本官、異世界で署長になりました!   作:劉鳳

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誤字脱字、そして書いている本人が内容を把握しきれなかったのと鬱状態だったので大分更新遅れました。だらだらと長い上にバカップル出ないので退屈やもしれませんがご容赦をば。

2023/6/13 新たに誤字脱字修正……間空いたから内容がチグハグや……


その4 過去の精算

 

 

 

ノヴァ・レギエンド……大戦末期に造られたと言う、ドワーフの技巧派集団が造り上げた人型決戦兵器。稀少金属で造られた骨格と、形状記憶の液体金属で造られた皮膚を持ち、その液体金属によってある程度の隠密行動を可能としている。ノヴァを動かす制御魔力回路の目的は、魔法兵団の幹部を全て抹殺する事であったが、投入前に大戦は終結、魔力回路の書き換えが行われた。魔法兵団総帥レイーラと共に封じられる事になった時に、封印を解かれる条件を付けられる事となった。

 

・レイーラと同時に復活しない

 

・片方が復活した時、もう片方は永遠に活動を停止する。

 

・ノヴァによる抹殺指令は、復活時点での世界の皇族、王族、最高指導者ないしはそれに準ずる者の抹殺に留める。

 

・基本的にはノヴァ・レギエンド側より手を出さない。

 

重要な事は下二つだった。ノヴァの構成材料は生物よりも柔軟かつはるかに強靭である。ノヴァの緊急停止法は、ドワーフの技巧集団がもしもの為に用意しており、それを邪魔だてされぬよう、妄りに手を出さないようにとしていたのだ。抹殺指令が起動してバグが起こった場合、その被害は各世界の再構築規模になると予想されたのだ。

 

 

〔我々の記憶装置が稼働したと言う事は、ノヴァ・レギエンドの封印を解いたのであろう事は明確だ。天族が何をもって世界の危機と感じたかはその時代に生きてはいない我々にとってはもうどうしようもないだろう。だから、封印を司る天族の者には、もしもの備えをと思い、この記憶装置を遺す。

 

ノヴァ・レギエンドは、各国家の皇族、王族、最高指導者を抹殺するまでは稼働を停止しない事は聞いたと思う。暴発を防ぐ為に、封印を念入りにしたのだが、もし仮に、二つ共封印が解除された場合、暴走する。ノヴァ・レギエンドは人の形をした兵器だ。金属の骨格を持ち、骨格の無理が行かない範囲で表面の姿を変える、人に紛れ込む為に。不具合が起こった場合恐ろしいのは、ノヴァが人類の再構築を己の手で行うと言うもの……だがこの不具合と言うのは我が意図的に入れたものだ。この世界に住む大多数の人間が良識ある人間だと言うのは、大戦をくぐり抜けてきた我々が一番良く知っている。だから、僅かにしかいない悪意の塊によって憎しみの連鎖へと至る経緯もある事をも知っている。愚かな戦に発展したとノヴァ・レギエンドが判断した場合、ノヴァは確実に良識ある人類の敵に回るであろう。天族の子孫達よ、我より通達する。タキアンダより一切出るな。全種族がこの世から消えるまでな。最後に笑うは我等天族でなければならない。〕

 

高圧的とも捉えられそうなそれを見ながら、天族の幹部らは頭を抱えた、ある者は初代インシャクに対して罵声を浴びせたい衝動にかられた。天族が代々護ってきた書物の中に封印していた、記憶装置……五代目である現インシャクは、それを見て初代の傲慢さを悟った。その空気に堪えられなくなったタールンは、悩む皆の前で、総長の持つものとは違う記憶装置を取り出した。先祖が鉄器兵団の幹部から託されたと言うそれは、もしもの為にピットの家系が代々受け継いでいたものだったが、解放する時が来たのだと悟り、記憶装置を起動した。すると、そこには、鋭い眼光のドワーフが映っていた。

 

〔この記憶装置を見ていると言う事は、インシャクの奴が、都合の良い理由を付けて、そなたらへ正確に歴史を教えて無かったと言う事ば。私はヴァイシャ、鉄器兵団の幹部をしていた、大戦の歴史を書き続けた、メルビン・コーブと言う名であった老いぼれよ。そなたら天族は飛翔出来る、故に、ノヴァ・レギエンドが暴走した所で、空に留まっていれば、ノヴァが運転を停止するまで待っていれば生き残れると思ったんだろうが、インシャクの馬鹿者、浅はかに過ぎるば。奴は元々、我等鉄器兵団側を取るに足らん低俗な生物と思っていたからの。

 

そんな事もあろうかと、ワシはレイーラの了承を得て、ノヴァの制御を土壇場で既存のものから変える事にしたんば。勿論、インシャクの暴走の引き金を無効化する為に奴の目を盗んで秘密裏に改造してな。ノヴァの稼働に使われる力は火薬でもなく、霊薬でもなく、魔力……より正確に言えば、レイーラと天族の魔力の繋がりによって稼働するよう、ドワーフの技巧集団の技術とレイオウの部下の魔道具職人の技術を融合させた特注品ば。つまり、ノヴァはそなたらとレイーラが死なぬ限り、動けなくなる事は無い。それ処か、そなたらが存在し続ける限りは要らぬ犠牲が出続ける。

