑みのまま、ゆっくりと答える。

 

『ならばレイ・ジャクスン、とでもしておきましょうか。』

 

男はそう名乗る。当然本名ではない。しかし、名前の方は普段使っているもので、かつ、この世界でのレイと言う名前は、日本におけるヒロシ位ありふれた名前だ、偽名としては適切と言えた。

 

『ははっ、エウロにありふれた名前に名字か。特徴が少ないヒューマ故にこれからの行動的には最適じゃな。』

 

『それで……相手はどの程度の規模なのですか?一応こちらで大方の事は調べたので予想はつきますが……』

 

『狂犬の規模は十万てとこだが、あの侯爵の私兵、アンブロスに三万が残っとる。エウロにいる者はこちらで引っ捕らえられるが、如何せん向こうの領土じゃと内政干渉になるんでの。』

 

エベレスは裏に生きる人間達の狡猾さを疎んでいた。表世界では生きている証拠の無い人間は、例え証拠を掴んだとしても表には出すことは出来ない。敵の大将はアンブロスの主要な政治家である故に、スキャンダルで大事にしたとしても、権力を以て揉み消され、逆にこちらの動きを封じてくる。保安所はあくまでエウロ民国内の警察組織であるため、しくじればエウロそのものに対する圧力の口実を握られる可能性が高い。

 

『つまり私の役目は、誰にも悟られず、かつ籍の無い人間故にエウロにも迷惑をかけない為の駒、そう捉えてよろしいのですね。』

 

レイは特に不快感を出すでもなく、そう淡々と微笑みを浮かべたまま呟く。これ程の大役を任されながら、余裕の表情を崩さないのは、彼が百戦錬磨の猛者である事を示していた。

 

『三日、時間を頂きたい。少しだけ、かつての知人の墓に参って来ますので。』

 

『おう、そうしてきんさい。終わったらケイショーと共に酒を酌み交わすけぇの!』

 

 

レイはサカサキを出て、飛翔魔法を使い、とある場所へと向かった。一日かけて向かった先、それはかつて文明が存在していた、ロストワールドと呼ばれる所だった。建物も壊され、夥しい生物の死骸が白骨化、半数はその骨も風化して小さくなっていた。彼はサカサキより千里は離れたそこに立ち、まだ新しいであろう小さな慰霊碑に祈りを捧げていた。

 

『父さん、母さん……あの大戦から随分と長い時が過ぎました。貴方達の墓を最初に訪れた時は、草も生え、周りの木によって墓石が倒されていましたね……ええ、私はこの通り元気です、何故なら現世に戻ってきてしまいましたからね。私が現世に帰ると言う事は、この世界の混乱が近付いていると言う事……でも大丈夫、現在私のいる国の人々は聡明です。どうかあちらの世界で、静かに見守っていて下さい。』

 

レイはそう呟くと、再び飛翔の魔法をかけ、サカサキへと飛び立った。

 

 

その頃、ナハト・トゥでは、配属された新人達を迎える歓迎会を行う事になった。歓迎会はこれで二十回目、署の一室を飾り付けする事になったのは一期二期メンバーの特に仲の良い五人と未来で行う事になった。作業が一段落すると、フラノが休憩を促した。

 

『ふぅ、なんと言うか警察署もいよいよ賑やかになったね。』

 

人員が増え、署の規模は今や下手な国の軍並になっていた。尤も、ナハト・トゥだけに限ってはだが。他の部署はまだまだ手探りの状態であり、新人達の育成は常に最優先であった。歓迎会もその一環である。一期メンバーで最も昇任したフラノは警部補となり、他の一期メンバー、そして二期メンバーも皆順調に昇任していた。覚えのいい彼等は、清蔵から直接仕事の手解きを受け、現在では新人の面倒を見る機会が増えた。種族も満遍なくバラバラだったので偏見の目も無く、清蔵が心配していた種族間の差別意識は撤廃された。そんな彼等と共に歓迎会の準備を手伝っていた未来は、彼等の良き関係を見て、異世界に生きる自分の幸せを感じていた。

