2023/3/21 誤字脱字修正作業がある程度終わってきました。次話は夏位には投稿出来るよう善慮します。
山田は動揺していた。レイが死ぬ事を頭に入れていなかった、慎重派の山田としては先ずあり得ない動揺、それは何処かに、目の前で親友を失った傷から立ち直れていない所があったと言うべきか。
しかし、エメリャー侯がそんな動揺を残したしたままで捕まえられるような相手ではない。権力醜い貴族の権力争いを、名実共に束ね、終結させた豪腕、兵士としての登用は身分を問わずに合理的な戦闘術を学ぶ。貴族出身者のボンボン等は即ふるいにかけられ、叩き上げで成り上がった実力者が兵士を纏める。故に、盗賊の頭領だったり、人身売買の移動商人だったりと、裏社会の権力者すら味方につけた。山田は中々収まらぬ動揺を表に出さぬよう、その時を待つ。
ー
実力主義を掲げるエメリャー侯の力、それは皇族達の信頼を勝ち取り、政の最高位である宰相へと登り詰めた。カン=ムのユナリンが彼と接触が無かったのは僥倖と言えた。政に疎く興味の無いユナリンの外交レベルは壊滅的であり、エメリャー侯ともし顔を合わせていたのなら、合法的に国盗りを達成された可能性が高かったからだ。そのエメリャー侯、彼が暴君的振る舞いを始めたのは、ノヴァ・レギエンドとしてナスターシャが洗脳術を使い始めた頃からだった。ナスターシャは現在のアンブロス南部の庶民であり、貴族に対する考えは否定的であった。エメリャー侯の掲げる実力主義の実態を見て、彼を水面下で愚鈍化させる事を決意した。実力主義、聞こえだけならば悪く無いのだが、実のところ、エメリャー侯は自分以外の人間を、立場の強い皇族達すらも「道具」としてしか見ていない。役に立つ者は重宝するが、少しでも役に立たぬと判断したが最後、どの身分にあろうと処分する。
だが、身分に関係無くそれを行うと言いつつも、貴族出身者が処されるのは稀であり、そこがナスターシャの癪に障ったのだ。ナスターシャは復活後に本能的に故郷であるアンブロスへと流れた。その中でエメリャー侯に接触、洗脳して自分に引き入れた。因みにナスターシャが洗脳術を使えるのは、体に組み込まれた赤い魔石(手の平程もあるルビーに酷似した魔石、レイーラと天族の魔力とリンクするもの)による無尽蔵に近い魔力と、記憶装置と同時に組み込まれた簡易催眠術によるものである。これ自体に完全な催眠術をかける力は薄いのに完全洗脳出来る程の力が発揮されたのは、魔石の膨大な魔力によるものであろう。勿論ナスターシャは洗脳する者を選んでいた。悪意、特に深層心理の部分で悪意の強い者のみを洗脳するよう自分に言い聞かせてそれを行った。魔法はイメージ力に左右される、彼女は魔法を使えない鉄器兵団側の人間ではあったが、幹部として多くの人間を指揮してきた傑物である、イメージする力そのものは魔法使いに負ける謂れは無い程強い。そこからは盗賊や人身売買の者を表立って暴れさせ、世界最大の脅威をこの世界の人間に消して貰う為のサポートを影ながら行ってきた。
結果的に罪の無い人間を数多く巻き込み、自らも正真正銘の醜悪な犯罪者となってしまったが、ナスターシャは自らを過去の遺物であり、消えるべき存在だと思っており、エメリャー侯と共に歴史上最大の汚物として裁かれる事を望んだ。ナスターシャ捕縛と別働隊の敗走の報は、洗脳下にある伝令によってエメリャー侯に伝わる事となる。
ー
その頃、数日前に休暇を取り、アンブロス南部に向かっていたノイン。個人的に嘗ての大戦の遺物が気になって、ノヴァ・レギエンドが目撃されたと言う周辺にまでやって来たのだ。康江からは、もし何らかの不利益があった際の為に、皇帝待遇の証を渡され、もしもの時は権力の行使と独自交渉権を認可されていた。康江いわく、
『ノインさんが気になるものって、やっぱり危険が伴いそうな感じがするんだもん。同性の、女の勘ってやつかな?ノインさんがいなくなったら、カン=ムは大きな損失だよ?』
と言う事だった。
『関白殿下はああおっしゃってくれたけど、休暇の、しかも私個人の調べものの為にここまで権利を渡すなんて……』
ノインは父アールに似て真面目な上に謙虚である、そして知る事に関しては子供のように調べたくなる性分なのである。康江はそんな彼女の気持ちを察してか、予め自分の出来る心配りを施したのだった。
ノインとしては大事にしたくない為に一人でこっそり行こうとしていた。元々父と同じ身長があり、男装すれば男に間違えられる程で、護身術と肉体強化の魔法も帝国の知り合いから手解きを受けており、ひとり旅そのものに不安は無い。しかし、今のノインの立場は宰相職である、本来なら複数の護衛に囲まれ、自由のきかない生活の中にいる彼女が休暇とは言え一人で行動するのだ、保険はなるだけきかせたかった。
『……それにしても、静かね。エウロとアンブロスの街道のエウロ側、それも副都であるエルリラと大都市サカサキを結ぶ街道だと言うのに、人の気配が無い。』
不気味な程に静かな街道を馬上から見渡す。世界第二位の流通量を誇るこの道が静まり返っているのは不自然極まりない。最近はエウロの保安所の活躍により最高の治安を維持していると聞いていたのに、まるで夜盗でも恐れるかのような静けさ……ノインは手に持つ護衛棒(トンファーに近い武具)に手をかけながら、街道を行く。その時、目の前数キロに人影、正確には人の群れを確認した。ノインは何かあった時の為に街道の端っこの整備されていない草むらに馬を移動させながら様子を伺う。人の群れに近付くにつれ、全容を見たノインは激しく赤面した。目の前の集団は何も身に付けていないのだ。目は虚ろ、垂れ流すものは垂れ流しながらただ街道を進んでいるのだ。
(なっ、何でみんな裸なの?!老若男女関係無く裸で……まるで何かに操られているような…急がないと!)