 

止める為の手段は、技巧集団の連中が言った事を一字一句間違う事なく正確に言うなら、インシャクの心臓を貫く事とされているが、これは比喩じゃから心配するな……簡単じゃよ、天族の戦う意思が無い事と、レイーラの嫌戦の意思を合わせ、ノヴァを説得する事。インシャクにはこの記憶装置の存在を教えないようにピットには伝えてあったから、今見てる人間達は初耳じゃろ?酷な事を伝えている事は解っている。じゃから今から何故このようなややこしい事をしてまで記憶を遺す事になったのかを伝えておかねばならぬ。〕

 

天族の幹部らは、記憶装置の映像を静かに見ながら、ヴァイシャの独白を聞いていた。

 

 

魔法・鉄器大戦も膠着状態を迎えた頃、鉄器兵団幹部は終結を強く願っていたが、魔法兵団の幹部の中には、不満を隠せない者が多数派であった。その代表格こそインシャクである。戦争終結後、表向きは天族を従え、今後一切他種族との関わりを持たず、世界の観測者となる事を公言していたが、ヴァイシャだけが、インシャクに対して、ある疑いを持っていた。この男は水面下で裏切るのではと。インシャク……雷神と恐れられた、天族の魔道師は、差別意識が強い人間だった。魔法を使えない鉄器兵団を常に見下し、命乞いをする者を殺す、過激派の急先鋒であった。停戦の使者を殺す事を画策したのも、彼の差し金であり、あろう事かありもしない情報すらでっち上げた。

 

ヴァイシャは他の鉄器兵団幹部同様、大戦の早くから停戦の考えを持っていたが、魔法兵団幹部の、特に過激派と呼ばれる者達のやり方については、嫌悪感を覚えていた。因みに魔法兵団側からの使者も一応は来ていたものの、徹底抗戦の使者のみで、停戦の使者が全く来なかった辺り、大戦が長引く事はある程度は覚悟していた。故に、ドワーフの技巧集団である彼等に、最終兵器を開発する事を依頼した。最小限の犠牲で最大限の効果を、魔法兵団幹部のみを抹殺するように建造を計画されたそれは、表面の液体金属を変質させて人間に擬態し、懐に入って暗殺すると言う、隠密に特化したものだった。強力な者が兵団の幹部となっている戦争故に、幹部を抹殺する事は大戦の有利不利はおろか、完全なる勝利が約束されたものであった。

 

〔しかし、そなたらが知っているように、魔法兵団総帥であるレイーラが直接使者として我々の元にやって来て、大戦は勝利者なき終戦を迎えた。結果ノヴァ・レギエンドは大戦に投入されずに済んだのだが、魔法兵団幹部だったインシャク、あやつは最後まで我々と握手の一つも交わさなかった。かくいうワシもあやつを信用出来なかったのもあるが。そこでワシは、封印を望んだレイーラに相談して、ノヴァ・レギエンドを封印の鍵とする事を頼んだ。レイーラも快く了承したば。インシャク、あやつは信用ならなかったので天族の幹部で人当たりの良かったピットに全てを託した。インシャクの事ば、大事な話は端折って伝承としたんだろう、現総長は何も聞かされておらん筈だ。かくいうピットも、インシャク死亡後に、記憶装置を一冊の何の変哲もない歴史書物として保管する形を取らせるようにすると言ったから、ピットの子孫も中身が記憶装置だとは話を聞いていたにしても驚いたろうの。〕

 

 

ノヴァ・レギエンドの復活、それは予言されたものだった。レイーラ封印前、レイーラは三つの予知夢を見た事を明かした。一つは、レイーラが400年後に復活する事、一つは、レイーラの復活と同時に、ノヴァ・レギエンドも復活する事、そしてもう一つは、観測者として不干渉を貫いた天族が、ノヴァ・レギエンドの封印解除により天族以外の全種族を滅亡された後に地上の支配者となる事を。

 

〔この記憶装置を起動したと言う事は、二つの予知夢は現実となったと考えて良いじゃろうな。だが、三つ目の予知夢、これは叶わせてはならぬ。天族はそろそろ、インシャクの馬鹿の呪縛から解かれるべきば。天族の意思が必要と言ったが、封印解除のもう一つの方法、無いわけでは無いが、それは単純故に難しい。ノヴァ・レギエンドそのものを破壊する事ば。あれは固さとしなやかさを兼ね揃えた骨格に、硬軟自在の液体金属の皮膚を持った鉄器人間、しかも主らとレイーラの魔力回路を直結された膨大無尽蔵な魔力による肉体強化により、腕力の類も人に非ず、破壊は容易ではなかろう。インシャクの馬鹿とは違う、真に平和を愛する天族のそなたらならば、きっと最善の解にたどり着けると信じておる。すまなんだ……後世に禍根を残す事になって……〕

 

記憶装置は、そこで途切れた。五代目インシャクたる総長は、ピットに向かって言葉を伝えた。

 

『因果なものだな、我々の祖先たる者が不寛容故に難儀な事を被るとは……』

 

『ほんとに、そう……ですね……』

 

