本官、異世界で署長になりました!   作:劉鳳

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今回は短めです。すみません、色々あってエタってました。


第52話 ヒールターンとベビーターンは表裏一体

 

夕方まで書類仕事をし、清蔵は本部長室を退室した。清蔵は刑務作業者のいる収容所を訪れていた。

 

『おう、大将……どんげした?顔が暗いぞ?』

 

清蔵は事の経緯を話す。元コーリンの首魁カマリタは覚えが良い事もあり、ギャングに連なる関係者について何か知っている事が無いかたまに聞きに行ったりするのだが、今回に関しては此方が具体的な名前を掴んでいる事、新たなギャングの誕生が示唆されている事等を話した。

 

『成る程の……ちょう、待っちょれ、ボッラクを呼んで来る。あいつ仕込みの銭回しをやってた連中だからな、その件に関してはあいつに聞くといい。』

 

カマリタは刑務作業の囚人側代表をしていた為、施設内を自由に回ったり、他の囚人を呼んだりも出来る。清蔵は待合室で暫し待ち、数分後、ボッラクを連れてカマリタが戻ってきた。

 

『署長さん、久しぶりですな。』

 

『ああ、元気そうで何よりだ。』

 

『私の知り合いの出来の悪い小娘達が迷惑をかけている件ですな。』

 

『話が早くて助かる。』

 

ボッラクは知っている限りの事を話した。コーリン時代、三人はボッラクの元で会計等の事務処理仕事を任されていた。エルフは体が弱く、成長も遅い為物覚えも宜しく無かったが、貧しい生活から脱却したいと言う思いで三人はそれこそ懸命に仕事を覚えた。

 

『私自身エルフの身でありますからね、彼等の気持ちも分からないでも無いですよ。ただ、ある時期からやけに羽振りが良くなっていましてな、それがミナモトとか言う親子が関わって来た頃だったのは確かです。』

 

『ミナモト?何か俺のいた国にいるような名前だな……』

 

清蔵はミナモトと言うワードに反応した。源、皆本等のように、日本人にそれなりにいる名字、清蔵は転移または転生してきた元世界の人間ではないかと考えた。

 

『三人は人当たりの良いミナモトとか言う親子の話を嬉しそうに話してましたね、銭に不自由しない生活を約束してくれたと。私としてはミナモト親子の話をカマリタの旦那から間接的に聞いていたので何かあるとは思っていましたが。』

 

『コーリンのシノギの会計には別の部門の連中もいてな、ミナモト達はその連中の一人だったわけだ。しかも特にこれと言った特長の無いヒューマで、仕事ぶりも優れていた訳でも無く、別の部門の幹部でも無いと来た、顔の覚えの良い俺ですら存在を忘れそうな奴だった。

 

だからこそ一番厄介だった訳だ。暗黒街の抗争と国の粛清によって俺達コーリンはナハト・トゥまで逃れたが、奴等はその特長の無い顔を活かしていまだに暗黒街にいるって訳だ。現に山田の旦那が国を挙げてとっちめたダークハウンド壊滅後もそいつはなに食わぬ顔をして神教原理主義団体と組んでいるしな。』

 

清蔵はミナモトの動きに不安を覚えた。ノヴァ・レギエンドは元世界の人間の洗脳は出来なかったと言う事実、現に白金は洗脳ではなく自らの意思で件の戦いに参加したと山田から聞いていた。元世界の人間が如何に異物なのか、自らの身の事も自覚しながら、特長の無い顔のミナモト親子をどう捕らえるか考えていた。

 

『何にしてもまだまだ情報集めだな、神教関係の事も分からない事だらけだし。ちょうど今山田もこっちにいるし、あいつにも聞いてみるか。ありがと、お二人さん。』

 

『大将、無茶はするなよ?』

 

『署長さん、体に気を付けて。』

 

清蔵はカマリタとボッラクに礼を言い、刑務作業所を後にした。

 

 

