「田舎」と検索して出てきた田園風景を想像しながらお読みください。
今回はONE PIECEの藤虎のモデル、勝新太郎の「座頭市」を見ていて思いついたものです。
時代劇と聞くと、「水戸黄門」「暴れん坊将軍」など、偉い人や強い人が身分を隠して、虐げられた人々の前に現れ、最後の五分にチャンバラや身分を明かして悪役を倒して去って行くというイメージだったが、座頭市は始まっていきなり斬り合いになったり、市が悪役にボコボコにされたりなどして、自分の中で既存のイメージが壊れた番組でした。
BSでたまに映画をやるので見てはいかがでしょうか?
まもなく夜が開け、朝靄がかかった。
朝霧がかかり、木造の建物群が幻想的な景色だ。しかし、赤ん坊の鳴き声が情緒を壊している。
「うるさいなぁ!」
「なんだ?」
ある木造のただ人を寝せるだけの木賃宿から鬼や餓鬼の声が聞こえる。
木賃宿は、人間が使うようにモノたちが決めた格安の宿のとこだ。
格安ゆえに、飯は自分で炊く。寝る場所も雑魚寝といった酷い環境である。
ただ、博打が好きなモノたちの中で前の夜運の悪かったものも泊まっている。
文句たらたらなのはそんな鬼や餓鬼であった。
そんな中で、赤い鬼が棍棒を担いで出てきた。
その後ろから申し訳なさそうに老婆が出てきた。
「申し訳ございません。朝方やってきた赤ん坊を連れた女でございまして…」
「そんな女など放り出してしまえ。なんならわしがやってやろうか?」
鬼が棍棒を振り回す。
「そうしていただきたいのですが、あの女山向こうの宿屋の提灯を持っておりまして…」
「だから?」
素振りをしながら鬼が聞く。
「本人曰く、日が暮れてから提灯一つで追い出されて、夜の間に猿の峠を越えたと言ってまして…本当なら相当の手練れだと…」
鬼の素振りが止まる。
「…まぁ、ほかのモノもいる。無益な争いは避けよう。」
すると、三人ほど鬼の周りに集まってきた。
全員鬼でなく、餓鬼の女二人とフードを深く被ったモノだった。
餓鬼は見た目美人だ。餓鬼とは思えなかった。
「お客様。変わった集団ですね。どこに行くのですか?」
「特に決まってない。我々はトレジャーハンターだ。」
「はい?」
「人間どもがつくった道具や貴重なものを見つけてほかの人に売るんだ。そうなら、ほかのトレジャーハンターに負けないワウ早く移動する必要があるからな。早く起きれたのは幸運だと思うさ。」
そういうと鬼は号令を出して、峠を背にして出発して行った。
老婆は、最後に大荷物を担がされているフードの男が見えなくなるまで送ると、急いで中に入った。
宿泊者たちは玄関からでなく、窓を破って出たり、2階から飛び降りたり一刻も早く静かな場所に行こうと出ていった。
広く、使い古された畳の部屋に青い髪の女一人と大泣きする赤ん坊一人が残った。
「ごめんね。ごめんね。泣かないで。」
女の人が一生懸命あやすが全然泣き止まない。
「そんなんじゃダメだよ。」
さっきのお婆さんである。
「あんた母親じゃないの?」
「…私、畜生じゃなくて。」
青髪の少女は自分の頭をかいた後、おくるみを剥がす。
なるほど、赤ん坊には日本犬のような耳がある。
「昨日の夜は聞かなかったけど、峠で拾ったんかい?しょうがないねえ…」
老婆はそのまま、台所に行き、米とすり鉢、布を持って戻ってきた。
「いいかい。息を吸いながら音を出してる感じだから、腹が減ってるんだ。みるからにこんな赤ん坊じゃあ歯がないから、乳をくれないとだが、あんたの子供じゃないなら、乳は出ないから、米で代わりにするんだ。見てな。」
そういうとお婆さんは米をすりこぎですって、布で包むと、それを赤ん坊の口に持っていった。
するとあんだけ泣いていたのに黙ってそれを吸い始めた。
「…すごい。」
「当然のことだよ。あんたそう見るとおしめも教えないとだろうね。これが終わったら教えてあげるよ。」
「お婆さん。ありがとうございます。」
「そんな褒めるもんじゃないよ。奪衣婆なんだから。」
人間であることを隠す海美のために、地獄の住人奪衣婆は丁寧に子育てを教えた。
「私も仕事がら、いろんな衣を剥いできたけど、やはり子どもから奪うのはどうしても苦痛でね。同じく辛いなら、明らかに自分より強いもんに怒鳴られた方がいいよ。」
「…子どもってことは、賽の河原の?」
「…賽の河原で石を積んでいる子どもから奪ったこともあるし、石塚を突き崩す鬼の世話をしたこともあったよ。だけど、こっちの方がいいね。なんでだろうね?奪衣婆なのにね。」