ピット自身も同様だった。自分の数世代前の祖先が行った事など詳しくは知らされていなかった。知らなければ今までのように穏やかな生活のままで良かったと言う事実……そう落ち込む間もなく、天族の観測者の一人が会議室に駆け込んで来た。

 

『たっ、大変です!レイーラ・ゴラシと思わしき人物が、エメリャー侯の私兵軍と戦闘に入ったそうです!しっ、しかも、信じられぬ事ですが、観測者の者の話によれば、エメリャー侯の軍を束ねている者、人間ではない力を持っているように思えたとの事です!』

 

総長は事態が急変している事を嫌がおうにも悟った。総長は幹部らに呼び掛ける。

 

『これより我々幹部は、地上へと至る!観測者としての不干渉、それを解く時が来たのだ!』

 

タキアンダの上空、この日台地から近い集落の人間は、今まで見たことの無い光景を目にする事となった。後に集落の人間はこう伝承に残す。タキアンダの遥か上に位置する断崖から、百を越える翼を持ちし人間が、断崖を降下しながら、南方へと飛び立ったと。

 

 

レイは確信した。ノヴァ・レギエンドが人に擬態していた事を。しかし、同時に疑問にも思った。ノヴァが暴走して、各国に被害をもたらしているのならば、自分の感覚で既に見つけていたはずだと。この七年、レイは考えていた。ノヴァの暴走は全世界を震撼させる力があるのに、何故、その兆候が無かったのか?兵士らとの戦いの手を緩めぬまま、レイはそれに言葉をぶつけた。

 

『ノヴァ、お前に……人形に心が加わったと言うのか?!』

 

『レイーラ・ゴラシ……我が同志であるヴァイシャが慎重だったのだろう、全ては伝えられていなかったんだな。私は元から人形等では無く、心を持って生まれた者だ。骨格と皮膚に関しては察しの通りだが……内臓、特に脳に関しては生身の人間そのものだよ。』

 

『何……だと?』

 

『驚くのも無理は無い。非人道的な行為は魔法兵団程行わなかった筈の鉄器兵団が、鉄器と人とのキマイラを製造したのだから。尤も、魔法兵団の要らぬ力も加えられたのだがな。』

 

事実は何よりも驚嘆すべきものだった。しかし、レイは冷静になって考えてみたのだ。只の兵器ならば、わざわざ封印と言う形を取る必要もない、もっと言うならば、自立型の兵器等あの25年間に一度も登場していないのだ。人が直接扱うからこその兵器、この世界にはまだAI的概念はまだ存在しえていないのだ。しかし、目の前の者を見ると、そうでは無いのだろうかと勘繰ってしまう。しかし、兵器たるノヴァは、寂しげな表情を浮かべ、事実を述べた。

 

『貴方は既に察しているのだろう?そう……自立型兵器は結局実現する事は出来なかった。しかし、完全に頓挫した訳では無い。ある人間を素体として、一体が完成した……鉄器の肉体と、人間の心を合わせた、死に行くだけの私を依り代にして……ねぇ、レイ……覚えているかしら?私を。』

 

男の容姿と声と体格だった体が、突如変貌する。その姿を見たレイは目を見開いた。

 

『ピョードル・ナスターシャ、君なのか?!』

 

『アンブロシア防衛戦以来ね……』

 

現アンブロス帝国の前身、アンブロシア合衆国において、ナスターシャはレイと一騎打ちを繰り広げた。自慢の弓と薙刀により、レイと激闘を演じた末に敗れ、重傷を負った。

 

『死んではいなかった事は聞いていたが、まさかそのような姿になっているとは……』

 

『ヴァイシャ、いえ……メルビンに頼んで兵器として復活したのよ。技術的に難しかったらしくて、大戦終結後になったけれど……』

 

レイはやはり信じられないと言う感じだった。確かに終戦宣言の時、彼女の姿は無かった。表向きは復興活動の多忙さ故に顔を出せないと言う事になっていたが、真実は、ナスターシャとしてではなく、人形兵器ノヴァ・レギエンドとしての復活。彼女自身が兵器のコアとなった事はレイだけでなく連合国大統領であるタイラーにすら秘匿された。

 

『私には既に大きな子供もいたし、その子供がアンブロスの代表として国の復興の指揮を取っていたから、私自身の命の心配なんて端から頭には無かった。もとより、貴方に付けられた戦いの傷のせいで、五体満足に生きる事は出来なくなっていたけどもね。首から下の状態は酷いもので、よく死ななかったものだと医師に言われたわ。』

 

鉄器兵団には回復魔法を使える者は殆どいない。もとより、魔法兵団にほぼ全ての魔法使いがいるので、鉄器兵団側が戦いの怪我を回復する方法は外科手術に頼る他は無い。ナスターシャの肉体は、四肢の欠損と主要な臓器の損傷、頸椎の損傷と言う致命傷に等しかったが、医師らの懸命な手術により、一命を取り留めたのだ。

 

『貴方と戦った当時は確か大戦後期、ちょうどカグヤちゃんと入れ替わる形だったわね。私の息子とそう変わりない子が戦争に駆り出される姿を、自由のきかない体で見送る事しか出来なかったのはとても苦しかったわ。』

 

