この駅は田舎の駅である必要があったので、近所の秩父鉄道の駅をいろいろ調べてみましたが、待合室のある駅がなかったので、どの駅にしようか考えた結果、今では使われていない「旧秩父駅舎」をモデルとすることにしました。
海美は田舎の小道を進む。
春なので桜が咲いて、タンポポ、芝桜が咲いている。
一つ著者が大人になったのでここに記す。
令和3年の4月に桜とタンポポと早咲きの芝桜が春の日和の中咲いていた。
いままでは「だからなんだ」とすんでいたのだが、今年は「とても美しい、もっと見ていたい」と思った。
そんなような気持ちでここの描写を描いています。
なので読者の皆さんも天気の良い日に外に出て散歩などしてみてはいかがでしょう。
さて、海美は一つ気がかりなことがあった。
鬼だ。
この杖がある限り負ける気はしないが、果たして赤ん坊を抱いた状態でそんな強いモノに勝てるのか?それが心配だった。
そんな心配をしながら歩いていくと、赤ん坊の飯時に、駅に着いてしまった。
山本朋太郎設計の四辺の下り棟勾配をアクセントに吹き抜けの鐘楼をつけた、明治の建物で、白いペンキの建物である。
意を決して、杖を持ち直し、建物に入る。
正面に木の改札口があり、左には切符売り場兼事務室。右側は待合室となっている。
上を見ると機械仕掛けの時計がギコギコ動いている。
待合室や事務所をのぞいても誰もいない。
ボーン!ボーン!
全身に緊張が走る。
思わず赤ん坊を抱きしめる。
「大丈夫。古時計が時間を知らせただけ。大丈夫。」
海美は自分に言い聞かせる。
ありがたいことに時刻表も飾ってあった。
見るとあと30分ぐらいで汽車がやってくるようだ。
「よし。それじゃいま、お昼にしよっか!」
海美は、近くの長ベンチに腰を下ろして杖を立てかけ、赤ん坊と唐草模様の風呂敷を広げて赤ん坊の飯を作る。
「今日はお米じゃなくお芋だからね。」
そう言って手際よく準備して、赤ん坊を抱き抱えると、赤ん坊の口に飯の布を含ませた。
「もうすぐお父さんに会えるからねぇ。」
そんなことを言いながら鼻歌交じりに食べさせていった。
することもないので、あたりを見渡す。
モノの気配は感じない。
床は板間で、掃除もワックスも塗ってないのか、ほこりが溜まっている。
柱や椅子を見る。白を基調とした建物は所々色が落ちて茶色になっている。
壁にかけてあるのは温度計だ。
50度まできってある。
寄贈
もうすぐなくなると思ったとき、杖に肘が当たり、
カラカラカラン…
と転がった。
「あっ!」
片手は赤ん坊、片手は布を持っているからその杖を目で追うことしか出来なかった。
コツン!
止まった。
なにかに当たって。
「あっ。良かっ…」
ちょっと目線を挙げた。
なんか赤い布が目に飛び込んできた。
ぐっ
ぐっ
ぐっ!と目線を上げる。
股間あたりが確かに持ち上がっている。
ぐーっと目線を上げる。
顔は全てマントで隠れているから見えない。
「………。」
そのマントはなにも喋らない。
赤マントが杖を拾い上げる。
海美の思考が全く停止してた。
「駅の赤鬼…」
かろうじてしゃべった。
ゲフッ…
赤ん坊がゲップをした。
海美は慌てて目線を下げる。
「あっ!食べ終わった?…ごちそうさまでした。」
出来るだけ平常心を保って対応する。
コツン。
コツン。
赤鬼がこちらへ歩いてくる。
フワァ…
「眠くなっちゃった?…寝ていいよ。」
海美は戦う。
頭で戦う。
このまま殺される恐怖と、なんとか返り討ちに出来ないか。
あるいは、殺されるとしてとどう息がこときれる寸前まで苦しまず死ねるように考える。
鬼が目の前にやってくる。
赤ん坊はなかなか寝ない。
逆にどんどん泣く。
眠るように死ぬというが、殺す相手を見ながら死ぬなんて相当な恐怖だ。
なんとか、寝ながら死んでほしいけど…
鬼が手を伸ばせば私に手が届くギリギリの距離まで来てしまった。
「よしよし。じゃあ、いつもの唄うね。
ね…ねんねん ねこじまのきんきら乙女 乙女がでっかくなりゃあ どこへくれる
乙女がでっかくなりゃあ東京へくれる 東京にゃ山なし畑なし 田舎じゃ菜種の花盛り」
ピタッと鬼が動かなくなった。
じいッとこちらを見ているみたいだ。
「…の、ノノサンいくつ 十三 七つ まあだ年やあ若いね 若い子生んで だあれに抱かしょ おまんに抱かしょ おまんはどこいった 油買い 酒買い 油屋のえんですべってころんで 油一升こぼした その油どうした太郎さんの犬と次郎さんの犬で みんななめてしまった」
鬼がじっとこっちを見る。
若干手が震えている。
スッ…
杖を動かした!
殺される!
バッと、赤ん坊を鬼から隠す。
いや、違った。
私の目の前に杖を出された。
「えっ?」
もう一度杖を前に突き出した。
「……返してくれるの?」
コクン!
赤マントがうなずく。
海美はゆっくり赤ん坊を自分と縛ると、杖を受け取る。
「…ありがとう。」
受け取ると、一応刃は出してないが、鬼に刃の方向を向けた。
赤鬼はじっと赤ん坊を見ている。
「………。」
「………。」
なんか気まずいので、喋ってみようとした時、
「…赤ちゃん、寝ちゃったね。」
「えっ?うん、そうだね。」
急にしゃべった。
男だと思っていたが、声が高く女の子のようだった。
「さっきの歌は?…」
「さっきの?あぁ、さっきのね…」
ここで困った。子守唄は人間界にしかない。
赤鬼が人間を襲う鬼ならここで殺されてしまう。
ただ、駅の雄鬼が女性のような声の時点で、周りが考えていることとなにか違うものを感じた。
女の子で気を許した訳でないが、右手の杖をしっかり握り、左手の赤ん坊をしっかり持ち直し、答えた。
「さっきのは、子守唄。赤ちゃんを寝かしつける歌だよ。」
さぁ、どう動く?
「…ってことは、あなたは人間?」
「…そう。私は人間。」
ほら、その質問だ。さぁ、斬ってこい。対応して見せるぞ!
「…私も!……」
「うん?」
隠してあるフードを取る。
「私も人間なんです!」
目が大きく色が白い少女だった。