私はあの時のその言葉より、目の前の光景が信じられなくて……目からは涙が出ていました。
<女子13番 徹田屋 江菜>
「ねえ、これ……どゆ、こと?」
最初にそれを目にしたのは徹田屋 江菜(女子13番)だった。
割れた食器を包もうと、新聞紙を探しにやって来たところ不幸な現場に遭遇してしまった。
「あれ? 見てたんだ。今の全部見ちゃってたんだ、江菜ちゃん」
不気味な半笑いを浮かべながら鳳凰寺 由利(女子18番)は江菜に話しかける。
彼女の目の前には木の杭が刺さった鳴子 尋(男子13番)がいた。
「な、んで……?」
途切れ途切れになる言葉。
江菜の目から大粒の涙が零れ落ちていた。
「私、やる気だから。覚悟してね……」
今の由利にどこか控えめな少女の姿は無い。
狂気。そう名付けるに相応しい程に彼女の風貌は変化していた。
するり。滑らかな手つきで彼女は放置されていた江菜のディバッグに手を伸ばす。
「だ、駄目!」
彼女の言葉などお構いなしに、由利は支給武器である包丁を取り出した。
「こんな大事な物放置してるなんて、頭湧いてるんじゃないの?」
間髪入れず江菜に包丁をつきつける由利。
もう一人、ここで殺す、彼女はそう考えていた。けれどすぐに、それは甘い考えだという事に気付く。
「動かないで」
江菜の異変を察知して、台所から弐羽 一木(男子14番)と西 瀬里奈(女子16番)が姿を現したのだった。
「今、ここで江菜を刺したら、あなたを撃つ」
瀬里奈の手には彼女の支給武器であるハンドガンが握られていた。
「駄目だよ、瀬里奈。そんな事、言わないで……友達を傷つけるなんて、理由があってもやっちゃいけないよ」
江菜は自分が殺されるかも知れない恐怖を感じながら、弱弱しくも可能な限り声に出して伝えた。
「大丈夫、私は全然気にしてないから。たぶん、由利ちゃんも恐かったんだと思う。だから瀬里奈、その銃を下ろして。由利ちゃんも包丁を置いて……」
「馬鹿っ」
この状況で一番恐いのは包丁をつきつけられている江菜のはず。それなのに、相手を想って和解を提案するなんて。
こんな時でも揺るがない彼女の争い事は好まない提案に瀬里奈は唇を噛んだ。
「私、由利ちゃんの事、信じてるよ。だって、友達じゃない……」
もちろん由利にも、その言葉は綺麗ごとを並べているようにしか思えなかった。
「……ちっ黙れよ」
由利は小さく悪態をつくと、叩き付けるように包丁を地面に置いた。
「良かった。分かってもらえ……」
「うるせえ、友達なんかじゃねーよ」
彼女はそう吐き捨てると、自分のデイバックを肩にかけ山小屋を去っていった。
「大丈夫だった?」
とっさに瀬里奈が駆け寄る。
「……うん」
江菜は首を縦に振った。
「よかったー」
安心する瀬里奈。
けれど江菜は嘘をついていた。
『友達なんかじゃない』
それは最後に由利が言った言葉。
その言葉は江菜の心に深く突き刺さった。
木の杭が心に刺さるような、とてもとても重く悲しい痛み。
――思い出したくない。思い出したくない。恐い。恐いよ。誰か、助けて。
江菜の中に、昔の嫌な出来事が蘇りつつあった。
【残り28人】