『しかし、君は……怪我を負った後も、軍団を指揮して我々との戦いを継続したと風の噂で聞いた。鉄器兵団唯一の強硬派と言われる程の苛烈さをもって……』

 

『そっちの好戦派インシャク、あのいけ好かない男と取り巻きの五月蠅い女二人に対しての印象ははっきり言って最悪の一言だった。ねぇ、覚えている?私とキョーイチが大戦の中盤に停戦の場を訪れたのを。』

 

ナスターシャは静かに語り始めた。

 

 

鉄器兵団の人間は、魔法を使えない、言ってみれば清蔵達の世界と同じような人々だった。そして鉄器兵団の半分は農民であり、実は戦争の士気そのものは全然高く無かった。農作業に追われながらの兵役、所謂足軽であり、戦いの激化は総じて望んでいない事だった。

 

とは言え、苛烈な魔法兵団の遣り口に応戦せざるを得ず、農具を作っていたドワーフらは手先の器用さで多くの武具や兵器を作り、順応性の高いヒューマやオーガ、ゴブリンらがそれを使い、魔法兵団と互角に戦い、大戦が始まって七年程経過した頃には、膠着状態にまで持ち込んでいたのだ。

 

大戦が長引き、身動きの取れない状況になれば、農民は作物を育てる暇もない。そこでナスターシャは、農民出身である自身とキョーイチ・オガマルの二人で停戦交渉をしに行く事となった。大将であるタイラーもこれを了承し、魔法兵団側との領地の狭間にある、ハーン連邦で停戦交渉をする算段になった。

 

『今思えば、あの時総帥である貴方がいなかったのははっきり言って不覚だったわね。こっちの総帥であるタイラーは農民の支援に当たってたから一緒にいなかったのだから仕方無かったけど、貴方は確かあの時は他の幹部と同じ場所にいたはず……』

 

『ああ、その通りだ。私もあの時には嫌戦の雰囲気を感じてはいたが……正直な話、まだ君達が怖かった。特に好戦派と呼ばれた君とキョーイチの話を信じる程には、友好的ではなかった。』

 

魔法兵団側の停戦交渉に顔を出したのは、強硬派の三人。東方の魔女、ラン・リョービ、火焔姫ミクニ・ナスカ、そして雷神インシャク・ティランド。各々が当時少数派の種族で不遇な扱いを受けて来た者の長である。対するナスターシャやキョウイチは多数派であるオーガであり、かつ農民の出自と言う、ある意味真逆な存在と言える両者。かたや少数派で差別されてきたが種族の一番頂点に立つ戦闘者、かたや多数派で差別は無いが、農民の出自であくまで庶子の代表としてやって来た者、話は平行線処か、魔法兵団側の答えは鉄器兵団にくみする者すべての存在が消えるまでは終戦としないとまで言ってきたのだ。ナスターシャとキョウイチは已む無く交渉を諦め、ハーン連邦を足早に出る事にした。しかし、交渉の場から離れた瞬間、二人は潜伏していた魔法使いらによる襲撃を受けた。ナスターシャを庇う形で前に立ったキョウイチがそれらを追い払ったものの、その後も天族の兵士による空からの急襲等を受けた。辛くも国外を脱出した二人だったが、ナスターシャを庇ったキョウイチはかなりの重傷を負い、ナスターシャ自身も背中に火傷を負う等、命の危険に晒された。強硬派三人に対する怒りは、大戦終結後も三人が一切詫びなかったと言うキョウイチの発言により(この時はまだナスターシャは生身だった)、封印が解かれた後も彼女の記憶に強く残る事になる。

 

『ねぇ、レイ……あの時の三人の答えは貴方を含めた総意だったの?本音を聞かせてちょうだい。私の子孫の国であるアンブロスが未だに魔法を使う者に対する嫌悪感が残ったままになってるの、平和で平等な時代の訪れが来たと言う歴史書の記述と全く違うなんて、おかしいじゃない?』

 

『ターシャ……三人は既にこの世にいないから言おう。やり過ぎだとは思ったが、当時の我々が徹底抗戦の気持ちだったのは事実だ。済まなかったと言っても、収まるものじゃない、私もそうだったから。逆に聞こう、ターシャ。君がこうして自らの体を捨ててまで復活の時を待っていたのは、復讐の為なのかい?』

 

『……復讐の気持ちが無いといったら嘘ね、でも本心は違う。私がこうして裏社会の人間と組んだのも、貴方が新たな混沌の中で、あの三人と同じ過ちを繰り返してしまわないかの確認をする為。』

 

『しかしその過程で多くの無関係な人間、特に何も犯してない人間を巻き込んでしまった事はどう説明する?!何故こんな酷い事を……何故こんな回りくどい手を?』

 

『私は兵器として造られている途中に、自殺を出来なくされる装置を組み込まれているわ、しかも私を停止させる資格のある者の前でしか、私のこの姿を晒せない。だから鉄器兵団側の遺した最大の汚物として、最低な部分を、貴方と、天族の先祖のお馬鹿さん達に付き合わされながらも前を向いた現在の天族、そして……今の世界で弱き者を虐げているピョードルを捕らえようとしている貴方の恩人達に、私を直接葬って欲しいのよ。今ここにいる者達は、私の洗脳下にある、つまりは終わらせるのも私の自由ではある。ただし、兵器としての定めかしら……ただそのまま死を受け入れる事を許されないように改造されてるの。だから……私との戦いに勝ってみせなさい!』

