「主演 藤村忠寿 協力 大泉洋」
向きを仰向けからうつ伏せになることは出来るが、自分の杖の方が槍より短い。
天井を見ながら死ぬか、親衛隊を見ながら死ぬかしかない。
左手に力が入る。
その時あることに気がついた。
赤ん坊が笑っていた。
よくこんな状況で笑えるな。と思った。
また、こうにも思った。
「私がうつ伏せになれば、先に槍が刺さるのは赤ちゃん。せめて死ぬ瞬間は、私が笑っててあげよう。」
最高到達点に着く。
降下が始まる。
海美は空中で身体を回す。
「「死ね!…えっ?」」
親衛隊たちは天井の光を背にした海美を見ながら声を詰まらせた。
光を背にして微笑む海美は神々しく、なんと慈愛に満ちた顔をしているんだろうと思った。
いや、
自分たちが生まれるより前に感じた温かさがある。
そう。
まるで地蔵菩薩に引っ張られるより前。自分たちに愛を教えてくれた像のような温かさだ。
「あの人は…」
「なんだ?あの人の温かさは。」
「もっと見たい。」
「なんだか忘れていたらいけないものを見たようだ。」
「ただ、それが思い出せない…」
槍がざわめく。
「「俺たちにもその顔を見せてくれ!」」
槍が全て海美の真下から無くなった。
みんなもっと海美を見ようとした。
「今だ!」
杖を大鎌にして振り回す。
槍の先を一刀の元断ち切る。
金属部分がドスドス。バランバラン!と床に落ちる。
海美は床に着地する。
間髪入れずに鎌から、薙刀に変えて、自分を取り囲む親衛隊を斬る。
足首、スネ、太もも、腰、胴、首
自分が回転するのと、薙刀を回転させる力で八人一気に斬ることに成功した。
「「うわ!そんなことあるか!」」
親衛隊に寡勢しようとしていたモノどもが声を上げる。
しかし現に八人が一気に斬られたのだ。
子どもの立候補者を護るのはいない。
子どもは壁際に追い詰められている。
「今だ!」
鬼と対峙する無茶な状況だが、ナポレオンは今を逃したら、マークのついたモノを取り逃すと思った。
鬼から目は離せない。
太鼓の縁をカッカッカ!と叩く。
風車を後ろにひいて振り上げる動作をとる。
「なにかする気だな。させるか!」
鬼が千切れた棍棒をナポレオンの頭に振り下ろす。
風車を伸ばす。
鈍い金属音がする。
もちろん棍棒を受け止めた音だが、受け止めたのはナポレオンではない。
海美だ。
「貴様!」
鬼は焦った。
「ごめんなさいね。鬼さん。」
海美は笑った。
ナポレオンが風車を伸ばしている時に、海美は、その風車に乗ったのだ。
ナポレオンは、重みを感じたら風車を一気に引き戻した。
その力も合いなって、海美が鬼に斬りかかったのだ。
「行けぇ!」
ナポレオンは海美と鬼の足元で片足をついて、子どものフリをしている立候補者めがけて風車を伸ばした。
「キャ!」
子どもがしゃがむ。
「逃すか!」
ナポレオンは手元のハンドルを回す。風車が回る。
子どもの頭の上の壁が壊れる。砕ける。
「キャア!」
子どもが頭を押さえる。
瓦礫が落ちる。
「よっと…」
風車を若干落とす。
「ギャァアアアアア!」
赤、とも言えない色の不思議な液体が散る。
女の子の首がゴロゴロ転がる。
「やった♪」
風車を元の長さに戻す。
「お前ら!」
折れた棍棒で鬼が立ち向かう。
「ふん!」
海美は通常より一歩踏み込む。
鬼の関節部の外側に刃を合わせる。
「行け!」
刃が腕と反対の方向に回る。
そして勢いそのままに刃が飛び出して、鬼の腕の内側を斬る。
シュパ!
っと斬れた。
「な?…」
海美が顔面に左手で殴る。
「に…」
杖の尻で顔面の殴ったあたりを叩く。
「俺も忘れるなよ。」
足元の唐獅子が風車を振り回して、鬼の脚を引っ掛ける。
腕を失っただけでなく、急な顔と足への攻撃を食らった鬼は派手にひっくり返った。
「よし。」
ナポレオンはまた太鼓を
ドン!ドン!ドドン!
と叩いた。
海美が元来た穴に飛び込む。
ナポレオンも飛び込む。
最後にまつりが飛び込む。
「「まてぇ!」」
まつりと対峙していた鬼が殺そうと穴に近づく。
すると、穴からなにか飛び出す。
「アハハハハハ!」
笑ってるカラフルな塊がすごい勢いだ。
よく見ると三人が一塊になって、ナポレオンが風車を伸ばしている。
その伸びている力で空を飛んでいる。
しかし、あのままだと天井にぶつかる。
まつりが刀を天井に振るう。
天井が斬られてバラバラと落ちてくる。
上半身のみになった親衛隊達が壊れた天井を見ている。
獅子頭と赤鬼に挟まれなにか手元を見ている海美を見た。
さっきも思ったがなんだろう?
どうしてああいう顔をしてくれないのだろう…
そう親衛隊のみんなが思ってたら、三人は建物の外に飛んでいって、風車の支柱がスルスルスルっと回収されていき、三人と風車、鯉のぼりは天空に消えていった。
「あぁ…なんか生まれる前になにか見たような感じだ。また会いたい…会ったら今度は殺し合うんじゃなく…愛してほしいなぁ…」
それまではなんとか首を上げていた親衛隊員達が、海美が見えなくなった瞬間、次々に息途絶えてしまった。