無数の銃弾が浴びせられた。
私がイメージしていたものとは違う。
体が軽い。そっか……私は死んだのか……。死ぬってそんなに痛くないんだ。悲しくないんだ。
でも、最後に会いたかったな……
練磨 牡丹(女子19番)はなんとも言えない体の軽さと温かさを感じていた。手にはべたべたした
不思議な赤い物がついている。
「あれ?」
死んだと思っていたが痛みはちっともなかった。血が出ているのに痛くは無い。おかしいな。私は今雪絵に撃たれて死んだんじゃなかったかな?
あれ、目の前に……目の前に誰かいる。誰かが自分を抱きかかえてくれている?
ずるり
それはゆっくりと音もたてずに崩れ落ちる。
その正体が彼氏の古月 昌成(男子7番)だと気付くのに、そんなに時間はかからなかった。
「あっ……」
「ま……間に合って……良かっ……た」
途切れ途切れに話しかける声。それはまさしく彼の声。
私が死ぬことよりも恐れていた事。
自分の大事な人が死んでしまう事。
自分の体が裂かれるよりも、自分の体が焼かれるよりも、何をされるよりも一番辛い事。
「古月君!?」
そう叫んで必死に崩れ倒れた古月を抱き起こした。
嫌な事など想像してはいけない。それなのに牡丹の頭の中には次から次へと嫌なイメージが浮かんでくる。世界の破滅のような光景が何度も繰り返されていく。
「や、やだ。大丈夫? ねぇ、冗談でしょ??」
「…………」
返事は返って来なかった。体に開いた無数の穴からは無残にも血がどくどく流れ出ている。
彼の返事の代わりに返ってくるのは、あの醜い銃声だけ。
パララララララララ…………
また、悪夢の銃声が鳴った。
「やめて、雪絵! やめて」
体の中から出せるだけの声を出した。
ぴたっ
銃声が止む。
「よ、よかった」
牡丹はほっと安堵した。
――よかった。雪絵だってきっと、錯乱していたんだよね? そうでしょ? ね?
しかし、銃声は一瞬止んだもののすぐにまた、パララララララと鳴り出し始める。
その時だった。
ばん ばん
とても大きな銃声が立て続け二発鳴り響いた。
一発は雪絵の腕に軽く命中する。
雪絵は驚いた表情を浮かべ、そのまま草むらの奥へと逃げて行った。
「アハハッアハハッ」
暗闇の奥からは雪絵の不気味な特徴のある笑い声がこだましていた。普段の雪絵ではない事は明確だった。
「ぼ……た……ん……さん」
かすれかすれの弱弱しい声が残された少女の名を呼んだ。
「えっ、えっ?」
パニックになる牡丹の頭。咄嗟に返事が出てこない。
こんな大事な時に混乱するなんて、ああなんてお馬鹿な頭なんだろう。
「危険な……目にあわせてごめ……ん」
「そんな事ない!」
そう言って彼女はかなりオーバーに首を横に振った。
「危険じゃなかったよ。守ってくれたじゃない」
涙をこらえ、必死に答える。
本当はこの場になんかいてもたってもいられる心境じゃなかった。でも駄目だ。私が冷静にならなきゃ、これが最後の会話にはなりたくないよ。
唇を噛みながら自分を奮い立たせる。
「笑って……」
古月は途切れ途切れの声でそう言った。
けれど笑えるわけがなかった。だって目の前で大事な人が今にも危ない状況なのだから……
「笑ってよ……僕は、今嬉しいんだから。最後まで一番大事な人を守れて、僕は君の笑顔が好き……」
ぶつん。話はそこで途切れた。
「あ、あああ……」
言葉にならない声が漏れる。
そのとき牡丹の頭の中で何かがふつっと切れた。
昌成の温かさは次第に失われていった。
【古月 昌成(男子7番)・銃殺。死亡】
――アシタモ、イツモドウリアナタニアエルトオモッタノニ
「あ、あの」
背後から誰かの声がした。
「そっちに行っていい? 大丈夫、君に危害を加えるつもりはないから」
その声の主は昌成の親友、棒葉 宰春(男子17番)であった。
彼の手に持たれている銃から判断して、雪絵に撃たれそうになった牡丹を助けた二発の銃声も、彼の行動だと伺えた。
「古月………………」
宰春は昌成に歩み寄り、そっとまぶたを閉じた。ほっそりとした、宰春の顔からは、一筋の涙が流れる。
ひと時の静寂が訪れた。
それから何分経っただろうか。静かに宰春が口を開いた。
「あっ、あのっ牡丹さん」
少しあがり気味な宰春の声。
「こ、これからどうするの? もし、良かったらぼ……」
ざくっ
気味の悪い、何かの裂けるような鈍い音。
それは、あっという間の出来事すぎて、宰春は自分に起こっている出来事を理解するのに時間がかかってしまった。
考えたくない事実と共にゆっくりと違和感の感じた場所を目で追う。
絶対に一番あって欲しくない出来事……
宰春の喉にはナイフが一本突き刺さっていた。牡丹に支給されたサバイバルナイフ。
「……っ」
もう声には出せなかったが、宰春は目で訴えていた。『どうして?』と。
隣でナイフをつき立てた牡丹が、彼の顔を見ながら言った。
「私、決めたの。これ以上、大事な人を殺されたくない。大事な人は私が殺す。後悔しないために」
牡丹はそう言うと、二人のデイバッグから自分に必要だと思うものだけを回収し始めた。
「じゃあ私、もう行くね」
その場を去る際、牡丹は二人に微笑みかけた。その笑顔は殺人を決めたとは思えない、とても魅力的な微笑みだった。
――ごめん、昌成……俺じゃ駄目みたい。お前じゃないと牡丹さん、止められない。
その思いとともに、宰春の心音はゆっくり遠のく。
【棒葉 宰春(男子17番)・呼吸困難。死亡】
【残り39人】