 

会話中完全に思考停止していた兵達の攻撃が再び激しさを増していた。レイはナスターシャの意志が固い事を知ると、再び分身を増やし、攻撃を強めた。

 

『判った、ならば終わらせよう!ターシャ、いや、ノヴァ・レギエンド!この時代に、過去の遺物は不要!共に消え去れ!』

 

 

その頃、山田はエメリャー候の私兵がエウロの街道に差し掛かった事を悟ると、エウロの連邦政府より派遣された軍と、サカサキ、エルリラの保安所職員の合同部隊を従えて、サカサキより数十km地点にて防壁を構えた。連合国憲章に引っ掛かる関所の設営にギリギリかかるかどうかの行為であるが、エウロ政府の働きかけにより、一時的なものを建造する許可を連合国大統領に認められた形で実現した。保安所職員としての山田の働きは表世界でも評価されており、その所縁から各所にパイプがあったのだ。

 

『ノコノコとやって来るとは。悪党も肥大すれば頭が回らなくなると言うが……俺達公安を甘く見ない事だ。』

 

山田は、斥候による情報から、ここより百kmの地点にエメリャー候が来ている事を確認、更に情報が続く。

 

『シラガネ子爵のハクセンカイの強兵が付いているとの情報が入りました。』

 

山田はシラガネと言うワードを聞いて僅かに顔を歪めた。明らかに元世界の人間の名字、そして、木尾田が殉職し、自身の生き方を変える切欠を作った元凶、四代目白戦会組長、白金信一(しらがねしんいち)、本名を司由伸(つかさよしのぶ)と言う。木尾田の心臓を撃ち抜いた弾丸を放ったのはこの男であり、山田の心臓を撃ち抜いたのはこの男の側近だった赤軍新党の主席だった。

 

『忌々しい、この世界でも白戦会を名乗り、あろう事か子爵にまでなっているとは……白金、貴様は死ぬべき男だ!』

 

山田は此方の世界に来て一度も撃たなかったオートマチック拳銃を取り出した。残弾は残り三発。使う事が無い事を祈りながらその時がやって来た事を悟った。

 

(神様とやらは時に残酷な事をする、この世界でも悪党を放つなんてな。だがそれは、俺達の世界の始末は、俺達自身の手で着けろと言う啓示……俺はそう受け取った!)

 

山田は、既に転移者の不届き者を数名始末している、悪党であれば命を刈り取る事に戸惑いは無い。だが、サリー達はどう思うだろうか?特に清蔵は殺す事に対しては例え悪党でも良い返答をしなかったし、関白にまで上がり、この世界で命のやり取りを経験している康江でさえ、出来る限り相手を殺したくないと言う考えである。

 

「随分と俺の手は血で汚れてしまったな……もしも報いと言うものがあるのなら、サリー……君を抱いてやれない事が最大の報いなのかも知れない。」

 

そう呟くと、山田は拳銃を懐にしまい、部下達に視線を送る。彼等は公安発足以来のベテランであり、山田の人柄に惹かれた者達である。仕事もテキパキこなし、どんな危険な任務も顔色一つ変えず遂行する。そんな彼等でも、今回の仕事がかつて無い激しいものだと感じているのか、皆緊張と焦り、そして恐怖の色を隠せないでいた。公安のエリートと言っても、仕事を離れれば一人の人間なのだ、彼等が本来気さくで楽しい人間である事は、山田が一番知っていた。だから表情に出そうとも責めるような野暮はしなかった。

 

(みんな良くここまで付いてきてくれた。この仕事が終わったら、長めの休暇を取らせよう。)

 

そう思うが、仕事が一段落するまでは決して口にはしない。口にすると最悪の結末が来ると言うジンクスがあるのを自分自身が経験している為、山田は黙して、目の前の事に意識を戻した。

 

 

同時刻、カグヤは駿馬に跨がり、レイの戦っているであろう方向を目指していた。馬を休めながら長い距離を驚異的な速度で駆ける。街道へと進路を変えて暫く進んでいたその時、上空に羽を背負いし人間が百余り、彼女の前に降り立った。カグヤは馬を止めて下馬し、彼等の前に立った。平均して160cm程の小柄で細い肉体、肩甲骨が変化した白鳥のような翼、天族であると直ぐに分かった。

 

『天族ね……私は、カグヤ・ミトヅキ、贖罪の為に自ら封印を望んだ者よ。訳あって現世によみがえったけれど、その説明は後……』

 

『十英雄最年少のカグヤ様ですか……この度は我が祖先の不寛容により様々な悲劇が起こった事をこの時になるまで知らなかった無礼、お許し下され。』

 

『今さら謝罪なんていらないわ、終わった事だし。それより今分かっている事を伝えなさい。』

 

カグヤは敢えて冷たさを感じる言葉で彼等に話す。魔法兵団幹部の身勝手さに対する静かな怒りと、現在彼女を受け入れてくれた現代の人々を巻き込む事への哀しみ、それらを悟られまいと、大戦当時の雰囲気を纏っているのだ。顔は兜のガードを下げているので、口元しか見えていない。カグヤは静かに言葉を紡ぐ。