ノインは集団をやり過ごすと、何かが起こっているであろう街道の向こうへと馬を走らせた。
ー
『ん……私は……』
『あっ、お兄さん、気が付いたんですね!ちょっと呼んで来まーすっ!』
同時刻、レイはナスターシャが乗っていた輿の上で目を覚ました。輿は天族の力自慢十数人が担いでおり、ワフラ達は天族と共に周辺の護衛に回っていた。レイが目覚めたのに気付いた未来は、誰かを呼びに向かった。上体を起こして辺りを見回すと、既に戦いが終わり、何処かへと移動しているのだと分かった。対峙していたナスターシャは、自らの意思で輿の後ろ側に立ててある磔台に衣服も着ぬまま拘束されていた。隣には表向きの別働隊隊長、バッハ五世伯が同様の姿で情けない体を晒していた。ダーク・ハウンドは主だった戦力をレイとの戦いで失い、残りは生ける屍となって醜態晒しながら街道を後退していると言う。
『レイーラ、どう?重罪人の長の末路、似合っているかしら?』
手を広げた形のヒトガタを模した磔台に拘束されたナスターシャの姿は、何故か傷だらけだった。これは、嘗ての大戦で負った傷を再現したと本人は言うのだが、本来美しかったであろう彼女の体をここまで酷い有り様にした一人であるレイとしては、目を合わせる事が出来ない。
『ターシャ……なにも君がそのような辱しめを受けなくても……』
『いいえ、私は現世で罪の無い人間を数多く死なせた。それは偽りなき事実よ。戦争で兵隊を倒すのとは訳が違うもの、妥当だわ。』
晴れやかに言うナスターシャ。しかしレイとしてはせめて何か纏ってほしいと思った。敵だったとは言え、このように全てを晒されている姿を見られる様は余りにもと感じていた。それに若い天族に至っては目のやり場に困っていて落ち着きが無い。だがナスターシャの意思は固いようで、この状態のまま五時間も移動していると言う。
『……鉄器兵団の幹部達は皆、義理固いと言うか、潔いのだな。我々の側は結局レイオウしか貴女達と仲良くしようと思う者がいなかった。現世で魔法の半分以上が失伝したのも、我々の側が不遜で独善的だったから……』
そう呟くレイに、ナスターシャは気丈に返す。
『貴方達の兵達を卑下するのはやめなさい。少なくとも戦いにおいては鉄器兵団も魔法兵団も高潔に戦ってきたの、それだけは忘れてはだめよ。それに、貴方にはまだ残りの仕事があるのでしょう?貴方の友人、動揺してるはずよ。魔力の繋がりが切れているのではなくて?』
ハッとレイは気付いた。山田の腕輪に付与した自らの魔力の流れ、一度死に直面し絶たれていたのだ。山田は過去の出来事のトラウマで友人を失う事に恐怖している事を聞いていたレイは、自らを奮い立たせた。
『すまん、ターシャ、何から何まで……ケイショー、私は大丈夫だ!だから、心配するな!』
魔力を腕輪に念じて送り、自分の無事を伝えるのだった。
ー
レイの魔力が腕輪に伝わり、光が灯ったのを確認した山田は、最初は罠かと思ったが、徐々に平静を取り戻した。
(良かった……レイ。無事帰って来たら、その時に謝らせてくれ。)
スッと深呼吸すると、地平線に見えて来たエメリャー侯の本陣に視線を戻した。その目は殺意がみなぎっていた。友人を死に追いやる無理をさせた自分に対して、そして、罪無き命を弄んだエメリャー侯に対しての殺意……今の山田は抜き身の刃物のようになっている。
『迷いを吹っ切れたとは言えないが、トラウマを持つ事でむしろ覚悟を決めれる、レイ……後は任せろ!』
ー
『な……全滅?!バッハの兵が……全滅だと?!たった百人程の魔法使いにか?!』
伝令により伝えられた言葉に、信じられぬと呻くエメリャー侯。更に別働隊を破ったのが、〔百人規模の魔法使い〕と伝えられ、その動揺は大きくなった。アンブロス帝国における魔法使いの殆どは治療術師であり、攻撃魔法を扱える者は少ない。大戦時代から衰退しているとは言え、タイーラ連合屈指の鉄器を揃えており、魔法に頼る戦いが要らなかったのもある。もとい、アンブロス帝国は、旧時代のアンブロシア連邦の流れを組み、鉄器兵団側についた国である、治療術以外の魔法使いに対する差別意識が強いのも致し方無かった。かつ、現世の魔法使いの戦闘力は、良いところ武装騎士三名と互角かそれ以下と言うレベルであり、それも相まって大戦以降の世界では治療系魔法と違い、優遇されなくなったのだ。だからこそ、数で勝るバッハ率いるダーク・ハウンドの精鋭がやられた処か全滅等、信じられなかった。
『お、おのれ……エウロの狂犬共め、隠し玉を持っておったとは。』
エメリャー侯は動揺するものの、まだ目は死んでいない。本陣にいる自分が的確な指揮をすればまだ勝機はあると踏んでいた。既に崩壊の序曲が始まる処か殆ど〔終わっている〕事も知らずに。既に序曲から本題のクライマックスに事態は食い込んでいた。
ー
