放送は終わった。
誰もが音をなさない静寂の中、岩敷 李阿(女子2番)は静かに震えていた。それは恐怖にではなく、怒りの震え。
――許さない許さない許さない許さない許さない……………………
言葉を何度も頭の中で反復させる。こんなに怒ったのは何年ぶりだろう。
彼女は静かに顔を覆い泣いていた。
===
同時刻。
我村 雪絵(女子21番)は迫っていた。
先ほどの先生の放送を聞いて彼女は理解した。そこに誰かいるのだ。また誰かに会える。
彼女は全速力で学校へ向う。
あと、70m……65……60……その距離は徐々に近くなっている。
――アハハっ 二人目も簡単に殺れそうだよ。ほら、あと少し、後少しで見えるもん。この木の後ろが学校……
がさっ
ついに雪絵は草木をかき分け学校の裏と考えられる場所まで到達する。
これで二人目。その高揚感を抑えながら、岩敷 李阿に狙いを定め銃を持ちあげようと――
「……誰もいないよ?」
この場にいるのは雪絵だけ。
「逃がしたかな?」
雪絵は小さく首を傾げる。
逃げられたのだろうか。仕方なく雪絵はその辺をうろついてみる事にした。その時だった。
「あれ? 雪絵、雪絵じゃん」
女の子の声だった。
こちらからは見えない位置、声は校舎の影から聞こえてくる。
――ちょうどいい……餌食を一人発見したよ。
雪絵はクスッと悪辣な笑みを浮かべるとそっと引き金に指を伸ばした。
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一方……
――ちょっと、何やってるの?? え? え?
さっきまで学校の裏で泣いていたはずの李阿は激しい混乱の中にいた。
それもそのはず。彼女は今、天根 俊谷(男子1番)に手をひかれて全速力で走っているのだから。
すごい、50mが10秒台だった自分が今は9秒台で走っているかもしれない。
スイスイと草木をかき分けて山を一気に駆け上る。
私にこんな隠された実力があったなんて。いや、そうじゃない。今はそんなこと考えている場合ではない。
――痛い、このままじゃ腕が引きちぎれる!
「……もう、離してって!!」
李阿は力のままに叫んだ。
「あ、ごめん」
そう言って俊谷はパッと手を離した。反動で李阿が少しよろける。これじゃまるで、お笑いコントだ。
「走るの、早すぎるよ」
体育が苦手な李阿にとって、俊谷のペースで長時間走ることは不可能にも等しいことだった。
そんな事よりも聞かなければいけないことがある。
「一体何しに来たの? 紗奈の誘いには乗らなかったのに」
李阿は俊谷を睨みつけた。
天根 俊谷。普段は昼寝ばかりしている癖に、なぜか頭の回転(それも、いたずら)と足の早さ(逃げ足)だけは速い男。
「お前なぁ~」
その言葉を聞いて俊谷は、たまらずと言った様子で言葉を返した。
「俺は別に助けなくても、どーでも良かったんだよ」
片手を上げてぷらぷらと面倒そうな雰囲気を見せる俊谷。
「は?」
「友達と心中したいならそのままそこに居ろってな」
「それってどういう意……」
その物言いにカチンときて、言い返そうと身を乗り出した李阿。けれどそこでようやく彼女もその意味に気付く。
「もしあそこであのまま居たら、殺して生き残ろうとする奴らが居場所を知って襲ってきたかもしれないだろ」
俊谷は気分が悪そうにぶっきらぼうにそう告げる。
その考えは全く当たっていた。現に雪絵は来ていたのだから。
――危険だって知ってたのにわざわざ助けに来てくれたんだ。私、それなのに失礼な事言っちゃった。
「……分かった、ありがとう」
李阿は素直にお礼を言った。
「別にいいよ」
俊谷は今度は彼女の歩幅に合わせるようにして先頭を歩いた。
――この人って、いつもやる気なさそうに見えるケド、本当はすっごくいいやつ……BRで始まる恋もあるって☆そんな予感☆★
李阿の中には、少女漫画のような妄想が始まろうとしていた。
先頭を行く男は当然そんな気持ちなど知ることはない。ないからこそ、特に気取った様子もなくごく普通に淡々と言葉を続けた。
「助けようって言ったのは俺じゃなくてツゲだし」
「え」
「俺はアイツの差し金」
あくび混じりに彼はそう言うと、辿り着いた先、【消防車置き場】のドアを30回叩いた。
「おーい、連れてきたぞ」
きい。
ドアが慎重に開かれる。
中からはもちろん今回の首謀者、津家 貴史(男子11番)が出てきたのであった。
【残り34人】