 

『レイーラさんの元へと行くの、邪魔をするなら相手するわ。』

 

『いいえ、邪魔は致しません。ただ……我々も同行致します、天族の総意が、戦う意志が無い事をノヴァ・レギエンドに伝えねばなりませぬ故。』

 

五代目インシャクのまっすぐな言葉と眼差しを感じたカグヤは、殺気を抑え、穏やかな顔で答えた。

 

『付いて来ないで……と言っても意志は固そうね。いいわ、ならば一緒に行きましょう。』

 

 

ノヴァの軍団とレイとの戦いは、ノヴァ側が圧倒していた。大戦時ですら一人で一度にここまでの数と戦った経験が無い上に、ノヴァの指揮能力の高さが相まって、分身の殆どを喪失していた。

 

『はぁ、はぁ……つっ、強い!』

 

レイは素直にそう感じていた。大戦当時の鉄器兵団は農民達ばかりであったが、目の前にいる軍団はエメリャー侯の私兵であり、戦闘の専門家である、練度に大きな差があって当然である。また、数は一万以上減らしたにもかかわらず、一向に減ったと言う気がしなかった。ノヴァの洗脳により、恐怖の箍が外れている為、高密度かつ戸惑いの無い攻撃を繰り返されては、流石のレイでも気力を削がれるのだ。

 

『フフ、歴代最強の魔法使いと言っても、人間である事に代わりは無いわね。体力も既に限界と見た。』

 

そこにノヴァが容赦なく事実をぶつけていく。十英雄一の頭脳と呼ばれた彼女に嘘偽り、精神攻撃は一切通用しない。かつ、一鉄器兵団の長として、魔法兵団の総帥に情けはかけないと決めているのだ。

 

『足元もふらついているし、飛翔魔法を維持できないようね。分身も展開する余裕が無いし、何より脂汗をかいている今、使えて自己犠牲魔法と言う所でしょ?』

 

『くっ?!』

 

全てを見透かすようにノヴァが言葉で攻める。図星だった。死にぞこなった分身の一部が自己犠牲の爆発技を一回使っているのを見て、既に完璧な対策を構築しているのだ。本体であるレイの自己犠牲魔法は分身とは桁違いの威力を持つが、それに関しても既に反転攻勢をかけれる策を講じており、効果は見込めそうも無かった。

 

『無詠唱発動程度の魔法では我々には傷一つつけれない、詠唱発動は口さえ封じれば怖くないし、触媒魔法は激しく動きながらは発動出来ない。そして、貴方の肉体強度は常人に毛が生えた程度……仲間を待つにしてもここまで来るのにまだ時間が掛かる、どうあがいても詰みね。降参したら?』

 

事実、事実、そのまた事実。レイは万策が尽きていた。遥か後方に天族の影らしきものが見えたが、百余りの数では焼け石に水であろうと悟った。万策尽きていた、ある例外を除いて。

 

『……間に合わない、それは事実だ。しかし、ノヴァ……あなたは一つ忘れてはいないか?』

 

『何?』

 

『一騎当千の傑物、現世によみがえった者が我々だけでない事を……』

 

レイは口元に笑顔を称えたまま、ノヴァの兵士の弩弓を胸に受け、その意識を手放した。薄れ行く意識の中で最後に見たのは、深紅地に金の装飾をあしらえた赤い鎧兜を身に纏い、長柄の斧を持って大地を踏みしめる長身の女性の姿だった。

 

 

『エスワンの生態反応が、消えた……』

 

エメリャー侯の本体を叩くために陣を構えていた山田は、腕に填めていた特殊リングの光が消えた事に戸惑った。元々無理を承知でレイに別働隊を叩いてもらうつもりだったが、レイの死に関しては想定していなかった。

 

『済まない……あんたを死に追いやるような無茶をさせて……だからこそ、目の前に見える輩は、俺達が必ず……』

 

気合いを入れようと声をあげるが、動揺が静まらない。七年間で築き上げた友情関係を、たった一度の無理強いで失ったショックは大きい。ふと、少し前に再開した友人らの姿がフラッシュバックした。

 

〔啓兄、もう少し柔らかくならないと駄目だよ、今の啓兄見てるとさ、氷のロリータなんて言われてた時のあたしみたいになりそうだもん、だから全部失っちゃう前に、変わろ?〕

 

〔山田……正義感が強いのはいい、でも苛烈過ぎるといつか大切な人を傷付けてしまうかも知れない……僕が言うのもなんだけど、奥さんを泣かせちゃダメだよ。〕

 

〔山田、俺はお前の頑固さが危ういと思う。なんつーか自分を追い込み過ぎて周りのアドバイスが聞こえなくなるっつーか……まっ、おまいうだけどさ……ちょっとずつ固さを取って楽に行こうぜ、なっ?〕

 

親友達の言葉が頭を巡った。周りの人間に無理強いをさせるような行動を、無意識に取っていたのかと、山田は声に出せない声を心であげた。今はまだ動揺を仲間に伝えてはならない、山田は虚ろになりかけた自らの頬を張って部下に伝える。

 