そんなこと言いながら、奪衣婆は子供用の服、すり鉢など風呂敷に包んでくれた。
「この紐も持ってきな。」
「これは?」
「抱っこ紐だ。妊婦から奪ったことがある。私が持ってても仕方ないからあんたにあげるよ。」
「ありがとうございます。お婆さん。」
海美は左手に杖、体の前に赤ん坊を紐で繋ぎ、肩に子供用の荷物、吊るしたカバンにも子供用の荷物を担いだ。
「で、どこに行くんだい?」
「…えっと、ここです。読めますか?」
おくるみの中から、遺髪と手紙を取り出す。
「これは地獄文字だね。なになに?
『この子ども、父を地獄の右手王、母を畜生の菜犬と言う。
この度、第一回伊勢崎市長選挙の候補者の印が浮かぶことを確認したため、急ぎ伊勢崎に参上せよ。』
って書いてある…伊勢崎市長選挙って言ったら…
今度初めて地上で行われるその地域を治める一派を決める大事な選挙。
その素質は体に入れ墨のように現れると言うが…この子にあるんか?」
「………。」
おくるみから、腕を出す。
たしかに、丸に三角が入った入れ墨のようなものが入っている。
「本当だ。…じゃあこの赤ん坊は市長候補ということか。わしはなんて名誉なことを…」
「お婆さん。市長選挙はいつ?」
「たしか…満月の夜。あと五日ほどだ。歩きでは間に合わないが、殺人列車なら一昼夜で着くだろうね。」
「殺人列車?」
「ここから、20キロほど進んだところに駅がある。その列車に乗れば伊勢崎まで二日で着ける。ただ金がかかるぞ。」
「それは大丈夫。」
海美はおくるみの中から、木賃宿の宿代を出した。
「この子のお母さんからもらったお金があるので…」
「そうかい。」
お金を両手で貰いながら脱衣婆が言う。
「20キロもあるんじゃ、お婆さん。もう行きますね。」
「気をつけてなぁ。」
お婆さんに見送られ、海美は駅に向かって歩き始めた。
昔に貼られたアスファルトの道を海美は歩く。
両側は畑で、モノにこき使われている人間が腰を上げて海美たちを物珍しそうに見ている。
空には鳥がさえずり、小川にはカエルが鳴いている。
花が揺れ、馬や牛が赤ん坊を見ようと首を持ち上げる。
赤ん坊の声が聞きたいと蚕が噛むのをやめ、少しでも見ようと、踏まれた麦が体を起こしている。
まるでダカーポの『野に咲く花のように』が流れてきそうだ。
映像化したら流れているに違いない。
赤ん坊はいろんなものを見て疲れたのか寝てしまっている。
曲が終わるごろ、家の影になってて分からなかったが、先程文句を垂れていた鬼の一行が、輪になってなにか踏んでいる。
踏まれている人は「許してくれ!」「助けてくれ!」と言っている。
踏んでいる方も、「許さん!」「騙しやがって!」
と言っている。
海美は逃げたかったが、ここで引き返すと明らかに逃げた様になって、踏まれている人を見捨てる様なので、話しかけてみることにした。
「助けてください!」
声をかけるより先に、踏まれている人が足元にすがってきた。
よく見ると踏まれていたのは大荷物を背負わされていた人だった。
「どうかしたのですか?」
海美は鬼に聞く。
「こいつ。わしたちには人間ではないって言ったのに、頭の角がとれたんだ!とれたのに平気だ。しかも妖力も使えない。これは人間だ!人間のくせに、わしたちに混ざり富を得ようとするとは。我々を馬鹿にするんじゃない!」
鬼が棍棒を振り上げた。
「ひぃ!」
海美の脚に男がしがみつく。
「どうにか、許してやれませんか?こんなに怯えてるのだから。」
「ならんならん!あわよくばこのまま殺したいぐらいだ!」
すると、黙ってた餓鬼の二人が海美を覗き込みこう言った。
「あれ?この娘、あの大泣きしてた子のお母さんじゃない?」
「本当だ!赤ちゃん連れてるし!」
やかましい餓鬼道の女だ。
「なんだと!一度ならず二度までわしの邪魔をするのか!」
鬼が興奮して大きな声をするから、赤ん坊が泣き声をあげた。
「あー!よしよし。泣かないで!」
鬼が棍棒の先を少し下げた。
肘で耳を塞ぐためだ。
「あー!うるさい!こうなったら、三人まとめてあの世に送ってやるぞ!そうなれば邪魔者もいなくなるしな!」
鬼が棍棒を構え直す。
餓鬼道の女も両手を前に構える。
「よしよし!急に大きな声がしたから怖かったね。ごめんね。」
海美はそんな状況でも赤ん坊をあやす。
「さようならだ!」
鬼の棍棒が迫る!