戦いの2日前、エメリャー侯来訪から暫くして、エルリラ市長がエルリラの保安所に訪れた。
『エルリラの保安所職員に告ぐ。エルリラ市長権限を行使し、エルリラ、サカサキに繋がる全街道を一週間通行禁止とする!サカサキ市長からも同意を得ている。他国の人間のみを通し、怪しいものを見極め捕らえるのだ!もしダーク・ハウンドの者であったなら、サカサキの公安の者と協力して、出来る限り生け捕りにする事。』
エルリラ市長が山田の部下である通信使から現状を伝えられ、保安所職員で腕に自信のある者三千人を集め、後方支援に当たる事となった。エウロ民国は軍隊を持たない代わりに、保安所が軍隊的な武装を持つと言う、清蔵達の世界で言うコスタリカ的な方式を採用している。進攻はしないが、国防はする、故に保安所はこの世界の軍隊が持つクロスボウや大砲(投石器に近い)と言った装備を有する。馬車、
『エメリャー侯、貴方はやり過ぎた、それだけです。』
嘗ての知人には届かないであろう事を自覚しながらも、エルリラ市長は保安所職員らの用意した軍用馬車で街道を進んでいく。
ー
ノインが街道を走る十数時間前、街道を一つの集団が進んでいた。旗印には奴隷解放戦線と書かれた集団、木尾田の指揮する彼等は、アンブロスにおいてエメリャー侯失脚の為に奔走した元奴隷達である。総帥である木尾田が、山田と密かに交わした協定を行使する為、サカサキの郊外付近まで来ていた。
『山田、遂にその時が来たんだね……』
木尾田はこの世界の歴史に残るであろう事を行う親友を思った。エメリャー侯を捕らえるのは自分がと思っていたが、アンブロス内での捕縛は難しい。エメリャー侯のパイプは広く太い為、国内で捕らえようとすると、木尾田の方が倒される。現在木尾田の家族はアンブロスに住んでいる、もしも仕損じれば家族を巻き込むのは必至、山田の作戦にかけるしか無かった。
『でも山田は無理をしそうなんだよね……だから、僕は僕の出来る限りの事をするだけさ。』
木尾田と共に進む彼等はアンブロス帝国から解放された奴隷や不可触民の者が殆どであり、アンブロスの兵士らよりも士気も戦意も高い。木尾田は組織で集めた資金で国境の兵士らを買収し、エメリャー侯の兵力を後方奇襲により削ぐ作戦を実行しつつ、進軍を続けていた。
ー
街道を進むノインは、また異様な光景を目撃する。夥しい血が散らばり、鉄錆びのような異臭がそこら中に漂う。更に、街道外れの脇に、荒く掘られ、埋められた場所に、棒がいくつも建てられた光景が広がる。若干の腐敗臭から、その下には遺体が埋められている事を悟った。これだけの数の人間が何故死んだのかよくわからない。実は、鉄器の類いは天族らが協力して解体、処分した為、戦いの痕跡は血と死臭が残っていながら、何がどうなっているかは判別出来ないのである。ノインはこの光景に何かを感じ、街道を行く速度を更に上げた。
『明らかに何かが起きている。けど、何の為に?わからないわ。』
ー
その頃、意識を取り戻し、山田に魔力を送り、生存を伝えたレイは、現在ワフラとカグヤと共に輿の上で話し合いをしていた。磔刑台のナスターシャの姿を見ていられなくなったカグヤは、ローブを被せてやり、今は肌が隠れている状態になっている。
『全く、貴女も聞いた通り人が良すぎるわね……でもその好意は素直に受け取っておくわ、ありがとう。』
『鉄器兵団の憧れ、でしたから……戦う事でしか生きる意味を見出だせなかった私と違って、貴女は人知れず悪を引き付けていた。十英雄としての仕事を……ずっと行ってきた人がこんな最期なんて……』
カグヤはナスターシャが罪無き人々を巻き込んだ事を知って尚、その高潔な精神に敬意を表していた。
『ふふっ、タイラーやレイーラ達に可愛がられるわけね……じゃあ私から貴女に言葉を贈るわね。これから先の時代については、私は処刑されて見る事は無いでしょうけど、貴女はその先の時代を、平和に暮らしなさい。メルビンの子孫達が貴女と接してる時、彼等は歴史上の英雄ではなく、一個の人間として貴女を受け入れていた。戦い以外の道を、可愛らしい女性として、健やかに生きなさい。』
『はい……』
カグヤは一筋の涙を流すと、ナスターシャに向き直って頭を下げた。その様を見つめていたレイは、身支度を終えると、彼女達に向かって意思を示す。
『……私は親友を助けに行く。身体は半分麻痺している有り様だが、私の戦い方に支障を来す程では無い。』
レイは完全回復には至らず、半身不随の状態だったが、飛翔魔法により宙に浮いており、言葉の通り支障が無い。カグヤは敢えてそれを止めなかった。何故なら、今の彼が死に赴く目をしていなかったからだ。
『まあ、助けに行くと言っても、ケイショーが易々と負ける人間では無い事を知っている。カグヤ、そしてメルビンの子孫とその友人達よ、ナスターシャを頼む。』
そう言うと、レイは飛翔魔法で山田の待つ方向へと飛んでいった。
