金剛杖物語~青髪の海美の章~   作:仲村大輝

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この丁半博打、もちろん座頭市もやっています。

座頭市の殺陣(たて)の虜になったのは、ある少年を美人局から守りつつお父さんのところに送り届ける回で、
ヤクザの博打の不正を暴いて儲かったから、少年と座ってうどんを食べていると、後ろからヤクザの部下が斬りに来る。
いざ背中に斬りかかろうとしたら、市は箸も置かず、座った状態で仕込み杖を抜き、うどんが口から出ている状態で後ろの部下を斬り、素早く刀を仕舞って、うどんを吸い込み、少年に話しかけるシーンです。
このどこをとっても美しくない戦い方に衝撃を覚えました。
なにせ、チャンバラは巌流島の戦いよろしく、一対一の真剣勝負卑怯技なしだと思っていましたから…
ちなみに、この少年は坂上忍で、美人局は勝新太郎の妻、中村玉緒の回でした。

この寺と親分の屋敷のモデルは一応あります。(たぶん分かりづらいけど…)


第三話 大博打

 さて、山門の脇に僧侶が生活する住居、庫裡がある。

 山門をくぐるとすぐ坂道になっており、それが本堂まで続いているが、その道の両脇に石仏がたくさん並んでいる。

 ただ、手を合わせたり印を結んだりしている石仏ではなく、酒樽に乗り盃を笠のようにしている石像があったりなどユーモアがある。

 本堂まで上がる。

 本堂は三間四面、様式は唐風、江戸中期の造である。

 本尊様に挨拶を済ませると、二人は庫裡に移動し、ある部屋に入った。

 六畳の和室で縁側を挟むと、本堂の真下にあり、心を落ち着けるに最適な環境である。

「とりあえず、仏像ではなく、絵をお書きになり、納得したらそれを元に掘られたらどうでしょう?」

「そのようにします。早速描かせてもらいます。」

その環境が気に入ったのか、阿木丸はサラサラサラっとお地蔵様の絵を一枚描いてみた。

「これを、公園に貼って効果があるか見てみましょう。」

「なぜ、公園に貼ると分かるのですか?」

「私もお経を上げてて、たまに成仏する水子がいるんです。ですから、この絵にもその力があれば、これを元にした石仏様をお掘りになれば良いと思いまして。」

「なるほど、では早速お願いします。」

貼りに行ってもらい五分。

「ダメでした。」

そう言いながら、ボロボロになった紙を見せてきた。

「貼った瞬間、石投げの標的にされてこうなりました。彼らには的にしか見えてないようです。」

「そうなっても仕方ないと思ってましたので、五分で10枚ほど描いてみました。これもお願いできますか?」

「はい。何枚でも貼りましょう。もっと大きなものが描きたければ言ってください。」

そんな話をしつつ、二人は公園の水子に絵を見せ続けた。

 さて、海美がどこに行ったのかというと、寺を出てしばし川上に向かって歩く。

 すると、砂利河原に、粗末なほったて小屋郡が見えてきた。

 夕日に川が照らされ、見る分には綺麗だが、そこに住んでいるのはまさに動物以下。

 この世界の人間だ。

 別に何をしたわけでない。

 昔話の通り、人間が負けただけだ。

 そのまままだ進むと昭和の初めに造られた総二階の木造の建物が沢山ある宿(しゅく)に出た。

 夕方近くで多くの宿にモノ達が入っていく。

 その中で、入り口の両脇に提灯を立てているのに、二階が暗い宿を見つけた。

 海美は臆せず入る。

 宿の中は右半分が一段高くなった畳で、左半分が土間と厨房になっている食堂のような造りだった。

 厨房では大鍋に火がかけられグラグラ煮えたぎっている。

「いらっしゃいませ。」

店員に声をかけられる。

「すみません。2階で遊べますか?」

「二階のお客様、もしかして旅のお方?」

「ちょっと路銀が足りなくなりまして…稼がせてもらおうかと…」

「分かりました。適当にどうぞ。お腹が空いたら言ってくださいね。」

「ありがとう。」

そう言って海美は畳にあがり、木の急な階段を登った。

 この宿場にはあまりにも暴れん坊すぎて、人間道から、生きたまま畜生道に落とされ、見てくれの悪さからそのまま、ヤクザの親分になった男がいた。