『エメリャー侯と白金子爵、この二人は絶対に生きて捕らえよ。兵士は逃げる者は追わず、投降の意思を見せた者は助けろ。元凶を押さえれば、全てが終わる。みんな、済まんがお前達の命を、力を貸してくれ。』

 

いつもの厳しさとは違ったすっきりとした顔でそう言う山田を見て、部下達は応と応え、拳を突き上げた。

 

 

カグヤと天族の一団が現場に到着したのと、レイの胸が貫かれたのはほぼ同時だった。

 

『レイーラさん!!』

 

兜を外し、斧を手放し、レイのそばに寄る。命はまだ消えてはいないものの、胸を太い弩弓で貫かれているのだ、状況としては絶望的だった。

 

『そんな……レイーラさん、なんで……』

 

カグヤは涙を流しながらレイを抱き締めた。天族の一団も状況を察したのか、レイの周りに近付く。

 

『まずい!心臓を貫かれている!おい!回復に心得のあるもの、みな集まれ!完治は無理でも、今ならまだ助けられるかも知れない、急いでくれ!』

 

天族の一団から数名の者が出てきた、その中に、チェンルンの父、タールンの姿もあった。

 

『脊椎は完治は無理かもだが、心臓ならばどうにかなりそうだ!カグヤ様、ここは我々がレイーラ様を助けます!貴女は残りの仲間と共に、ノヴァ・レギエンドと〔対話〕を!』

 

『みんな、ありがとう……レイーラさんを、お願いします。』

 

涙を拭きながらカグヤは目の前の輿に鎮座するノヴァを見据えた。ノヴァはその姿を、ナスターシャの姿に変化させた。エメリャー侯の私兵は再び、時でも止まったかのように動きを止めた。

 

『貴女とは初めましてに近いわね、カグヤちゃん。見なさい、この体を。』

 

ナスターシャはおもむろに服を脱いだ。肌色のグラマラスな股体、それが銀色の金属光沢に変わった。髪の毛の部分も体と一体化し、登頂部は丸い輪郭を残すだけ、美しかったであろうナスターシャの体のラインのみを残して、人間だった頃の特徴は、赤い瞳だけとなった。

 

『ノヴァ・レギエンド……戦う為だけに創造された存在。本来ならば封印が解けた後の私の心は無かった筈、そう望んだから……でも何処の誰の仕業かは分からないけど、封印が同時に解けたお陰か、意識を押さえ込む装置が作動しなかった。』

 

ナスターシャは自分自身の意思をもってこれまでの諸行を行った事を認めた。ノヴァ・レギエンドの魔力制御装置、所謂安全装置は三つ存在し、一つがナスターシャの人格を押さえ込む装置、二つ目が魔法兵団幹部の殺害を抑制する装置、三つ目が鉄器兵団幹部の殺害を抑制する装置であった。基本的に時の権力者のみを殺害する事を目的としたのがノヴァ・レギエンドの本来の役目であり、大戦当時の人間が仮に現れた場合、力を持たなくなるように出来ていた。これは、人によっては500年生きる可能性もある寿命を持つハイエルフであるレイオウに止めに入ってもらう事を想定したものだった。しかし、大戦当時の生き残りは自分を含め三人、かつ、二つ目の装置はバグで作動しなくなった為、魔法兵団側では動きを止められなかった。ノヴァの動きが止まったのは、三つ目の装置が辛うじて異常がなかった事によるものだった。カグヤの到来により、ノヴァ・レギエンドは一時的に動きを止める形となった。

 

『もう、戦わないでいいんです……私は今、ナハト・トゥと言う町で、静かに暮らしています。二度と、あのような戦争を起こしません。』

 

『貴女の言葉に嘘は無いようね……でも、天族の答えを聞きたいわ。私は天族に奇襲を受け、背中に火傷を覆った。この体になっても、その時の事を忘れぬように、背中に残しているのよ、見て……』

 

金属の股体を反対に向けると、背中のその部分だけに色を浮かび上がらせた。生々しい、火傷の跡は、皆が目をおおう程に深いものだった。

 

『さあ、出て来なさい、現代のインシャク!私を納得させなさい!』

 

ナスターシャは、赤い双眼をギラギラと輝かせながら、天族に向かって叫んだ。この傷の痛みの信号は、終生屈辱を忘れぬようにと言うナスターシャ本人が望んでつけたものであり、傷の再現も同様である。やはり、天族に対する憎しみは消えていないのだ。その様を見ても、現代のインシャクは臆する事なく、その瞳を見ながら前に出た。嘗てのインシャクの生き写しと見紛う程、目の前の彼はインシャクそっくりであった。唯一、そして大きく違うのは、インシャクとは対照的に穏やかな瞳をしていた事。

 

『ノヴァ・レギエンド、いや、鉄器兵団のピョードル・ナスターシャ様でしたね?是非お話ししとうございました!』

 

声質もそのまま、しかし言葉には優しさが伝わる。嘗てのインシャクは敵対の眼差しと言葉しかナスターシャには記憶がない。

 