『うへぇ!天族より飛ぶの速いんだけど!』
『任されたからには、ワシらもしっかり付き合うば、のう未来よ。』
『そうですね……ふふっ、旅行から帰ってきた署長達にいいお話出来そうです。』
チェンルンの馬鹿そうな声をさらっと流すワフラと未来の会話を聞きながら、カグヤは大戦より数百年も過ぎた世界の青空を仰ぐ。あの当時となんら変わりの無い空の色を辿ると、西の空が少し茜がかってきたのが見えた。
『綺麗……』
夕日の美しさに、うっとりとしながら、依然変わりなく前を見つめているナスターシャの姿に目が行く。夕日に照らされたその体は、断罪される身とは思えぬ位に神々しく映った。
ー
同じ頃、山田達サカサキ保安所の職員達は、本ボシ確保の為の準備を終えていた。斥候の情報よりエメリャー侯の軍団の士気がそれほど高くない事を聞き、軍団の頭たるエメリャー侯を最優先で確保する作戦を構築、既に士気の特に低い中央部に潜入させていた精鋭達による分断工作により、軍団の半分程を掌握出来る形になった。それでも相手方の数はこちらを大きく上回る。前方に構えるエメリャー侯自身がまるで動揺を見せていない事がそれを証明している。山田は遠眼鏡越しにその様を見ると、部隊へと声をかける。
『分断して尚、士気に対して相手方に動揺が見られない。士気は決して高くは無いが動揺もしないと言う相手に迂闊に攻めればこちらの被害は予想を越えるものになる可能性がある。引き付けろ、まだ焦ってはならん。』
保安所職員の半分以上は相手方に見える形を取っている。かつ、攻めていないのに攻められて陣が崩れるような動きを取らせている。全方向を包囲する為の陽動であったが、相手も手を出してこないので確実な形になるまでは動けない。
(焦るな……こう言う時こそ功を急いては死に繋がる。かつての俺のように。)
自らにそう言い聞かせ、かつて撃たれた跡(転生した故に傷痕は無いが)の部分をさすりながらその時を待った。
ー
エメリャー侯に動揺が見られなかったのは、傘下にいる白金の存在が大きかった。巨大な指定暴力団を束ねていた男故に、人間を纏める能力は高い。部下の大半がナスターシャの洗脳を受けてはいるものの、ナスターシャ自身が後の行動は現代の人間が何とか出来ると判断しており、洗脳状態だが意識がはっきりしており、白金の手腕で士気を維持しているのだ。
『シラガネ、相手はコウアンと名乗っている者共だが、貴公としてはどう出る?』
『別働隊がやられたのは、魔法を使う人間がやったとの事だが、こちらの諜報によれば、本体である我々に向かっている連中はそう言った類いの連中では無いと。で、あるならば、我々ダークハウンドの戦闘特化部隊も兼ねている白戦会に奴等の指揮系統を叩かせて貰いたい。少なくとも、貴方が落ちるような事だけは無いさ。』
白金は悪党たる暴力団の頭ではあったが、死刑執行後にこちらに転生して、着のみ着のままだった自分を拾ってくれたエメリャー侯に恩義を感じていた。異世界に来ても反社会的な有り様ながらも、悪党なりの矜持の下で動いてきたのだ。
『うむ、シラガネ……頼んだ。』
エメリャー侯も白金の義理堅さと任務執行能力に全幅の信頼を寄せており、全てを任せる事にした。
ー
山田は相手が動かないのを察し、遠見の部下達に別の動きをしている者がいないか警戒を強めさせた。潜伏する者が必ずいる、頭の切れる人間であれば、合理的に動けるよう、頭である自分達を叩くだろう。しかし、山田を初め、指揮する者すら派手な衣装を避けており、挙動を読まれぬように指示を出している為、頭の見分けがしにくくしている、故に相手方も慎重になっているなと山田は思った。
『エーワン、エーツー。今から俺が囮になる。クロスボウを構えている部隊に合図し、俺にかの者らが近付いて来たら頼む。』
そう言うと、山田は保安所で来ている隊長服の上着を羽織った。赤地で所々に金色の装飾が施された、如何にも頭だと言わんばかりのそれを見て、敵は僅かばかりであったが動きを見せた。だが相手方は慎重のようだった。分かりやすい程に目立つそれがデコイであると看過している動き、しかしこれは想定内である。
『サカサキ保安所隊長、山田啓将である!エメリャー侯及びその私兵であるダークハウンドの諸君、貴様らと違い、薄汚い真似はしない、来るなら来い!』
山田は敢えて相手を煽る言葉をかける。すると街道外れの草陰からダーツ(忍者の使うクナイに近い)が放たれて来た。ダーツは山田の心臓辺りに刺さったが、服の下に着込んだアンダーアーマーのお陰で怪我は無かった。尚もダーツが何十と投げられたが、それらは盾を所持した近衛の者が防ぎ、逆にクロスボウ部隊の応戦で相手を返り打ちにした。
『はぁっ、はぁっ……よし、上手く行ったな……後は、このままエメリャー侯を確保だ!いいか、エメリャー侯、及びその他の幹部らしき者は全員生きて捕らえろ!』