真夜中の時間、清蔵は宿屋〔キャトス〕、山田の妻サリー親子がナハト・トゥで開いた宿屋に足を運んだ。カウンターには従業員が受付をしており、清蔵は山田を呼んで来るように言う。暫くして、ラフな格好をした山田が現れ、宿屋を離れ、新町の居酒屋へ行く。離れの個室を頼み、そこで改めて話を聞いた。因みに清蔵は私服に着替えている(勤務中の飲酒は厳禁なので清蔵は非番扱い)

 

『俺と酒を酌み交わしたい……そう言う訳では無いな。事件か?』

 

『汚職者が出たのと、山田達保安所の方でその裏にいる人間を知らないかと思ってね。単刀直入に言う、ミナモトと言う人間に心当たりは無いか?』

 

『ミナモト……』

 

山田は顎に手を当ててその人物に関する記憶を思い出していた。記憶力に関しては清蔵達の世代で木尾田と双璧をなすと言われた彼が、この世界の大悪党はおろか子悪党すらも記憶している。

 

『ダークハウンドの下部の下部組織、アマツの長だな。神教原理主義団体光の天臨と個人的な付き合いがあり、ダークハウンド壊滅後は表面上は神教を支援する慈善団体の体を為している。名前で既に察しているだろうが、ミナモトは俺達の世界の人間だ。調べについては奴隷解放戦線の総帥として接触した木尾田からの情報故に間違いない。』

 

清蔵はやはりかとため息をついた。元世界の人間が多くいる事はユナリンの召喚の影響である事は知っていた。人間の善悪、性別、年齢関係無しの無差別テロとでも言うべき諸行についての落とし前は康江が上手い事やってくれている為に保留しているが、召喚された人間による犯罪行為については清蔵自らの手で取り締まりたいと思っていた。

 

『山田が過激過ぎて元世界の人間ごとぶっ〇しちまったって件もあったしなぁ、警察は生け捕りだよ?』

 

『あっ、あれは更正の余地の無い夜盗とつるんでいるような人間だったからだ!なっ、何も犯罪者=即〇なんて考えて無い!』

 

『だいぶ動揺してんな……まあ新しい命の誕生を間近に随分と丸くはなったけどね。』

 

山田は、清蔵との再会以来、元世界出身の犯罪者に対しての行いを若干ではあるが変えていた。犯罪者は何者であれ容赦しないと言う考えは変わらないものの、即時に殺める事をしなくなった。故に、山田は清蔵に言う。

 

『ミナモトに関して清蔵の矜持が通じるかはわからんぞ。自分の手で汚れ仕事をしてきた人間でなく、なるだけ汚さず、見つからずそれを行う人間の汚さ、清蔵のような真っ直ぐな人間との相性は最悪だ。』

 

公安でならした山田の率直な意見である。犯罪組織において、目立たぬ人間の狡猾さを嫌と言う程見てきた山田の言葉に、清蔵はただ黙して聞いていた。凶悪犯罪と向き合ってきた山田の言葉は、清蔵にとって教場などの勉強等には無い活かせる教科書である。清蔵は一語一句を聞き漏らさぬよう、その耳を澄ませた。

 

『ミナモトに行き着くのに明確な解は無い。しかし虱潰しにと言ってしまってはそれこそそいつらの思う壺だ。だから先ずは犯罪者がもし自分だったら?そう考えて動く。まあこの辺は教場で習った事の受け売り的なものだが……最適に近い解としてはこうする。』

 

山田は清蔵にそう言って自らの見識を示した。アマツは特性的にインターネットの釣り広告等をやっている人間と同じだと言う。実体を悟られずに力を増して行く、巨大組織に与しながら、安全圏から利益を得る。ダークハウンド壊滅の時も、自らが大きく関わらない事で難を逃れ、いまだに明確な尻尾を掴ませずに光の天臨と繋がりを作っている。

 

『しかし、何の特徴も持っていないと言うそこに、盲点がある。清蔵、元世界の人間の見分け、つくか?』

 

