キタサンブラックとサトノダイヤモンドに振り回される話。 作:blue ponta
特に意味のないGWが過ぎ去っていってしまう…
虚しいなぁ…
俺がここに来てから約3ヶ月が経った。初夏を迎え、ここ最近の気温も高くなり、学園内の木々も新緑を帯びている。
最初は、広大で初めて来た人ならば迷わないことはないであろうトレセン学園にも慣れ始め、大体の教室の位置などが分かってきた。まだ時々迷ってしまい、たづなさんやウマ娘達に聞くことはあるが…
赴任して早々2人のウマ娘のトレーニングをすることは当然、容易いわけではなかった。今まで、他のウマ娘のレースを見てきたり、勉強してきたりしたことは必ずしも使える訳では無い。
あくまで「基礎基本」を学んでいただけであり、そこからまた経験と勉強を重ねなければいけないと痛感した。
そしてダイヤとキタサンの能力は、最初に会った時よりも目に見えて上昇していた。まだまだレースで上位入賞を獲るには至らないかもしれないが… よくよく考えれば、勉強とトレーニングを上手く両立するのも大変だが、そのトレーニングを自分たちで考えて実行するのは至難のことだ。それをやっていたあたり、かなりポテンシャルは高い娘達なのだろう。
でも最近ではダイヤとキタサンに対して少し悩みがある。
それは…
「彼女たちのスキンシップが明らかに多くなっている」
レースに向けて、ハードなトレーニングをすることはあるが、その際にご褒美をあげることがある。最初はほんのちょっと頭を撫でるだけだったが、2週間くらい経ったある日、こんなことがあった。
「おーし、今日のトレーニングはここまで。お疲れ様。」
今日は少しキツかったか。あまりキツくし過ぎると、勉強など生活に支障が出るかもしれないし、何しろ怪我がいちばん怖い。
明日は少し緩くやって体力の回復をさせようかなと思っていると、キタサンが駆け寄ってきた。
「トレーナー、ご褒美お願いしますっ!」
あ、そうか。今日はキツかったもんなぁと思ってキタサンの頭を撫で始めようとすると
「あ、実はですね…」
ん、どうしたんだろうと思い、撫でようとした手を止めると
「トレーナー!ハグしても良いですか?」
えーーっ…それは駄目だろう…
スキンシップは一体感を共有し合うものらしいが(Wikipediaより)、年端もいかない少女にハグされるのはさすがに気が引ける。だがキッパリ駄目とも言えないので、お茶を濁すような言い方をしてしまった。
「あ、いやーうん…どうだろう…?」
「じゃ、失礼しますっ」
刹那、暖かい感触に包まれた。トレーニング後なのにとても良い匂いがする。男子校出身の俺が、意識しないわけがなかった。
「ちょっ、おい…」
キタサンは俺の胸に深く顔をうずめると、抱きしめる力を強くしてきた。
一般にも知られているように、ウマ娘の力は人間の力よりも強い。一般男性の力はウマ娘にも敵わないのだ。
「キタサンっ、痛いよ…!」
段々と本気では痛くなってきたので思わずタップする。
「あっ!ごめんなさい。大丈夫でしたか?」
タップに気づき、スッと離れたキタサンは問うてきた。
「あーうん、大丈夫だ。あまり人前ではやらないようにしような。」
すると、キタサンは纒わり付くような笑顔を浮かべて
「はい…分かりました…♡」
そう答えた。
「キタちゃんだけご褒美あげて、私にはあげないんですか?」
その日の夕食後、トレーニング室に戻るとダイヤは仁王立ちをしながら立っていた。明らかに不機嫌そうだ。
「あーいや、その時にダイヤがいなかったからさ、必要ないのかなーと思ってたんだよ」
咄嗟に言い訳したが、嘘だ。その時ダイヤは他のウマ娘と一緒にトレーニング器具の片付けをしていたのだ。
「必要ない訳…」
ダイヤが俺の方へと歩み寄る。
「ないじゃないですか!」
その瞬間、スタートダッシュを切って俺の胸へと抱きつき、ハグしてきた。
「ぬおっ!?」
ギューっ!とものすごい力でハグしてきたダイヤは息を荒立てながら
「ご褒美は絶対に必要ですっ、良いですね?」
「分かったから、離してくれ!痛い!」
「あっ、すみませんっ」
パッと離してキタサンと同じように謝った。
「兎に角、ご褒美は忘れないでくださいっ」
そう言ってダイヤは去っていった。
それからご褒美は頭を撫でるのでは無く、ハグされるということになった。確かにこんな可愛い娘からハグされるなんて幸せ者なのだろう。しかし、周りの目を憚る必要があるため、進んでしようとは思わない。さてどうしたものかと考えていると、1件の通知が入った。
────────────────────────
「よお! 久しぶりだな。んーでもちょっとしか経ってないけど…」