山田の大捕物が今始まった。
ー
街道を走り続けているノインは、目の前を同じ方向に進む集団に気付き、速度を緩めた。着ている服は一般的な普通の服、しかしその集団が手に持つのは農具を改造した武器。集団がノインに気付き警戒するが、一団を纏める者の声で制される。
『貴女は……おっと、失礼。ノインさんでしたね、ナハト・トゥではお騒がせしました。』
『いえ、こちらこそマサトさん。それにしても奴隷解放戦線の皆さんが何故この街道を?』
木尾田は経緯を説明した。ダークハウンドの壊滅作戦の大詰めを迎えていた山田を支援する為、彼に賛同した人間を集め、エウロの街道を進んでいたとの事だが、彼等も全裸で気だるく動く屍に遭遇したらしく、危険を感じ進む速度を上げていた所だと言う。因みにその集団はアンブロスに残った奴隷解放戦線のメンバーに捕縛させて貰うと言う。ノインは経緯を聞くと、今度は自分の方の目的も話した。個人的な興味でとある大戦の兵器についての事を調べていた事を言うと、木尾田は心当たりがあったようでノインに答えた。
『ノヴァ・レギエンドか、名前と言うか鋼の人間的な感じで聞いた事があるよ。エメリャー侯にはバッハ伯と白金子爵の他に、バッハ伯の右腕と称された、男とも女ともつかない黒衣の人物がいたと言う、それがノヴァ・レギエンドじゃないかな。噂によると時々覗く手足はまるで鉄の手足に見えたって言うから、貴女の話と合致します。』
ノヴァ・レギエンドの伝承を知っている者は殆どいない為、ナスターシャは闇の世界で特に不自由無く闊歩していた。しかしあくまでもバッハ伯や白金程に目立つ事をせず、下の幹部の一人と言った立ち位置に落ち着き、木尾田等のアンブロスの裏に詳しい人間以外に知られる人物では無かった。
『今回、バッハ伯と白金子爵を動かしているとしたら、そのノヴァ・レギエンドも動いているかも知れない。貴女の推測通りの兵器だったとしたら、山田達が危ない。急ごう。』
ー
山田達は作戦を決行した。数においては相手が上だが、保安所の側は肉体錬成もきっちり行っている猛者である、多少の数の不利はどうとも無い。かつ、三方向からの攻勢により、相手側面から徐々にではあるが相手側の陣形が乱れている。
(いける、いけるぞ……しかし、まだ慌てるな、やけに動きのいい連中がいる。)
山田は攻勢を的確に処理している集団を確認した。白金の直接率いる戦闘特化部隊こと、白戦会である。陽動で倒した連中もかなりの手練れではあったが、向こうの本陣はまるで化け物でも乗り移っているかのような高い戦闘力を発揮している。殉職者の殆どがあの集団によるものだった事からも、山田は功を焦るは死だと実感する。
『流石に易々とは行かないか……ん?あれは……やっぱりそうだ、白金……』
視線の先にいる、和彫りの刺青をした半身を晒して腕組みをする男に目を向ける。逮捕当時に比して歳かさが増し、幾分かやつれた顔をしていたが、間違う筈も無い。
『異世界に来てまで、まだ無駄な犠牲を増やすか、外道!』
白金は混戦の中、そう叫ぶ山田の姿を確認した。ダークハウンドが遂に掴めずにいた敵の大将、白金は山田を見て彼こそが大将であると確信した。
『ほう、俺の事を知っているか小僧。』
『白戦会総長、白金信一。俺の親友の命を奪った恨み、消えちゃいないぞ!』
山田は手に持つ警棒と共に、懐からオートマチックを取り出した。白金は怯まず、山田の目を一瞥する。
『貴様もこの世界に来た口か小僧。しかもその独特のハジキ、元
警察に採用されている拳銃は種類も少なく、暴力団等からすると直ぐに判別出来るものだった。かつ、警棒との組み合わせで使用する所からも隠しようがない。山田も隠すつもりは無かった。
『けつの青い小僧が、異世界でこれだけの人間を従えている事実、実に素晴らしか。』
『称賛しようが何も無いさ……だが白金、貴様にはただ死ぬ事以上の苦しみをもって罪を償ってもらう!』
『よう言った小僧!ならば俺は極道らしくこれで相手しちゃっばい!』
そう言うと、白金は白木に納められた刀を抜いた。この世界で日本の世界に誇るであろう刃物たる刀を作って貰った事は山田も別に驚かない。しかし、得物を持つ白金の姿に、山田は気圧されていた。
『ふふっ、小僧、俺が怖ぇか?死ぬ覚悟が無ぇなら、せめて素直に斬られな!』
放たれた一撃はとてつもない速さだった、咄嗟に警棒を構えなければ左肩からバッサリと斬られていただろう。山田は改めて距離を取り、白金に対峙する。近くの職員や相手の兵士らが近付くが、互いにそれらを手で制し、完全な一騎討ちの状態になる。武器的にはオートマチックを持つ山田の方に分があるが、山田は異世界転生者たる白金は生け捕りにしたいと考えていた為、急所を狙えない。足を狙うにも白金が年齢を感じさせぬフットワークで避けてしまう事が容易に想像出来た為に撃てない。山田はこの世界に来て拳銃の製造を依頼していないので、オートマチックの残弾三発を撃ってしまえば、リーチの短い警棒で対応するしかない。
