(白戦会事務所より発泡!これより正面玄関口に陣取っている突入班は盾を構えつつ事務所内に突入する!)
あの日聞いた無線の声…暴力団が存在しながらも事件と言う事件が無かったはずの向日葵市で起きた、大規模な暴力団事務所の事務所捜索…最初はそう聞いていた。しかし、蓋を開けて見ればそこには向日葵市には不似合いな有事の状況が存在していた。
玄関の方から響いた銃声……警察学校以来に久々に聞いたあの音。奴らは銃を持っていた。かなりの暴力団だから当然なのだろうと思いつつも、実際にそれが使用されたとなったら話は別だ。俺はただ、少し離れた場所からそれを見ている事しか出来ない。
玄関の直ぐそばに配置された人間達は、向日葵市でも腕ききの人間ばかり。その中に、中学からの親友、
ー
数分の静寂があっただろうか?玄関の班は先程の無線での準備を整え、突入した。俺は他の班に流される形で、玄関の方へと構え直す。
パン、パパパッ、パンパン、パン、パパパッ!
計十発、一つは暴力団が所持していると推測出来るマシンガンのバースト射撃の音……単発ずつのはどちらかの拳銃の発泡音……そこからは静寂に包まれた。嫌な予感がする。
……暫くして無線が入る。
〔構成員、抵抗する者を鎮圧!連行する為に護衛を求む!なお、負傷者二名、一名が重症、即座に救急車の手配を願いたい!〕
俺は最後の言葉を聞いていてもたってもいられなくなった。他のメンバーと共に事務所へと入る。そこには……
『木尾田……嘘だろ?おい、目を開けろよ……今日上がったら山田と一緒に飲みに行くんじゃなかったのかよ!残された康江ちゃん泣かせんなよ!!起きろよぉっ!!』
声をあげながらも、既に手遅れなのを悟るしか無かった。心臓に被弾……あばら骨の間を抜けるように弾が当たっていた。即死だった……
『うっ、嘘だぁ!!』
ー
『……はっ?!……夢か……夢だったら良かったのにな。』
『せぞさん、大丈夫?凄くうなされてたよ……』
『大丈夫……オフッ!(ムスコは大丈夫そうじゃない!近い、近いよテイルちゃん!)』
俺は町長の用意してくれた借家で眠っていた、そしてあの日の悪夢にうなされ、テイルちゃんに心配され(抱きしめて慰めてくれた……そらムスコが無事で済むか!)、今に至る。
暫し放心状態になりつつ、俺があの日の悪夢にうなされていた事を、テイルちゃんに話した。本当はこんな話、ずっと封印するつもりだったけど、テイルちゃんには世話になりっぱなし(署にお弁当持ってきてくれるのよ、旨し。)なので、包み隠さず話した。
そして……もしこの世界に来なかったら、あの時までは僅かでも確かにあった警察官であると言う矜持が目覚める事も無かったと言う事も。皆の前では嘘は付かない。何故なら、こんな俺を、気に入ったと言ってくれた人達だったから。テイルちゃんは涙を流しながらも、俺を弱虫とか言わずに励ましてくれた。
『せぞさんはね、優しい人だよ。だって何にも知らない世界から来たのに、皆から愛されてるんだもの、元気出しとぉ。』
テイルちゃんは俺を抱きしめる力を強めた。ああ、あったけぇ……おい、ムスコよ、今は引っ込んでろ!浄化されていく場面が台無しだろうが!と言うか何故テイルちゃんが来てるかと言うと、借家は所謂長屋になっており、テイルちゃん一家の住み処はなんと隣……こっち来てオチオチマスかけねーのよ!年頃の女の子に35のオッサンのマスかきなんて見られたらと思うとね……
ははっ、木尾田よ、俺何だかんだで頑張ってるぞ!彼の世があるのか分かんないけど、どうかそっちで見ててくれ。
番外編その1〔 私、山口康江警視です、故あって異世界の住民になりました(泣)〕
私の名は
そうこうしている内に、奴はここに追い込まれて行く。奴は自分の娘を人質に取っており、迂闊に狙撃出来ない。奴は猟銃で知人を射殺後、国道を進み、警察車両に発砲、バリケードを突き破り、道無き道を進み、2つの包囲網を突破……かつて発生した猟銃乱射事件を彷彿とさせる。だが奴に取って不幸だったのは、2つの包囲網はブラフであり、この綱渡港に誘き寄せる為だった事だ。岸壁の端に追い込まれ、奴は娘に猟銃を突き付けながら何かを叫ぶ。無駄だ。お前の肩にレーザーポインタが行ったのが見えるか?製材会社の屋上に待機させていた狙撃班がお前を無力化する。終わりだ。
ー
ってカッコつけてたのがほんの2分前……あの、ここ何処?何があったの?私の記憶違いでなければだけど、中世ヨーロッパのお城の謁見の間なんですけど。そして、甲冑に身を包んだ兵隊、何か額に角が生えてる……どうなってんの?え?
