「おっそいな、海美、なにやってんだ?」
獅子頭がお茶を飲む。
飲むと言うより、獅子頭が茶碗ごと飲み込んでいる感じだ。
右手で茶碗を獅子頭に入れて、左手で中から受け取っているため、一見すると茶碗ごと食べているように見える。
「…きっとお呼ばれして赤ちゃんのことをしゃべってるんじゃないの?」
まつりは、口元を左手で覆って飲んでいる。
なにせこの待っている店も、目の前の道もモノモノモノ。たまに奴隷のような人間を連れている。
緊張感を持ってないと、バレてしまう。
「しっ!…まつり。なんか来たぞ。」
片腕のない鬼が街の外側からやってくる。
ナポレオンは獅子頭を布で隠す。
まつりも刀を男根に見えるように持ち直す。
棍棒を担いで真っ赤な鬼が店にやってきた。
「ハァハァ…親父、水をくれ。」
鬼はまつりとナポレオンに気づかずドカドカと店の中に入った。
しかし、まつりとナポレオンは緊張していた。
「あれは、昨日、あの会場で見た鬼だ…」
「うん…いた。」
「海美に知らせない…と?…」
街中の方を見るとなにかボロボロの女が歩いてくる。
なにか抱いている。
「なんだあの汚い女は…て、海美だ!」
「海美!」
まつりが走り寄る。
海美は服の裾で顔を拭うと、いつもまつりに見せる顔になった。
「ど、どうしたの?」
「…この子のお父さん、この子のこと知らないって。」
「なんで?お父さんでしょ?…おか、お母さんは、赤ちゃんのお母さんは?」
「………。」
まつりには言ってなかった。
「…お母さんは死んじゃって……」
「じゃあ赤ちゃんは?だって海美は…」
「どうにかしないと……」
急に海美は走り出した。
「海美!」
まつりが呼び止めるが止まらない。
「どうしたんだ?」
二人でキョトンとしていたら、中からさっきの鬼が出てきた。
「よう。鬼の同胞よ。」
毛布を被ってるまつりを見て話しかけてきた。
「こんなところでなにしてるんだ?」
「いえ、あの……久しぶりに伊勢崎の見物をと思いまして…」
「そうかい。ところで君、金に困ってないか?」
「えっ?あっ…まぁ…」
「実はな。ある女を殺せば大金が手に入るんだ。やらないか?」
「えっ?えっと…」
ナポレオンを見ようとする。しかし、そこにいない。
海美を追いかけて行ってしまったらしい。
「………。」
「どうだい?やるか?」
「……まぁ、お金はいるかな。」
「良し。決まりだ。おーい!この鬼に団子とお茶を出してやってくれ。」
「あの、私…」
「これは先払いの給料のようなもんだ。君はこれでも食べて待っててくれ。」
「あなたは?」
「その女が持っている赤ん坊の父親ってのがこの辺にいるんだ。その父親に青髪の女の行方を聞いてくる。」
そう言うと、片腕の鬼はドカドカと街中へ去って行った。
まつりはこの後起こることを予想して後悔した。まさか海美を殺すことになるとは思ってもみなかったのだ。
まつりは毛布をギュッと噛んだ。
懐かしい匂いがした。