(ふっ、自ら望んだとは言え、一騎討ちか……)
白金は剣道三段の腕前、更に居合も習得している事を逮捕時の身辺調査で聞いている。還暦を大きく過ぎたとは思えない肉体を覆う龍と桜の刺青が迫力をより上げていた。
『オラ!小僧、どげゃんした!俺に一発浴びせたノッポの小僧は怯みも無かったど!』
振るわれる刀の軌跡が、山田の手足や脇腹に切り傷を付ける。全国でも有数の武闘派暴力団をまとめあげた男の凄みに、攻め手を見出だせない。
『サリー……ぐっ!』
頭に愛する妻の顔がよぎったが、ハッとした瞬間には目の前を白金の太刀筋が通る。上手くかわせず、右の顔から胸の一部にかけて深い傷が出来た。
『おなごん名前がもうよぎっちょっか、小僧!悪党相手とは言え散々命を殺めた男が、とんだザマタレ(大した事の無い、臆病者の意)だったとは、死んだ部下も浮かばれん!』
『ぬっ、抜かせ悪党が……こっ、殺す!殺してやる!』
山田はなりふり構わぬ様で、オートマチックを白金の胸に向けて撃つ。しかし寸でで白金は刀のしのぎの部分でそれを弾いた。跳弾が左肩を掠めるが、白金は怯まずに笑みを浮かべる。
『覚悟が揺れとる人間に殺さるんのはゴメンだ。一つだけ言おう、この戦い、俺どんは敗北するだろう。しかし、この世界で俺のような悪党でも拾ってくれた人間に対しての義理位は果たして死ぬ、故に……死ね!』
『ぐああっ!!』
白金の逆袈裟斬りは、山田の左腕を斬り飛ばした。激しい出血と痛みに襲われながらも、山田はまだ戦意を喪失していない。右手に握られたオートマチックを白金に向けながら、二の腕の中腹から斬られた傷を、衣服で覆い、簡易止血する。
『ふふっ、意地はあっごたっな。おう小僧、これだけの戦いをして倒れないわっどんを小僧呼ばわりは流石に失礼だ、名を名乗れ。』
『……向日葵市の警察官だった、警備課の山田啓将だ!』
向日葵市と聞いて白金はほう、と声を漏らした。かつて自分達の組を総力を挙げて潰した警察官の変り者達、その一人だったのかと悟った白金は、刀を上段に構え直した。
『啓将か……ええ名前だな!』
『うっぐあああぁっ!!』
構えからの太刀筋が見えぬ間に、オートマチックを持つ啓将の手首は離れて行った。その様に気付いた職員が寄ろうとするが、白金の圧と、白金子飼いの部下達に阻まれ動けない。
『山田啓将、同じ世界からやって来た男よ、せめて楽に彼の世に送ってつかぁす。』
再び刀を上段に構えた白金が、首をとらえようと刀に力をかける。
(サリー、君と俺達の子供に会えぬ……ごめんな……)
山田はその時が来るのを目を閉じて待った。不思議とその時は怖さも無かった。けれどもその時は一向に来なかった。どうしたのかと思った山田が目を開けると、なんと白金の腕を捻り上げる木尾田と、ノインに肩を貸して貰って立っているレイの姿があった。
『何とか間に合ったみたいだな、ケイショー。』
『全く、清蔵もそうだけど、無茶をし過ぎだよ。』
『木尾田……それに、レイ……』
ー
一時間程前、ノインと木尾田は山田達の集団が微かに見える位置まで来ていた。
『彼処だ、彼処に山田達がいる。ノインさんの探している人物もそこに……』
『ええ、一刻も早くあの場所へ行かないと……嫌な予感がするんです。』
奴隷解放戦線と共に進むノインは、事の真相を知りたい為に足を早める。しかし、大量の人間と共に移動するのだ、中々に前に進めない。その時、後方から人影が飛んでくるのを目撃する。
『総帥、後方から人が、かなりの速度で迫ってます!』
『何だって?!敵の者か?!』
武器を構える者達は、空を注視する。一人の男が頭上でピタリと停止すると、先頭を行く木尾田達の前に降りた。何かの戦闘の後なのか、立つ事の出来ぬ状態でその場に横になった。
『やぁ……私はレイ……ケイショーの協力者を務めるしがない魔法使いさ。君達の目的は大方察している、ケイショーを手助けに行くのだろ?』
レイはそう言葉を発した。木尾田は横になる彼に肩を貸すと、レイは抵抗もせずに身を任せる。
『僕は木尾田です、あの……山田は、彼は今どうなっているんです?』
『エメリャー侯の本陣を押さえているが、ケイショーの身に危険が迫っていると感じてね……君達も急ぎだろう?数人位なら私の飛翔魔法で即座に送れるぞ。』
『是非、宜しくお願いします!ノインさん、来ますか?』
『ええ、私ももしもの時は皇帝待遇の外交権を有しています、行きましょう。』
『なら決まりだな。サーフ、君はみんなとこのまま進軍してくれ、僕は先にあちらに向かう、頼んだよ。』
『了解、大将、無理はすんなよ!!』
