木の生い茂った山の中にぽつりと建つ古びた家屋。
鳴子 尋(男子13番)と徹田屋 江菜(女子13番)は山小屋に辿り着いていた。これも全て弐羽 一木(男子14番)の指示である。
彼から渡された探知機は、幸いにもここに着くまでも自分達以外の反応を見せることは無かった。
「それにしても、一木君と瀬里奈は遅いね……」
江菜はぽつりと親友の西 瀬里奈(女子16番)の名を出した。
本当だったら自分が彼女を正門で待っているべきだった。しかしそうしていなのは、一木が代わりにその役割を請け負ってくれたから。
けれど、その肝心の二人がお昼を過ぎても集合場所である山小屋にやって来ない。江菜は不安を募らせていた。
「昨日の夜の銃声、あれはやっぱり二人に何かあったんじゃないかな。大怪我してたらどうしよう」
昨日からずっとそんな心配ばかりしている。当然、一睡も出来ていなかった。
それに対してなんと非情なことだろう。
「すーすー……」
他人の心配などしてられないと言わんばかりに尋はぐっすりと寝息を立てていた。
「寝てるなんてヒドイよ」
江菜が恨めしそうに呟くがその言葉が耳に入ることはなかった。
彼は今、自身の支給武器であるタオルケットをかけて本当に気持ちよさそうに寝ている……。
ピーピーピー
「!」
突然、探知機のランプが光った。画面に表示される二つの赤丸。
江菜は急いで鳴子の肩をゆすった。
「鳴子君、鳴子君。起きて起きて! 多分二人が来たんだよ!」
「ん? なんだ、敵か?」
支給武器のタオルケットを構える尋。当然無意味である。
「もう、いつまでも相当寝ぼけてないでよ!」
その文句と同時に山小屋のドアが開いた。
かちゃ
「ただいま! なんてね」
明るくて元気な女の子の声、江菜の大好きな友達の声だった。
「瀬里奈っ」
江菜は玄関に急いだ。
「ただいま、江菜」
「おかえり」
いつもと変わらない友達の声。どこにも変わったところはないようだ。生きてて良かった。
「すごく心配したんだよ……どうしてこんなに遅かったの?」
「どっかの誰かさんがね。『俺は絶対こっちだと思う』とか言ってね、道を間違えたんだ」
「だから違うって!」
そう言って瀬里奈の後ろから姿を現したのは一木だった。
「あそこの道は危なかったんだからな!!」
エリア【J-6】山小屋は、一番学校から遠い位置に所在していた。何が起こるか分からない。方々からは銃声が何発も聞こえた。
だから危険を考慮した一木は、わざと遠回りな誰も通らないような道を選んだのだ。
「はいはい、分かってるって、冗談だよ」
プライドを傷つけられたとばかりに憤慨する一木。
そんな彼を慣れ親しんだおもちゃを扱うようにして瀬里奈はあしらった。いつもの光景である。
「よかった、弐羽君も無事だったんだね」
江菜は零れかけていた涙を手で拭った。
「飯は、飯はまだか?」
尋は……まだ、寝ぼけていた。
「……」
「……」
「それじゃこれからどうする?」
瀬里奈は尋を見なかった事にして話を続けた。
「どーしよっか?」
ここで決める方針が自分達を生かす鍵になる。
慎重に決めなくてはと尋を除く三人は大きく頷いた。その時だった。
ピーピーピーと再び探知機が甲高く新たな人物の来訪を告げる。
「誰か一人この辺にいる」
一木のその言葉で、場は一瞬にして静まり返った。
探知機が探知出来る範囲はせいぜい半径10m、つまりものすごく近くに居るのは間違いない。
3人はいつでも逃げられるよう身構えた。
「いい加減本気で起きろ」
「痛てっ」
一木に思い切り引っ叩かれ、ようやく尋も覚醒する。
「相手がやる気なら……俺達は逃げるしかない」
包丁とふかふかのタオルケット、そして探知機を眺めながら一木は唇を噛んだ。
――さぁやる気なのか、そうでないのか教えてくれ。
四人の心に緊張が走る。
けれどそんな緊張も数秒後、あっけなく終わりを迎えた。
チリン チリン チリン
甲高い鈴の音。
それは山小屋に設置された玄関のチャイムのようなものだった。誰かがそれをご丁寧にも鳴らしている。
「丁寧だね、悪い人じゃないみたいだよ。出てみよっか?」
「おい!」
「あ、ちょっと馬鹿!」
なんでそう単純なんだ。
江菜は昔から疑いもなく直感で行動するところがある。よく言えば純粋、悪く言えば騙されやすい。
今回も、丁寧にチャイムを鳴らす=いい人と判断したようだ。
「……っ」
瀬里奈の静止の言葉もむなしく、江菜はあっさりとドアを開けた。
「……」
「……」
唾を飲み込み身構える瀬里奈と一木。
いくらチャイムを鳴らしたからといって、相手がゲームに乗っていないとは限らない。
二人は相手の姿を睨みつけた。
「あっよかった。やっぱりここに入っていったんだ」
すらっとした容姿にどことなく薄幸そうな雰囲気を纏う少女、鳳凰寺 由利(女子18番)は安心したように手のひらを合わせた。
「なんだ、由利ちゃんか~!」
江菜は素直に喜んだ。
「由利ちゃんなら安心だね。さ、中に入って」
「ありがとう」
由利の手をひいて江菜は小屋の奥へと消えていく。
その様子を瀬里奈と一木は眺めていた。
「……」
「……」
鳳凰寺 由利……
彼女という意外な訪問者。
ただその時は二人とも、それを無言で見ていることしか出来なかった。
【残り29人】