アニメのような声の掛け方をしてくる快活そうな男がmy friendだ。一昨日、「お互い新しい環境になったんだし、近況報告も兼ねて遊びに行かないか」とこの男から通知が来た。断るほどの予定も入っていなかったし、今日は練習がOffの為、よどみなく承諾した。
高校時代、学校であまり活発的とは言えない俺の唯一の友人がこいつである。とは言ってもそこまで一緒にいた訳ではなく、たまに遊びに行くくらいの仲だった。
「最近、どんな感じ?」
映画を見に行く途中、歩きながら声を掛けた。
「いやーそれがさぁ、教授の課題がマジだるくてさぁ。そもそも……」
高校卒業後すぐに就職した俺とは違い、こいつは都内の大学に進学した。幾つかのバイトを掛け持ちしながら大学生活を送っているらしい。
映画を見たあと、互いに生活で必要そうな物を買って少し洒落た喫茶店に入った。
「じゃあカフェラテ1つ。お前は?」
「俺は〜カフェラテとストロベリーフルーツパンケーキで♪」
「お前…太るぞ…」
釘を刺すと、ニヤッと笑い「そういえば」と尋ねてきた。
「トレセン学園ってどんな感じ?」
「あー、うん。大変だよ。色々考えなきゃいけないし、提出する書類も多いし…」
そう言うと、友は頷きながら
「勝負の世界だからな〜絶対大変だろうなぁ」
「他人事みたいに言いやがってぇこの野郎」
「でも、そこは可愛い女の子ばっか居るんだろ?羨まし〜」
「だから、発言とか行動に気をつけなきゃいけないんだよ」
「あっそっかあ、今の時代そんなのがあるのか」
「でもさぁ、担当してるウマ娘が抱きついてくんだよ」
「は?」
睨んでくる友人に弁解する。
「いや、俺が意図的にやってる訳じゃないんだよ。」
「クッソ…羨ましい…」
「わからんかも知らないが、ウマ娘は人間の倍以上の力があるんだぞ。毎回死にそうになるわ。」
「トレーナーッテ、イノチガケノシゴトナンデスネー」
「おい」
そんな談笑をしていると、聞き慣れた声が聞こえた。
「あら、トレーナーさん?」
「トレーナー、こんにちはー!」
可愛らしい私服を纏ったキタサンとダイヤが立っていた。
「おお…2人とも。買い物帰りか?」
「はい!そうなんです。そちらのお方は?」
ダイヤに言われ、友人を紹介する。
「もしかして、お前の受け持ってる娘か?」
隠れて友人に言われる。
「そうだけど…」
「二人もいるのかよ!」
「あっ言ってなかっけ。」
「ええっと、いつもこいつがお世話になってます。変なこととかされてないすか?」
2人に向き直ると、俺に失礼なことを言ってきやがった。
「そんなとんでもないです!こちらこそお世話になっています。」
ダイヤがにこやかに答えた。
「それで2人はいつから友達なんですか?」
キタサンが尋ねてきた。
「高校時代からだよ。まあ、そん時はたまに遊びに行くとかそんな感じだったけど」
続けてダイヤが質問する。
「トレーナーさんって高校時代はどんな人だったんです?」
「ああ、こいつ?いやー陰キャだったね。昼休みに図書館で本読んでるような感じ。勉強は出来たけど、運動がダメだったんだよなぁ。20分間走とかでずっとヒーヒー言ってたもんw」
こいつ、言っていいことと悪いことの区別が出来てないのか。
なんでも言いやがる。
「いやぁでもお前がこんな可愛い娘のトレーナーしてるだなんて知らんかったわ。 昔は年上の彼女を持ってみたいとか言ってたのにw」
「「え?」」
空気が凍りついたように感じた。2人の目からハイライトが消えたように見えた。
キタサンが真剣な面持ちで問う。
「トレーナーさん、それってホントですか…?」
体の危険信号が鳴る。間違えれば大変な目に合うと。
「いや、昔言ってたことだからな…今は違うかもしれない。」
「じゃあ、どんな人を彼女にしてみたいんですか…?」
間髪入れずにダイヤが質問してくる。
これはまずい流れだ。助け舟を出してもらうよう友人とアイコンタクトをとる。
友人もそれを理解したようで、
「あー、そんじゃあダイヤちゃんはどんな人がいいの?」
とフォローしてくるが、それに答えず俺の答えを待っている。
「んまぁ…優しくて、可愛い人かな…。」
随分ありきたりな答えだ。
「そうですか…」と言うと、ダイヤとキタサンは天使のような笑みを浮かべて言った。
『私は、トレーナーさんみたいな人が好きですよ?』
色々とやることがあるらしいダイヤとキタサンはその後早々と寮へ帰っていった。初めてあんなことを言われた俺は、その後のあまり友人と話したことを覚えていない。
だがこんなことを言われた。
「あくまで俺の偏見だが、あの娘たち、何かよからぬことをする気がする。ちょっと気をつけた方がいいぞ。」
今度また会う約束をしてから、俺は帰途に着いた。