海美は赤ん坊を見てるから、脳天に棍棒がめり込んでしまう。
ガギン!
「なんだと!」
棍棒が海美の目の前で止まる。
持っていた杖で防いだのだ。
右手は赤ん坊をあやし、脚に男がしがみついている160cmに満たない少女が左手に持つ杖一本で、2mを越える筋骨隆々な鬼が振り下ろす本気の棍棒を止めてしまったのだ。
「お前!なにも…」
止められたことに驚き、鬼が棍棒の先を地面に落とす。
ガッ!ガッ!ガッ!
その瞬間、脚に激痛が走る。
「痛っ!」
足の甲を見ると丸い穴が空いて、地面が見える。
左右を見ると、脚を抱えて二人の餓鬼がのたうち回っている。
ガッ!ガッ!ガッ!
3発、激痛が飛んできた。胸、左肩、右脇腹である。
「いって…!…わっ…」
鬼は泣きそうな目を堪えて、少女を見る。
杖を肩に構えている。
どうも杖の尻で突いたらしい。
少女は仲間とひけをとらない形相でこちらを睨みつけている。
「…そんなにその男が大事なら、お前さんが連れて行くんだな。
せめて家族ごっこでもしながら行けよ…」
鬼は棍棒を拾い、二人の餓鬼に声をかけると、海美の来た道へ戻っていった。
すると、家の影や、カーブの先から人間たちが顔を出し、畜生たちも現れ始めた。
頭の上でカラスが飛びながら、こう言っている。
「鬼が去った!人間、畜生は活動を再開せよ!」
海美は思った。「ここの人たちも動物も鬼には困っていたんだ。だからこうして隠れてたから、小さい鳥や、人間、植物ぐらいしかいなかったんだ!」
「なんだ…」
杖を持ち直しながら、海美はつぶやいた。
「ありがとうございました!」
脚にしがみついていた男はそのまま土下座した。
「いいよ。たまたまだし。持ち物とか大丈夫?」
「…私の持ち物は、このノミしかありませんので。」
そう言いながら、落ちているノミを拾った。
「これから私は駅の方向に行こうと思うんだけど、あなたはどうする?」
「…出来れば、どこでも良いのでお寺に行ってもらえますか?」
「お寺?別に良いけど。」
「それは良かった。実は私は、仏師なんです。」
「仏師?」
「はい。私は、仏や彫刻を掘る仏師の阿木丸と言います。実はある師匠の元にいたのですが、修行の一環としてノミ一本持たされて、坊さん公認の仏を完成させるまで旅をさせられているのです。ただ、私が仏師を志したのはモノたちに狙われないようにするためで、最悪、師匠の仏が一体貰えればそれで良かったんです。ただ、ノミを頭に巻くことで人間ではないと誤魔化していたのですが、鬼に絡まれて、仕方なく彼らと旅をしていたんです。」
「それは大変でしたね。じゃあ、お寺を目指しましょう。阿木丸さんは、一つ完成させたことはあるんですか?」
「それはあります。なのでこれでそつぎょと思ったらまさかの旅に出されたんで…」
そう言いながら、海美は寺を探しながら歩き始めた。
この世界で、寺を始めとした宗教施設は人間の救済場となっていた。
モノが地上を支配してしばらくしたのち、十三仏や天人たちが交渉を行い、自分たちを奉ってくれた施設には、
徳の高い人間は置いて良いこと。
本当に困った人間も仏の判断で救済される。
施設内では非暴力非ジャイアニズムであればモノも施設内に入れる。
といった協定を結んでいる。
よって、海美も一日ぐらいであれば寺に入れるのだ。
ここで、二人が歩いている道だが、前期の通り畑の中にある道を歩いているが、道はアスファルトであるが、所々コンクリートで舗装された変わった道である。
