星見山中プログラム   作:なななお蝶

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24.再起不能

 

――こんな事になるなら銃に勝つ方法より日本刀に勝つ方法を考えておけば良かったな。

 

 ボウガンを聖礼 千歳(女子8番)に向けながら、芝見沢 朝陽(男子8番)はそんな事を考えていた。

 見れば見るほど落ち着いている千歳の姿。

 中学生のましてや女子が震えることも命乞いすることも無く、男三人に立ち向かおうとしている。

 

――あいつ……こんな状況なのに怖くないのか? それとも、まだ何か裏がある?

 

 その本来ではあり得ないような状況が、朝陽の頭ではどうしても合理的に解釈出来ない。

 物事を納得いくまで考えすぎてしまう、それが朝陽の悪い癖だった。そしてそれは今回も彼の足を引っ張ってしまう。

 ほんの一瞬だった。

 

ざくっ

 

 ほんの一瞬彼の判断が遅かったばかりに、奏草 浅之(男子9番)の胸部にはざっくりと日本刀が突き刺さったのである。

 千歳はなんのためらいも無く刀を振るっていた。

 

「えっ」

 

 朝陽はおろか、実際に体を貫かれた奏草本人だって何が起こったのか理解出来ない。

 ただじわじわと赤いしみが彼の胸元を染めていった。

 

「うわ……っ」

 

 木蛇 鉄瑠(男子6番)が言葉にならない悲痛な声をもらす。

 無音になる民家。今は朝だというのに不気味な静寂が場の空気を支配していた。

 

「まずは一人目」

 

 千歳はそう言って奏草の胸に刺さっている日本刀を抜いた。

 

ずるり

 

 糸の無いマリオネットのように奏草の体は床に沈んだ。

 彼の命の糸は既にこの世から切り離されていた。

 

「あと二人、次はあなたね朝陽君」

「くっ……そが」

 

 悔しそうな顔を浮かべた朝陽は、今度は躊躇なくボウガンの矢を放った。

 

ばひゅん

 

 矢は風を切り千歳の胸をめがけて飛んでいく。

 

シュカッ

 

 軽い発破音。

 その矢は彼女では無く古い民家の壁にぶっすりと刺さった。

 

「壁か……」

 

 そう言って次の矢を設置し再び放つ。

 

シュカッ シュカッ

 

 2発3発、朝陽は何回でも矢を放った。

 けれどその矢は不運にも彼女の元へ届くことはなかった。

 そしていよいよ、その矢が彼の手元からすべて消える。

 

「当たるわけないのよ」

 

 最後に椅子に突き刺さった一本を平然とした顔で一瞥する千歳。

 

「あなた達みたいな人の攻撃が私には当たるわけが無い。馬鹿じゃないの?」

 

 こつりこつりと床を歩くその音は、まるで死刑の宣告のように朝陽の元へと迫りくる。

 朝陽はいよいよ部屋の隅にまで追いやられていた。

 

「……それじゃー時間稼ぎはもう終わりだな」

「時間稼ぎ? 何言ってるの?」

 

 その言葉に千歳が不可解な顔を浮かべる。

 朝陽は少し笑った。そして、大きく息を吸いこんで――

 

「鉄瑠! ここは俺に任せてお前は逃げろ!!」

 

 力の限り叫んだ。

 

「なーんだ……そーいう事……」

 

どすっずず…… 

 

 千歳は刀を突き刺した。それはとても正確に、無慈悲に真っ直ぐ朝陽の体を貫いた。

 

ぽたっ  ぽたっ  ぽたぽたぽた……

 

 床が彼の血で覆われていく。小さく出来た血の池が、太陽の光に照らされて輝いていく。

 

――あーあ、まさか……ここでやられるとはな……もう、終わりか。武器さえあれば……武器さえ……

 

 それからゆっくりと朝陽の命は終わりを迎えた。

 

「全く余計な事をしちゃったわ。おかげでこれ、使い物にならなくなっちゃった」

 

 千歳は冷たい表情で、自分がさっきまで使っていた日本刀を眺めた。

 刀は朝陽を貫きざっくりと、壁の中へと突き刺さり、千歳の力ではもう抜けるものではなくなっていた。

 

「まさか、あなたが自分を犠牲にして友達を逃がすとは思わなかった。それは誉めてあげる」

 

 千歳はそう呟いて、さっきまで男の持っていたボウガンとその矢を拾い集めた。

 

「これも貰って行くわね」

 

 千歳は3人分の水と食料をデイバッグに詰めた。

 

「あ、それと言い忘れてたけど」

 

 退出しようとした足を止め、彼女は振り返らずに立ち止まる。

 

 

「……あなたが鉄瑠君に逃げろって言ったあの時……もう、彼は居なかったわよ」

 

 

 しかし、死体に話しかけても、ただむなしい沈黙が続くだけで、彼女の耳に返答が届くことはなかった。

 

【芝見沢 朝陽(男子8番)奏草 浅之(男子9番)・死亡】

 

【残り31人】

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