星見山中プログラム   作:なななお蝶

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35.暴走

 

 ぱんっというクラッカーの弾けるような音が二度聞こえ、壁智 明流(男子16番)は足を止めた。

 

「なあ今の」

「ああ」

 

 振り返ると海名 小卯(男子2番)が自分と同じように足を止めていた。

 それがクラッカーの音でないことはすぐ分かる。ここからそう遠くは離れていない。二人は銃声の聞こえた方角を静かに凝視した。

 

「静枝さんなんだけどさ……」

 

 音のした方角が、ちょうど彼女と遭遇した方角だったからだろうか。明流は言いにくそうに佐羽 静枝(女子5番)の名前を出した。

 佐羽 静枝。古月 昌成(男子7番)と棒葉 宰春(男子17番)が亡くなっていた現場で、偶然遭遇してしまった人物であり、自分達をその犯人だと決めつけた少女。

 

「俺、催涙スプレーかけたじゃん」

「うん、かけたね」

 

 二人を殺人犯だと勘違いした静枝は二人に銃を向けた。そんな彼女から逃げるべく明流は静枝に向けて催涙スプレーを吹きかけたのだ。正当防衛と呼んでもいいだろう。

 

「あの後、大丈夫だったのかなって」

 

 けれど明流は罪悪感を感じていた。

 

「……」

 

 小卯は相変わらず銃声が聞こえた方を見つめていた。

 静枝のことはあまり詳しく知らない。知っていたとしてせいぜい、彼女が新聞部だとか中添 史織(女子15番)と仲がいいとかそのくらいのこと。だから、明流の罪悪感に対して『大丈夫、気にしてないよ』なんてことを小卯は安易に言うことが出来なかった。

 

「一時的に目が見えなくなるんだぞ。万が一誰かに襲われでもしたら……」

「じゃあ行こう」

「え?」

「心配なら行った方がいい」

 

 小卯はがっしりと明流の腕を掴んだ。

 

「い、いやでも」

 

 慌てて明流は抵抗した。けれど小卯はその手を離さない。

 

「正直なところ僕は何も出来ていない。戦うことも、友人に最適な言葉をかけることも何一つ。でも、この手を引くことぐらいなら出来るよ」

「何言ってんだよ。そんな事したら、俺達また危ない目に合うかもしれないんだぞ!」

「行かなくて後悔するよりはいいでしょ」

 

 小卯の表情は真剣だった。

 

「……分かったよ、行こうぜ。湖に向かうのに、遠回りになるけどいいんだな?」

「全然問題なし」

 

 二人は走って静枝がいるであろう場所へと向かった。

 道なんて関係ない。青々と生い茂る草を適当にかき分けて、どんどん進んでいく。そしてとうとう、彼らは事実を目の当たりにする。

 

「な、なんだよっ! おい、静枝さん!!」

 

 おとぎ話のように都合がいいことなんて現実には起こらない。

 それは遅かった。遅すぎた。

 小卯の目の前には背中に矢が一本刺さった、佐羽 静枝が横たわっていた。荒らされたディバック。持ち去られたと思わしき彼女の小銃。事故では無い、誰かに殺されたことは明白だった。

 

「う、嘘だろ……おい」

 

 小卯の背後で明流は今にも消えてしまいそうな声で呟いた。

 自分が静枝を殺したのかもしれない。目が見えさえすれば招かなかった事態かもしれない。頭の中で何度もその言葉が繰り返される。

 

「落ち着け、明流。お前のせいじゃない」

「いや、俺がこ、殺したんだ……」

「違う」

「俺だ」

 

 明らかにおかしくなり始める明流の様子。

 彼を少しでもなだめようと小卯が手を差し伸べたその時だった。

 

「あ、あ、あぁぁぁぁ…………!!!!!!」

「わっ」

 

 彼の体を押しのけるようにして明流が飛び出した。

 

「待てよ、待てって!!」

 

 小卯は慌てて彼の背を追った。

 

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