『きさん、何者じゃ!陛下の間にどげんして入って来たとか!事と次第によっては死なす!!』
こっ、怖いよぉ!中世ヨーロッパとは似ても似つかない九州っぽい方言が出て来たんですけど!とっ、とりあえず言葉通じそうだから話そう。
『すみません、私も良くわからないんです。あっ、身分を明かします。警察庁の山口康江警視と申します。これが身分証明書です。』
何時ものようにクールっぽく立ち振る舞えない……何で私がこんな目にあうのよ!兵隊はそれを受け取ると、私の顔を身やる、超怖っ!角生やした竹〇力だよこれ!
『陛下!こんおなご、嘘ばついちょる顔じゃなかとです、ただ、書いてある文字が読めんば。処遇、どげんすっとですか!』
陛下と呼ばれた人の方を見ると、後ろ姿しか見えないけど、耳が長くて髪は銀髪。髪飾りから着てるドレスも高そう……その人がこちらを見た瞬間に驚いた。
『キャハッ☆他の世界からやって来たって事?いいんじゃない、面白そうだし!』
うわキツ!何とか顔の表情に出さずに済んだけど、軽過ぎる上にそのキャラ?!
『わたしはタイーラ連合国の一国、カン=ムの皇帝、ユナリン・ローズ・カン=ムエル、年は永遠の45歳でーす!キャハッ☆気軽にユナリンって呼んでくれたら嬉しいな♪』
うわっ、なによこいつ、殴りたい……45歳で永遠とかって事は年はかなり取ってるよね?聞きたいけど聞いた瞬間打ち首にされそう。
『貴女頭良さそうなヒューマだね☆周り男ばっかでさぁ、話し相手がいないの、将軍になってくれる?どうせ当てが無いんでしょう?そうしようよ☆』
『はっ、はい……良いですけど、ほんとに大丈夫なんですか?』
『大丈夫☆この国の周りには大きな脅威は無いし、仮にあってもわたしの魔法でズドンだから☆』
えぇ……引くわぁ。雅人ぉ、貴方が死んでから仕事に生きて来たとは言え、なんでこんな目にあわなきゃならないのぉ……助けて、雅人!
