やっぱり最後に生き残るのは俺だ俺、俺に決まってる。
なんせあのクラスで一番信用があるのは俺だからな。
信用さえあればなんだって出来る。
信用のあるやつの言う事なら誰だって聞く。
でもな、信用がある奴だって裏切らないとは限らないんだぜ?
ここはエリアА-5【洞窟】。
そのぽっかりと空いた黒穴の奥からは個性むき出しの悪趣味な歌声が響いていた。
水田 太一朗(男子18番)。彼は飽きもせず、大好きな歌を思いのままに歌っていた。
「ラーララ♪ んふっふーあーララ♪」
決して上手いとは言い難い不安定な歌声。
ここにもし聖礼 千歳(女子8番)が居たら、露骨に嫌悪感を露わにし日本刀で真っ二つにしていたかもしれない。
心優しい七来 卓味(男子12番)が居たら、素直に拍手をしていたかもしれない。
けれど暴言を吐く人間も褒めたたえる人間もここにいない今、彼の自己満足の一人コンサートは、その気持ちの赴くままいつまでも続いていた。
――まあしかし、俺が人を殺すだなんて、クラスメートの奴らは正直思いもしないだろうな。
水田は右ポケットに手を当てて銃の感触を確認する。
ごつりとした冷たいものが彼の手に触れた。
「ははっ」
それはまるで自分が最強であることを証明しているようで、彼の心に深い安心感をもたらした。
銃・グロック19、元は四川 八須尾(男子21番)の支給武器である。
――あいつも馬鹿だよな。俺が学級委員長ってだけであんなにも油断するんだから。
油断していた彼の体を鉄パイプで思い切り殴りつけたことを思い出し、水田は下卑た笑いを浮かべた。
「全く、みんなに心から愛される学級委員長ってのも罪なもんだぜ」
汚く言葉を吐き捨てると彼は再びコンサートを開始しようと口を開いた。
その時だった。
ピーンポーン
「うん?」
不安定なチャイム音が彼の歌声を遮った。
まだ聞きなれない不快な音。
それは定時放送の合図だった。
『こんにちは、お昼の放送です』
まるでニュースでも読み出しそうな爽やかな挨拶。
水田は何も言わず、片眉を上げると、おとなしく支給された地図とペンを取り出した。
『それじゃまず死亡した人を発表します。女子17番 干村 友木さん、男子8番 芝見沢 朝陽君、男子9番 奏草 浅之君、男子6番 木蛇 鉄瑠君です』
「ふーん四人か」
特にメモを取ることもなく見知った名前を耳に流す。
別に自分が死んだわけじゃないし、その情報は彼にとってはどうでもいいことだった。
『それじゃ次は禁止エリアの発表です。今居る人は首輪が爆発しないように早く逃げてね。10分後にB-5、その一時間後にF-8、以上です。みんな、頑張れー』
ピーンポーン
なんの励ましにもならない言葉と共にお昼の放送はあっさりと終了した。
「あと10分でB-5……ここの隣か」
そう言って水田は洞窟をぬけたその先、距離的にはおよそ5m先の地点をじっと見つめた。
「でもま、ここは地図で見ても間違いなくA-5とは被ってないし俺には関係ない」
むしろ禁止エリアに近いから余計な奴が近寄って来なくてかえって安心だと、彼は安堵の笑みを浮かべた。
おまけに最悪襲われることがあっても、この銃さえあれば十分対抗手段にはなり得る。
「唯一問題があるとすればこれか」
水田は支給武器に付属されていた弾薬ケースを取り出した。
一見、数は十分にあるように思える。けれど命中の頻度を考えれば決して安心できる数ではない。
七来を殺した時に思ったが、銃を扱うにはそれなりのテクニックがいる。
「節約は、した方がいいか」
水田はケースを胸ポケットへとしまった。
さっ さっ
「ん?」
彼がケースをしまい込んだその時、耳に微かな雑踏音が届いた。
彼は静かに顔を上げる。
「あいつは……」
ショートボブの細身の少女、枠 望夢(女子20番)。
彼女は不運にもこの洞窟の前を横切ろうとしているところだった。
可哀想な枠 望夢、さっきの禁止エリアの放送を聞いて、きっと慌てて移動しているのだろう。
――俺の所に来れば助かるのに…………ま、そんな気は無いけどな。
水田は静かに銃を抜き出す。
望夢はまだこちらに気付いていない。
――どっちかって言うと今すぐ殺してやるよ。この銃で。殺すなら今だ!
引き金を引こうとしたその時だった。
――ん、待てよ?
彼の脳内にひらめく全く新しい斬新な作戦。
――これ、いけるかも。
水田はニヤリと口の端を持ちあげた。
「動くな! 望夢さん!!」
威嚇するような大声。
望夢の体がびくりと揺れた。
「手を上にあげてその場に留まれ。少しでも動いたら、撃つ」
恐る恐る言われた通りに両腕を上げる少女。
水田は銃口を彼女に向けながら、じわりじわりと洞窟の奥から姿を現した。
――このまま行けば銃弾を使わないですむぞ。題して強制自爆作戦。ははっ、俺ってカッコイイ上に頭良い☆
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