もっと臨場感が出せれば良かったのですが…
最後までありがとうございました。
次回もお楽しみに。
山のお寺から太鼓や木魚の音が聞こえて来る。
一斉に鳥や猿の新聞記者たちが飛び出す。
「うみ!」
まつりは参道を駆け下る。
海美は右手王だったものを蹴り落としながら山門までやってきたところだった。
「まつり。」
「海美見て!速報の新聞!」
まつりは新聞を開く。
「右手王死す。って書いてあるよ。」
「まつり。これは上下逆さまで読めないよ。」
慌てて正しい向きに新聞を替える。
たしかに書いてある。
私も背中が写っている。
「お坊さんに聞いたら…「待って。その下。」」
まつりを遮ってその下の記事を読む。
「なんだって?」
「簡単に言うと、もう一回選挙をやるんだけど、紋章の有無は問わずに、天道、畜生道、阿修羅道から選ぶって。」
「ってことは。」
「前回よりは絶対に良くなってる。六道の制限なしはまだかかるけど、天道から出れるってことは、もっと多くの道の人が幸せになれる方法になってるってことだから。」
「やった!」
「さえぎってごめんね。なに?」
「あぁ、そうだ。あの赤ちゃんなんだけど、名前が「かいけい」ってなったよ。」
「そう…」
海美の声のトーンが若干下がる。
自分からドンドン赤ん坊が離れていく感じがした。
まぁ、仕方ない。自分もそれを分かってて右手王を諭したし、あの言葉は自分に向けたものだっただろうし…
「だけどね。さっき赤ちゃんの名前を決める時、「かいけい」は海って意味だって言ってたよ。それと、けいはめでたいっていみだった。」
「えっ?」
「海に祝福されたものって意味らしいよ。」
「海に…」
「良かったね。海美。お坊さん達、海美をお母さんにしてくれたんだ。」
「………。」
泣きそうになる。
あの赤ん坊との思い出が甦る。
だけど、すぐまつりに話しかけた。
「…まつり、行こう。早くしないと右手王の仲間が来るから。」
泣きそうな声だった。
「…分かった。だけどどこに?」
「とりあえず、あなたの刀を直さないと…壊れたんじゃなかった?」
「うん。」
海美はまつりを引っ張り歩き出す。
「あか…かいけいには会わないの?」
「大丈夫。もうさようならはしたから。」
そう言うともう歩き出した。
「海美、泣かないで。笑った顔で振り向いてあげようよ。」
「なんて?」
「…いま、階段の上にお嬢さんがかいけいを抱いて立ってるの。笑顔でさよならしようよ。」
「………。」
「最後にかいけいが見た海美の顔がこれから殺し合いをする顔で良かったの?」
「………。」
「最後は、優しい顔を見せてあげようよ。」
「………。」
「………。」
「…まつり、ありがとう。」
そう言うと、海美は振り向いた。
泣いていた。頬を涙が伝わっていた。
だけど、もう泣いてなかった。
優しい目になっていた。
階段の一番上を見た。
お坊さんが何人も見ている。
真ん中の和尚さんがなにか抱いている。
「さようならー!かいけい。幸せになってね!」
まつりは刀を振った。
「…かいけい!一生懸命生きてね!私も頑張るから!あなたも頑張って!」
海美は抱いてた左手を懸命に振った。
お坊さん達も手を振ってくれた。
手を合わせてお経をあげてくれている人もいた。
和尚さんも海慶を見せようと傾けていた。
「いこうまつり。」
「うん。」
二人は歩き出した。
「ところで、なんで急に鳥や猿が来てかいけいが仏門に入ったことを号外で出せたの?」
「それは、ナポレオン。新聞記者に情報を流して、『右手王死す。』の情報を誰よりも出させてやるから、ハッタリでも仏門に入ったって情報を流したの。」
「ハッタリだったんだ…あっ!ナポレオン!」
「あぁ。大丈夫。お坊さん達が介抱するって言ってたし、用があるなら追っかけてくるでしょ?」
「そっか。だけど、風車が…」
「それも、起きたらなんとかするんじゃない。下手したら、海美が目指してるところに現れるかもよ。」
「そしたら、その時でいいか。」
海美とまつりは静かな山道を降っていった。
まるで山が海美の代わりに泣いているようだった。
だけど、海美はもう泣いてなかった。
まだ泣いてたらじゃあなんで連れていかなかったんだ?ってなるし、海慶の未来を潰すかもしれなかったからだ。
海慶の未来は無限なんだ。
それを私がいることで狭めちゃダメだ。
だから、笑ってさようならするんだ。
そう決めていた。
海美とまつりはどこかへ去っていった。
後日談。
海慶がこの後どうなったのかというとよく分かっていない。
ただ、各地にこんな伝承が残る。
伊勢崎の市役所付近には、寺を飛び出した海慶が地獄道のモノを襲うことをして人間をたくさん助けたという伝説。
JRの伝説では、群馬と埼玉にかかる橋に海慶が住み、人間をいじめようとするモノが列車で来ると、その列車に乗り込み、モノを懲らしめた。
ある駅に海慶が住み、奴隷列車を襲い、人間を助けた。
また、モノを全滅させることを志した青年九郎と死ぬまで戦い続けて、平泉もしくは北海道で死んだという説がある。
また、人間助けを行なった英雄海慶の墓と言われる場所が各地にある。
その墓全てに、赤い鬼を連れた青髪の老婆の目撃談が必ず存在している。
おしまい