やや短めですが、そこは番外編と言う事で。
『世界中を回って分かった事、それは魔法・鉄器大戦から文明はかなり衰退している……特に魔法の衰退、兵器系の鉄器の衰退が著しい。』
レイ・ジャクスン、彼は訳あって連合国発足以前の時代を知っている。目覚めた時、気が付くとエウロのサカサキにいた。自らの本当の名前も、何者かもはっきりと覚えているが、不思議とそれを口に出す事はしなかった。彼は自らに起きた事を全て理解していた。何者かが自分の眠りを覚まし、そして魔力の暴走から、眠っていた場所より遥か彼方のサカサキまで飛んでいた。彼は自分を介抱した人物、山田に対し、恩義を返す為に、協力者となったのだ。
『見知らぬ人間たる私を、彼は救ってくれた。何の因果か彼の仕事が私とはまた違う形で平和を護る事だった……これも運命と言うべきだろうか。』
レイはそう独り口にしながら、現在とある場所へと向かっていた。自分同様封印の道を選んだ人物のいる場所、ナハト・トゥへ。レイはナハト・トゥ手前の街道外れの草原に降り立つと、そのまま街道に戻り、新町の方へと向かっていく。町に入ると、辺りを巡回していた新米巡査たるチェンルンの姿が見えた。魔力で翼は隠していたものの、優れた魔法使いである彼の目にはハッキリと隠された翼が映っていた。
『……天族が何故この地に?』
天族初代総長インシャクの掟を何故彼が知っているかは分からないが、天族がこの地上にいる事はあり得ない。レイは疑問に思ったが、町の平穏な様子を見て、事を荒立てるのは無粋と感じ、チェンルンをスルーした。チェンルンの方もレイから視線を向けられた事に気が付かず(チェンルンが頭お花畑なのもあるが)、普通にすれ違って終わった。レイは目的の人物がいる方向へ、迷いなく歩いていった。
『カグヤか……変わりないな。』
『レイーラさん……貴方まで……』
カグヤは目の前にいる男の存在に、信じられないと言う表情を浮かべた。レイーラ・ゴラシ、世界の滅びの時まで封印が解かれる筈の無い悠久の眠りについた筈の彼が目の前に立っている事など、あり得ない。しかし、それを言ってしまえば自分だって封印されていた張本人である、その一言を口に出来ようも無い。彼は淡々と言葉を口にした。
『何故封印が解かれたのかはこの際どうでもいい。私としては、そうだな、魔力しか取り柄の無い男の戯言を聞いてもらいたくてね。』
レイは現在置かれている立場を話した。かつて百万もの魔法兵団を率いていた彼の仕事が、一人の仕事人の範疇に収まっている事実にカグヤは驚いたが、その仕事が暗殺に類するものであった事がカグヤに衝撃を与える。カグヤの知っているレイと言う人物は、熱くも冷静な男だった。しかし目の前にいる今の彼は、穏やかでありながら危険さを孕んだ男に見えた。
『……正気なんですか?』
『ああ……私は正気だよ。もとい、正気に戻ったが正しいかな?カグヤ……サカサキにいる彼等のやろうとしている事は善悪で言うなら決して悪ではない、むしろ尊敬すら覚えているよ。それに、裏社会の闇を取り払う事そのものに待ったをかける者はいないからね。』
『だからって……何も貴方が深入りする必要なんて無いじゃないですか!』
カグヤは戦いから身を引いて静かに暮らす道を選んだのだ。元々封印を望んだ理由も贖罪であったからこそ、カグヤはもう武力をもっての行為に一切介入しないと決めていた。しかし、レイは違った。歴史は悲しい事に繰り返すものだと。だからこそ来るべき時に備えて自らの力を封じていた。封印が解ければ己の命を晒す事を厭わない、只の一人の男として動くと。故に正気に戻ったとうそぶくのだ。
『カグヤ、君はもう戦わなくてもいい。その代わり、私と、サカサキの保安所の人々が始める行動が行き過ぎた時、私を殺してほしい。』
『レイーラさん……』
『分かっている……君がもう誰の血も望んでいない事を。だからこの頼みは私のエゴに他ならない。タイラーやレイオウが生きていたのなら、彼等に頼むのだが、あいにく彼等は天寿を全うしてこの世にはいない……暴走した私を止められるのは君しかいない。勝手な頼みで済まないが……頼む。』
そう言うとレイは去り、サカサキの方へと飛んで行った。静かに暮らしたい、そう決めたカグヤにとって、レイの頼みは自分勝手であり、重い役目であった。
『レイオウ兄ちゃんも、レイーラさんも、ほんとに……勝手なんだから……』
ー
その頃、サカサキの保安所では、敵方の動きについての報告を聞いていた。
『ダークハウンドのほぼ全構成員を投入して俺達を潰しに来るのか。エスワンには済まないが、かなりの人間を処断してもらう事になるな。』
山田は相手が只者では無い事を既に感ずいていた。保安所側に内通者がいた事、それを敢えて泳がせていたが、保安所側の内通者の人物は、交信の魔法を使える人間であった。しかし、山田はそれを知っても尚、その内通者を泳がせていた。決して油断をしていた訳では無く、勝算があったからだ。
『最重要機密は掴ませていない、元より口の軽い人間はこの場にはいない。遠隔での交信があるからと油断する、貴様ら悪党の悪い癖だ。エーツー、こっちへ。』
山田はそう言うと、手を肩まで上げると、指を三本立て、背後にいるエーツーと呼ばれる男に対処をさせる。公安の人間には上から0(ゼロ、トップたる山田の事)、01(オーワン)、S、A~Eとランクがあり、更にランク内の順位が0(読みはオー)を頂点に1~数えられる。山田の手信号を読み取れる者はランクA以上の者に限る。エーツーはAランクの三番目に高い階級であり、まさにその対象者である。