『我々天族は、初代インシャクの言葉に従い、他種族の干渉をせず、タキアンダ台地でひっそりと生活しておりました。しかし、この度の件で、初代インシャクの黒歴史が明らかになり、我々はかの者の取り決めを守る理由が無くなりました。我々はもう、初代インシャクの呪縛より解かれるべきだと思い、タキアンダ台地より降りて参りました。』

 

『そう……少しだけ、ほんの少しだけではあるけど、傷の痛みがひいていくような気持ちになったわ……それで、貴方達は現人類をどうするの?答え次第では私はまた無慈悲な鉄器へと戻るわよ。』

 

話は通じると感じてはいるものの、それだけでナスターシャの怒りが収まる訳が無かった。現代インシャクも他の種族との交流もない上、言葉に窮していた。その時、彼等の横から声が聞こえた。

 

『みんなー!チェンルンだよ!』

 

『ナハト・トゥの警察署長、ワフラ・ヴァイシャば。話は聞かせて貰ったど。』

 

『カグヤさん、ごめんなさいね。心配になって付いてきちゃった。』

 

『さっ、三人共、どうやってここに?!』

 

驚くカグヤとは対照的に、ワフラはチェンルンの肩を叩いた。

 

『我が署に天族の部下がいた事を忘れておらんか?魔法はてんで出来ないと言っていたが、飛翔魔法だけは得意だとも言ってたんで無理を言って運んで貰った。』

 

『さっ、流石に二人を篭に乗せて長い距離を飛んだから、つっ、疲れちゃった、ははは……ひっ、非力だもんねチェンは……』

 

『いや……そなたは救世主だ、卑下するでない。』

 

『ふぇ?……あっ、ありがとです……』

 

そう言ってインシャクは肩を叩き、チェンルンに最大の賛辞を送った。チェンルンはきょとんとしながらも、初めて一族の長に誉められた事を素直に喜んだ。

 

『さっ、集まった所で話を聞きたいの。』

 

チェンルンが息を整えている間に、ワフラは治療を施されているレイの顔を見た。土気色をしてはいるものの、胸に開いた穴は殆ど回復しているようだった。治療に回っている天族の者らは、大きく汗をかきながらも必死に治療を続けていた。治療の魔法は自分の生命力を移すと言う原理故に、各々の生命力を削る中々にきつい魔法ではあったが、天族の治療師達の誰も嫌な顔一つせずに懸命な治療を続けていた。レイが心配無い事を確認すると、ワフラはナスターシャの前に進み出た。ナスターシャは嘗ての仲間に酷似したワフラに穏やかな瞳を向ける。

 

『お初にお目にかかる、ワシはワフラ・ヴァイシャ。高祖父が世話になったそうで。』

 

『甲斐未来です、ワフラさんのこっ、こっ恋人です!』

 

『ピット・チェンルンです!天族ですけど、色々あってこの人達と仲良くやってまぁす☆』

 

ナスターシャは三人の顔を覗く、全員が善人であるなと察した上で、尚問うような言葉をかける。

 

『平和を享受しているメルビンの子孫、恋人、そして、その子孫と仲良くしている天族ね、素晴らしいわね……ところで貴方達はこの三人のように仲良く手を取り合う意思はあるのかしら?』

 

個人間での交流等、珍しくはない。ナスターシャ本人も、個人的に仲良くなった魔法兵団の人間がそれこそ沢山いた。問題なのは部族、あるいは種族間でそれが出来るかどうかなのだ。ナスターシャは今、天族総意の覚悟を聞いているのだ。

 

『我々はもう、覚悟は決まっております。国の所属は、タキアンダ台地がアンブロス領内にありながらどの国家にも属していない事から、それぞれの好きな国で、一般市民として生活してもらいます。背中の羽根については、差別意識の強い地域では無い限り、隠す事もありますまい。なんと言いますか、初代の愚か者による悪夢はもう見る気に等なりませぬ。』

 

何処かスッキリした顔で、インシャクはそう言葉をかけた。元より二代目の時代辺りから、強力な攻撃魔法の類いは殆ど失伝しており、平和な暮らしに慣れきっている彼等が、リスクを侵してまで敵対、戦争に結び付く行為に与する理由が無かった。ナスターシャはその回答に満足したのか、金属光沢状態からナスターシャ本来の姿に戻ると、洗脳していた兵士達に術をかけ、武装を解除、衣服すらも脱がせると、街道を引き返すように操った。

 

『エメリャー侯の領まで洗脳が解けぬようにしているわ。ただの情けない性犯罪者として、奴等は暫く大人しくするはずよ。首謀者たる私は、そうね……』

 

そう言うと、ナスターシャは輿に積んであった磔刑台を指差した。

 

『現代の正義の名の下に、裁かれる事を望むわ。何れにせよ、私が兵器として生まれ変わった時点で、既に死んでいる、覚悟なんて遠い昔に出来てるわ、遠慮は無用よ。』

 

 

こうして、別働隊は、エメリャー側の敗北、そして、隊長たるノヴァ・レギエンドことピョードル・ナスターシャの捕縛により、公安の脅威の一つは取り除かれた。残る憂いは山田達本陣のみとなり、エメリャー侯は知らず知らずのうちに追い詰められていくのであった。

 

 

 

 




長っ、そして終わらんのかいと突っ込み来そうですが、次話で番外編完結です。

※割と加筆修正しました。
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