 親分ともなると、子分を喰わせないといけないため、夜な夜な賭博場を開いていた。

 それが、自分の宿にしているこの建物である。

 ただ、なぜ海美がここだと分かったかと言うと、全ての宿は2階に灯りがついていたのに、ここだけついていなかった。また、入り口の提灯に、「本陣」と書かれていたからだ。

 また、ここにやってくるのは、六道の中で二つの道を同時に進む親分のような半端者、博打中毒になって、着るものなんか賭けている人間、地下からやってきた住人たちだった。

 賭博場では、六道関係なしに賭けられる。

 そんな連中相手に、コップの中の数字が、奇数が偶数か当てさせるというゲームをやっている。

 奇数を「ハン」、偶数を「チョウ」と言う。

 通常、対戦相手が多ければ外して没収したお金を、当てた人に還元しても余る。

 すなわち、親が取れるため、親が儲かる仕組みになっている。

 2階に上がると金を木札に交換するモノがいた。

 人間の博打でも行われていたことなので、別にしなくても良いのだが、モノは金を対価の交換とするわけでないので、単位を統一するのに都合が良いのだ。

 海美は自分の財布から、木札5本分金を出した。

 そこで交換したら、奥に進む。

 すると、10人ぐらいのモノ達がゲームをしていた。

 長方形の布を敷き、1人と10人ぐらいのモノ達が向かい合っている。

「私も稼がせてください。」

海美は末席(親から見て右の一番上)に座る。

「どうぞ…って!?あっ!」

隣には鬼が座っていたのだが、その鬼が声をあげた。

「あっ!?阿木丸さんの鬼。先程はどうも…脚は大丈夫ですか?」

「えっ!?…あっ…て、…まぁ…」

私を殺したいんでしょうけど、親分やゲームの途中であるからか、しどろもどろになってる。

 連れていた餓鬼の女は鬼の後ろに控えている。

「さぁ!貼った!さぁ貼った!」

「チョウ!」「ハン!」

「まぁ、鬼さん。ここは休戦といきましょう。チョウ!」

「…チッ…ハン!」

「チョウハンコマが揃いました。勝負!」

パッとカップを取る。

 サイコロが二つある。

 残念ながら数字を足すと…

「奇数、ハン!」

海美は一枚しかかけてなかったのだが、札を取られてしまった。

「あら。鬼さんの方が当たってましたね。次は…」

「………。」

鬼は海美から見えない右手を振る。

 それを見て、一緒に旅をしている餓鬼が鬼の右側に近づく。

 鬼がなにか耳打ちすると、餓鬼は立ち上がって、違う部屋に行ってしまった。

「次は…鬼さん。なんだと思いますか?」

「また、ハンかな?」

「じゃあ、またチョウで。」

そして、そんな感じで何回か打ったが、海美は全部負けた。

「親分、あの女…」

「あぁ。見てるよ。」

餓鬼の女がどこに行ったかと言うと、親分の部屋である。

 親分は博打の部屋から一つ奥にある部屋が親分の控える部屋で、入り組み一見では確認できない部屋である。

 親分は、博物館というところに置いてあった長火鉢の縁に寄りかかって、これもまた博物館から持ってきたキセルで乾燥させた草に煙をつけている。

 真っ白な煙を吹き出しながらその餓鬼や子分と喋りつつ、その女を見ていた。

「あれが、オタクらに恥をかかせた女か。」

「はい。」

「…よし、わしが仇をとってやろう」

「ありがとうございます。」

「よし、俺がサイを振る。みんな、心得ておけ。」

「「へい。」」

そういうと、子分は、もっと子分になにか命じた。すると、その子分はなぜか家の奥に入っていった。

 

「さあ、貼った!さあ、貼った!ハンの方!ハンの方はいらっしゃいませんか?」

「じゃあ、私がハンで。」

「勝負!」

コップを開ける。中は2と6だったので、チョウだった。

「はっはっはっは!お客さん。」

親分が大きな身体を揺らしながら、コップを回収した胴元のところに座る。

 青い女の子はよそよそしい態度を取る。

「いやいや、ご冗談を。その青い髪のお嬢さんだよ。」

みんなが、女の子を見る。

 端っこにいる女の子が杖を持って、親分の真前に引出された。

 ちょこんと正座して、小さくなっている。

「うはは。お嬢ちゃん。そう小さくならずに…だいぶ運がないようで、おじさんと勝負しないかい?