ー
番外編その2〔‐邂逅・前編‐〕
俺の名は山田啓将、この世界にやって来た。あっちの世界に生きていれば、35歳になるだろう。俺は……あっちの世界では公安の人間だった。左派系のテロリストを追いかけていた。生まれ故郷の向日葵市の隣、伸陸市に拠点を持つと言われたそれを、猛禽の如く静かに、かつ着実に追っていた。
公安に行く切っ掛けは……俺の高校の友人、木尾田雅人の死だ。向日葵市を牛耳る暴力団白戦組にあいつは殺された。それだけなら公安になるために動く動機にならない。そいつらが白戦組と繋がってたのさ。銃器を密輸し、ヤー公と手を組む、てめぇの利益しか考えない腐った連中……俺は友人を殺した奴らを、あいつの心臓を撃った銃器を密輸した奴らを許さない。
俺は公安に志願した。公安になるのは容易じゃない、能力が優秀でなければならないからな。幸い能力は認めて貰えた事、隣町故に土地勘もある為か俺は公安として奴らを追うお膳立てが出来た。二年もの地道な捜査の末、奴らのアジトを突き止めた。モグラ班の活躍もあり、確保班たる俺達が奴らのアジトに向かい、追い詰めた。だが奴らは抵抗、銃撃戦となり、俺は木尾田と同じ場所を撃たれて死んだ……俺は殉職したが、奴らは確実に逮捕されたはずだ。心残りは……奴が死んでから、藻抜けの殻になった清蔵が更に悲しむのが苦しい。あの時までのお前は、間違い無く一番警察官してたんだ、復活をいのるよ。
ー
気が付いた時、俺は別の世界に来ていた。胸の傷は……撃たれた場所は衣服に穴が空いてはいるが、何とも無い。ここは何処かは分からないが、あっちの世界では死んだと言う事実だけが残っている。起きた場所は、何だか西洋の町並みに見える。だが飛び交う声は訛りが激しいものの、日本語に聞こえる。とりあえず穴が空いた場所を隠しながら、その辺にいた肌の黒い耳長のお嬢さんに声を掛けた。
『そこのお嬢さん、失礼。ここは何処でしょうか?』
『え?タイーラ連合国の一国、エウロ民国のサカサキですけど?』
彼女はきょとんとした顔をしながらも答えてくれた。何分強面故に怯えさせたみたいだったので謝辞を述べ、足早に立ち去る。別世界なのは間違い無さそうだ、エウロ民国と言う国は聞いた事もない。
『あのぅ、すみません。』
『ん?どうなさいました?』
その彼女が立ち去ろうとする俺に声を掛けた。何かある……まあ着ている服から俺は浮いているだろうから不審に思うのも無理は無いか。俺は彼女を怯えさせぬよう、かつ油断せぬように身構えた。しかし彼女から次に出た言葉に驚きを隠せなかった。
『あなたのような方、数年前にもいらっしゃって。現在はうちの夫になってます。』
『え?本当ですか!もし、もし良ければ名前を教えて貰えないですか!?』
彼女は名前を教えてくれた。同時に……その名前を聞いて俺は呆然となった。
『木尾田雅人……あの木尾田がこっちにいるのか……』
後編に続く
ー
警察官としての使命感、漸く俺にも目覚め始めたんだなと、最近実感してきた。木尾田と山田、一番の友人達と奇遇にも進んだ道が同じだったが、二人と違って俺は使命感って奴を持って動いていたかと言えば何か違う気がしていた。公務員の安定した収入が主な理由……貧しい漁師の家だったからこそ公務員を目指していたんだけど、俺の夢はそこで叶ってしまったのだから二人と違い、向上心が無かったと言わざるを得ない。
だが、ここに来て、俺は夢のその先を求められるようになった。今はもう死んだ友人達がそうだったように、俺に宿る使命感が体を動かす。俺の使命感……それは……テイルちゃん、君と暮らすこの町を、守る事だ。女の子と添い遂げたい為なんて締まらない下品な奴と言うかも知れないけど、目標が出来たんだ、大きな進歩さ。
『せぞさーん、朝だよ!ほら、お弁当持って来たけん、今日も頑張ろ!』
『はーい!いつもありがとうテイルちゃん。』
さあ、行くぞ新米署長。これからまだまだ解決するべき問題は山ほどある、俺はナハト・トゥの署長として、みんなの笑顔を守る、今度こそ、二人のように立派な警察官になる。見ていてくれよな?
