ぱんっというクラッカーの弾けるような音が二度聞こえ、壁智 明流(男子16番)は足を止めた。
「なあ今の」
「ああ」
振り返ると海名 小卯(男子2番)が自分と同じように足を止めていた。
それがクラッカーの音でないことはすぐ分かる。ここからそう遠くは離れていない。二人は銃声の聞こえた方角を静かに凝視した。
「静枝さんなんだけどさ……」
音のした方角が、ちょうど彼女と遭遇した方角だったからだろうか。明流は言いにくそうに佐羽 静枝(女子5番)の名前を出した。
佐羽 静枝。古月 昌成(男子7番)と棒葉 宰春(男子17番)が亡くなっていた現場で、偶然遭遇してしまった人物であり、自分達をその犯人だと決めつけた少女。
「俺、催涙スプレーかけたじゃん」
「うん、かけたね」
二人を殺人犯だと勘違いした静枝は二人に銃を向けた。そんな彼女から逃げるべく明流は静枝に向けて催涙スプレーを吹きかけたのだ。正当防衛と呼んでもいいだろう。
「あの後、大丈夫だったのかなって」
けれど明流は罪悪感を感じていた。
「……」
小卯は相変わらず銃声が聞こえた方を見つめていた。
静枝のことはあまり詳しく知らない。知っていたとしてせいぜい、彼女が新聞部だとか中添 史織(女子15番)と仲がいいとかそのくらいのこと。だから、明流の罪悪感に対して『大丈夫、気にしてないよ』なんてことを小卯は安易に言うことが出来なかった。
「一時的に目が見えなくなるんだぞ。万が一誰かに襲われでもしたら……」
「じゃあ行こう」
「え?」
「心配なら行った方がいい」
小卯はがっしりと明流の腕を掴んだ。
「い、いやでも」
慌てて明流は抵抗した。けれど小卯はその手を離さない。
「正直なところ僕は何も出来ていない。戦うことも、友人に最適な言葉をかけることも何一つ。でも、この手を引くことぐらいなら出来るよ」
「何言ってんだよ。そんな事したら、俺達また危ない目に合うかもしれないんだぞ!」
「行かなくて後悔するよりはいいでしょ」
小卯の表情は真剣だった。
「……分かったよ、行こうぜ。湖に向かうのに、遠回りになるけどいいんだな?」
「全然問題なし」
二人は走って静枝がいるであろう場所へと向かった。
道なんて関係ない。青々と生い茂る草を適当にかき分けて、どんどん進んでいく。そしてとうとう、彼らは事実を目の当たりにする。
「な、なんだよっ! おい、静枝さん!!」
おとぎ話のように都合がいいことなんて現実には起こらない。
それは遅かった。遅すぎた。
小卯の目の前には背中に矢が一本刺さった、佐羽 静枝が横たわっていた。荒らされたディバック。持ち去られたと思わしき彼女の小銃。事故では無い、誰かに殺されたことは明白だった。
「う、嘘だろ……おい」
小卯の背後で明流は今にも消えてしまいそうな声で呟いた。
自分が静枝を殺したのかもしれない。目が見えさえすれば招かなかった事態かもしれない。頭の中で何度もその言葉が繰り返される。
「落ち着け、明流。お前のせいじゃない」
「いや、俺がこ、殺したんだ……」
「違う」
「俺だ」
明らかにおかしくなり始める明流の様子。
彼を少しでもなだめようと小卯が手を差し伸べたその時だった。
「あ、あ、あぁぁぁぁ…………!!!!!!」
「わっ」
彼の体を押しのけるようにして明流が飛び出した。
「待てよ、待てって!!」
小卯は慌てて彼の背を追った。
【残り27人】