ここはC-6地点、【学校エリア】
丘を背にして大きく構える木造校舎のとある一室、多数のモニターが並ぶその中央に一人の男の姿があった。
国守 誠。今回のプログラム担当教官である彼は、映し出されるモニターの映像を一つ一つを興味深そうに眺めていた。
「どうですか。今回の生徒たちは」
声をかけたのは軍隊の中でも一番偉い、指揮を執る立場の男だった。
「ん、まぁまぁなんじゃないの?」
まるで友達と雑談をするかのような軽い口調。
男をちらりとだけ確認した誠は質問の回答を終えると、何事も無かったかのように再びモニターに注目した。
「……そうですか」
軽くあしらわれた男は、文句も言わず彼の後ろ姿を眺めた。
狼と羊。
一見するとそのくらい貫禄差のある二人。
とても不思議な光景だった。
「今回もどうせ脱出できないだろうなー脱出したら面白いのに……」
担当教官にあるまじき発言、呟いたのは誠だった。
脱出とは、最後の一人になるまで行うべき殺し合いから、存在ごと離脱してしまういわばズル行為である。
当然、そんなこと親元は認めてはおらず、万が一脱出行為が成功した暁には、関係した担当教官含む兵士たちの首が全て飛ぶ。お世辞にも口にしていい発言では無い。
「……」
男は黙って後ろ姿を眺める。
そして静かに言葉を飲んだ。
「……」
誠はその沈黙においてもにこにこと変わらぬ笑みを浮かべていた。
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一方ここは、学校から真っ直ぐ南下した地点。
「困ったなぁ」
江口 みほの(女子3番)はそう言いながら、うろうろと生い茂る雑木林の中を一人歩いていた。
周囲に誰もいないのに一人呟くその姿。そこに、誰かに襲われるかもしれないという危機感はまるで無かった。
「道に迷っちゃったのかも。学校を出る時もそうだったんだよなぁ……」
彼女はいつもどこかズレていた。
今回だって、簡単に学校から外に出られるところを、何故か出口を見つけられずついうっかり校舎内で迷子になってしまった。
本来ならその状況に絶望するところだ(いや、それ以前にそんなことにはならない)。
けれど彼女は違う。彼女はなんと、ごく普通にその辺の兵士に道を尋ねるという行為に出たのである。
本来なら兵士が一生徒に助力などあってはならない行為だ。当然彼らも最初はそうしていた。
しかしあまりにも、彼女が出口を見つけられずうろうろするものだから最終的には兵士が折れた。言葉で道は示さずとも、それとなく誤ったルートを塞ぎ、正しい出口へと彼女を導いたのだった。
「でもあの時も結局出れたし何とかなるか♪」
結果、何も知らない彼女はこうしてここにいる。
海名 小卯(男子2番)が彼女と合流出来なかった事に不安感を募っていたが、なんてことない、こうした理由だった。
ちなみに補足すれば、彼女の出発したタイミングは、最後の一人である我村 雪絵(女子21番)の出発するほんの少し前であり、一歩間違っていたら雪絵の最初の犠牲者になるのは彼女だっただろう。
「早くみんなに会いたいな。それでみんなで脱出出来たらいいな」
そんな事とは知りもせず、呑気に絵空事を並べながら彼女は雑木林を進んだ。そんな時である。
たたたたたっ
遠くから誰かの足音。それが凄い勢いでこちらに近づいてくる。
「えっ誰? 誰??」
みほのは思わず足を止め頭を抱えてしゃがみこんだ。
だから相手も気付かなかったのだろう。草むらをかき分けた先で小さくなっている人影を前に、悲痛な声を上げた。
「ひいっ、人だ! わ。殺さないで、待って、やめて!」
「その声は……仁君?」
「…………ってその姿は、みほのさん?」
頭上にぴょこりと結ばれたパイナップルみたいな髪型のみほのを見るやいなやその男子生徒、鷹代 仁(男子10番)は、安心したように胸を撫で下ろした。
「なんだ、仁君じゃーん」
みほのも仁だと分かると、途端に安心してその警戒を解いた。
「凶悪犯とかだったらどうしようかと思ったよ。知ってる人でよかったー」
むろんこの島に凶悪犯などいない。
まだ少し顔色の悪い仁を覗き込むようにしてみほのは訊ねた。
「どうしてそんなに怯えてるの? 凶悪犯? ゆっくりでいいから教えて」
何故かこの島に自分達以外の凶悪犯がいると思い込んでいるみほの。
真剣な表情の彼女に、仁はぽつりぽつりと答え始めた。
「実は、誰かに狙われてる気がするんだ」
「誰か?」
「うん。誰だかは分からない。でも誰かが居る事だけは確かなんだ」
顔を覆って目を閉じる。
するとさっき目の前で起こった出来事がありありと浮かんだ。
「さっきだって珠美さんが……」
「珠美ちゃんがどーかしたの?」
船崖 珠未(女子9番)の名を聞いて、彼と一緒にいないことを不思議に思いながらもみほのは言葉を促した。
「なんか急に倒れて、首には針が刺さってて……俺、恐くて逃げたんだけど……」
「うんうん」
「その犯人が、まだ俺のあとをつけて来ている気がするんだ」
そう言うと仁の顔色は真っ青になった。
「そっか」
みほのは深く頷いた。
――やっぱり凶悪犯がいるんだ。
「よし分かった」
すくっと立ちあがるみほの。
「今からさ、あそこにいかない?」
みほのはずっと南の丘を指差した。そこには小さく小屋のようなものが見える。展望台だ。
「ここからならみんなが見えるでしょ。そこからみんなに呼びかけて集まってもらおうよ。あそこなら変な人が来ても一目で分かるし、人が増えればもっと心強いよ!」
良い案だと思った。
こんな場所に閉じ込められて変な事件に巻き込まれる私達。でもみんな集まればきっと怖くない。
「……えっと」
仁は沈黙した。
彼女の提案は彼女が思うほど100%安全であるとは思えない。
「ね、仁君!」
「う、うん、分かった。俺みほのさんを信じるよ」
けれど結局彼は彼女の提案を拒絶することは出来なかった。
判断するよりも、誰かの意見に身を委ねた方がいいと思ってしまった。
こうして彼らは展望台へと向かった。
===
「なんなの、なんなのあれ? 私の時は逃げ回ったくせに、みほのならいいわけ?」
散倉 央(女子12番)は睨むようにして二人の姿を木の陰から覗いていた。
本当だったら私が真っ先に追いついて、あのポジションになっていたはずなのに。
珠未を毒矢で殺害後、偶然を装って合流しようとしていた央は、仁が突然逃げ始めたことに動揺し一歩出遅れてしまっていた。
「許せない。いくらみほのだからって近づくんだったら容赦しない」
央は苦々しく言葉を口にすると、ディバッグから吹き矢を取りだしそれを強く握りしめた。
【残り30人】