ナハト・トゥ警察署、現在23名。うち4名を巡査として正式に配属。旧守衛所出身者を新たに10名登用。児玉清蔵は異世界にて警察官としての使命と目標を掲げ、空虚な過去より脱出した。まだまだ知らない事ばかりの異世界の地で、清蔵はどんな未来を見る事になるのだろうか?今はただ、愚直なまでに前を行くのみだった。
ー
‐数年前‐
俺の寝室の壁掛けには、御守りが二つ、掛かっている。しかし、勤務中にそれを忍ばせる事はしない。この二つの御守りを肌に持つ時は、俺があの世に行く時と決めていた。あの二つの御守りの中身は……友人二人の遺骨の欠片なのだ。
心の傷を忘れたくても、時々鮮明な夢として悲劇を思い出されるのだ。その心の傷が痛む度に、俺は警察官のままでいいのかと問い続けたが、答えは結局帰って来ない。
『おい、聞いたか?』
『ああ、児玉ちゃんの事か?』
『一番の友人二人がたったの3年の間に殉職して、心が壊れたって……』
『入った頃は本当に未来を嘱望される優秀な人だったのにな……何だか心が空っぽになったと言うか……』
『自殺をしそうだからって本署預かりのまま置いてるらしいけど……出世コースからは外れてしまうのは勿体ないよね……有能な人だったのに。』
同僚達の声が聞こえた。そう……今俺は、とてもまともに仕事が出来る状態じゃない。それでも……何故か無遅刻無欠席で勤務し続けるのは何故かな……わからない。
使命感とかそんなんじゃない事だけは確かで、心に空いた、大きな穴をどうする事も出来ないまま、ただ体だけ動かしているような状態。山口のように仕事に打ち込んで忘れるなんて事も、俺には出来ない……幾分かでもあった俺の仕事への情熱は、無くなってしまった。
ー
ーー
ーーー
『せぞさん?せぞさーん、大丈夫?!』
『……え?俺どうかしてたの?』
『署長、あんた疲れてんのか?えらくうなされちょったが。』
ワフラとテイルちゃんがそこにいた。朝の仕事が片付いたので仮眠をとっていたのだが、どうやらうなされていたらしい。まあ過去の俺自身の記憶を再生されてたんだ……うなされもするよ。しかし御守りか、こっちの世界には持ってきて無かったが、ある意味良かったのかもな。あれがあったらきっと引き摺る気持ちで彼等と上手く関係を築けなかったかもしれない。心に空いた穴、まだ空いてはいるものの、塞がりつつある。それでも、忘れる事は無いだろう、何故ならかけがえの無い俺の心の友だったから……
いかんいかん、気を取り直さねば。仮眠を摂ってすっかり疲れも取れたし、仕事に戻るか。午後の仕事は、ナハト・トゥと署を結ぶ街道の開拓を妨害する輩をロウラ巡査が逮捕したらしく、取り調べ室にて待機するロウラ巡査に、取り調べのやり方を実践にてレクチャーしようと思っている。彼女は凛々しく俺に敬礼をする。俺も笑顔で返す。
『ロウラ巡査、お疲れ様。流れるような動きで逮捕したらしいね?それでホシはどんな人?』
『署長、それが例のギャングの下っ端らしいんです。直ぐにでも拷問にかけて吐かせたい所なんですが、署長はそんなのは嫌ですよね?』
『当たり前だよ!やってたら謹慎ものだよ?!』
自白の強要なんて点数稼ぎする馬鹿共の遣り口だよ。取り調べのマニュアルはそれぞれの署で違うらしいけど、うちは自白強要・暴力で口を割らせる奴は署長直々に鉄拳制裁が下るような所だった。推定無罪の意味をしっかりさせてたし、警察が人の人生を左右する仕事である事を徹底的に叩き込まれるからね。他の署だとどうなんだろ?お隣の所轄は公安関係でやらかしたと聞いたけど……まっ、関係無いか今はその話は。
