本官、異世界で署長になりました!   作:劉鳳

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第5話と打ってますが、実質的には番外編です。番外編と打っているのは清蔵達異世界側の人間の話の時につきます。


邂逅編
第5話 全く、あん人は……


 

 

 

最近タイーラ連合国内の動きが騒がしい。連合国最大の国、アンブロス帝国のラスターリ三世の即位以来、民族弾圧が激しいと聞く。現皇帝はヒューマ、ドワーフ、オーガ以外の人間をひとえに差別する三民族原理主義者で、ことエルフに対する民族浄化と言う名のリンチが横行している。あの国の民は皇帝一族(ヒューマとオーガ、ドワーフの親類でなる)を神々と崇める連中、国民は国民で皇帝の言葉を一欠片も疑わずに信じ、エルフの虐殺行為が行われている。

 

このような原因の一端を担っているのは、我が国の皇帝、ユナリン・ローズ・カン=ムエル……ラスターリ皇帝即位祝賀会の時に信じられぬ程非常識な事を言ったと聞く。言葉そのものは聞き及んではいないものの、カン=ム帝国自体に戦争を吹っ掛けるのではなく、エルフそのもの(・・・・・・・)をこの世から消す事を宣言している。あの高慢ちき、一体何をやらかしたのか?

 

一方、他の国はと言うと、クロイツ大公国の都市、ジャマザキで、勇猛な人物がアンブロスに対する戦闘行動を行使するとの情報が入った。兵士、自警団を伴い、国中に存在するアンブロスの新派を追放しているらしい。これは近い将来戦争が始まる。タイーラ連合国が分裂してしまえば、四百年前に起きたとされる魔法・鉄器戦争時代の再来による殺伐とした世の中が訪れる。我々が出来る事、それは我らが町にそのような脅威を入れない事、そして……清蔵どんが生まれ育ったと言う国のような平安を何としても維持する事だ。

 

その為に、銃と言うものの量産を頼まれたが、清蔵どんはそれをあくまでも署に勤める者達の分だけにしてほしいと頼んだ。理由を話して貰うと、あの銃と言う武器は、小さな子供でも大の大人を簡単に殺せる代物だと言う。にわかに信じられない私は、清蔵どんに銃を使用して貰う事にした。清蔵どんが的として使うのは木の棒に厚手の絨毯を巻いたもの…こん棒で思い切り叩いても中の棒はびくともしなかったが、清蔵どんのそれは、絨毯を貫通し、中の棒を破壊していた。放たれたのは鉛の塊、けたたましい音がしたかと思ったらとてつもない速度で当たった……清蔵どんはそんな破壊力のある武器を、片手で扱っていた。いわく、ちょいとコツを掴むだけでマーリナやアーニャのようなか弱い人間でも簡単に扱えるらしい。清蔵どんが慎重をきす理由が判った。これは市民に安易に持たせるべきではない、たちまちギャングの手に渡り、治安が悪化するだろう。現に清蔵さんの世界のアメリカと言う国は国民が銃武装しやすい環境故に、凶悪事件の件数が尋常ではないとの事だ。

 

故に、私は提案した。品行方正、かつ巡査部長以上のものにだけ携帯を許す事、この提案を清蔵どんは快く承諾してくれた。清蔵どんに惹かれてやって来た新人達、しかし中にはギャングと繋がりのある者もいないとは言い切れない。幸い清蔵どんは銃の存在を彼等には話していない。警察官とは口が固い故に責任感があるのだろう。

 

今日は清蔵どんは開拓課に赴いている。開拓しているのは町と署を繋ぐ道の舗装と、署の周辺に奉行所(清蔵どんは犯罪者を裁く所だと言っていた)と訓練所、そして新たな居住区。清蔵どんが就任して僅か半年で道の舗装は完成、奉行所も完成に漕ぎ着け、居住区も数十名が既に住める程になった。予定では少なくとも三百人が居住可能になるよう、生活に必要な店も出すと言う。この居住区に住むのは、町に対し特に仇なす危険が無い者のみ。こちらに移り住む際、怪しい者を入れぬよう気を付けながら、居住者を招き入れる。招き入れた居住者は自ら進んで開拓に乗り出す、勿論そこには強制と言う二文字はない。

 

清蔵どんが来てから、町の治安は大変良くなった。月に4日、ギャングを一斉に摘発する殲滅作戦を採用しているのもあり、その期間に30人を越えるギャングを捕らえた。捕らえた連中は留置場に入れ、取り調べの後、奉行所に送られる。町長が彼等に罪状を言い、奴らの言い分を聞く。そして町長が判決を言い渡し、自由刑及び罰金刑、並びに死刑と流刑の何れかを言い渡す。今のところ、死刑にまでなる奴が出てはいないが……いずれはそれに相当するような親玉や凶悪な者が出て来るのは避けられまい。

 

しかし清蔵どん、最近は何だか我武者羅に動き続けて疲れが溜まっているのが目に見えて判る。ギャング殲滅作戦では先陣を切り、逮捕術を駆使して一番ギャングを無力化している。開拓では率先して重労働を名乗り出、懲役囚や町の非行少年らに刑務作業を兼ねた実技を教えている。熱がありながらも決して激昂しない更正の教えは、彼等を真人間に戻すに充分で、数日も経つと彼等は自主的に刑務作業をするようになった。

 

そう……そうやって働き詰め過ぎているから、清蔵どんの体は休息を取れていないのだ。こっちがそれを心配すると『毎日テイルちゃんの手作り弁当を食べてるんだ、元気百倍、アンパ〇マン!』と、訳の分からぬ口上で疲れていないとアピールするが、こちとら清蔵どんより長く生きて、過労死する人間の前兆を見て来たんだ、危ない事位は目に見えてる。まず過労死する人間は疲れの自覚が無いのだ。清蔵どんに、きっちりと休息をして貰う為、テイルと二人で視察を兼ねたエウロ民国旅行を10日以上かけてくれと念を押してやって貰う事にした。ただの休息だとあの馬鹿野郎は断るので、こう言う形をとって貰った。幸い清蔵どんは、年配である私の言う事はけっこう採り入れてくれている……清蔵どん、あんたは署長なんだ、あんたが倒れでもしたら、みんな路頭に迷ってしまうよ。全く、向こうの世界の人間は根を詰め過ぎると言うか、勤勉さが極端だな。そこが魅力でもあるんだが。

 

 

『え?何だって?』

 

『難聴のふりすな!うぬはちったぁ休め!』

 

『いっ、いやねぇ、みんなが働いてる中俺だけ休むなんてなんか申し訳無いし……』

 

『馬鹿たれぇ!一番真ん前で死にに行くような人間の思考で働かれたら下のもんが休みを取りづらいんば!それに……わしらを信じてくれよな?』

 

『……うん、分かったよ、ごめんなワフラ。』

 

 

異世界に来て遮二無二働き続けた清蔵、しかし、休む事も忘れ働く姿は人々の心を打ちながらも心配される程になっていた。ワフラの粋な計らいを清蔵はいまいち理解出来ていないが、果たして清蔵はしっかりと身体を休めてくれるのだろうか?

 

 





休みを取らない上司の皆様、ちゃんと取って下さい。下のもんが遠慮する状況を作るのは悪手も悪手なので、オンオフのメリハリはきっちりしてちょ。
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