 

(死刑囚にされて、死ぬのを待つしか無かった私は、何処か塞ぎこんでいたけど、ここの人達は今ある私を見てくれてる。いい人達に囲まれて生きれる、それだけで……)

 

『ん?どしたのミクさん。ちょっと泣いてるけど大丈夫?』

 

『あっ、ロウラちゃんごめんなさいね、皆の仲良さを見てたらなんだか色々と感じちゃって……』

 

思わず涙していたのだろう、未来は恥ずかしそうに涙を拭った。ムードメーカーのシシとコモドの二人が駆け寄り、明るく励ましの言葉をかける。

 

『大丈夫大丈夫!あねさんを一人ぼっちにはしねぇって、そうだよなみんな!』

 

『そうそう、あねさんは真面目で優しい人、大事な仲間さ、そうだね?ワフラさん。』

 

『ああ、勿論だ。なんてったって伯父さんが惚れた人なんだから、遠慮はいらないよ。』

 

皆が皆こうして自分にも声を掛けてくれる。ここにくる前には刑務官の給事の時の生死確認位しか声を掛けられなかった彼女にとって、今以上の幸せは無いと思っていた。

 

『みんな、ありがとうございます、もう大丈夫だから。さっ、もう少ししたら新人さん三人が来るし、頑張りましょう!』

 

『『おうっ!!』』

 

 

ナハト・トゥの方で宴の準備が進められていた頃、遠い異国の地、タキアンダ台地の首長が集まり、皆が深刻な顔をしていた。十年毎に封印の魔法をかけていたとある場所の異変に気付いたからだ。

 

『この四百年余りにただの一度も変化の無かった二つの封印の内の一つが解放されている。しかも、解放されたのは封印の解除後の残留魔力の関係から凡そ七年前……既に混沌の一端が解き放たれてそれだけの年数が経過したと言う事だ。』

 

片方の封印が解放されたと言う事は、もう片方の封印を解く事が出来ない。これは初代総長たるインシャクによってかけられた安全装置とも言えた。実は首長らは封印されたものの詳細を伝えられていない。あるものは世界を破壊する魔法だとか、世界を救う何らかの兵器だとか噂をしていた。しかし、その噂の半分は当たっていた。封印の詳細、それは魔法・鉄器大戦における最大の功労者の一人、史上最強の魔法使いレイーラ・ゴラシの封印と、鉄器兵団が開発した人形の鉄器兵士の封印で、後者は皇族王族に連なる者を完全に抹殺するまで止まらない危険極まり無いものだった。ロストワールドに封じられ、それぞれ最も不毛な大地に置かれた二者……天族はこれらに近付くのを十年に一度の封印の重ね掛けの時のみに限らせた。しかしそれが仇になった形である。首長達の纏め役たる現総長、ローキ・インシャクは、難しい顔をする首長らに話を伝える。

 

『初代が封印を解く事を躊躇い続けた理由、それは魔法・鉄器大戦における被害を出したそれらを解放する事は、世界の終わりを意味するからだと伝え聞いておった。封印されたものの詳細は初代が二代目以降にすら頑なに口にしなかった為に分からぬが……このままではまた世界が荒廃する。観測員らには引き続き原因を調べさせる、尚、ロストワールド周辺の観測を特別に許可する。ただし現地人との不干渉は続けよ。以上。それとピット……貴様はちょっとこのまま残れ。』

 

話が終わり、二人きりになった。ローキは目の前にいるチェンルンの父、ピット・タールンに話を伝える。

 

『チェンルンに地上に留まる事を伝えたのは、遠回しには追放である事は貴様にも伝えた。信頼出来る人間の娘と言う事で、観測員にしてしまったワシの落ち度である故に、里帰りも許してはいるが……あのメスガキ、一度目ではあるまい。』

 

