――へへっやった、俺は生きてる。生きてるんだ。
すごい勢いで民家から飛び出した木蛇 鉄瑠(男子6番)。彼は体力のあるままに道路を全速力で走っていた。
確かあれは奏草 浅之(男子9番)が刺された頃だろうか。絶対このままじゃやられると思った木蛇はとりあえず逃げた。家の中にはまだ芝見沢 朝陽(男子8番)が居たけれど、彼がどうなろうと知ったこっちゃなかった。
友達のために自分を犠牲にするなんて馬鹿げた話だ。
俺が生きている。
これだけでもう十分だった。
――最高! 俺一人だけでも生き残ってやるよ。
限界まで走りきり、彼はようやく足を止める。
もうそこには誰もいなかった。さっきまでいた友人も、自分を狙った馬鹿な女も。
「ははっははははっ」
心の底からは自然と笑いがこみ上げてきた。
「そうだ、みんなをとことん利用してやる!」
彼は空に向かって叫んだ。
みんなと仲良くなって油断した所を殺してやる。どうせ最後は一人なんだ。
彼の心に迷いはなかった。
「あ、やべえ」
ふと、自分の手元に目がいった。
慌てて飛び出してきたため、武器が無い。せっかくだからさっきの民家で何か貰ってくればよかった。
彼がその失態に後悔をした、その時。
ぎちぎち
「……ん? 何だ?」
何かを無理矢理引き伸ばすような不思議な音が彼の耳元に届いた。
でもさっきは周囲に誰もいなかったはず。
木蛇は念のため確認しようと、音のする方に首を向けた。
ひゅん ぶすっ
「……は?」
軽い何か飛ぶような音の後、彼の頭は後ろに揺らいだ。
おでこには角が生えたような一本の矢。
「は、はは……なんだよコレ」
そう呟いて、仰向けになるように、彼はふらふらっと力なく倒れた。
――……なあ、俺を狙うなんていい度胸しちゃてるんじゃないの?
混濁する意識の中で彼は思う。
――俺には友達がいるんだ……そいつらは俺より強いんだ、後でどうなっても知らな……
そこで彼の意識は終わりを迎えた。
彼の言う友達のいる、天国へ向ったのだろう。たぶん。
「何も持たないで外をうろつくなんて危ないんじゃないかな? 鉄瑠君」
彼が息を引き取って数分後、30mくらい後方の電柱、その影から見るからに人のよさそうな少年が姿を現した。
音島 清人(男子15番)。
彼の手には弓道で使うような弓矢が握られていた。
「何を考えたかは知らないけど、こんな開けた場所に武器も無しに棒立ちするなんて、君に不安はなかったの?」
清人は木蛇の元へと歩みより、そっと顔を覗き込んだ。
頭に刺さったそれを除けば、その姿はただ普通に眠りについているようだった。
「まぁ僕にも不安はあったよ」
突き刺さった矢を指で撫でながら、彼は優しく語り掛ける。
「1つ目はこの支給武器が上手く扱えるかどうか。2つ目は素人の僕があの距離から命中するかどうか。そして3つ目はまだ他に仲間がいるかどうか」
チラリと後方を確認し、彼はその静寂に耳を傾ける。
優しい目がキュッと細まった。
「3つ目の不安は、まあ……誰も出て来ないところを見ると、君一人しか居ないみたいだね」
問題集の答えを解説するように、丁寧な口調で彼は言った。
「本当は鉄瑠君に気付かれると思ってた」
清人は彼の衣服に触れ、改めて彼が武器を所持していないことを確認する。
本当に武器は無いらしい。
「君が本当に……」
突き刺さった矢に手を伸ばし、清人は力のままにそれを引き抜いた。
狩りで仕留められた動物を見るように、思いの外抵抗なくそれは抜けた。
「馬鹿で良かった」
午前10時の事だった。
【木蛇 鉄瑠(男子6番)・死亡】
【残り30人】