お嬢ちゃんが勝ったら、木札を…10倍の50本あげよう。ただ、負けたら、その赤ちゃんが欲しい。しないかい?」

「………。」

「お嬢さん?やりますよね?」

「親分の言うことを断るなんてのはご法度ですよ…」

女の子が、立ち上がろうと前屈みになった瞬間、両脇に子分が座って、こんなことを言ってきた。

 急に空気が悪くなる。

「…わかりました。」

「はは!そうこなくっちゃ。」

顔を女の子から離さず、右手を肩のあたりに掌を上にして手招きした。

 すると子分がコップを渡し、コップの中にサイコロを二つ入れた。

 クルクルと手首を回すと、カラカラとサイコロが音を立てた。

「そうだ!お嬢ちゃん。サイコロを伏せる前にハンかチョウか決めようや。」

「!………分かりました。やりましょう。」

目の前に、抱っこ紐から赤ん坊を下ろす。

 子分が木札を50本持ってきて親分の目の前に置いた。

「ドッチモ、ドッチモ」

「ドッチモ、ドッチモ」

子分たちが周りではやし立てる。

「…半!」

女の子は優しく、赤ん坊を横長に置く。

 この時、赤ん坊が泣き出した。

「えっ?どうしたの?親分さん。すみません。」

抱き上げるとすぐ泣き止んだ。

 そしてそのままそっと置いた。

「…丁で。」

「ないかないな?半ないか?」

子分達が頭の上から呪文のように言う。

「半!」

親分が代表して金の板を横向きに置いた。

「コマがそろいました!」

さっきまでサイコロを振っていた胴元が言う。

「はい!…つぼ!」

ドン!とコップが伏して置かれる。

 シーンと辺りが静かになる。

 女の子が目を閉じて、首を傾げた。

「では…」

そう言いながら女の子がコップに手を伸ばす。

「………!」

親分が慌てて、女の子の手の上に自分の手を置き、コップを開けるのを阻止する。

「お嬢ちゃん。どうしたんだい?」

「…もう一度確認しますけど、本当にこれは丁半博打ですよね?」

「ふふっ…そうだよ。」

「じゃあ…」

そう言って、二人が前傾姿勢をググククっと普通の座り方に戻っていった。

 胴元である親分が改めて、コップに手をかけようとした瞬間、

 

ドスっ!

 

 女の子が右足を前に踏み込み、左手で左側にあった杖をつかんでいた。

 しかし、その杖の先から、鎌のような鋭利な刃が出て、その刃がコップに突き刺さっていた。

 小さな音で、

「あっ!」

バシャン!

「熱い!」と言う音がした。

 

「てめぇなにやってんだ!」

それを遮るように大声で子分が持っている刀の鞘で女の子を突っついた。

 女の子は無視して、杖を起こす。

 すると、コップ、サイコロが刺さっていた。

 しかし、そのサイコロの下から箸のような枝のようなものも刺さっていた。

 しかも、刃の先から血が滴っていた。

「あっ!」

「サイコロを子分に押させたのか?」

客で来ていたモノの誰かが言った。

「……は、ははは…」

思わず親分が笑う。

「お前!」

子分三人が鞘で女の子の肩を押さえた。

「待て!」

親分がいさめた。

「お客人方。」

親分が客のモノ達を見る。

「見苦しいところをお見せした。…皆さんの掛け金を倍にしますので、どうかこの辺りはこの辺で終わりにしていただけますか?…おい!」

子分にゲキを飛ばす。

 子分が数人で重い金が入った箱をヨイショ、ヨイショと運んできて、客の木札を回収するとともに、換金ルートの倍の金を置いていく。

 女の子の前には、饅頭のような大きな金を二つ置かれた。

 女の子は懐から手拭いを出すと、丁寧に包み懐にいれた。

…急に大人っぽくなった。

「おっ!?」

「……。」

そんなことで反応するモノもいる。

 ただ、それを見たらすぐに懐、いや胸から金を出す。

「親分さん。これはお返しします。ただ、欲しいものがあります。」

「なんじゃい?」

「川下にいる人間たちから奪った資産の書付。あれを…」

「なんじゃと!?…」

お客さんはまだこちらを見ている。

 海美は赤ん坊を抱き上げ、抱っこ紐で縛る。

「まぁ、いいんですよ。なんなら、ここにお金は置いて出て行きますから…」

そう言って海美は立ちあがろうとした。

「ちょっと、ちょっとお嬢さん。ちょっとお待ちを…おい!あれ!」

子分が渋々書付を持ってくる。

 親分がその書付を海美の目の前に落とす。

 海美はそれを赤ん坊のおくるみに突っ込む。

 女の子は親分に一礼すると、いつの間にか刃のなくなった杖に寄りかかるように家から出て行った。

「はっはっはっはぁ!」

親分は、火鉢の前に戻り、キセルに火をつけた。

「親分…」

偉い子分たちが親分の前に正座する。

「…あのガキ、この猪ガシラ組の顔に泥を塗ってくれたな。この泥のお礼に行ってきてやれ。」

「へい。お前らいくぞ!」

五人の子分たちが刀を持って家からドカドカと出て行った。

「親分、申し訳ありませんでした!」

鬼が土下座して、頭をドカン!と畳に叩きつけた。

「お客人。頭を上げてくだせぇ。いま追っている子分は腕も立ちますゆえ、赤ん坊も書付も持ってくるでしょう。」

「そうだと良いのですが…」

「まぁ、酒でも飲んで待ちましょう。こちらへ。」

「は、はい………」

さっき餓鬼の女を読んだ時とやり方は同じく、右手を振る。

 餓鬼の女がなにか耳打ちをされ、二人は出て行った。

 その後、鬼は長火鉢を挟んで待つ親分の近くに寄った。

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