『ブフォッ!!』

 

タールンは汗を流した。隠し事はきかない天族ではあるが、天族の中には、頭に考えている事すら欺瞞出来る人間が存在する。しかし目の前にいるローキは、天族最高の魔法戦士インシャクの子孫である、上辺の欺瞞等通用しない事を知っていた。故に、タールンは土下座する格好で事実を伝えた。

 

『申し訳ありません!うちの馬鹿娘、七年前の新任の時にロストワールドに行ったのです!しかも、大地を踏んで現地に入っていた事も後々に問いただしました!』

 

『タールン、正直でよろしい……何処の誰でも可愛い娘は大事じゃからの、子を思う気持ちで今まで隠しておったのだろう。』

 

ローキは特に責める様子もなく、淡々とそう口にする。タールンは優れた観測員だった、ローキは彼に随分と助けられた恩もあった為、チェンルンが地上に住む事も許したのだった。

 

『チェンルンが降り立ったのが七年前、そしてその封印が解放されたのも推定で七年前……タールン、チェンルンが七年前にどの辺りに降りて、どんな事をしたか、話して欲しい。』

 

 

 

新人歓迎会は滞りなく行われた。チェンルンも周りに合わせてガヤガヤ楽しく酒を飲んでいた。歓迎会もお開きになった所で、チェンルンは未来に呼ばれ、離れた場所で話をする事になった。チェンルンは何故呼ばれるのか理解していなかった。

 

『ごめんなさいね、大事な話だから、みんなの前では話せないの。』

 

『ふぇ?』

 

チェンルンはやはりキョトンとする。未来はチェンルンがお喋りである事を歓迎会の中で悟っていた為、こちらに連れて来たのだ。

 

『あっ、その前に一言だけ……酒に酔った勢いもあったからかも知れないけど、人の考えてる事を盛大に話すのは、事情を知っている人以外の前では話さないようにしてね……幸い、一期の人達だったからこういった事情を知っているから良かったけど……』

 

『うっ……ごっごめんなさいぃ!ついつい……あたしの周りって思った事を聞ける人間だから……その、不快だったですか?』

 

未来は首を横に振る。どうやら心の深層部分までは読めないらしい事をチェンルンのリアクションで分かったので、未来は言いたかった事を口にする。

 

『いえ。そういう貴女だからこそちゃんと話をしなきゃと思ってね……私の話を。お互いにナハト・トゥの皆さんに新しい経歴書いて貰ったでしょ?貴女からはそんな匂いがしたから。』

 

『え?なんで知ってるんですか?』

 

チェンルンは未来の洞察力に驚いていた。天族の能力、正確にはインシャクが天族に伝えた能力は、人の心を読む力がある。しかし、人の深層心理まで読む事は出来ない為、相手の全てを理解する事は不可能である。現に初代総長たるインシャクはタイラーと直接話すまで優性学的考えにとらわれ、人の話に聞く耳を持たなかったと言う。しかし、目の前の未来は、そんな能力を持たなくても、事情を察知しているのだ。これは単純に警察官の仕事を真面目にしている人間がいくつか染み着く観察力から来るものであったが。未来は、自分の身の上を話した。警察官となったが、同じ警察官による不祥事のスケープゴートとして逮捕され、死刑囚となり、刑場のある拘置所に護送される途中で逃走し、その逃走の中で突然異世界に引き込まれた事……拘置所での死んだ心の頃の生活も話した。

 

『うぅ、悲しい……辛かったんですね……』

 

『過ぎた事よ、それに今が楽しいし、幸せだから……この気持ちに嘘は無いわ。』

 

すっきりした顔でそう言った未来の顔を見て、チェンルンは自然と口を動かしていた。

 

『未来さん、いっぱい喋ってくれたから、秘密にしてたチェンルン達の種族の話を……しますね。』

 