『ああ、特に日本人だともろばれって位には。こっちの人間からするとヤマト王国とかミクスネシアのヒューマっぽいと言うけど、全然違う。』

 

『木尾田の所に元世界の日本人がいるんだが、そいつがアマツの事を見つけたんだ。結果的にミナモトが警戒して逃げられたらしいが、光の天臨がこっちの方まで来てるのは俺達保安所も掴んでいる。』

 

山田はそう言って言葉を続けた。特徴の無いヒューマだが、日本人同士だと直ぐに顔の見分けがつく。相手はその辺りの盲点にまだ気付いておらず、隙が付けるのだ。

 

『勿論、ミナモト自身が気付いている可能性も頭に入れる事だ。あの白金と繋がりが間接的にあったわけだからな。臆病者程怖ぇもんは無い。ま、こうしてコネを沢山作っているお前の事だ、大方の行動は決まってるんだろ?』

 

山田はそう言って飲み物を煽った。ウイスキー系の地酒の芳醇な香りをさせながら、山田は清蔵に笑顔を送った。家族を持ってから幾分柔らかい表情を出せるようになった山田は、ダークハウンドの一件以来、警察組織の人間としての命への考え方を変えはじめていた。清蔵が甘さだけの人間でない事を改めて実感した事で、清蔵にかける言葉はアドバイスよりも背中を押してやらねばと思っていた。清蔵はそんな山田の心を悟ったのか、山田と同調して酒を煽った。

 

『おう。山田、心配無いさ。俺は一人じゃない、やり遂げてやるよ、テイルちゃんと、ベイビーの為にもね。』

 

『ふっ、互いに死ねない理由が出来たのは進歩だな。』

 

そう言うと二人はもう一杯酒を煽った。異世界に来てもうすぐ三年、清蔵は新たな問題を前に、自らの生きる意味を友人と共に改めて胸に刻んだ。

 

 

翌日、署長室にワフラ達幹部を集めた清蔵、その顔は妙に晴れやかだった為、

 

『ん?清蔵どん悪いもんでも食ったか?いつになく顔色がいいが。』

 

『清蔵さん……不祥事が続いて遂に頭がおかしくなったんか……にやけとるし。』

 

と、散々に言われたものの、何時もと違い突っ込みを入れる事なく、言葉を発する。

 

『なーに、ちょっとばかし山田と気分転換出来たんでね、ついつい顔にでちまっただけよ。それよりも二人共、頼みがある、聞いてくれるか?』

 

先程までの表情から一変、仕事の顔に変わった清蔵の言葉に、二人は真剣な顔で耳を向ける。

 

『マーシーに匹敵、或いは近い位に、この世界基準で地味で特徴の無い顔の人間、それでいてあんたらから見て信用に値すると思う人間を借りたい。』

 

『警備部と機動隊からか……何名必要なんか?』

 

『そうだなぁ、主に動くのは警備部だからそっちは五名は欲しい。機動隊は逮捕に踏み切る時の捕縛、人数は三名だ。機装一式、一名はライフルの所持を許可する。』

 

『清蔵さん、その感じじゃと例の神教とそのスポンサーを捕らえる算段が出来とっとか?相手はそれこそ姿形もろくに分からん連中だぞ?』

 

心配するキスケをよそに、清蔵は目一杯悪い顔をしながら言葉を返した。

 

『バック持ちはあっちだけじゃねぇって事だ。それに俺は姿を見せねぇでフィクサー気取ってる馬鹿ってのが嫌いなんでね、ひと泡どころか常に泡吹かせるよう、魂に刻ませてやらぁ。』

 

着々と元世界の不届き者達を懲らしめる準備にかかる清蔵。特徴なき難敵を相手に、清蔵の捕物及び綱紀粛正が始まろうとしていた。

 

 




カマリタ達ギャングの幹部はベビーターンに成功しましたが、末端の方は軽い罪故に再犯する確率が高い上に、他の悪に染まりやすい感じですね。

山田君は丸くなりはしたものの、下衆に容赦しないのは変わらずと言う所です。
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