金剛杖物語~青髪の海美の章~   作:仲村大輝

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そして、あの番組の良いところは、自分も長距離通学になっても高速バスを使って移動しても、いくら歩っても辛くはないという点です。


第二十二話 右手王の右手

「また貴様か!待ってたぞ!」

海美が片手の鬼を捉える位置まできたが、棍棒を片手の鬼が拾う方が早かった。

「………。」

「お前に来られちゃ、お前を殺さにゃならんが、貴様など恐るるに足らず。」

鬼が棍棒を振り上げる。

「っ……。」

海美も構える。

しかし、

「せいっ!」

棍棒は地面を抉る。

砂利が跳ねて、海美に弾丸のように迫る。

「ぁっ…」

横に跳ねて受け身を取り、ゴロゴロ転がる。

「だと思った!」

漬物石のように大きな石が迫る。片手の鬼が、地面を抉ったら、半歩左にあった石を蹴ったのだ。

「なっ!」

海美は杖で防ぐ。

しかし、とっさだったもので、力負けして受け身が取れないまま転がる。

ダメージが蓄積してしまう。

海美はその場で身を丸くするぐらいしか動けない。

「今だ!」

片手の鬼が海美にトドメをさそうと迫る。

海美は動けない。

「死ね!」

棍棒を振り上げ、海美の頭めがけて振り下ろす。

 

グチャ!っと、なにかつぶれる音。

バシャバシャと、赤い水が広がる。

 

返り血を浴びて身体が赤い片手の鬼がさらに赤くなる。

 

「甘いな…ホットケーキにメープルシロップをかけたより詰めが甘い。」

聞いたことある声。

「お前!」

右を見る。

誰もいない。

「うわっ!」

左足がなにかに引っ掛けられてバランスを崩して倒れる。

「ちくしょう!このヤロ…」

棍棒を横に払う。

手応えはない。

もう一度振ろうと、構えるが、喉に刃が刺さる。

「なぜ…」

ぐっ。ググッ!っと喉に刃が刺さる。

青髪…いや、血で赤髪になっている。

持ってる杖いや、今は鎌を見ると、刃の付け根にある赤い球が潰れている。

「…あれを潰しただけか。結局は勝てなかったのか。」

「鬼さん。あなたは終始勝っていたのに、詰めが甘すぎたのよ。会った時から…」

「今度は、気をつける…」

首を引きちぎる。

鬼を血を浴びて、赤い球がまた元の形に戻った。

海美はゆっくり手を合わせた。

しかし、これでカッコつけて去れない。

「…まつり。」

 