うちは取り調べに関しては本当に徹底していた。休憩を挟まない取り調べをさせた人間にはそれこそ鬼の濱田課長が再教育と言う形で性根を叩き直させてたなぁ。因みに逮捕時に弁護士を呼ぶ権利と黙秘権があるって事を言わなかった不届き者には刑法や道路交通法の書き取りをさせてたね……後輩の正一は何度もそれやってたなぁ。向日葵署はあらゆる意味で変わっていたと改めて思う。取り調べをリアルに可視化した上で弁護士にもそれをしっかり開示してたし、逮捕されても不起訴って案件がとても多かったしね。かつ逮捕じゃなくて基本は保護が多かったし、公務執行妨害で検挙なんてのはよっぽどじゃないと無かったね。職質も威圧感を与えず、本当に不審な人間以外にくっつかないを徹底、具体的には東京辺りのオタク君達を怯えさせるような職質は絶対するなと言われていた。点数稼ぎするつもりなら規範となる警察の動きを……つーかよく魂の抜けた状態で務まってたなぁと思う。
ー
さて、取り調べ室で怯えた目ながらもこちらを睨んでいる被疑者を見る。聞けば獣人とエルフのハーフと言う(100年位生きるらしい)見た目はまだ小僧だな。ここん所しっかり肉体錬成をしていたロウラ巡査相手に掴みかかるとは、無謀だねぇ。逮捕術+空手+喧嘩骨法だ、相手が悪かったな少年。
『さて、現行犯逮捕と言う事で令状も無しでここに連れて来られた訳だが、取り調べの前に一つ。君には弁護士を呼ぶ権利と黙秘権がある。弁護士ってのは読んで字のごとく君の言い分を法に照らして弁護してくれる人だ。
弁護士は元ギャングだったが現在は非行少年更正の指導員となったエース・シュナイダー奉行所員に一任している。不利益な事は話す必要も無い。それが黙秘権ね。』
俺がそう言うとキョトンとした目を向けてきた。激しい拷問でも始まるのかと身構えていた彼は戸惑いを隠せない。そんな彼の下にエース弁護士(ゴブリン、40歳)がやってくる。
『児玉署長、弁護士のエースです。彼が被疑者のダルフィーさんですか?』
『その通り。取り調べの聴取を聞きながら、彼に不利益がある発言があったなら助けていただきたい。』
『分かりました。最初からの悪党なんてこの世にはいない、だからこそ我々弁護士の存在が重要なんです。ダルフィーさん、宜しくお願いします。』
このやり取りの間もダルフィー少年は戸惑うばかりだった。ダルフィー・マンエル(18)、三番地の農民の家の息子だった。元々は真面目な少年だったが、親との喧嘩で家を飛び出し非行に走った口だった、良くある反抗期の問題だな。悪い友達に唆されて不良になるパターンよ。
『成る程、喧嘩して飛び出してと言うのは反抗期の青少年には良くある事だ。ただ気になった事があるんだ。君の所持していたバッチ、これはギャングのコーリンの代紋が入ってるものだね?
コーリンは四番地の、しいては町全体の治安を悪くしている。何故なら、コーリンの頭、カマリタと呼ばれる人物は町長が受け入れた恩を仇で返したような人間だ。君は何故そんな連中と共に行動していたのかな?言える範囲でいい、勿論言いたく無かったら黙秘してもいいよ。』
俺は語気をなるだけ穏やかにして彼へ質問する。刑事ドラマのような威圧感ある取り調べはしない、向日葵署では被疑者も市民であり、守るべき存在だからと徹底的に教えられる。ここに来ても俺はそれを忘れない。ダルフィーは少し戸惑いながらも、捕まるまでの経緯を話し始めた。親と喧嘩したのは、将来農家の男として仕事をする自信が持て無かったからと言っていた。そうか……農家とかは俺の世界でも後継者に息子がなりたがらないとか良く聞いてたからね。この世界でも肉体労働の自営業は継ぎたいと思う人は少ないみたいだ。んで、家を出たはいいがその後の事は何にも考えて無かったらしい。行く宛もなくフラフラしてた所、似たような見た目の少年の獣人と出会い、意気投合。彼の属するチームに入った、それがあのコーリンだったと……と、ここでエース弁護士が意見を言う。
『ギャングの片棒を担ぐと言うより、近い見た目の友達が出来て遊んでいた、私はそう言った流れであり彼には犯罪の意思は無かったと弁護します。』
うむ、エース弁護士の見解は俺と同じようだ。俺は彼自身の罪は公務執行妨害の現行犯のみである事を確信した。しかし問題は何故ロウラ巡査に襲い掛かったのか?そこを知りたい。
『頭に、言われたんです。青い服を来た警察と呼ばれる連中を襲えって……コーリンは上の命令は絶対で、断れ無かったんです。断ったら酷いリンチの上に殺されるから……
