曹操「敵は本能寺にあり」
おお!なんということだ。
廊下にモノ達、ボックス席にもモノが溢れている。
青髪の姿は見えない。
ただ、あるボックス席に向かってモノが集まっていることはわかった。
「青髪を殺せ!」
「ガキを八つ裂きにしろ!」
「奴を生かすな!」
モノ達が口々にそのボックス席にむかって叫んでいる。
耳をそばだてる。
「ちくしょう…」「あーよしよし。ごめんね…なんで泣いてるの?」
と女の人の声がする。
それと、赤ん坊の鳴き声。
しかし、これでわかった。
あの山で赤ん坊を連れて行ってしまった女にやっと追いついたのだ。
「おい女の子!」
腹の太鼓をカカッ!と鳴らす。
ドンドンドン!とも叩く。
全員獅子頭を見る。
「誰?」
「俺は…」
獅子頭は下顎を下げる。
すると、中には男の人が入っていた。
「俺は、人間だ!青髪!生きてるな?」
「人間?」「人間だって?」「あの獅子頭もか?…」「というか!」「人間とはいえ…」
「「「貴様は畜生だったろうが!」」」
「ご明察。俺は人間をやめた!獣だ!」
そういうと、鯉のぼりを振り回す。
ボックス席が吹き飛ぶ。
窓ガラスが割れる。
モノの頭が飛ぶ、跳ぶ、翔ぶ。
天井に通じる人一人入れるギリギリみたいな穴が車両の半分がなくなり、貨物車みたいな感じになってしまった。
「お前ら!その女の人に近づくな!」
「なっ!」「に?」「ぬっ…」「ね!」「の〜」
モノの手足、内臓、全身が飛び散る。
海美のような美しさはない。
風車の重さで圧迫、圧死させるだけだ。
「お前!何やってるんだ!」
後方車両から、さっき獅子頭より前にいた連中が入ってくる。
「うるせえ!」
風車を伸ばす。
後ろの車両のモノどもを元の車両に押し戻す。
一気に風車を引き戻す。
「おいあなた!」
前方車両から車掌が来る。
「チッ!…この客車に来るんじゃねぇ!」
風車が定位置に戻る瞬間、鯉のぼりから手を離し、身体の軸を反転させて杖を掴んだ。
空中にある時に、風車は定位置に戻る。
しかし、受け止めてもらえないものだから、反対側の杖尻がぐんぐん伸びた。
「っえ?」
車掌の身体に杖が刺さる。
そのままモノ達ごと前の車両に突き戻した。
モノは全ていなくなった。
「邪魔だ!」
もう一度風車を振りかざすと、後方車両の連結部分目掛けて風車を振り下ろした。
連結器上部に風車が落ちる。
「おりゃ!」
実は手元にハンドルが付いている。
それをグルグル回す。
すると、風車と繋がれた紐がたぐられて、風車が回転し始めた。
勢いが増す。
床板、連結部分の鉄がメリメリメリ
と裂け、砕ける。
ガグン!と機関車のスピードがあがる。
連結部分が壊れて後方車両を置き去りにしたらしい。
「よし。これで敵は半分だ。」
獅子頭は特にモノの死体が集まるボックス席を見る。
死にきれず、苦しがってもがいているモノもいるがじきにこときれるだろう。
「おい。青髪!」
赤ん坊の泣き声が止んでいる。
「おい!」
モノどもが集まっていたあたりに近づく。
赤ん坊が今度は笑い出した。
「おいおい…こういう時って、親、死んでるパターンじゃね?」
あるモノがボックス席にもたれかかって死んでいる。
顔など分かるものか。
獅子頭は杖の尻でそのモノを引っ掛けて手前に落とす。
その落ちたモノを踏みつけてボックス席を覗く。「死んでるなよ…」と思いながら。
すると、足場にうつ伏せで青髪が倒れている。
その下敷きに赤ん坊がなっている。
「笑っていやがる。2回も母さんが死んだってのによ…」
「チョッ…」
「えっ!?」
青髪がジワジワと起き上がる。
「私、死んでないけど…」
びっちゃびゃちゃに濡れている。
血ではない。
とにかく濡れている。
「…じゃあ、どうして赤ん坊が泣いて笑って、ひっくり返ってたんだ?」
「この子が粗相をしたの…」
「………。」
獅子頭と獅子頭の中の人の口が半開きになっていた。
ベチャベチャのなか青髪は笑っていた。
まつりはこの場から動けなくなっていた。
また毛布に包まってじっとしていた。
海美の期待に応えきれなかった。
獅子頭にまんまと海美のところへ向かってしまった。
あいつの風車は極めて正確だった。
たしかに畜生ほどのスピードもあった。
だから不安だった。下手したら海美が負けたかもしれない。
あの獅子頭が降りてすぐに後方が吹き飛んだ。
下手したら海美が負けたかもしれない。
全然顔も見せて来れないし…
…結局海美も私を、いや、私が敵を全部倒さなかったから?
…結局私の周りからいなくなるの?
「まつり。」
海美が毛布を丁寧に剥がす。
中に半泣きの赤鬼、いや、女の子がいる。
「海美…」
「まつり、ありがとう。今までモノを引きつけて来れて。」
「けど、私…変な畜生を…」
「それは大丈夫。」
海美は毛布のようにまつりを抱え込む。
「大丈夫。あの人は味方だったよ。説明するから下に行こう。」
「怒ってないの?」
「なんで?」
「だって、あの畜生…もしかしたら海美を…」
「大丈夫だよ。仮にお獅子が敵だったとしても私強いもの。」
「本当に?」
「えぇ。本当に大丈夫だったよ。だから安心して。あなたは良くやったよ。だって、お獅子以外下に向かって攻撃したのいないでしょ?だから、あなたはよく頑張ったよ。」
「……もうちょっとこのまま。」
「うん?」
「もう少しギュッてして。」
「いいよ。」
山間部を超えて田園畑の中を機関車は走る。
田んぼには水が張られて逆さまに機関車が写り、畑には麦が青々と茂っている。
空は快晴。
どこまでも続く青。