チェンルンは自らが天族である事を話した。翼は正式に下界に暮らす時に総長によって魔力を込めない間は目に見えなくして貰っていたが、魔力を込めて翼を広げた。未来は特に驚かず、チェンルンの話を聞く。

 

『チェンルン達の役目は、その……地上の生活を観測する仕事だったんだけど、新任の頃にやらかしちゃったの……地上に降りちゃ行けないって決まりなんだけど、ロストワールド、そう呼ばれてる所に勝手に降りちゃったんだ……』

 

清蔵がいたら、この馬鹿やっぱ前科持ちかと口にしそうな独白を聞きながら、未来は真剣に話を聞いた。

 

『ロストワールドのある場所、遺跡みたいな所なんだけど……その……そこの中に入って、人が光の壁の中で寝ていたの。』

 

『光の壁?』

 

未来はその言葉に反応する。この世界には魔法が存在する事は既に知っていたので、それについては違和感が無かった。しかし、人の体力を削る魔法の行使が永続的にかかっている事など、禁術、それも最高位のものでない限り継続出来ないのだ。未来はワフラ達との話でそれを知っていたので疑問をもった。

 

『その時は知らなかったけど、そこには天族の人達が封印を重ね掛けする位の危険なものが封じられているって……チェン、そんなの知らずに中に入っちゃったのよね、ははは……扉、非力なチェンでも簡単に開く位だったからさ……』

 

ロストワールド周辺はろくに草木も生えない。その為、遺跡はあくまで封印される中身を隠す為の蓋であり、遺跡の内部に侵入しないのだ。現に天族の封印重ねは、遺跡の外側から行われていたのだ。

 

『不気味だったから怖くて何もせずに逃げて来たんだけど……その時に扉……閉め忘れちゃって……ははは……今ここにいるのだって、あたしが勝手に降りちゃたからこうなったんだって……二度と天族を名乗るなって……あたしって、ばか……ホントばか……』

 

封印自体はその中身にだけ作用するものの為、封印が解かれる事は無い。しかし、蓋である遺跡部分は、世界からの隔絶を意味する存在の隠蔽の力を持っていたのだ。これについては天族も認知していない事だった。未来は、笑いながらべそをかくチェンルンに近付く。チェンルンは呆れられてビンタでもされるのかと思ったが、未来の行動は彼女を抱き締めると言うものだった。

 

『辛かったんだね、そんな事があったなんて……だけどもう、大丈夫だよ。ナハト・トゥの一員になったんだから。これからはずっと一緒だよ?』

 

『ミクさん……ありがとう、ありがとう……』

 

チェンルンは未来の胸の中で泣いた(胸と言う程の膨らみは残念ながら無いが)。チェンルンは心の柵を吐き出し、この日真の意味でナハト・トゥの一員になったのだった。

 

『ナレーションさん、後で一本背負い20回します(怒)』

 

すんません、お姉さん許して!

 

 

一方その頃、カン=ム帝国首都エルフランド、晩餐の間では、ユナリンと康江、リキッドと政務官から関白を補佐する大臣に任命されたノインの四人で食事会が開かれていた。後三年を目処に、ユナリンの甥が皇帝に即位する事が決まり、表舞台に出なくなったユナリンに代わって国を治めて来た三人に労いをと開いた。康江は、遂に頭のウジがいらん仕事でもしたのかと心配したが、この時は本当に労いの言葉をかけ、康江は初めてユナリンの前で上手い飯と酒を食べた(ストレスで今まで上手いと思った事が無い)。

 

ユナリンの肌は、康江が来た時よりも若干若々しくなっていた。召喚等の禁術の研究を辞めてから、アンチエイジングの研究を進めていた関係か、年齢を感じさせぬ若々しさを手に入れていた。因みに康江達も進んで参加した為、皆年の割には若々しくなっていった。康江は行き過ぎた童顔故、三十路過ぎのババァの分際で子供にしか見えなくなっていたが。

 

『ナレーションのおっさん、死刑にするよ?』

 