そう。
この世界のインフラは人間が整備している。
モノたちが生活するなかで便利だと思ったものは大体残っている。
ただ、全ての整備は無給不休で人間がさせられている。
よって道の出来はあまり良くないのである。
そんな解説をしていたら、立派な瓦屋根の寺が見えてきた。
寺は小高い山の中腹にあり、山門と庫裡が山の真下にある。
歩いてきた道とその山門に通じる参道との辻に河原が現れた。
石が敷き詰められ、草が一本もなく異様な河原だ。
二人で参道を進むと、山門の手前に公園があった。
遊具などある公園だが、子供が一人もいない。
しかし、遊具は動いている。
例えば、ブランコが風もないのに一定の高さまで上がり、まるで透明人間が乗っているようだ。
シーソーも地球ぐるぐるも、木馬も勝手に動いている。
グラウンドもなにか空気のようなものが不規則に動いているのを感じる。
ただ、そこに人はいない。
いや、一人いた。
若い僧侶だ。
公園の入り口近くでお経を読んでいる。
二人が近づくと僧侶が気づいた。
「こんにちは。」
「「こんにちは。」」
「お二人は?」
「私たちは人間です。実は、駅を目指しているですが、明日列車が来るとのことなので、今日一晩泊めていただけないでしょうか?」
「駅に?…そうですか…いえ、どうぞどうぞ。ゆっくりお休みになってください。」
「ありがとうございます。ところで、なぜお経をあげていたのですか?」
「はい。実は、この公園には水子をはじめ、児童虐待で死に至った子達の霊が入り込んでいるんです。この参道の入り口にあった河原。あそこは賽の河原と言われて、子供たちの霊は親や兄弟のために石を積むのですが、ここの水子たちはなぜかそれを拒否して地蔵菩薩の救済を受けることも出来ず、この公園を彷徨っているんです。それで、少しでも水子たちが改心すればとここで経をあげているのです。」
「その子たちが遊具で?」
「はい。救済を受けることはなくずっとこのままなのです。ところで私の名前は快晴と言います。お二人は?」
「私は海美。この子を伊勢崎まで届けなくてはならないんです。」
「わたくしは、阿木丸。仏師の修行中です。」
「旅する仏師!?ということは、最後の試験旅と?」
「は、はい…」
「どうでしょう?この子供たちを救済出来る彫刻を掘ることができれば、あなたは一人前の仏師として認められます。やってみませんか?彼らたちのために一刀やっていただけませんか?」
「本当ですか!?」
阿木丸の顔が明るくなりやる気に満ちる。
さっきまでの自信のなさは何処へやら。
とにかく、二人は山門に連れてこられた。
なぜか仁王様がどれぐらい滞在出来るか占えるのだ。
「阿木丸。五日。」
「仁王様。阿木丸殿は仏師試験に挑みます。私が承認です。」
「よろしい。ならば、滞在制限を解除する。次、海美、三日。その子ども、測定不能。」
「そ、測定不能?」
快晴さんは驚きの声を上げる。
「そうだ。この子どもはまだ徳がない。この段階では寺に入れることが出来ない。」
「そうでしたら、この子が人間を助けたりすればいいのでしょう?」
「そういうことだ。しかし、そんなことが出来るのか?」
「やってみて、仁王様が良いと言ってくれれば良いのですが…」
そういうと海美は参道を降って行った。
「大丈夫かなぁ?」
「…あの方は強いですから、わたくしも助けていただきましたし。」
「そうですか。では、こちらに。」
そういうと、快晴は阿木丸を敷地内に入れる。