木尾田は副官に全体を任せ、山田達の元へと飛んで行った。もしここで、木尾田達が即答していなかったら、山田の首は大地を舐めるように落ちていただろう。
ー
『……ぐっ、またしても捕まるんか……』
白金は苦悶の表情を浮かべながらそうごちる。木尾田の鍛え抜かれた巨体に腕を極められては、流石の白金もどうしようも無かった。
『久しぶりですね、白金さん。』
『うんは……あん時俺を撃ったあんちゃんか……』
白金は木尾田の顔を見てそう口にした。白金に一発浴びせながらも、白金の放った弾丸により、木尾田は命を落とした。白金は反社会組織にいる関係上、人の顔は良く覚えていた。
『……あん時の復讐、すっとか?』
白金の言葉に、木尾田は首を横に振った。
『もう何年前の事を話してるんですか、それに今はこっちの世界で楽しく生きてるんですよ?復讐の心なんてありませんよ。』
『そげんか……全く、悪党に墜ちた俺に、端から勝ち目は無かったって事か……』
白金の言葉を聞いた木尾田の表情は柔らかだった。彼の表情を見た白金は今までの行いを頭で回想しながら、その場に崩れた。戦意は既に削がれたようで、木尾田は極めていた腕を開放した。
ー
『ケイショー、大丈夫か?』
『ああ、何とかな。済まない、レイ……あんたに無茶をさせてしまって。』
傷を回復されながら、山田はレイに謝罪の言葉を投げた。斬られた腕は切り口が綺麗だったのか既に両方ともくっつき、他の傷も回復した。しかし心の傷は大きいようで、山田の表情は優れない。
『なに、謝罪には及ばないさ。それに、暗い顔しなくてもいいぞ、ちゃんと親玉はケイショーの部下達が確保している、もう心配は無い。』
『そうか……ありがとう……』
エメリャー侯は既に確保されていた。指揮を失ったダークハウンドの面々は街道を逆走して逃げて行ったが、後続の奴隷解放戦線のメンバーによって全て取り押さえられた。また、別の方に逃げたダークハウンドの残党は、エルリラの保安所によって残らず逮捕され、エメリャー侯を頂点としたダークハウンドと関係組織である赤旗党及び白戦会は壊滅した。事のてん末を目撃したノインは、後日この件をアンブロス外交部へと報告、エメリャー侯は侯爵位の剥奪後、アンブロスへと送還され処刑される事となった。
ー
エメリャー侯及び白金を含めたダークハウンド幹部を捕らえた山田達は、サカサキに戻った。そこに、別働隊を倒して帰っていた面々と顔を合わせた。
『ワフラ殿、これはお久しぶりです。』
『ん、久しぶりじゃの、清蔵どんの友人達。ところでノイン、あんたは何で一緒に?』
『個人的に調べてたんです、ノヴァ・レギエンドの事を。と言うか、あの……視線の先に磔になっている女性は?』
『そのノヴァ・レギエンド本人ば。まあ詳しい話は後でするば。天族のみんなは、族長と幹部以外はサカサキの観光でもするといいば。って訳でな。』
『……何だか頭がこんがらがっているが了解した、取り敢えず保安所の隊長室に行こう。』
逮捕者を部下に任せると、山田達は隊長室へと集まった。室内に集まった面々は、サカサキ保安所隊長の山田、奴隷解放戦線の総帥、木尾田雅人、元魔法兵団総帥のレイーラ・ゴラシ、元鉄器兵団幹部のカグヤ・ミトヅキ、カン=ム帝国宰相、ノイン・ナイト、天族族長、インシャク・ティランド五世と最高幹部ピット・リュイ・タールン、ナハト・トゥ新町警察署署長、ワフラ・ヴァイシャと、濃ゆすぎる面々で埋め尽くされた。因みにチェンルンと未来は天族の面々とサカサキ観光に行ったので不在である。
『まさか悪党を追っていたらこんな複雑な事になるなんてな、俺の足りない頭では情報が回らん。』
山田は清蔵よりも頭脳労働に長けてはいたが、情報量が余りにも多すぎて混乱していた。助け舟を出したのはレイと木尾田だった。
『この世界の裏社会に、我々古い世代が関わっていた事は正直済まなかった。ケイショー達の活躍が無ければ解決に導け無かったよ。』
『そう、だから後はそれぞれが出来る事をすればいいだけだよ。それにしても天族かぁ、色んな種族がいるとは思ってたけど、まだみんなが知らない種族がいたんだね。』
天族の面々は、木尾田の言葉にこの場にいていいのかと言う顔をしていたが、ノインがそれに答えた。
『カン=ム帝国宰相としては、天族の存在を拒否しません。もし何かありましたら関白殿下の口添えで出来る限りの助力を取り付けます。』
その言葉を聞いたインシャクとピットは胸を撫で下ろした。天族としては今後タキアンダに残るにしろ下界に住むにしろ、安住の口添えが有るのと無いのでは大違いであるので、大国カン=ムの宰相お墨付きの言葉にホッとするのだ。
『さて、問題はノヴァ・レギエンド、いや、ピョードル・ナスターシャの処遇だが……エウロ民国では制裁たる引き回しはあるが、公開処刑に関しては犯罪抑止に全く貢献しない事が分かった為に認められていない。それに、彼女が裁かれるのを望むと言っても、裁判に数年は掛かる、法治国家故にな。そこでレイとカグヤ嬢、二人の意見が聞きたい。』
