「よっこいしょ」
近所に住むおばさんのような声を出しながら、学校から300mほど離れた地点の草むらに藤真 鈴華(女子14番)は腰を下ろした。
基本的に動く事が嫌いな彼女は300m歩いただけでも十分な運動になっていた。
「しかし……なんでこんな事に参加させられちゃうかなぁ~」
つまらない。そんな風に言いたげに鈴華は支給されたデイバックを覗き込んだ。
どうせ、中にはたいしたものは入っていない。
さっき確認した時に入っていたもの。
パン……面白くない。
水……これも面白くない。
地図……ぜーんぜん面白くない!
ああなんて凡庸なんだろう。実に実に実に面白くないものばかりだった。
そして、極めつけは武器!
藤真 鈴華に支給された武器………………………………………………無かった。
――政府の人が忘れる事もあるんだねぇ
鈴華は鼻で笑った。
それはそれでギャグかな? なんて。普通の人とは違う事が出来て面白い、なんて。そんな事を考えながら。
ヤバい事だと気付いたのはそれからしばらくしてのことだった。なんと銃声が聞こえたのだ。ゲームに乗ってる人がいる。じゃあ自分が殺されるかもしれないじゃないか。
――ま、そういう人がいても仕方ないけどね。少なくとも私の友人達はそうだろうなー
一時はその危険性から恐怖を感じた鈴華だが、しばらくして慣れてしまったのかそんな事をぼーっと考えるに至っていた。
さく さく さく
――あ。
誰かが近くをゆっくり歩いている。足音に気付いた鈴華だが逃げる様子は無かった。
――移動するの面倒だな。
ただそれだけだった。ただそれだけのために、鈴華は逃げずにいたのだ。
さく
ついにその足音が自分の前で止まる。伏せていた顔をあげ、鈴華はその足音の主を確認した。
「えっと、群咲君だよね」
鈴華の前に現れた人物、それは群咲 馬胡(男子19番)だった。
『木蛇・芝見沢・奏草』の決して真面目とは言えないグループに属している彼。
頭はいつも坊主で、はたから見ればお坊さんみたいに見えなくもない。
鈴華はなんとなくこういった種類の人間が好きにはなれなかった。
――いやぁ……だってこの人はどう考えたって。
鈴華はまじまじと群咲の手元を見た。なぜなら、群咲の手には銃(ワルサーPPK)が握られていたからだ。
――やっぱり……
「やっぱり、私、君に殺されるって?」
「……」
無言だった。彼はもう、確実に鈴華を殺す気でいるのだ。
かちゃ
額に銃口が当てられた。
鈴華は反撃する気も逃げる気もなかった。
まぁ、逃げればもちろん撃たれてしまうだろうし、反撃してもやはり撃たれてしまう。それだったら、動かなくてもやっぱり同じだと考えたからだ。
――私の人生あっけないなぁ。
いよいよ引き金が握られる、その時だった。
ばぁん
耳にはっきりと残る大きな銃声が響く。鈴華は確実に撃たれたのだと思った。もう死後の世界をさまよっているのかと思った。
しかし、それは間違いだった。
撃たれていたのは群咲の方であり、鈴華ではなかったのだ。
「え? ええ?」
誰が彼を撃ったのか。辺りを見まわしてみたが誰も見つけることは出来なかった。
――なんで私じゃなくてこの人が死んだんだろ。うーん気になる。そもそも一体誰がそんな事を……?
鈴華は腕組をして考えた。けれど答えは分からない。
――私にはストーカでもついていて、私のピンチに助けに現れてくれたのかな?
そんな適当な理由を考えた。
「ま、なんでもいいけど」
鈴華は再び群咲へと視線を移した。
不気味なほど正確に頭を打ち抜かれている彼は、ほぼ即死だったに違いない。
――群咲君、可哀想に。
鈴華は目を細めた。
主人を無くした銃が一丁寂し気に転がっている。
「こんなぶっそうな物」
そう言って鈴華は群咲の銃を土に埋めた。単純に危ないから。
実のところ元々あまり争い事が好きではない鈴華にとって、武器があろうとなかろうと関係は無いものだった。だって結局はこうするのだから。
――全くもって面白くない。
それから、鈴華は群咲に支給されたパンを1口食べた。
「さてと、そろそろ移動しますか」
自分に最低限必要な物を持ち、藤真 鈴華はさらに300m北へ進む事にした。
【群咲 馬胡(男子19番)・射殺・死亡】
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「いけない、いけない。また、撃っちゃった。せっかく本物が手に入ったんだから大事にしなきゃ」
藤真 鈴華(女子14番)の所から20m離れた木の影に烏丸 智野(男子4番)はいた。
別に鈴華がいてピンチだったから助けたわけじゃない。
『ただ、試し撃ちがしたかった』だけ。
それが、おそらく運悪く群咲 馬胡(男子19番)に当たった。
ただそれだけだった。
まぁ、それはおそらくであって、本当は智野の意志ある行動であったのかもしれないが、20mも離れた場所から当てるにはよほどの腕が必要なので、そんなことはないだろう。
おそらくは。
【残り38人】