『処置の三、了解しました。』
処置とは、山田ら公安が行う仕事の一つである。観察、確保、処置、処断の四段階に分けられ、処置は二番目に重い仕事である。基本的に確保の五以上になると生け捕りは少なく、下っぱを即殺していたのは捕の五、重要でない犯罪組織の実行班に対する無力化を即殺と解釈した部下の判断からそのようになったのだ。
処置は、内通者に対する扱いで、一は内通者の監視、二は内通者を逮捕、三は……抹殺を意味する。因みに内通者はビーロクと言うコードネームの男だった。見た目が普通のオーガであり、特に目立った性格でもない男、だからこそ山田は油断をしなかった。相手が普通の見た目である場合、油断をするなと公安時代に叩き込まれた。監視対象者で派手な生活をこれ見よがしにしていた者は元の世界では存在しなかった。あの、〇〇〇〇(某有名団体の長)ですら、目立つ動きを控えていた程だ。見た目が地味で世間に紛れ込みやすいからこそ、油断をしてはいけない。
『交信をしていたのならば、その情報を聞いてから処理しろ。』
勿論これは声に出していない。手話に近い手信号により、エーツーに指令を出す。盗聴器の類いが無い世界ではあるが、魔法が文明の利器的な地位をある程度持っている世界である、どんな魔法で覗かれ、聞かれているか分かったものではない。尤も、実際には魔法はそれほど便利なものでないのだが。山田は心配性過ぎるきらいがあったが、だからこそ相手に感付かれる事も無く、行動を移せるのだ。
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『ゲブッ!』
なすすべもなく、ビーロクと呼ばれた男は絶命した。助けを呼ぶ交信の魔法等詠唱する隙も無かった。もとい、交信の魔法は高い集中力と地の精神力の強さが必須であり、なおかつ貴金属の触媒を必要とし、魔方陣を描かねばならない。連絡を取り、交信を切ったその刹那に、マチェットの一撃を首に受け、即死……山田の公安の上級官は、戦闘力も上級だった。エーツーはビーロクが描いた魔方陣をそのまま利用し、ビーロクの手から貴金属の触媒をもぎ取り、交信の魔法を唱えた。Aランク以上の公安職員の者は、こうした魔法を行使出来る者も存在する。
『ゼロ、聞こえますでしょうか?ビーロクを無事〔処理〕しました。』
『了解した。最期の時、奴はどんな者と内通していた?』
『はっ、それが交信先を逆探知した所、エメリャー侯でありました。探知した地点はエルリラの方向で間違いありません。』
エルリラは、エウロの副都であり、アンブロス国境と、カン=ム国境の街ダイゴに面した場所でもある。内政干渉になる為、国外の者を処断する事は出来ないが、国内に入っているのならば話は別だ。政治家や外交官の外交特権はこの世界にも存在するが、犯罪の温床を生み出す元凶に対しては、逮捕するとエウロ民国政府は公表しており、かつ、公安を含む保安所としても国内で捕らえられる今こそチャンスである。
『ダークハウンドの首領がノコノコとこちらにおでましか。何かしらの勝算があると見た。エーツー、エスワンと交信出来るか?』
『はっ……交信の魔法はかなり消耗が激しいので、場所を変え、体力が回復次第行いたいと思います……』
交信先のエーツーは汗を大量に流しながらそう言う。魔法の行使は、大なり小なり体力を使う、更には高度な魔法であればあるほど負担がかかる為、体力の回復が必要なのだ。ビーロクを易々と仕留められたのも、この影響が大きい。山田はそれを察すると、エーツーに声をかける。
『大変ご苦労だった。交信する時はこう伝えて欲しい。エスワン、我々が本体を叩く間、かの地の対象者に処断の終を頼むと。』
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『……了解した。ゼロに伝えて欲しい、手加減は出来ないが私は止めるつもりはないと。』
レイはそう言うとサカサキの住み処を出た。顔に赤黒い仮面、手に猩々緋の手甲、体に漆黒の天鵞絨と着衣を身に付け、腰には刃渡り一尺程の大型ナイフと、金色の紐を通した手のひら程の大きさの、翡翠の勾玉状の装飾、そして白銀の細工が施された朱構えの具足。魔導帝と呼ばれた当時そのままの姿で彼は住み処を後にする。
飛翔の魔法を行使し、アンブロス帝国領へとひとっ飛びしたレイは、山田の指定した対象者の方へと向かっていく。レイはそこから透視の魔法により、相手の情報を読み取る。
『人数は約三万か、ケイショーも中々酷な事を頼んでくれる!』
目下に映るその対象者とは、エメリャー侯の懐刀、ウラクラ・モゥド・バッハ五世伯爵と、バッハ伯が指揮するダークハウンドの戦闘兵士達である。私兵としての数は世界一、かつ、軍縮状態が続いている世界情勢でこれだけの数の兵士を動かせるのは、世界的に見ても異常と言う他ない。更に、魔法・鉄器大戦の頃よりは格落ちしているとは言え、大型の兵器の姿も見える。如何にレイが一騎当千の猛者と言えど、これ等を正面切って戦うのは簡単ではない。しかし、今の彼は死んでいる人間と同義、言葉とは裏腹に戦闘意欲は高い。
『平和を害する輩に、情は無用…タイラー、君が戦う動機だったね…目の前にいる彼等は、正にそれだ、このレイーラ・ゴラシ、今一度修羅となって戦おうぞ!』
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レイーラの強さは、私が書く小説の中では最強に近いですが、私が書くと極端にチート無双させれないので莫大な展開は期待しないでくださいw