『私としては処刑はしてほしくないと思っている。しかし、罪の無い犠牲者を多く出した事は事実、ならば本人の意思を尊重するのが最善だと思う。カグヤ、君は?』
『そうですね……私は、ナスターシャさんがこれ以上苦しまない選択を望みたいです。自らを兵器に改造し、四百年も封印された挙げ句に、裸で晒し者にされた……もうこれ以上苦しむ姿を見たくありません。』
二人の意見を聞いた山田は、後日、裁判所に彼女を送り、ノヴァ・レギエンドとしてでは無く、ピョードル・ナスターシャとして彼女を裁判に掛ける事になった。ナスターシャの主張を組んだ裁判所は、ノヴァ・レギエンドに対して極刑を宣告したが、ナスターシャに対しては時効とし、不問とされた。裁判終了後ナスターシャの意向により魔石を抜く手術を施し、本人の望み通り永遠の安息につく事となった。
ー
『さて、カグヤ、ミク、帰るば。』
『ええ、そうしましょう。レイーラさん、落ち着いたらまた会いましょうね。』
『残りの人生、一生懸命に生きるつもりです、どうかお元気で……』
『ああ、カグヤ……元気でな。』
『パパ、チェンはナハト・トゥで頑張ってるからね!』
『うん、パパもこっちでみんなと宜しくやるから、元気でな!』
『さて、僕も帰るよ。アンブロスの状況はまだ奴隷解放戦線の力が必要だ、清蔵に宜しくと伝えてくれ。』
『無理するなよ木尾田、まぁ俺が言えた口じゃないが……また会おうな。』
『ノインさんはナハト・トゥに寄らないんですか?』
『ええ、あっちを経由すると遠回りになっちゃうし、それに今は宰相の仕事が忙しいもの。無理言って休暇を取った分は働かないとね。お父さんに無理しちゃダメよって伝えててね。』
『分かった、それはしっかり伝えるば。アホ皇帝のケツ持ち、大変じゃろうが、頑張ってな。』
其々が挨拶を交わし、各々の次の再開を願いながら、帰路へとつく。天族は二割程の人間が下界に住むらしく、主にエウロのサカサキとカン=ムの自治区に居を構えると言う。ダークハウンドの壊滅と大戦の残骸との決別により、世界は以前より平和になった。だが、これからの未来を作り上げる過程で過ちは必ず発生する。未来は今を生きる者達の心に懸かっているのだと、皆が肝に命じるのだった。
ー
山田はナハト・トゥで待つサリーの元へと行く為に、有給休暇を取り、帰路につくワフラ達と同行する事になった。山田はサリーの様子が心配だった。
『もうすぐ父親になるんだが、こんな時はどう彼女に声をかけたらいいやら……』
鬼の保安所所長の人間らしい悩みに、皆が笑顔で山田を励ました。
『こう言う時はいつも通りにするといい、ワシの親父の口癖だったば。尤も、ワシも早く未来とそう言った愛の結晶を授かりたいがの。』
『ワッ、フラさん!ダメです、人前でそんな事言っちゃ!本部長やテイルさん達じゃないんですから!』
ワフラの言葉に赤面する未来。お互いそっち方面は奥手ながら、最近は某バカップルの影響か結構進展しているらしい。そんな彼等の会話を聞きながら、カグヤは幸せな表情を浮かべていた。
(平和って、こう言うものなのかな?でも、悪く無い……ナスターシャさん、私、幸せな人生を送りますから……)
そう心に誓ったカグヤは、横をチョコチョコと歩くチェンルンに声をかける。
『ねぇ、チェンルンちゃん、私、貴女と同じ所で働いていいかな?』
『いいんじゃないんですか?ケーサツは幸せな人生を送る人をまもる仕事、カグヤさんならみんな歓迎するよ!』
『まっ、その前に面接を受けて貰うがな。特別扱いは無しば、そこの馬鹿チェンもちゃんと面接で合格したんだからの。』
『馬鹿じゃないもん!』
『ふふ、よろしくお願いしますね。』
ー
そして数日後。旅行から清蔵達が帰ってきた。
『いやー、みんなただいま帰りました!テイルちゃんとしっかり休みを満喫してきましたよぉ☆ん?……あれ?どったのみんな?それにカグヤさん、何で警察の制服に袖通してんの?つーかバk……じゃなかったチェンルンちゃんも何で普通に背中の羽根を晒した制服着てるの?何人かおんなじ人の姿もあるし。ねぇ、分かる?テイルちゃん。』
『んー、何でだろ?わかんない。でも楽しかったよねせぞさん♪』
『本当に楽しかったねー、テイルちゃん♪』
しっかりと休みを満喫して肌艶が良くなった清蔵とテイルを見て皆が思った一言は、(このバカップルはホンマに………)だった。世界がかなり動いていた事等知るよしもなく、バカップルは様変わりした署の様に目をパチクリさせたものの、平常運転だった。
番外編・終
†
いやー、どうにか番外編終わらせられました。キャラクター増やしすぎて作者のキャパを軽く越えてたので、バカップル二人中心の話がやっぱいいなぁと感じました(小並感)