「一番……」
この『一番』という響きは今まで私の人生の中でとても好きなものだった。
けれどそれは今、世界の中で最も嫌いな言葉になろうとしている。
「安瀬 紗奈さん」
安瀬 紗奈(女子1番)は先生に呼ばれた。
「はっ……はい!」
ちょっととまどいながらの返事。
だって、いきなり『殺し合い』をする? そんな事言われても困る。
紗奈は未だにこの状況を飲み込む気はなかった。
「じゃあ彼から荷物を受け取ってね」
「……」
誠からの一言に無言で席を立ちあがる。
飲み込むかどうかは関係ない、そう言わんばかりの空気を感じた。
紗奈が教室の前の方に歩いていくと、恐そうな軍隊の服を着た男の人が一人、紗奈に黒いデイバッグを渡した。
「おっと……」
ずっしりと重い感触。紗奈は少し足元がもつれ、よろけてしまう。
体勢を整えながら、あらためて手にしたディバッグのじっと見つめた。
夜闇のようにどす黒く何の温かみも無い荷物。この中には人を殺す道具が入っている。
紗奈は考えていた。
生き残るためにはそれを使って人を殺すしかないと。
でも、そんなの絶対に嫌だ! 私は誰も殺さない、と。
彼女の頭の中で、否定と肯定の言葉が何度も何度も繰り返される。
――絶対に殺さない。
最後に行きついたのはそこだった。
それは紗奈が日頃から善良な人間で、親からも愛されていた環境にあったからであろう。
――絶対に殺さないんだから。
もう一度、心の中でしっかりとそう誓って教室を出ようとした時だった、先生代理人の国守 誠の声が聞こえたのは。
「あ! みなさんに言い忘れてましたがこのクラスにはもう殺し合いをやる気の人がいるかもしれませんよ。みんなは敵ですよ」
なんて最悪な言葉なんだろう。紗奈は首を小さく振り自分に言い聞かせる。
――そんな言葉で私はだまされない。私だけでもみんなを信じる。
硬く誓う。
――そうだ、教室を出る前にみんなの顔を見ておこう。これで自信もつく。
ゆっくりと体を半回転させ、教室の中を振り返った。
そして、見てしまった。
木蛇 鉄瑠(男子6番)と奏草 浅之(男子9番)、群咲 馬胡(男子19番)そして芝見沢 朝陽(男子8番)の四人が謎の笑みを浮かべていたのを……
「……」
何か胸に突き刺さるような思いがこみ上げる。あんな誓いを立てたばかりなのに、この人たちはもしかしたら、あの男の言う通り『やる気』のではないかと疑いさえしてしまった。
――私に、信じる事さえ出来れば……
紗奈は黙って廊下の向こうへと消えていった。
こうして一人目が校舎の外に出た。
時刻は夕方の5時ジャストだった。
死のゲーム・開始
【残り42人】