グループに入って暫くして、ギャングの怖さを知ったけど、同時にそれは抜ける事は殺される事だと……お兄さん、ごめんなさい。』
まだ子供の彼にとって、最初は遊びだったのに、ギャングの恐ろしさを思い知った訳だな。彼は反省の余地がある。現在の世界なら保護者のもとに送る、まあ不起訴処分にしようと思ったけど、俺はまず保護者を連れて来てもらう事にした。最終的に保護者に判断を委ねようと思ったのだ。
取り調べ自体は一時間を越えない程度。長期勾留はするつもりもないので、保護者が来たら解放する予定だ。その間彼には食事を与えたり、風呂に入れたりした(水は通せるようになった、水風呂かつ手押しポンプだけど…)。ギャング生活は飯も風呂もろくに無かったそうで、焦燥していた彼だったが、幾分落ち着きを取り戻したようだ。
暫くすると、彼の両親(父ちゃんがハーフエルフ、母ちゃんが獣人)がやって来た。ダルフィーはただごめんなさいと泣き崩れ、両親は馬鹿者といいながらも涙ながらに彼を抱き締めていた。俺はエース弁護士に話をするよう促す。弁護士を通す事で警察自体が何か罰を与えるのを避ける為だ。両親は、息子の更正の為、何か社会奉仕をさせてくれないかと要望した。可愛い子には旅をさせよか……
『ならば奉行所に言って沙汰を受けなさい。罪的に開拓の手伝いを1ヶ月位の処分になるだろう、それでいいかな?』
『はい、しっかり迷惑かけたけん、頑張ります!』
『よし、それでいい。奉仕作業の期間が終わったら、親御さんとしっかり将来の事を話し合うんだぞ?』
ダルフィーはエース弁護士に連れられ、奉行所へと送られていく。両親も礼を言って帰っていき、ロウラ巡査と二人になった。
『署長、全然暴力も暴言も無しに説き伏せちゃいましたね……こっちの世界じゃ話もろくに聞かずに鞭打ち、袋叩きとかされてしまうとか多いのに……』
『被疑者に強硬な態度で問い詰めたら、本当の事なんて言わない。それに勉強で学んだろ?推定無罪って言葉。最初から犯罪者だ罰を受けて当然だなんて遣り口じゃ次の犯罪を増やすだけだからね。冤罪ってのも勉強したろ?ホシと思っていた人間が実はシロって事も珍しくない。だから先ずは優しく……これを忘れずにね。』
〔諭しのハマさん〕こと濱田課長の受け売りだけどね、重要な事だと俺は思う。と言うか拷問が合法化してるなんて益々教育に道徳の精神を追加しなきゃなと思った。偽善でもなんでもない、道徳無くして心なんて育たないから。ニーチェ辺りが聞いたら鼻で笑うんだろうけど、あんたらだって道徳観しっかり根付いて社会に出た口だろうがってね。
さて、ロウラ巡査はこれで流れを知った。シシ巡査やフラノ巡査長(成績が優秀だったので昇任)、ミハイル巡査辺りは彼女の話を聞いただけで分かるだろう。しかし皆さん有能だね、俺の世界の周りも有能な人ばっかだったけど、こっちも全然負けて無いね。
ー
さて、取り調べが一段落したので次は開拓課へ。本来は土木作業員の仕事たる開拓で警察の仕事と無関係なんだけど、署を町と直接結ぶ道を作りたいのと、署の周りを新たに町にしたいとの町長の考えから、この課の存在意義があるわけよ。因みに罪を犯した者の刑務作業としても機能してたりする。勿論強制するやり方でなく自主的にやれるようにね。その為に、署長たる俺自らも暇が出来れば開拓作業に従事している。肉体労働は割りと好きなんでクワやツルハシ握っての仕事なんてどんと来いだね。いやー、本当にこっちに来て充実してるな。神様とやら、粋な事をしてくれたものだ、最初はこのやろうと思ったけど、今は感謝してるよ。
ー
心に大きな穴を空けた男、児玉清蔵。しかし異世界の人間はそんな彼を温かく迎えてくれた。まだまだ知らぬ事ばかりの異世界にて署長となった清蔵、果たしてどんな未来が待っているか。異世界の空に輝く太陽は、清蔵のいた世界よりもやや弱い光ながらも、清蔵をしっかりと日焼けさせていた……苦も楽もあると言わんばかりに。
配備編・完
†
2023年に入って再編集作業しています。誤字、行間の変更等やっていたら大分元よりマシになったかなとは思います。