すんません自重します……酒も入り、料理も一通り腹におさめた一行。ある程度たった頃、ユナリンは侍女達を下げて、三人の前で話をした。

 

『みんな、本当にご苦労様☆やっと甥っ子が皇帝になるって覚悟決めてくれたから、漸くただのおばちゃんになれる。』

 

『『『え?!』』』

 

ユナリンの台詞に皆が驚く。永遠の45歳(ヒューマ換算で13歳位)を自称していた人間が、自分の事をおばちゃんと呼んだのだ。今までは、次期皇帝たる甥ですらおばちゃんと呼ばせなかった程だったのだが、どうやら康江が来てからの二年間で何かがあったと言う事か。

 

『知ってたよ、あたしが歴史上最悪の暗君だって言われてたの……気にもしなかった、今までは。けど、全く自分に物怖じしないヤスヤスと出会ってからさ、あたし何やってんだろって……気付かせてくれたのはヤスヤスだよ?それから分かったんだ、リキッド君もノインちゃんもあたしが暗君だって呼ばれた頃に、一生懸命に仕事をしてくれた事を。ありがとう、本当にご苦労様でした。』

 

ユナリンの独白に、康江は思わず涙を流した。散々心でババァと呼び続けつつも、こっちに来てから心を殺さない自然体でいられたのはユナリンのおかげだった部分もあるのだと思うと、自然と涙が出たのだ。

 

『私の道楽で召喚の儀式で多くの命を奪って来た……偽り無い事実だよ。それも千人以上……あたしの心が、45歳から成長しなかったなんて言ったら言い訳になるけど……ここで懺悔させてもらうね、聞いてくれる?あたしがやった召喚の儀式の中でも一番の大失敗があって、それがちょうど七年前だった……隣国の奴隷を生贄に儀式をやったら、念じが足りなくて、遠い所で爆発の衝撃が走ったの。今考えると、あの爆発の衝撃が来た方向って、昔パパが何かを封印したとか言ってた場所の方向だった。あたしね、その時は気にもとめなかったんだけど、今考えると……』

 

『ユナちん!どうしたの……』

 

『スヤァ……』

 

『ねっ、寝ただけかい!』

 

どうやら単純に深酒で眠くなったらしい。人騒がせなと康江は思ったが、リキッドとノインの二人は真剣な顔をしている。

 

『どうしたの?二人とも怖いよ?』

 

『康江、これを見てみぃ……』

 

リキッドは胸におさめていた地図を取り出し、エルフランドを指差し、そこから指を西へと伝わせた。

 

『ここになんか×印があるんだけど……どういう事?』

 

康江はピンと来なかった。普段使っている地図は、タイーラ連合国たる10ヵ国しか載っていないものである。リキッドの所有している地図は、国から支給されたものではなく、リキッドの家で使っていた古いものだった。古いはずなのに、そこには今の地図よりも多くの国、そしてより広大な世界が描かれていた。

 

『康江は知らんのも無理は無いか。現在でも、国の一部の人間しか知らん。ここはかつて大戦が起こった時に滅びた国の場所、そして×印が描かれた場所、そこには世界の終わりの時に封印が解かれる何かがあるらしい。七年前にそれが解けたとなると……』

 

『封印されたものがもし人間であったならば、潜伏していてもおかしくは無い、そしてそれだけの時間があれば、大きな混乱を巻き起こす可能性も、ですね?』

 

『んもぅっ!まだ災難が起こるって言うの?!』

 

康江は二人の話を聞いて呆然となっていた。康江によって大人しくなったユナリンだったが、彼女によって引き起こされた災いの根の部分はまだまだ残っている事を思い知らされたのだった。

 

 

 




七年、封印とキーワードが出てきました。様々な所で出てきますが、意外と交わらないかも。番外編でこのキーワード自体は消化しようと思います。

清蔵とテイルが休暇でイチャイチャしている間の話なので本編開始時とのギャップがあるかもです。

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