刀同士が当たるごとに刃こぼれを起こしている。

しかし、右手王は前へ進む。

まるでまつりを無視するかのように。

後ろから斬りかかられてもお構いなしに前へ。

「右手王よ。」

階段にナポレオンが立ち塞がる。

「邪魔だ。退け。」

全くスピードを緩めない。

右手王は階段を登る。

ナポレオンは風車を打つける。

右手王は出来るだけ避ける。

取り合わない。

取り合うつもりもない。

「もしかしたら、右手王。間に合うかもな。」

「なに?」

右手王の刀とナポレオンの風車がぶつかる。

「今拝んでるお経が聞こえるか?」

「あぁ。」

「今のお経が終わったら、剃髪に入る。あの赤ん坊は畜生の血が半分だからな。その血を治めるお経だからな。今のは。」

「なに?」

「だから、お前を止める。少なくともこのお経が終わればもう仏の弟子だ。お前の言う通りに…」

そこで、右手王がナポレオンの胸元を掴む。

階段の上にいるナポレオンを揺さぶり、下に落とす。

ゴロゴロ、ナポレオンは落ちる。

そのナポレオンを飛び越える青とどす黒い赤の塊。

「まだ来るか?」

右手王は慌てて刀を階段に突き刺し、さばこうとした。

しかし、その青髪が振るう薙刀は、刃の交わる瞬間、右手王の刀と逆に回転した。

一回杖に収まり、また反対側から刃が飛び出す。

青髪も素早く手首を返し、薙刀の刃の向きを、右手王の刀の刃の向きと同じにした。

すると、青髪の刃はよく斬れる方向で、右手王の刀は斬れない反りで薙刀を受けた。

右手王の渾身の力がこもった斬撃をなんどもまつりに繰り出した刀自体も悲鳴を上げていたし、まして、海美の薙刀を受けたのである。

耐えられるわけがない。

右手王の刀は刃の真ん中あたりで快音いや怪音を立てて割れた。

「んっ!?」

「右手王!」

海美は右脇に抱える杖の尻を左手で掴むと、背中で杖を滑らせ、杖の状態、吸血鬼の心臓で右手王の右頬をぶっ叩いた。

反動で足が振り上がり、手は着いたが頭から落ちた。

次に鎌モードにすると、右手王の体の下に刃を入れて、自分は階段の下を向き、肩を支点にして、階段の下に右手王を投げ飛ばした。

ゴロゴロゴロゴロ転がる。

途中、登ってきたナポレオンにぶつかりそうになるが、ナポレオンは上手く避けて、結局一番下まで落っこちた。

まつりが海美の近くに来る。

「海美!」

「まつりありがとう。鬼はやっつけたから。」

「だけど、右手王が…」

「大丈夫。ナポレオンの話なら、このお経が終われば赤ちゃんはもう右手王のものでも私のものでも、畜生でも地獄の住民でもなくなるから。その方が彼は辛いはず。」

「……だから倒さなかったの?」

「そうあうこと。」

まつりがいるとおちつく。おかげで少し疲れが出て呂律が回らない。

「づぁぎゃな!」

急にナポレオンが下から吹き飛ばされて来た。

「まつり!」

二人は構える。

「まつり。獅子をお願い。」

「うん。」

「気をつけろ二人とも…まさに、あいつは右手王だ…」

「なに?」

まつりがナポレオンに近づく。

そして驚く。

持っていた鯉のぼりの風車がない。

「まつり。早く本堂へ。少なくともあそこなら仏様が守ってくださる。」

「分かった。」

まつりはナポレオンに肩を貸すと上に上がっていった。

海美は後ろから、いや背中から耳にかけて何かが這い上がってくるような恐怖を感じた。

あの鬼や餓鬼、ヤクザ、仁王からは感じなかったものだ。

下からなにか上がってくる。

覇気が有り余っていると言うか、黒いモヤが実際に見えるというか。

とにかく、良くないものが近づいてくるように感じる。

やはり右手王である。

しかし、さっきと様子が違う。

ほぼ同じなのだが、右手がいや、右腕が大きい。

右手に持つ、ナポレオンの風車がベコベコにひん曲がり海美と目を合わせるとさらに力を入れて握りつぶした。

「右手王と呼ばれるゆえんはそれか…」

「もう我慢ならん。この右手で全て奪ってやる。」

「その傲慢はやめなさい。だから地獄に落ちたのですよ。」

「黙れ人間。経が終わったからなんだと言うのだ。」

「…それは、」

「まずは邪魔する貴様を消して、あの雄鬼はお前の哀れな姿を見ながら死ぬのだ。」

右手王はジャンプした。

階段があり、距離があるというのに、右手で地面を殴って飛び上がった。

海美は横に払おうと、構える。

「無駄だ。」

右手の、ナポレオンの風車の残骸を投げる。「あれは…」

杖が刃を回転させる。

海美は素早く、高速回転する杖を巨大な団扇で仰ぐように、上下させる。

風車の残骸が弾かれて落ちる。

しかし、右手王は迫る。

「ちっ!」

海美は数段上がる。

海美のいた位置より何段か上に右手を振り下ろす。

石階段、三段分にそうとうする大穴が空いた。

しかし、海美はその先にいる。

「逃がさんぞ。」

壊した石段の石を右手で投げる。

放物線を描かず、直線で海美に飛んでくる。

避けても何段か余計に走らないと、真後ろの階段が壊されて上に上がれなくなってしまう。

上に上がれなければ、取り残されて殺される。

「いいのかいいのか?あの赤ん坊まで案内してもらって。」

「…っ……」

「これなら、経が終わるより先に着けるかもな。ハハハ。」

「そんなことさせるか!」

海美がとって返す。

「やれやれ。やっとやる気になったか。」

右手王の左腕を切り落としてやろうと海美は右から薙刀を振るう。

しかし、右手王は避けない。

「左手なんぞくれてやる。そのかわり…」

大きな腕が海美を鷲掴みにする。

ペットボトルでも握るかのように海美が宙に浮く。

あまりの圧力により薙刀状態の杖を離す。

ドス!とその場に突き刺さる。

「うっ…」

「大声を出さないだけ立派だな。でも、手足を引きちぎったらどうかな?」

右手王の切断された左腕から血が流れている。

海美は声を上げない。

「さぁ、経でも読んで閻魔大王に会う準備をしろ。」

「そうね。とびきり長いお経を読んであなたを足止めしなきゃね。」

「貴様!」

太っい親指が、海美の首の下に入る。

どのくらい太いかと言うと、海美の方と顎の間に入るぐらい太い。

「このまま首を刎ねてくれるわ。」

「…だけど、私の勝ちみたいね。」

「なに?」

「聞いてみなさい。」

「………。」

「………。」

木が風にあおられサワサワ言っているだけで、お坊さんの声がしない。

「…経が終わった。」

「だからなんだって言う…」

「号外だ!号外!」

バラバラと空から新聞が降ってくる。

鳥どもが騒ぐ。猿も騒ぐ。

「どうしたの?」

肺が潰されそうななか、海美が動物に聞く。

「市長立候補者全滅。三人目の赤ん坊は資格を失った。捕らえても恩賞なし。」

鳥や猿が我先にと触れて回る。

「だってよ。右手王。」

「ゆるさん…こうなったら、ただの赤ん坊だろうと、寺だろう…が…うっ!…」

右手王は急に苦しみ出すと、海美を握ったまま右手を地面につく。

急に呼吸が乱れて、ゼエゼエ…ハアハア…ふぅー…ハアー…と浅い呼吸や深呼吸を繰り返している。

「ヴヴヴ…」

海美も締め上げられて呻き声を出す。

海美が絞め殺されることを覚悟した時、手が開いた。

右手王が目に手を当てて、

「見えない!見えないぞ!目を開けてるのに…」

と騒ぐ。

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